「九段下駅の壁」撤去工事(2013年1月27日取材)

カテゴリ:鉄道:建設・工事 | 公開日:2013年03月10日11:35
撤去が進む「九段下駅の壁」

来る2013年3月16日より東京メトロと都営地下鉄の乗り換え利便性向上に向けた新サービスがスタートします。今回はその1つとして行われている九段下駅の半蔵門線・都営新宿線ホームの仕切り壁撤去工事(同一改札化)について、1月に調査をしましたので進捗状況をお伝えします。(なお、調査から1か月以上が経過しているため現状と異なっている場合があります。ご了承ください。)

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東京メトロ・都営地下鉄一元化問題と「九段下駅の壁」撤去工事(2012年1月20日作成)

■東京メトロ・都営地下鉄の経営統合議論と当面の施策

乗り入れ先の東急目黒線日吉駅で並んだ東京メトロ南北線9000系と都営三田線6300系
乗り入れ先の東急目黒線日吉駅で並んだ東京メトロ南北線9000系と都営三田線6300系。2008年9月14日撮影

 現在、東京都内を走る地下鉄は東京地下鉄株式会社(東京メトロ)東京都交通局(都営地下鉄)の2者により運営されています。東京メトロの前身である帝都高速度交通営団(営団地下鉄)は、戦時中の交通統制(陸上交通事業調整法)に基づき政府と東京府が共同出資して設立され、東京の地下鉄整備を担当することとなりました。しかし、戦後10年程度が経過し高度経済成長期に入ると、人口増加の速度が急激に上がり、路面電車(都電)に変わる交通機関として可及的速やかな地下鉄路線網の整備が要求されるようになりました。このため、営団地下鉄のみでは地下鉄整備が追いつかないと判断されたことから、1958(昭和33)年に1号線(都営浅草線)の免許を東京都に譲渡し、以後は営団・東京都の2者が地下鉄の整備・運営を行ってきました。
 1990年代を過ぎると東京都内の人口増加のスピードも鈍化し、地下鉄路線網の整備も大方終了したことから、政府の特殊法人改革の一環として営団地下鉄は民営化されることになり、2004(平成16)年に予定通り東京メトロに移行し、国・都が共同出資する株式会社として運営されています。また、新線建設がひと段落したころから、東京メトロと都営地下鉄の再度の統合に関する議論も度々巻き起こるようになってきました。
 そもそもメトロ・都営の統合はこれまで全く無視されてきたわけではなく、今回取り上げる九段下駅や大手町駅付近の千代田線・三田線のように両者のトンネルが一体で建設されている箇所や、南北線・三田線の目黒~白金高輪間のように両者が同じ線路を完全に共有しているなどの例もあります。さらに、メトロ・都営の両者はそれぞれ異なる運賃体系を採っていることから、乗り換えの際改札口が別になっている、二重に運賃が徴収されるといった点に関しては利用者から評判が悪かったのも事実です。しかし、都営地下鉄は時間帯により利用率に極端に差がある郊外に多く路線を持つことや、深部に線路を持つ大江戸線の建設費が経営を圧迫しており、営団地下鉄が民営化された2004年時点では経常損益が117億円の赤字だったことから、早期の両者の経営統合は不可能であると結論付けられてきました。
 しかし、東京都交通局ではこの10年間のコスト削減の努力により、長期債務を半減させているほか、2006(平成18)年には黒字転換(経常黒字)を実現するなど経営改善が着実に進んでいます。これを理由に東京都は再び東京メトロ・都営地下鉄の経営統合に関する議論を持ち出してきました。2010(平成22)年8月から2011(平成23)年2月までの間に延べ4回開催された「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」では東京都が両者の完全な統合を強硬に主張したのに対し、国・東京メトロは将来上場を予定している東京メトロの株式の価値を下げる恐れがあるとして慎重な姿勢を崩しませんでした。最終的な結論として

1、経営の一元化については課題が多いことからすぐには実行せず検討を継続する。
2、東京メトロの早期完全民営化(株式上場)については当面保留とし検討を継続する。
3、両者の間の乗り継ぎサービス改善を段階的に進めていく。

 A:九段下駅の仕切り壁を2012年度中に撤去する(後述)。
 B:岩本町駅~秋葉原駅など乗継割引の対象駅の追加指定。
 C:乗継割引(現行70円引き)の金額アップ。
 D:改札通過サービス(同じ駅の違う会社線のホームを通過して離れた地上出入口へ行けるようにする。)
 E:本郷三丁目駅の丸ノ内線・大江戸線の間に乗換通路を新設。

という内容が提案され、当面の対応として完全な経営統合ではなく利用者サービスの一元化を図るという方向で意見が集約されました。


■「九段下駅の壁」撤去工事

半蔵門線ホーム側に張り出している都営新宿線ホームの階段 半蔵門線ホーム中央にある「非常口」の向こうは都営新宿線ホーム(現在扉は撤去済み)
左:半蔵門線ホーム側に張り出している都営新宿線ホームの階段
右:半蔵門線ホーム中央にある「非常口」の向こうは都営新宿線ホーム(現在扉は撤去済み)
2011年12月30日撮影

※クリックで拡大

 九段下駅の半蔵門線と都営新宿線はともに対向式ホーム2面2線で、地下4階にあります。このうち、半蔵門線押上方面行き(4番線)と都営新宿線新宿方面行き(5番線)は島式ホームの中央に壁を設置して両社を分離しています。ホーム上を見ると、階段も窓もない部屋のようなものが多数設置されていますが、これは反対側のホームの階段が出っ張っているものです。また、壁の各所には列車進入・進出時の風圧を逃がす換気口や非常口などが多数設置されていましたが、これらも全て反対側のホームに通じていました。このため、換気口などに近付いて耳を澄ますと反対側のホームの構内放送が聞こえる場合もありましたが、これらの事実は2010年に東京都の猪瀬副知事(当時)により大々的にPRされるまではほとんど知られていませんでした。
 前記の協議会での結論により、九段下駅ではこの仕切り壁を撤去し、半蔵門線と都営新宿線の改札口を統合(どちらの改札口も利用できるように)することが取り決められました。

壁が撤去され、反対側のホームの案内板が見えるようになった。
壁は連続コア抜きにより切り取られており、輪郭にはその跡がはっきりと確認できる。 階段や消火栓の設置部分は壁が残されている。
上:壁が撤去され、反対側のホームの案内板が見えるようになった。
下左:壁は連続コア抜きにより切り取られており、輪郭にはその跡がはっきりと確認できる。
下右:階段や消火栓の設置部分は壁が残されている。

※クリックで拡大

 九段下駅の仕切り壁の撤去工事は2011(平成23)年12月よりスタートしました。それから1年以上が経過し、ホーム上では壁の撤去がほぼ完了しています。仕切り壁は厚さ数十cm程度のコンクリート製で、コンクリートを機械を使って円筒状にくり抜く「コア抜き」を連続して行うことにより切断・撤去されています。この壁は設計上は「飾り」(=上下左右方向の荷重を負担しない壁)であるため、壁の撤去に際して特に補強などは行われておらず、このまま化粧用のパネルを設置して蓋をしてしまう模様です。
 1月末の調査時は壁を撤去した跡に工事用の柵が設置されていましたが、上部はネットのみになっておりネット越しに反対側のホームの案内板を見ることができるまでになっていました。仕切り壁は前記した非常扉の部分を含めほとんどが撤去されていますが、階段近傍や消火栓が設置されている部分など構造上撤去が難しい部分については以前のままとなっており、3月16日に予定されている両者の改札統合後もそのまま残されるものと思われます。

半蔵門線側からコンコースの壁の撤去中の箇所を見る。 同じ壁の撤去箇所を都営新宿線側から見る。
左:半蔵門線側からコンコースの壁の撤去中の箇所を見る。(同じ場所の2011年12月30日の状況
右:同じ壁の撤去箇所を都営新宿線側から見る。

※クリックで拡大

 両者の壁の撤去はホーム上層のコンコース階でも進められています。撤去されるのは渋谷・新宿方改札、神保町方改札のそれぞれ1箇所ずつで、前者は昨年11月、後者は昨年5月頃より工事が開始されています。改札口が2か所に分かれているのは上層階で東西線が直交しているためです。東西線は上下ホームが分かれた対向式ホームとなっており、同じ東京メトロの運営である半蔵門線側のコンコースのみ双方の改札口を改札内で連絡する通路が設置されていました。このため、都営新宿線から東西線に乗り換える際逆側の改札口に出てしまった場合、ホーム経由で反対側の改札口に行くか、地下2階の端にある東西線を横断する通路まで大きく迂回することを強いられるなど不便な状態となっていました。
 3月16日からは半蔵門線と都営新宿線の改札が一体化されるため、都営新宿線側からもこの改札内の連絡通路が利用可能となり、間違って出てしまった場合の上下移動の回数が大幅に削減されます。


 九段下駅の両者の改札口の統合は来る2013年3月16日より開始されます。これに合わせて新たに岩本町駅と秋葉原駅の乗り換え駅の指定と市ヶ谷駅と春日駅~後楽園駅の2駅の改札通過サービスも開始されます。
 昨年12月の都知事選・衆院選では1999(平成11)年から13年にわたり都知事を務めてきた石原慎太郎氏が国政に移り、代わって副知事である猪瀬直樹氏が都知事に昇進しました。猪瀬氏は九段下駅のメトロ・都営両者の仕切りについて「バカの壁である」としてこれまで痛烈に批判してきましたが、両ホームで列車が東西逆方向に走行していることから、実際に撤去することによる効果は限定的になることが予想されます。政治的パフォーマンスの色合いの濃い今回の政策ですが、今後は見かけだけに留まらない、優れた交通体系が構築されることを期待します。

▼参考
(タイトルが同じものは同一の内容。)
東京の地下鉄のサービス一体化に向けた取り組みについて - 東京メトロ ニュースリリース(PDF)
東京の地下鉄のサービスの一体化に向けた取り組みについて - 東京都交通局
九段下駅の乗換改善に向けた工事の開始について - 東京メトロ ニュースリリース(PDF)
九段下駅の乗換改善に向けた工事の開始について - 東京都交通局
平成25年3月16日(土) 東京の地下鉄がさらに便利になります ①九段下駅の乗換改善 ②乗換駅の追加指定(岩本町駅・秋葉原駅) ③改札通過サービス(春日駅・後楽園駅、市ケ谷駅) - 東京メトロ(PDF)
平成25年3月16日(土) 東京の地下鉄がさらに便利になります | 東京都交通局

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