開業100周年を迎え大きく変わる久留里線(2012年2月11日取材)

久留里線キハ30系+キハ38系

千葉県の木更津市・袖ヶ浦市・君津市を走る久留里線は今年開業100周年を迎えます。この久留里線では今年新型車両の導入と信号システムの大幅な改良が予定されています。開業100周年を迎え、大変革を目前に控えた久留里線の様子をSL内房100周年記念号が運行された2月11日に取材してまいりましたのでお伝えします。(写真は特記したもの以外すべて2012年2月11日撮影です。)

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■年代物の車両

久留里線は内房線の木更津駅から房総半島を東に進み、君津市の上総亀山駅に至る全長32.2kmの路線です。千葉県内のJR線では唯一全線が非電化となっており、使われている車両は首都圏の他の路線の電化に伴い不要となった車両を寄せ集めたものとなっています。

国鉄時代の塗装に復元されたキハ30形(キハ30 62) キハ30形の特徴である外吊り式の乗降ドア
左:国鉄時代の塗装に復元されたキハ30形(キハ30 62)
右:キハ30形の特徴である外吊り式の乗降ドア。2枚とも木更津駅にて
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久留里線で使われている気動車(ディーゼルカー)の中で最も古いのが1966(昭和41)年に製造されたこのキハ30系です。2009(平成21)年には車体の塗装が久留里線オリジナルのものから、旧国鉄時代のものに復元されています、
キハ30系は大都市近郊の幹線でもまだ電化が未完了だった昭和30年代末期に登場した通勤型の気動車で、簡単にいえば同時期に大量製造されていた通勤電車101系・103系の気動車版ともいえる存在です。車体は連結時に乗客の通り抜けができるよう前面に貫通扉を設けた切妻形となっており、乗降ドアは通勤列車用ということで両開きドアを片側3か所設置していますが、その構造は一般的な戸袋方式ではなく車体の外側にレールを設けて扉を吊る独特な構造となっています。これは当時国鉄で標準的に使われていたDMH17形エンジンの出力が不足しており、車体の徹底的な軽量化が求められた故の苦肉の策でした。

キハ30系の車内 キハ30系の運転台
左:キハ30系の車内。2007年4月22日撮影
右:キハ30系の運転台
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キハ30系の車内はオールロングシートとなっています。内装は1990年代初めにリニューアルされており、天井・壁は化粧板化され、座席のモケットも交換されています。しかし、重量や車体の強度の関係上冷房を搭載することはできず、空調設備は扇風機と古めかしい丸型の通風器(グロベン)のみとなっています。このため、特に夏季の乗車にはかなりの難があります。運転台は自動空気ブレーキを使用した古いシステムで、久留里線にはATS-Pもないため他の路線の車両と比べて運転室内の機器は少なくなっています。なお、このキハ30系は両運転台構造ですが、助手席側は非使用時に仕切りを移動させて客室の一部として使用できるようになっており、今回訪問時も連結側の運転台はこの状態になっていました。

キハ37系 キハ38系 キハ38系の車内
左:キハ37系。木更津駅にて
中:キハ38系。横田~東横田間にて
右:キハ38系の車内。2007年4月22日撮影
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キハ37・38系は国鉄末期の1980年代に全国でごく少数導入された車両です。キハ37系はキハ40系など以前の気動車を基本としつつローカル線向けにコストダウンを図ったもので、エンジンについては国鉄標準のDMH17形から脱却し、今日まで地方民鉄・第三セクター鉄道を支えているDMF13形を採用し、保守性の向上や高性能化を実現しています。この流れを組む形で、老朽化したキハ30系列を置きかるため数年後に登場したのがキハ38形です。車内の基本構造は両形式とも同じですが、ドアの数はキハ37系が閑散路線向けということで2ドアであるのに対し、キハ38系は3ドアとなっています。ただし、エンジンの性能向上によりキハ30系のような外吊り式ドアではなくなっています。

水郡線のキハE130系(写真は2両連結のE131・E132形)
水郡線のキハE130系(写真は2両連結のE131・E132形)。2007年9月9日、水戸駅で撮影

キハ30・37・38系はいずれも新しい車両でも導入から25年以上が経過しています。久留里線がこのように極端に古い車両の寄せ集めとなってしまっている理由には、言わずと知れたあの国鉄千葉動力車労働組合(動労千葉)の新形式車両に対する強硬な反発があります。しかし、キハ30・37系はエンジンをカミンズ製のDMF14形に交換しているとはいえ、最近ではエンジンの不調、ラジエーターのオイル漏れ、交換部品の製造中止により代替品を使わざるを得ないなど、これ以上の継続使用は困難になりつあることが皮肉にも動労千葉の公式Web上で明らかにされています。(→参考:日刊動労千葉2011年2月3日
このため、JR東日本では水郡線で使用されているキハE130系を久留里線にも導入することを発表しました。キハE130系は窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の排出を大幅に削減した新型のディーゼルエンジンを採用しており、走行性能も現在の3系列よりアップしています。このキハE130系は今年秋より試運転が開始され、準備ができ次第営業運転が開始される予定となっています。

▼関連記事
久留里線キハ30・38形(2007年4月26日作成)

▼参考
久留里線新型車両の導入について - JR東日本千葉支社(PDF)
asahi.com(朝日新聞社):久留里線「キハ30形」引退 老朽化に勝てず 千葉 - 鉄道 - トラベル

■「安全を現物で確認」タブレット閉塞

タブレットと言っても「iPad」や「GALAXY」の話ではありません。
鉄道では線路を「閉塞(へいそく)」と呼ばれる区間に区切り、その区間に1本の列車のみの進入を許可することでお互いに衝突することを防止しています。これから進入しようとしている区間に他の列車がいないことを確認する手段は現在では軌道回路と電球やLEDを用いた信号機を用いるのが一般的ですが、これらのシステムが登場する前は現物をやりとりすることで確認を行っていました。その方法の1つが久留里線で現在使用されている「タブレット閉塞」というものです。

久留里線横田駅でのタブレット交換。手渡ししている器具の中にタブレットが入っている。
久留里線横田駅でのタブレット交換。
手渡ししている器具の中にタブレットが入っている。

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タブレット閉塞は「タブレット」という穴が開いた金属板を「通行証」として閉塞区間に入る列車に携行させるものです。タブレットの穴の形状は3種類あり(丸、三角、四角)、隣接する区間同士で形状を変えることにより混同することを防止します。タブレット閉塞の手順は以下の通りです。

タブレット閉塞の手順(GIFAnimation)
タブレット閉塞の手順(GIFAnimation)

(1)閉塞機からタブレットを取り出す
閉塞区間の両端の駅にはタブレットを収納している「閉塞機」という機械があります。閉塞機からタブレットを取り出すには両駅で電話連絡を取り合い、両駅の閉塞機を同時に操作する必要があります。また、閉塞機からは同時に1つのタブレットしか取り出せず、複数の列車がタブレットを所持することによる正面衝突といった事故を防止しています。

久留里線横田駅の駅事務室にあるタブレット閉塞機(中央に見える赤い箱)。 埼玉県の鉄道博物館に収蔵されているタブレット閉塞機。岩手県・秋田県を走る花輪線で1999年まで使用されていたもの。
左:久留里線横田駅の駅事務室にあるタブレット閉塞機(中央に見える赤い箱)。
右:埼玉県の鉄道博物館に収蔵されているタブレット閉塞機。岩手県・秋田県を走る花輪線で1999年まで使用されていたもの。2008年2月18日撮影

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(2)閉塞完了・列車にタブレットを持たせ発車
出発側の駅(A駅)ではタブレットを輪の付いた携行具に入れ、列車に持たせます。久留里線は全列車が各駅停車であるため、停車中に駅員が手渡しでタブレットを交換しますが、かつて全国に存在したタブレット閉塞の路線の一部では走行中にこのタブレット交換をしており、運転士が列車の窓から身を乗り出してタブレットを受け取るといった光景も見られたようです。なお、ここから到着駅(B駅)でタブレットを閉塞機に収納するまで閉塞機はロックされており、新たにタブレットを取り出すことはできません。

(3)列車が走行
出発駅から到着駅へ向けて列車が走行します。

(4)列車が反対側の駅に到着
列車が到着側の駅(B駅)に到着したら携行具からタブレットを取り出し、閉塞機に収納します。この際、行き違う列車が5分以内に発車する場合はタブレットを閉塞機に収納せず、そのまま反対側の列車に持たせて出発側の駅(A駅)に戻すことができます。この場合、閉塞機には「折り返し使用中」の札を掛けておきます。

(5)閉塞解除
タブレットが閉塞機に収納されたのを両駅で確認します。この操作を持って閉塞機のロックは解除され、新たなタブレットの取り出しが可能となります。

このようにタブレット閉塞は安全を現物で確認できることから電気回路の技術が未発達だった時代に多く用いられてきました。しかし、閉塞区間の両端の駅では利用者の数にかかわらず必ず閉塞機を操作するための駅員が必要となるためコスト削減の妨げとなること、軌道回路が無いため閉塞機の故障時には列車の在線位置を確認できず運転不可能となること、そして閉塞機のメーカーが関連部品の製造を終了しておりメンテナンスが困難となっています。久留里線でこのシステムが残されていたのは前述のような特殊な労働組合の事情によるものですが、いよいよ継続使用も限界となったことから来る2012年3月17日のダイヤ改正を以って軌道回路を用いた特殊自動閉塞に移行する予定となっています。

特殊自動閉塞(軌道回路検知式)の仕組み
特殊自動閉塞(軌道回路検知式)の仕組み

軌道回路を用いた特殊自動閉塞は駅の出入口に短い軌道回路を設置し、これを列車が踏むことで閉塞区間への進入・退出を検知します。軌道回路・信号機はCTC(指令所)と接続されており、信号機の操作は自動化されるため駅員が介在する必要はありません。このため、久留里線では来る3月17日ダイヤ改正より上総亀山駅が無人化されることが決まっています。
また、この特殊自動閉塞は信号操作に人が介在しないためATS-Pなど自動化を前提にした保安装置との併用も可能となっています。2005(平成17)年の福知山線脱線事故後にJR東日本から発表された資料によると、将来的には久留里線にもATS-Pが導入される計画となっており、前述のキハE130系の導入に合わせて保安装置を現行のATS-SNからATS-Pに改良する可能性もあります。

▼脚注
※ 軌道回路:左右のレールに電流を流し、車輪がこれを短絡(ショート)させることにより列車の在線を検出するもの。

▼関連記事
久留里線とタブレット閉そく(2007年4月25日作成)

▼参考
2012年3月ダイヤ改正について - JR東日本千葉支社(PDF)
「JR久留里線さよならタブレット記念」旅行商品と入場券を発売します! - JR東日本千葉支社
久留里線「運転保安方式更新工事」に伴う列車の運休及び代行バスの運転について - JR東日本千葉支社(PDF)
久留里線「上総亀山駅」の窓口業務終了(無人化)について - JR東日本千葉支社(PDF)
久留里線代行バス運転のお知らせ - JR東日本千葉支社(PDF)
閑散線区向けの閉そく装置 - 鉄道総研・RRR 2007年10月号
→各種閉塞方式の特徴
JR東日本:究極の安全を目指して>安全設備の整備2
→図では久留里線が「ATS-P整備予定区間」(赤の点線)になっている。
通票よんかく
→タブレット閉塞の特徴・手順に関する解説。
朝日新聞デジタル:安全の「バトン」引退 久留里線タブレット-マイタウン千葉
千葉・JR久留里線のタブレット廃止へ - MSN産経フォト


久留里線キハ38系・キハ30系 - YouTube 音量注意!

本題からは外れますが、この久留里線にストライキを行使して運休を発生させるなど影響を及ぼしてきた労働組合の運動も、ここ数年では運休本数が激減するなど影響力の低下が目立ってきています。開業100周年を迎える今年、久留里線ではこれまでの常識を超え車両・設備ともに大きな変化が起きています。現在の旧態依然とした久留里線の姿は過去のものとして語られるようになる日が近くなっています。
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