小田急線複々線・連続立体交差化工事(2・工事中区間)



前回の記事では複々線化・連続立体交差化が完了した登戸~梅ヶ丘間について解説しました。2記事目の今回は現在地下化工事が行われている梅ヶ丘~代々木上原間についてお伝えしたいと思います。

■地下化工事中区間の概要

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地下化工事中の梅ヶ丘~代々木上原間の地図(Googleマップ)

小田急線梅ヶ丘~代々木上原間は沿線に住宅が密集していること(これは完成区間で起きた反対運動を考慮したものと見ることもできる)や下北沢駅で京王井の頭線と交差すること、同駅付近で計画されている新設道路(補助54号線)との兼ね合いから高架化ではなく地下化が選択され、2004(平成16)年3月23日に都市計画決定がなされました。地下化される区間は新たな用地買収を極力防ぐ観点から現在線の直下にトンネルを建設することとなり、世田谷代田駅から下北沢駅にかけては緩行線が上層階急行線が下層階の2層構造とされました。また、急行線を通る優等列車のほとんどは新宿駅へ向かうことから、梅ヶ丘駅付近では内側を走っていた急行線が代々木上原駅付近では外側を走るよう線路が立体交差する構造となっています。これにより新宿方面と代々木上原駅から接続する東京メトロ千代田線双方へ向かう列車をスムーズに分岐・合流させることが可能となります。工事は都市計画決定の直後から開始されていますが、営業線直下で作業ができる時間や空間が限られていることから完成は2013(平成25)年頃を予定しています。
現在この区間では各駅停車と優等列車が同じ線路上を走るため、ラッシュ時を中心に列車が渋滞し信号待ちによる列車の遅れが発生しています。地下化工事の完成後はこれらの列車が別々の線路を走る形となり、優等列車の所要時間短縮や混雑緩和など複々線化の効果を最大限発揮することが可能となります。

■地下駅の構造と現在の状況(2010年1月10日取材)

地下化される区間の断面図


同区間の配線図

地下化される区間は梅ヶ丘駅の先にある上り勾配(地形的には武蔵野台地の淀橋台に上がる部分)から代々木上原駅の手前(千代田線折り返し線)までです。これに伴い、途中にある世田谷代田、下北沢、東北沢の3駅も地下化されます。世田谷代田駅と下北沢駅はともに現在線の敷地内でトンネルを建設するため緩行線が上層階、急行線が下層階の2層構造となっています。工事は第1期として下層階の急行線を完成させ、現在線をそこに移した後第2期として上層階の緩行線を建設するという手順が採られる予定です。このような施工順序となったのは下北沢駅の急行線をシールド工法で建設すること※脚注1や上層階の緩行線を建設するのに先立ち、交差する京王井の頭線の高架を全面的に改築する必要※脚注2があるためです。
以下、各駅の構造と現在の工事の状況を順に解説していきたいと思います。

▼脚注
脚注1:先に上層階の緩行線を建設してしまうとシールドの立坑を置くスペースがなくなってしまう。
脚注2:現状では小田急線の上下線間にも橋脚があるため、これを移設しない限り開削工法で駅を建設できない。(後述)

●世田谷代田駅

地下化前後の世田谷代田駅の構造

現在線は梅ヶ丘駅を出ると急勾配で地上に降りた後、地形に沿って再度急勾配で上り、台地の「頂上」にある世田谷代田駅に到達する構造となっています。地下化後は高架を降りるとそのまま台地面に食い込む形で地下に入り、緩行線が急行線の上に被さりながら世田谷代田駅に入る形となります。この途中には掘割構造ですでに立体交差となっている環状7号線があるため、小田急線のトンネルはそのさらに下に推進工法※脚注3で建設中です。
その先の世田谷代田駅は地下1階が改札口、地下2階が機械室、地下3階が島式の緩行線ホーム、地下4階が急行線となる予定で、急行線のみが完成した際はその両側の空間に片面の仮設ホームを設置し、暫定供用する予定です。現在は線路を鉄骨などで仮受けしながら地下の掘削が行われており、駅の登戸方には残土などを搬出するクレーンが設置されています。

▼脚注
脚注3:「推進工法」非開削でトンネルを建設する方法の1つ。発進側の立坑から掘削機をジャッキを用いて地中に押し込む。その後ろに筒状のトンネル躯体を置いた後、その躯体ごとジャッキで再び地中に押し込むことによりトンネルを順次建設していく。


左:画面奥が梅ヶ丘駅で、その手前の谷になっている部分からこちら側が地下線となる。
右:世田谷代田駅ホーム。全面的に仮設構造となっており、その下ではトンネル建設が進んでいる。

※クリックで拡大


世田谷代田駅ホームの新宿寄りにあるシールドトンネルの発進・到達立坑。トンネル自体はすでに貫通している。脇を60000形“MSE”(メトロはこね)が通過。

●下北沢駅

地下化前後の下北沢駅の構造

世田谷代田駅のすぐ先からは緩行線が開削トンネル、急行線がシールドトンネルという形となり、そのまま下北沢駅へ向かいます。
現在の下北沢駅は利用者の増加に応じてホームを増設したという歴史的経緯から、下り線が島式ホーム(ただし片面のみ使用)、上り線が片面ホームという変則的な構造となっています。また、ホームの新宿方の頭上を京王井の頭線が跨いでおり、これらは古い構造物であることから橋脚や乗り換え階段などが林立しホームは大変狭くなっています。
地下化後の下北沢駅は地上階が駅施設(改札口・京王井の頭線乗り換え口)、地下1階が機械室、地下2階が緩行線ホーム、地下3階が急行線ホームとなります。このうち、地下3階の急行線ホームは線路部分が世田谷代田駅の先から一括で建設されるシールドトンネル、地上との連絡階段部分のみ地上から掘り下げる開削トンネルという複合型となります。地上部分はほとんど変化がないように見えますが、地下では着々とトンネルの建設が進んでおり昨年10月には当駅部分を含む世田谷代田~下北沢間の上下線のシールドトンネルがすでに貫通しています。今後は下北沢駅のホーム部分を建設し(トンネル間の切り開き)、現在線をここに移した後交差する京王井の頭線の高架橋の改築と緩行線ホームの掘削・建設が行われる予定です。完成後は地上階が全て改札フロアとなるため、乗り換え客の集中が緩和され、両線間のスムーズな行き来が可能となる見込みです。


現在の下北沢駅。島式ホーム1面+片面ホーム1面という変則的な構造となっているのは利用者増にともないホームを増設した名残。この直下にはすでにシールドトンネルが完成している。


下り線ホームの端から新宿方面を見る。この付近でシールドトンネルは終了し、以後は開削トンネルとなる。掘削のため線路は仮線に移動しており、このようにところどころ急カーブができている。

なお、下北沢駅の新宿寄りには今後環状7号線と都道420号鮫洲大山線(中野通りの延長)を結ぶ都市計画道路「補助54号線」の建設が予定されています。この道路は終戦間もない1946(昭和21)年に都市計画決定がなされ、数次の計画変更の後2004(平成16)年からは東京都の「区部における都市計画道路の整備方針」により今後10年の間に優先的に整備すべき路線として位置付けられています。この道路の整備に合わせ、現在狭隘で自動車の出入りが難しい下北沢駅前にロータリーが整備され、交通機関同士の結節強化や災害時の避難経路確保、火災発生時の延焼防止が図られるものとされています。しかし、この道路計画に対しては文化人を中心として「下北沢特有の文化が破壊される」という根強い反対意見も多く、一部では訴訟も提起されていることから着工の目処は立っていません。

●東北沢駅

地下化前後の東北沢駅の構造

地下化着工前の東北沢駅は内側が急行通過線、外側が緩行線(ホーム)という構造となっており、唯一当初から4線分の用地幅が確保されていました。地下化後もこの用地はフルに生かされることとなり、下北沢駅を出ると下層階を走ってきた急行線が緩行線の両側に出て徐々にせりあがり、東北沢駅付近からは同一平面を走ことになります。完成後の東北沢駅は地上時代とは逆の緩行線が内側、急行線が外側をそれぞれ走る形で、内側の緩行線ホームは島式となり、急行線のみが完成した際は緩行線の線路上に仮設ホームを設置し4線幅の広い島式ホームとして暫定供用する予定です。現在は線路を仮受けしながら地下を掘削する工事が行われており、作業スペースを確保するため上下線で停車位置をずらした仮設の島式ホームで供用中です。


全面仮設構造となっている東北沢駅。


左:通過する8000形急行新宿行き。右の柵の向こうは下り線ホーム。上下線で若干位置がずれている。
右:下り線ホーム先端から新宿方面を見る。地下化後はこの踏切のすぐ先で線路が地上に出る。

※クリックで拡大

●代々木上原駅

代々木上原駅のホーム端から下北沢方面を見る。左下のポイントは将来の急行線完成に備えて残されている。

東北沢駅を出ると4線が同一平面を走る状態のまま地上に出て既に完成している高架橋に取り付く形となります。高架に上がったところで上下線の間に千代田線の折り返し線2本が挟まり、代々木上原駅構内へ入っていきます。東北沢駅からこの付近までは既に複々線化も完了しており、現在は暫定的に内側線(以前は急行線として使われており、地下化後は緩行線となる)のみを使用した運行が行われています。
この付近を含め、地下化される区間の具体的な配線についてはまだ明らかになっていないため完成時の形は不明ですが、地下化工事着工前と同じ配線に戻すのであれば緩行線がY字に分岐し新宿方面と千代田線方面に分かれる配線となり、分岐の手前に急行線・緩行線を接続する片渡り線が付くことになります。(この場合平面交差が発生する。)

●日本一長い速度制限?

梅ヶ丘駅の先にある制限速度60km/hの標識。下段の「2458」は速度が制限される区間長を示している。

なお、この他地下化工事が行われている梅ヶ丘~代々木上原間では線路近接工事の安全確保や軌道が不安定であることから全線で最高速度が60km/hに制限されています。制限区間の入口である代々木上原駅と梅ヶ丘駅には「制限速度60km/h・制限区間長2458m」を示す標識が設置されています。このような単独で標識を置くタイプの速度制限は長くても数百mであるのが常であり、この制限距離は恐らく日本一の長さではないかと思われます。工事終了時にはこの速度制限は撤廃されるため、この奇怪な標識を見られるのも今のうちでしょう。

▼関連記事
小田急線複々線・連続立体交差化工事(1・完成区間)(2010年1月30日作成)

▼参考
小田急電鉄小田原線の連続立体交差事業に着手!|東京都
→都市計画決定時に東京都から出された発表文
複々線化事業|会社案内|小田急電鉄
小田急線地下化工事情報ステーション「シモチカ ナビ Web」
→以上2点、小田急電鉄による地下化工事の解説
世田谷区 小田急線上部利用通信
世田谷区 小田急線3駅 駅舎計画について(意見募集の結果公表)
世田谷区 補助線街路第54号線及び世田谷区画街路第10号線
→以上3点、世田谷区による小田急線地下化・補助54号線・下北沢駅駅前広場の整備に関する解説
まもれシモキタ!行政訴訟の会
→補助54号線の整備に反対する団体のWeb

※2012年1月31日:代々木上原駅構内の配線についての記述を修正 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント


小田急線の東北沢~新代田間の地下化はいつ完成するか心配だ。昔は踏切区間が続き、交通渋滞が大きな問題となった。立体交差が完成し、複々線区間となってよかった。地下駅が完成するまで地上駅で我慢するしかない。
2010/05/10 22:56 | URL | 投稿者:タクロウ [編集]
Re: タイトルなし
タクロウさま>
地下化自体はトンネルの建設が順調に進んでいるので予定通り完成しそうですが、本文中でも触れている関連街路事業(下北沢駅前の補助54号線)が完全にこう着状態であるため駅舎の改良がどこまで進むかは現在のところ判断しかねる状況です。(余談ですが、「新代田
」は京王井の頭線の駅で、小田急線の駅名は「世田谷代田」です。)
2010/05/17 18:07 | URL | 投稿者:takuya870625(管理人)
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