品川シーサイド駅~大井町駅(概説) - りんかい線東臨トンネル(23)

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■東大井トンネル 9km076m~10km400m(L=1324m)
▼参考
(1)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 188~203・308・309ページ
●概説
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りんかい線は品川シーサイド駅を出ると、上下線が分かれたシールドトンネルとなり、天王洲アイル駅から並走してきた天王洲通りを外れて国道357号線(支線)・都道420号鮫洲大山線の下を通りながら武蔵野台地へ突入し、JR京浜東北線と交差する大井町駅へ向かう。区間のほぼ中央では京急本線青物横丁~鮫洲間と直交するが、駅は設けられていない。この区間は「東大井トンネル」(新木場起点9km076m~10km400m・L=1324m)という名称が与えられている。平面線形は品川シーサイド駅の直後に南から西へ直角に曲がるため、りんかい線最小となる半径185mの急カーブが入り、その後は地上の道路に合わせて半径400~2000mで左右に蛇行しながら進む。また、この区間の特徴として地上の道路幅が狭いこと(2車線)、後半の台地に上がる部分は「旧仙台坂(くらやみ坂)」と呼ばれる非常に急な坂となっていることが挙げられる。地下のトンネルは道路用地内に収めるため上下線が2段に重なる構造を採用しており、上段となる下り線は品川シーサイド駅を出ると7パーミルの上り勾配となり、その後は25パーミルの上り勾配になる。一方下段となる上り線は品川シーサイド駅を出ると25パーミルの下り勾配となって下り線の下に潜り込み、その後は下り線を追跡するように25パーミルの上り勾配となり大井町駅に至る。

東大井トンネルの断面図と交差構造物
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東大井トンネルの掘進は品川シーサイド駅側から開始された。使用されたのは上下線とも直径約7.3mの泥水式シールドである。このトンネルの特徴としては発進地点は海沿いの低地であるのに対し、到達地点は台地上となることである。このため、掘削する地盤は泥岩・砂質土・礫とバラエティに富んでおり、シールドマシンはこのすべての掘削に対応することが要求された。泥水式シールドを用いる上で懸念されるのは細かく砕かれた泥岩がカッターディスクや排泥管内に付着し詰まらせてしまうこと、礫によりカッターディスクの刃が異常摩耗し切削が困難となることであった。前者についてはシールドマシン前面のチャンバーや排泥管の各所にアジテーター(撹拌器)を設置し、粘土化した泥岩が1か所にとどまらないようにすることとした。後者についてはカッターディスクの刃に耐摩耗性に優れる材料を用いることとした。また、シールドマシンのこの他の特徴として半径185mの急カーブがあることからマシンが途中で折り曲げ可能な構造となっていること※、万一掘削面でトラブルが発生した際には泥水を抜き人がチャンバー内に入って点検・整備ができるよう圧気工法が併用可能な構造となっていることが挙げられる。なお、シールドマシンの構造や圧気工法については別の記事で触れているのでそちらを参照されたい。
▼関連記事
総武・東京トンネルで使用されたシールド工法 - 総武・東京トンネル(4)(2008年7月17日作成)
新東京トンネルで使用されたシールド工法 - 京葉線新東京トンネル(2)(2009年12月10日作成)
▼脚注
※この仕組みは急曲線が多用される下水管や共同溝のシールド工事ではよく見られる。
この東大井トンネルは既成都市の中を通過することから、以下に示す通りライフラインや他の交通機関といった重要な構造物と多く交差する。これらの構造物については機能を損ねないよう沈下量や傾斜角度を計測しながらシールドの掘進を行った。
東大井トンネル近接構造物一覧(工事誌188ページ 表3-3-6-1より)
順序 | 施設名 | キロ程(新木場起点) | 最小離隔 | 交差形態 | 計測項目 |
1 | 八潮橋 | 9km300m付近 | 1.50m | 直下横断 | 沈下・傾斜 |
2 | 東京電力 鮫洲洞道 | 9km300m付近 | 14.35m | 直下縦断 | 沈下・傾斜 |
3 | 第2鮫洲 幹線下水 | 9km562m付近 | 3.30m | 直下横断 | 沈下 |
4 | 京急電鉄 高架橋 | 9km739m付近 | - | 側部近接 | 沈下 |
5 | 品川共同溝 | 9km760m付近 | 15.50m | 直下横断 | 沈下・傾斜 |
6 | 仙台坂トンネル | 9km840m~ 9km980m付近 | 22.20m (地中連続壁下端から17.85m) | 直下縦断 | 沈下・傾斜 |
7 | 第1城南 幹線水道 | 10km120m~ 10km400m付近 | 6.50m | 直下縦断 | 沈下 |
なお、東大井トンネルの到達地点には立坑はなく、大井町駅を挟んで反対側から掘進してきた他社施工のシールドマシンと地中でドッキングさせるという特殊な工法が採用されている。東大井トンネルのシールドマシンにはこのドッキングに使う設備も備わっているが、説明が長くなるので詳細は近日作成する大井町駅の項目で触れることとする。
■フローティングスラブ軌道
▼参考
(2)コイルばね支承を用いたフローティングスラブの設計 - 土木学会第56回年次学術講演会論文集(PDF)
(3)コイルばね防振軌道工法|軌道|新技術紹介│鉄道ACT研究会
(4)鹿児島市ホームページ |九州新幹線薩摩田上トンネルに係る騒音・振動測定結果について

フローティングスラブ軌道の支持構造
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東大井トンネルの発進直後の区間は品川シーサイドフォレストの住宅区画内を通過する。この区間ではトンネルに近接して建つ高層マンションに列車の振動が伝わらないよう、マンションに近い上り線側の線路180mの区間に「フローティングスラブ軌道」と呼ばれる新開発の軌道構造が採用されている。
通常のスラブ軌道ではコンクリートでできた床面の上にゴムやモルタルなどの緩衝材を挟んでコンクリートのスラブ(板)を敷設する。しかし、実際のところこれでは十分な制振効果は得難く、この構造を採用したトンネルで地上に伝わる振動が問題となった事例もある。(九州新幹線鹿児島中央駅付近にある薩摩田上トンネルなど。)フローティングスラブ軌道とはその名の通りコイルばねを使い、レールを支えるコンクリートスラブを浮かせて支持するものであり、レールで受ける衝撃がトンネル床面に直接伝わらないため、外部へ拡散する振動を大幅に低減できる。
実際の施工前に東京テレポート~天王洲アイル間で実施された試験敷設の結果は以下の通りで、一般的な弾性まくらぎ・消音バラストの直結軌道と比較して7dB(デシベル)程度の振動低減効果が確認されている。ちなみに50dBは「静かな事務所」、40dBは「図書館、静かな住宅地」に相当する騒音・振動のレベルである。
フローティングスラブと弾性まくらぎ直結軌道の振動レベルの比較(参考資料(2)より)
列車速度(km/h) | 30 | 40 | 50 |
A:弾性まくらぎ・バラストマット軌道(dB) | 53.0 | 55.2 | 55.4 |
B:フローティングスラブ軌道(dB) | 46.2 | 47.4 | 48.9 |
A-B:両者の差(dB) | 6.8 | 7.8 | 6.5 |
両者の差の平均(dB) | 7.0 |
このフローティングスラブ軌道は首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスのつくば駅付近のトンネルなど国内各鉄道の他、海外でも使用実績が増えている。また、りんかい線第二期区間の建設時期と同じ頃、東急建設でも独自にフローティングスラブ軌道を開発しており、こちらはクイーンズスクエア地下を通る横浜高速鉄道みなとみらい線みなとみらい駅付近で採用されている。
(つづく)

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