大井町駅~大崎駅(概説) - りんかい線東臨トンネル(27)

東京臨海高速鉄道りんかい線東臨トンネル ~時代に翻弄されたもうひとつの京葉線~
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■大井町~大崎間のトンネルの構造


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 りんかい線の大井町駅から大崎駅手前で地上に出るまでに区間は、りんかい線の中でも最もカオスな構造といっても過言ではない。トンネルの構造は大井町駅側から順に以下のような構造となっている。

大井町駅ホーム部分:単線シールドトンネル上下2本。前回前々回の記事で解説済みなので省略。

第1広町立坑:シールドマシン拡幅用。工事終了後埋め立て。

第1広町トンネル:単線シールドトンネル2本。トンネルの並びが上下から同一高さに変化。

第2広町立坑:シールドマシン発進用。開業後は大井町変電所・排水ポンプ室として利用。

第2広町トンネル:大崎支線直下は非開削のHEP&JES工法で掘削。

 このうち、前半の単線シールドトンネル2本は大崎駅側の第2広町立坑から発進し、中間にある第1広町立坑でシールドマシンに部品を追加し、1つのマシンで直径が異なる両トンネルを1機のシールドマシンで掘削している。トンネル・立坑の名称はあくまでキロ程に沿って命名しているため、掘削順序と番号が一致していない場合がある点に注意が必要である。また、後半の大崎支線(湘南新宿ライン)の直下では「HEP&JES工法」という当ブログでは見慣れない工法が出てくる。これらのトンネルは、ほとんどが東京総合車両センター(りんかい線建設当時の名称は大井工場)などJR東日本の所有地内を通過するため、JR東日本東京工事事務所に全面的に工事が委託されている。以下、各区間の工事の特徴を見ていくことにしたい。

■第1広町トンネル 10km852m~11km082m(L=230m)
▼参考
臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 227~253ページ

●概説
第1広町トンネルの位置と交差する構造物
第1広町トンネルの位置と交差する構造物
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(1989年)より抜粋

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 前半の第1広町トンネルは大井工場西側にある第2広町立坑(新木場起点11km088m)から発進する直径7.26m、全長230mの単線シールドトンネル2本である。2本あるトンネルは発進後徐々に上下に高低差が付き、上り線(新木場方面)が下り線(大崎方面)の下に潜り込むような形となっており、勾配は大崎駅に向かって上り線が32.65パーミルの上り勾配、下り線が19.05パーミルの下り勾配となっている。平面線形は針路を真西から真北へほぼ直角に変えるため、上下線とも半径245mの急カーブとなっている。第1広町トンネルの地上には第2広町立坑側から順に「品川区防災センター」「大井工場御料車庫」(皇室専用車両の格納庫)、JR東日本広町住宅(社宅)の「3号棟」「6号棟」が建っており、このうち品川区防災センターとJR広町住宅の基礎杭がトンネル断面内に位置していたため、掘進に先立ちその移設工事が行われている。各建物の工事の詳細は以下のとおりである。

A:品川区防災センター
品川区防災センターは8階建てで、館内は地震や火災に関する知識を学ぶことができる各種資料や映像に合わせてシートが動く映画館などの体験学習施設となっている。完成したのは1994(平成6)年で、建設当時既に建物直下をりんかい線が通過することがほぼ決まっていたため、基礎杭はトンネルを避けた位置に打ち込まれていた。ただし、その後大井町駅の構造が変更されたため、トンネルの位置が若干変更されており、8本ある基礎杭のうち2本がトンネルに重なってしまったため移設が行わた。

B:JR東日本広町住宅3号棟・6号棟
JR東日本広町住宅はいずれも12階建てで、建設が古いことからりんかい線のトンネルの通過は一切考慮されていない。このうち3号棟は上り線のトンネル、6号棟は上下両線のトンネルに基礎杭が重なっており、該当する杭の移設が行われた。新設された杭の本数は3号棟が8本、6号棟が13本である。受替杭の施工の手順は以下のとおりである。

JR広町住宅の基礎杭受替工の手順
JR広町住宅の基礎杭受替工の手順 ※クリックで拡大

(1)着工前
(2)建物下を掘削し、トンネルを避けた位置に新しい杭を打ち込む。この際、杭先端付近にある東京礫層から地下水が噴出しないよう地盤改良を行う。
(3)新しい杭の上に建物の重量を支える厚さ3mのコンクリート板(耐圧版)を造る。
(4)耐圧版の下を掘削し、トンネルに支障する既設杭をワイヤーソー・深礎工法により切断・撤去する。
(5)耐圧版の下まで埋め戻し、シールドを通過させる。
(6)シールド通過に伴う変形などが生じていないのを確認したら掘削した部分をすべて埋め戻す。

第1広町立坑におけるシールドマシンの拡径作業
第1広町立坑におけるシールドマシンの拡径作業 ※クリックで拡大

 第1広町トンネルの到達立坑である第1広町立坑(新木場起点10km841m)はこの杭の移設を行った3号棟のすぐ先にある駐車場に設けられた。立坑の寸法は長さ20.0m、長さ26.3m、高さ30.7m、土被りは4.7mの地下2層構造である。この立坑内では到達したシールドマシンの外側に新たにリング状のシールドマシンを取り付け、マシンの直径を7.26mから10.3mに拡大(拡径)した後、大井町駅へ向けて再発進させた。内外のシールドマシンの間に生じた隙間は、大井町駅の先で隣接する駅間トンネル(東大井トンネル)と地中でドッキングする際使用したことは、前々回の記事で開設した通りである。
 再発進直後には東急大井町線の高架橋と交差するが、この高架橋は1927(昭和2)年の目黒蒲田電鉄開業時から使用されていた古いもので、りんかい線のトンネルの掘削に伴う沈下に耐えられないと判断されたため、トンネルと交差する高架橋100mについて全面的に改築を行っている。また、大井町駅ホーム部分の高架橋140mについても補強と将来の急行運転(6両編成)に対応したホーム拡幅・延伸を行っており、工事期間中は北側(東京総合車両センター側)に鉄骨で組んだ仮設ホームを設け、営業を行っていた。東急大井町線の高架橋を過ぎると、トンネルは都道420号線の下に入るが、この付近の地盤には粘土(土丹層)が多く分布している。そのため、掘進時は粘土の固着によるカッターディスクの異常停止が多発したが、地上からのボーリングと高圧噴射水による洗浄などで切り抜けている。
 なお、第1広町トンネルの発進立坑となった第2広町立坑は工事完了後、排水ポンプ室として利用されており、地上にはりんかい線の走行電力を供給する大井町変電所が設けられている。また、第1広町立坑は工事完了後は埋め戻され、駐車場として復旧された。

■第2広町トンネル 11km095m~11km513m(L=418m)
▼参考
臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 227~253ページ

●概説
 後半の第2広町トンネルは第1広町トンネルの発進立坑となった第2広町立坑から大崎駅手前の地上に出る地点までの全長418mのトンネルである。勾配は上下線とも大崎方面に向かって32.65パーミルの上り勾配となっており、平面線形は第2広町立坑側が半径280m、出口側が半径268mのS字カーブとなっている。トンネルの地上は前半が大井工場の工場設備、後半が大崎支線(湘南新宿ラインが走行する大崎~蛇窪信号場間の線路)となっており、大崎駅側は大崎支線の上下線間に割って入る形で地上に出る。工区としてはこの先のU字形よう壁や路盤の改修区間も含んでいるが、説明が長くなるのでここでは割愛する。

第2広町トンネルの位置と構造
第2広町トンネルの位置と構造
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(1989年)より抜粋

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 第2広町トンネルは全体が4つのブロックに細分化されており、両側2ブロックが開削工法で建設された箱形トンネル、中間2ブロックが非開削のHEP&JES工法で建設された円形トンネルとなっている。各ブロックの特徴は以下のようになっている。

(1)大井町方開削トンネル
大井町方の開削トンネルは第2広町立坑を挟んで単線シールドトンネル2本と接しているため、立坑側は上下線が独立した箱形トンネル、大崎駅側が上下線が一体の箱形トンネルとなっている。トンネルの掘削は一般的な開削工法で行われたが、急勾配であるため始点と終点で深さが異なっており、途中で土留壁の構造が変わっている。

(2)中間部非開削トンネル(HEP&JES工法)
HEP&JES工法のイメージ
HEP&JES工法のイメージ ※クリックで拡大

大崎支線の真下に入る中間部は推進工法、シールド工法など複数の工法が検討されたが、工期短縮と新技術の開発促進の観点から、非開削でトンネルを建設する新しい工法である「HEP&JES工法」が用いられた。HEP工法(High Speed Element Pull Method)はトンネルの両端に発進・到達立坑を設け、両立坑間の地中にワイヤーを通したのち、ワイヤーで発進側から到達側へ向けて先端に掘削機が付いた鋼製のエレメント(四角形断面の筒)を引き込み、地下を掘削する方法である。JES工法(Joint Element Structure Method)はHEP工法で使うエレメントの端に継手を設けてエレメント同士を連結するもので、これを環状に並べることでトンネルの外枠を形成する。エレメントで外枠を造った後は空洞になっているエレメント内部にコンクリートを充填し、エレメントで囲まれた内側の土砂を除去するだけでトンネルが完成するため、工期を大幅に短縮できる。ただし、トンネルの片側からワイヤーでエレメントを引っ張る関係上、掘削時の推力には限界があり一度に掘削できる距離はそれほど長くはない

提案された2種類のトンネル閉合方法
提案された2種類のトンネル閉合方法 ※クリックで拡大

 HEP&JES工法ではエレメントが正方形断面である方が設計が簡単なため、トンネルも正方形や長方形の断面になることが多い。しかし、この第2広町トンネルでは複線の線路が通るため断面を大きくする必要があり、安定性などの面から珍しい円形断面が採用された。HEP&JES工法で円形トンネルを造る際問題となるのが、掘削終了時にどのようにエレメント同士をつないで周方向の連結を完了させるかである。これについてはトンネル下部に導坑(小トンネル)を設け、コンクリートで左右のエレメントをつないでしまう方法と、左右のエレメントをジャッキで引っ張りながら隙間を調整して連結する方法の2種類の案が出された。後者の方法は新技術の開発という面で魅力的であったが、累積誤差への対処などで不確実な面が多く、最終的には工期短縮を優先して前者の方法が採用されている。
 トンネルの寸法は途中にあるカーブのはみ出し量を含めることや、二次覆工の厚みを考慮して外径11.8m、内径10.2m(エレメント厚さ0.8m)とされた。また、エレメントのけん引推力を抑えるため、両端と中間に第1~第3の3つの立坑を設け、第1トンネル(42m)と第2トンネル(107m)に分割して施工している。 実際の工事ではおおむね当初の予定通り掘削が進んだが、途中で地中の石にぶつかり、掘削機が破損して手掘りでの掘削を余儀なくされる場面もあり、必ずしもすべてがうまくいったというわけではなかったようである。なお、トンネルと交差する位置には戸越幹線下水道が通っていたため、着工前に立坑内を通過する形で迂回・移設している。
 ちなみに、このHEP&JES工法はその後線路下を交差する道路トンネルなどを中心に多く用いられるようになった。しかし、掘削部分が直接見えないため土砂の取り込み過ぎによる陥没や、コンクリートの充填圧力を高め過ぎて線路上にコンクリートが噴出するなどのトラブルが発生しやすく、当時はまだ十分に完成した技術とは言い難いものであった。2006(平成18)年に列車が運休する事故が立て続けに3件発生して以降は、工事桁を併用するなど在来工法に近い形に回帰しており、最近では事故の話なども無く信頼性は飛躍的に高まっているようである。

▼参考
JR東日本:建設プロジェクトを支える新技術 > 線路下でトンネルを安全・低コスト・短期間に造る -HEP&JES工法-
線路下横断工法 HEP&JES工法 - 東鉄工業(PDF)
HEP&JES工法による営業線下での長距離・円形大断面トンネルの施工(本施工) - 土木学会第57回年次学術講演会(PDF)
線路下道路トンネル工事に伴う輸送トラブルの原因と再発防止対策について - JR東日本プレスリリース(PDF)

▼関連記事
山手線で再び線路トラブル(2006年4月25日作成)

(3)大崎方開削トンネル
大崎支線の上下線間に入り、地上に出るまでの間は中柱が無い開削工法の箱形トンネルとなっている。

新木場起点11km513m地点で地上に出た後はU字型よう壁、強化路盤の中を通り、大崎支線と合流して大崎駅構内へ進んでいく。

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