南武線稲城長沼駅高架化工事(2011年1月15日取材)

カテゴリ:鉄道:建設・工事 | 公開日:2011年08月02日11:42
矢野口駅に入線する南武線209系

神奈川県川崎市から東京都立川市を結ぶJR南武線の稲田堤~府中本町間では、現在連続立体交差事業(線路の高架化)が進めれれています。今回は行政機関が発表している資料、鉄道に関する専門雑誌の記事、現地調査の結果を元にその状況をレポートいたします。

■南武線連続立体交差事業の概要


南武線連続立体交差事業は南武線稲田堤~府中本町間(全長4.3km)の線路を高架化するものです。この区間では鶴川街道(都道19号町田調布線)、府中街道(都道9号川崎府中線)という2本の幹線道路が交差しており、南武線の踏切を原因として激しい交通渋滞が発生しており、この解消が喫緊の課題となっていました。連続立体交差にあたっては地下化と高架化の2種類が検討されましたが、南多摩駅のすぐ北に多摩川橋梁があることに伴う勾配の都合や、矢野口~稲城長沼間で交差する稲城大橋有料道路が部分的に地下化されていることから高架化で事業を進めていく方針とされました。

<事業の歴史>
1989年4月 建設省(現・国土交通省)の事業採択
1992年1月 都市計画決定
1993年3月 事業認可
1997年1月 第1期区間(稲田堤~稲城長沼間)着工
2005年10月 第1期区間完成
2006年3月 第2期区間(稲城長沼~府中本町間)着工
2012年春 第2期区間下り線高架化完成予定
2014年春 第2期区間上り線高架化完成予定

2015年春  稲城長沼駅2面4線化完成予定

高架化が完成すると前述の鶴川街道や府中街道をはじめとする計15箇所の踏切を解消・廃止され、自動車交通の円滑化、踏切事故の危険性の排除、地域分断の解消、駅のバリアフリー化による利便性向上などが期待できます。また、新たに生まれた高架下の空間や環境対策(日照の確保)のために新設される側道を、地域住民のためのスペースとして有効利用することが可能となります。
なお、この事業は道路整備の一環として東京都が事業主体となり進められています。総事業費は約598億円で、その負担の内訳は国が45%(ガソリン税・自動車税などの国庫補助)、東京都が31%、稲城市が13%、JR東日本が11%となっています。

■完成した区間(第1期区間:矢野口駅東側~稲城長沼駅東側)
駅前ロータリーから見た矢野口駅 矢野口駅ホーム
左:駅前ロータリーから見た矢野口駅
右:矢野口駅ホーム

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工事は全体を2つの区間に分けて行われており、このうち川崎側の第1期区間(矢野口駅東側~稲城長沼駅東側)の高架化が2005(平成17)年10月に完成しました。これにより区間内にある8箇所の踏切が廃止され、一部区間では線路の北側に幅6~7.5mの側道が完成しています。また、途中にある矢野口駅は地上時代とは異なり島式ホーム1面2線の構造となり、駅の南側にはロータリーが新設されました。さらに、高架下にはスーパーなどの商業施設が入居しています。

4車線化された鶴川街道と南武線のアーチ橋
4車線化された鶴川街道と南武線のアーチ橋

第1期区間の高架橋は全て鉄筋コンクリート製となっています。特徴的なのは鶴川街道をまたぐ部分で、ここでは全長約60mのPC単純ランランガー橋(コンクリート製のアーチ橋)が使用されており、複線が一体の構造物となっていることから近くで見るとかなりの迫力が感じられます。
なお、鶴川街道は南武線の踏切の他に矢野口駅周辺の道路そのものの狭さ(2車線)に起因して渋滞が発生していたことから、南武線の高架化と並行する形で北側の多摩川原橋の架け替え・拡幅や南側の4車線のバイパス道路(都道多摩3・1・6号線)への付け替えが行われました。(矢野口駅前には現在も廃道となった旧鶴川街道の一部が残存している。)この事業は、2006(平成18)年4月に全て完成し、鶴川街道の混雑は劇的に緩和されました。今後は多摩川の対岸にある京王線の踏切が調布駅の地下化(取材済み・近日記事作成予定)により廃止されるため、更なる混雑緩和が期待できます。

■工事中の区間(第2期区間:稲城長沼駅東側~南多摩駅西側)

稲城長沼駅から先の第2期区間の工事は第1期区間完成直後の2006(平成18)年3月から開始されました。2009(平成21)年10月には上下線の仮線(工事スペースを確保するために設置した仮の線路)への切り替えが完了し、高架橋の建設が本格的に開始されました。工事の推移は以下の通りです。

<第2期区間工事の推移>
2006年3月  第2期区間着工
2007年3月  稲城長沼駅仮駅舎使用開始
2008年6月  上り線(川崎方面)を仮線に切り替え
2009年10月 下り線(立川方面)を仮線に切り替え

次に、現地の状況を場所ごとに解説いたします。

●1期・2期接続部分

下り列車から見た第1期区間と第2期区間の接続点。 高架橋のジャッキアップと柱の延長のイメージ
左:下り列車から見た第1期区間と第2期区間の接続点。
右:高架橋のジャッキアップと柱の延長のイメージ(傾きはかなり誇張して描いている。)

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この高架化では全体を完全に2分割して工事を行うことから、第1期区間と第2期区間の境界では地上へ降りる高架橋を取り壊して完成時の高さで高架橋を造り直す必要が生じました。こういったケースでは取り壊しがしやすいよう高架橋を盛土で築いたり、鉄骨で組んだ仮設の高架橋にするのが一般的です。しかし、一度造った構造物を短期間で取り壊すというのはコスト面で得策ではありません。そこで、この南武線の高架化工事では第1期区間の建設時に、地上へのアプローチ部分の高架橋の柱のみをわざと強度の低い構造で造っておき、第2期区間の工事開始後はその柱を取り壊して高架橋全体をジャッキアップし(最大3.7m)、柱を延長して本来の高さにかさ上げするという特殊な工法が使用されました。これにより高架橋の取り壊し・再構築が不要となり、工期短縮・コスト削減が実現しています。なお、単に柱の強度を落としてしまうと大地震発生時に倒壊する恐れがあるため、第2期区間の着工までの間は該当する柱に鋼板を巻いて規定の強度を保つよう補強が行われていました。
現在は地上へ降りる部分の高架橋は鉄骨で支持された仮設のものを使用しており、脇にある以前使用していたコンクリートの高架橋はジャッキアップが完了し、一旦撤去した軌道を再敷設する作業などが行われています。

●稲城長沼駅

稲城長沼駅2番線に停車中の立川行き205系電車。背後では高架橋の建設が進む。 発車した立川行き電車。上下線の間に引き上げ線がある。
左:稲城長沼駅2番線に停車中の立川行き205系電車。背後では高架橋の建設が進む。
右:発車した立川行き電車。上下線の間に引き上げ線がある。

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高架化工事着工前の稲城長沼駅は上り線(川崎方面)が片面ホーム1面1線(1番線)、下り線(立川方面)が島式ホーム1面2線(2・3番線)となっており、駅の立川方には留置線がありました。高架橋の建設は2009年の仮線移動時に廃止された3番線の跡地でが進められており、現在の稲城長沼駅は折り返し列車が存在するにもかかわらず2面2線の狭小な設備となっています。また、着工前から立川方にあった留置線は現在も上下線間に挟まる形で引き続き設置されており、川崎方面から数本設定されている当駅どまりの列車はホーム上では直接折り返さず、この留置線一旦引き上げて折り返しを行っています。(信号システム上は1番線で直接折り返しが可能となっているが踏切の遮断時間短縮のためなのか行われていない。)
高架化完成後の稲城長沼駅は留置線が廃止される代わりに島式ホーム2面4線の構造となり、中央2線はホーム上で直接折り返し運転が可能な配線となる予定です。現在は主に高架橋躯体の構築が行われています。

稲城長沼駅の仮駅舎 稲城長沼駅の立川方にある踏切
左:稲城長沼駅の仮駅舎
右:稲城長沼駅の立川方にある踏切。

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高架化工事の進展に伴い、稲城長沼駅は全て仮設の構造物となっており、線路の北側にある駅舎もプレハブの簡素なものとなっています。また、駅の南北を行き来する通路は改札内外ともに存在しないため、駅の南側(川崎街道側)に出るには駅の両端にある踏切まで大きく迂回する必要があります。
なお、現在の駅前は道路が狭小でバスなどの乗り入れは不可能となっていますが、高架化完成後の区画整理で駅の南北にロータリー新設する計画が存在します。

●南多摩駅

南多摩駅のホームと停車中の立川行き205系電車。 発車した立川行き電車。背後の高架橋はアーチが特徴的。
左:南多摩駅のホームと停車中の立川行き205系電車。
右:発車した立川行き電車。背後の高架橋はアーチが特徴的。

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高架化着工前の南多摩駅は片面ホーム2面2線で、仮線に移動した現在もそのままの形態となっています。高架化完成後は現在とは異なり島式ホーム1面2線の構造となる予定です。
現在は稲城長沼駅と同様旧線路跡に高架橋の躯体を構築する工事が進められており、高架橋の柱や床面はほぼ形が出来上がっています。府中本町方の道路は拡幅計画があるため交差する高架橋には矢野口駅のものに似たアーチ橋が架けられており、大きな特徴となっています。このアーチ橋を過ぎると、線路は地上に降りて多摩川を渡り、府中本町駅へ向かうこととなります。

南多摩駅の駅舎 改札内の跨線橋から建設中の高架橋を見る。床面はほぼ完成しているようだ。
左:南多摩駅の駅舎
右:改札内の跨線橋から建設中の高架橋を見る。床面はほぼ完成しているようだ。

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南多摩駅の駅舎は稲城長沼駅とは逆の線路南側にあります。駅舎は現在も高架化工事着工前のプレハブ構造のものをそのまま使用しており、建設中の高架橋の下をくぐってホームへ出るという形態になっています。高架化完成後は稲城長沼駅と同様駅前ロータリーの整備が計画されていますが、当駅は南側に住宅地が近接しているため、整備されるのは現在のところ北側のみの予定となっています。

この南武線連続立体交差事業は3年後の2014(平成26)年春の全面的な完成を予定しています。これまで郊外のローカル線と見られる節があった南武線ですが、今後は21世紀の都市鉄道としてふさわしい姿に生まれ変わることとなります。

▼参考
大久保,青木 - 南武線稲城長沼駅付近連続立体交差 - 日本鉄道施設協会誌2011年3月号
進めています JR南武線連続立体交差事業_稲城市ホームページ
南武線矢野口駅付近高架化(PCランガー桁製作・架設)| 橋梁事業 | 宮地エンジニアリング株式会社
町田調布線(第19号)鶴川街道 多摩川原橋を交通開放|東京都
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