ATOの仕組み

※この記事はYahoo!ブログから移行したものです。


先日開業した東京地下鉄副都心線をはじめ、近年開業した鉄道ではホームドア設置に伴う停止位置精度の向上やワンマン運転にともない運転士の業務量が増えるのを抑えるためATOによる自動操縦が採用される例が増えています。本記事ではそのATOの基本的な仕組みを解説していこうと思います。

1枚目
地下鉄副都心線東新宿駅

ATOの基本的な構成
ATO(Automatic Train Operation system=「自動列車運転装置」)は1962年に営団地下鉄日比谷線で次世代の運転システム検証用として2編成に搭載されました。以後改良を重ね、1980年代から新交通システム・地下鉄新線などで本格的に採用が進むようになり、現在では様々な技術開発を行い都営地下鉄三田線のように既存の鉄道をATO化した事例もでてきています。
ATO装置には速度の設定用としてATC(Automatic Train Control=「自動列車制御装置」)、駅への停車用としてTASC(Train Automatic Stopping Control=日本では「定位置停止装置」「定点停止支援装置」と訳される」)が含まれ、ATOはこれらを統括して「加速~速度維持~減速~停車」という一連の運転操縦を自動で行います。

●ATC「自動列車制御装置」
前方の線路状況(先行列車・曲線・行き止まりなど)に対して安全な速度を車両に指示し、それを超えて走っている場合は運転士の操作と関係なく強制的に減速させます。(現在もJR各社で広く採用されているS系のATSはこの機能がなく、安全上最大の欠点となっている。)加速や駅への停車の操作は行いません。

●TASC「定位置停止装置」
駅の手前にある地上子(送信機)から車両に停止位置までの距離情報を与え、車両側はその情報に基づいてブレーキを調整し、ATCが行わない駅への停車の操作を行います。



ATO搭載車両の運転台の例(つくばエクスプレス・TX-1000系)

ATOを搭載する車両の運転台です。ワンマン運転を行う車両では運転台のパネルには運転士が座ったまま様々な作業を行えるよう、モニターやたくさんのボタンが設置されています。また、通常の鉄道と同じく運転操作を行うハンドルが設置されていますが、これは緊急時の非常ブレーキ(これは運転士の操作が最優先で動作する)やATOの故障で自動運転が継続できなくなったときの操縦、さらに運転士の技能低下防止のため一時的に手動運転を行う場合に使用されるもので、あくまで運転操作の主役はATOです。
また、運転士が乗務しない無人運転を行う鉄道(新交通システムなど)は運転台の操作盤に蓋をかけて運転席を開放し、乗客が前面展望を楽しめるようにしている例が多くなっています。

ATO運転の流れ
ATOは安全運転操縦を保障する装置であるため、各鉄道会社ともほぼ同じようなシステム構成となっています。ここでは一般的なワンマン運転で使用されるATOについて話を進めていきます。



ATOによる操縦は横軸に走行距離(m)、縦軸に速度(km/h)を取ってグラフにすると大きく4つのステージに分けることができます。(書くのが面倒なのでこの図ではカーブなど途中で減速する用件がないと仮定しています。)
1 加速:発車から目標速度までの加速
2 定速走行:モーターへ通電を続けて目標速度を維持する
3 惰性走行:モーターへの通電をやめて車両の持つ慣性のみで走行
4 減速:TASCの指示に沿って駅に停車

実際の運転の流れは以上の4つの動作を基本として以下のように行われます。




1、発車・戸閉め
パネル下方にある「乗降促進」ボタンを押すと発車メロディー・放送が流れます。運転士は運転室内もしくはホーム先端にあるホーム監視モニターを見て乗降が終了したのを確認し、「ドア閉」ボタンを押してドアを閉めます。完全にドアが閉まるとパネル前面にあるランプが点灯します。運転士はその点灯を確認した後、発車ボタン2個を同時に押します。2個同時に押すようになっているのは誤操作を防止するためです。

2、加速・目標速度維持、カーブでの減速・再加速
運転士が発車ボタンを押すとATOはATCの制限速度から遅延回復の余裕分を差し引いた目標速度を設定し、その速度まで加速し、その速度を維持します。(定速走行)また、前方にカーブがある場合はそのカーブに達する前に制限速度まで減速させ、編成後部がカーブから抜けたら再加速を行います。さらに、ある程度駅まで近づくと定速走行をやめて車両の持つ慣性エネルギーのみで走行します。(惰性走行)これはブレーキがかかる直前まで定速走行するのはエネルギーの無駄となることと、加速から突然ブレーキに移行することによる衝撃を防止するためです。惰性走行では車輪の摩擦や空気抵抗などで自然に少しずつ速度が落ちていきます。

3、駅停車パターン作成
駅から600mほど手前(設置場所は運転条件により異なる)の線路上に地上子(P1)が置かれています。この上を車両が通過すると「駅まであと600m」という情報が車両に送られ、車両に搭載されたTASCがブレーキ性能・乗車率などを加味してブレーキパターン(停止位置までの走行距離と速度の「指示書」)を作成します。TASCはそのパターンに基づきブレーキを調整しながら減速の操作を行います。停止位置までの走行距離は車輪の回転数から算出します。(車輪の円周長×回転数=走行距離)

4、パターン補正
しかし、1回パターンを発生させただけではホームドア設置で求められるセンチ単位の精度の停止位置を得ることはできません。なぜならば車輪がスリップしたり、車輪が擦り減って直径が小さくなった場合、装置が弾き出した走行距離と実際の走行距離が違ってしまうからです。このため、1個目の地上子から停止位置までの間に2~3個地上子(P2~P4)を置き、走行距離の誤差を修正します。(さらに精度を高めるため、これ以外にも複数の補正機構が内蔵されています。)

5、駅停車


停止位置直下の地上子の例(都営地下鉄三田線)

停止位置の10mくらい手前になると速度は10km/h以下まで落ちてきます。停止位置直下には少し長めの地上子(P5)が置かれており、これと車両側の車上子(受信機)がぴったり重なるところで停止させます。(このとき「ガクン」と衝撃が発生しないよう停止直前にブレーキを弱くする操作を行います。)停車中はこの地上子~車上子のルートでドアの開閉や発車メロディーの鳴動などの情報を送受信します。運転士は正しい位置に停車したことを確認して「ドア開」ボタンを押し、ドアを開けます。万一停止位置から外れて停車した場合はドアの開操作を行ってもドアは開かず、運転士に警告を出して停止位置の修正を促します。

特に難しいのは最後の駅停車時の制御です。ホームドアを設置する場合ドアの幅が制限されるため、正規の位置からだいたいプラスマイナス30~50cm位の範囲に停める必要があるのですが(通常の鉄道では1.5~2m程度でよい)、車両のブレーキ性能は乗車率やレール表面の汚れなどでいくらでも変わってしまいます。そこで、このような高精度のブレーキが要求される場合はブレーキ段数を15~30段くらいに細分化し、ブレーキの微調整を繰り返しながら停車させるという制御が行われています。
しかし、このような何重にもわたる対策とテスト走行を繰り返したにもかかわらず、つくばエクスプレスや地下鉄副都心線で開業初日に停止位置のずれが多発しました。このあたりは今の技術の限界といったところなのかもしれません。


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