東京メトロ・都営地下鉄の乗継サービス向上

九段下駅で顔を合わせる都営新宿線10-000形と東急田園都市線5000系

2013年3月16日は東京メトロ副都心線と東急東横線の直通運転が開始されたことで話題となりましたが、同日より東京メトロと都営地下鉄の乗り継ぎサービスについても大きな変化がありました。今回はその中から九段下駅の半蔵門線・都営新宿線ホーム間の壁撤去後楽園駅・春日駅の改札通過サービスについてお伝えします。

▼関連記事
東京メトロ・都営地下鉄一元化問題と「九段下駅の壁」撤去工事(2012年1月20日作成)
「九段下駅の壁」撤去工事(2013年1月27日取材)(2013年3月10日作成)

■東京メトロと都営地下鉄のサービス一元化に関する議論
目黒~白金高輪間で線路を共有する都営三田線の6300形(左)と東京メトロ南北線9000系(右)
目黒~白金高輪間で線路を共有する都営三田線の6300形(左)と東京メトロ南北線9000系(右)。
2011年6月19日、東急目黒線武蔵小杉駅で撮影


 現在、東京都内の地下鉄は東京地下鉄株式会社(東京メトロ)東京都交通局(都営地下鉄)の2者により運営されています。運営団体が2つにわかれているのは、高度経済成長期に当時の帝都高速度交通営団(営団地下鉄、東京メトロの前身)のみでは急増する人口に対して地下鉄の整備が追い付かないと判断されたためです。一方、2000年代に入ると都内の地下鉄整備も大方完了したため、営団地下鉄は国の特殊法人改革の一環として民営化され、以後東京メトロとして国・都が共同出資する株式会社として運営されています。また、新線建設などの大規模投資が行われなくなったことから、東京メトロと都営地下鉄の経営統合に関する議論もここ数年活発化してきました。
 この動きを受け、2010(平成22)年8月から延べ4回に渡り、東京メトロ・東京都・国の3者で「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」が開催され、東京メトロと都営地下鉄の経営統合に関する議論が交わされました。協議会では当時の猪瀬副知事がPRした通り、東京都が両者の完全な経営統合を強硬に主張したのに対し、東京メトロと国は東京メトロの株式上場を優先する観点や都営地下鉄の長期債務の多さを理由に統合に慎重な姿勢を崩しませんでした。最終的な結論として

1、経営の一元化については課題が多いことからすぐには実行せず検討を継続する。
2、東京メトロの早期完全民営化(株式上場)については当面保留とし検討を継続する。
3、両者の間の乗り継ぎサービス改善を段階的に進めていく。

 A:九段下駅の仕切り壁を2012年度中に撤去する。
 B:岩本町駅~秋葉原駅など乗継割引の対象駅の追加指定。
 C:乗継割引(現行70円引き)の金額アップ。
 D:改札通過サービス(同じ駅の違う会社線のホームを通過して離れた地上出入口へ行けるようにする。)
 E:本郷三丁目駅の丸ノ内線・大江戸線の間に乗換通路を新設。

という内容が提案され、当面の対応として完全な経営統合ではなく利用者サービスの一元化を図るという方向で意見が集約されました。このうち、A・B・Dの3点が、去る2013年3月16日より実行されました。

■九段下駅の半蔵門線・都営新宿線ホーム間の壁撤去(2013年3月22日取材)
半蔵門線ホーム側に張り出していた都営新宿線ホームの階段 半蔵門線ホーム中央にある「非常口」の向こうは都営新宿線ホーム(現在は撤去済み)
左:半蔵門線ホーム側に張り出していた都営新宿線ホームの階段
右:半蔵門線ホーム中央にある「非常口」の向こうは都営新宿線ホーム(現在は撤去済み)
2011年12月30日撮影

※クリックで拡大

 九段下駅は地下2階に東西線の改札口とホーム、地下3階に半蔵門線・都営新宿線の改札口、地下4階に両線のホームがあります。いずれも対向式ホーム2面2線の構造ですが、半蔵門線と都営新宿線は一体構造のトンネルとなっており、半蔵門線押上方面(4番線)と都営新宿線新宿方面(5番線)は島式ホームの中央に壁を設置して双方のホームを分離していました。このため、ホーム上には所々反対側のホームの階段が張り出していたほか、「非常口」として両ホームを行き来できる扉が数か所設置されていました。

九段下駅の都営新宿線・半蔵門線ホーム間仕切り壁の撤去箇所
九段下駅の都営新宿線・半蔵門線ホーム間仕切り壁の撤去箇所
※クリックで拡大(PNG/1000*500px/90KB)

 前述の協議会の決定を受け、九段下駅では地下4階の半蔵門線押上方面行きホームと都営新宿線新宿方面行きホームを分けていた壁を撤去することになり、2011(平成23)年12月より工事が開始されました。ホームの壁の撤去に合わせて、上階の改札内コンコースについても両者間の壁を撤去し、半蔵門線・都営新宿線どちら改札口からも両者が利用できるように改修されました。

壁が撤去され、一体化された半蔵門線押上方面行きホーム(右)と都営新宿線新宿方面行きホーム(左)
壁が撤去され、一体化された半蔵門線押上方面行きホーム(右)と都営新宿線新宿方面行きホーム(左)
※クリックで拡大(1200*522px/102KB)

 両者間を仕切っていた壁は去る3月16日(土)に撤去され、この日から半蔵門線と都営新宿線の改札内コンコース・ホームは完全に一体化されました。地下4階のホームではこれまで壁に阻まれて見えなかった都営新宿線10-000形電車と半蔵門線8000系電車、さらに乗り入れ先の東武、東急、京王の各社の車両が顔を合わせる新しい光景が展開されるようになりました。
 また、半蔵門線押上方面行き(4番線)と都営新宿線新宿方面行き(5番線)のホームは、島式ホームの途中に壁を置いていたため、反対側のホームの階段が張り出している部分は張り出した分だけホームの幅が狭くなっており、列車到着時は激しく混雑していました。壁を撤去したことにより双方のホームから全ての階段を利用できるようになり、混雑が緩和されました。

部分的に壁が残っている場所もある。
部分的に壁が残っている場所もある。(同じ場所の2013年1月27日撮影

両ホームを仕切っていた壁はほとんどが撤去されていますが、消火栓が埋め込まれているなど撤去が難しい部分については壁が引き続き残されています。また、壁を撤去した跡にはホームの他の部分と同じ色の内装材が設置されましたが、特徴的な点として撤去前の壁と同じ位置の天井に垂直にガラス板が設置されていることが挙げられます。これは「防煙垂れ壁」と呼ばれるもので、火災発生時に煙が拡散するのを防止する目的で設置されています。防煙垂れ壁は室内が細かく区画されている商業施設などではよく見られるものですが、地下鉄の駅ではホーム全体を1つの空間としてみなす場合が多く、比較的珍しい存在です。このような設備があるのは、壁を撤去した後も半蔵門線ホームと都営新宿線ホームでは排煙装置の区分が引き続き分かれており、両ホームの空気の流れが混合しないようにするためと思われ、「元々別のホームだった名残」とみなすこともできます。なお、地下3階の改札口コンコースは防煙垂れ壁が無い代わりに、壁を撤去した跡にシャッターが設置されています。

ホーム上の案内板は路線名入りのものに交換された。 4・5番線ホームの階段の案内板も両路線の停車駅が記載されたものに交換された。
左:ホーム上の案内板は路線名入りのものに交換された。(同じ場所の2013年1月27日の様子
右:4・5番線ホームの階段の案内板も両路線の停車駅が記載されたものに交換された。

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 両者の改札口が一体化されたため、駅構内の案内板もほとんどが新しいものに交換されています。ホーム上の案内板は路線を区別できるよう路線名とロゴマーク(丸の中に路線名を示すアルファベットが書かれている)を併記した形となり、ホーム入口の階段も同様に路線名を強くアピールする形に変わりました。合わせて、列車接近時の放送にも「半蔵門線」「都営新宿線」の文言が新たに追加され、誤乗を防止しています。

地下3階の改札口コンコースも両者間の壁が撤去された。 地下3階の改札口コンコースも両者間の壁が撤去された。
地下3階の改札口コンコースも両者間の壁が撤去された。
(同じ場所の2011年12月30日/2013年1月27日の様子

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 地下3階の改札内コンコースについてもホームと同様に半蔵門線・都営新宿線を仕切っていた壁が撤去されました。これにより、半蔵門線・都営新宿線どちらの改札口からも両路線が利用可能となったほか、改札口を出ることなく両路線を乗り換えることが可能になりました。また、地下3階の改札口は駅の中央で交差する東西線を挟む形で2か所に改札口が分かれていますが、改札内で双方のコンコースを結ぶ通路はこれまで半蔵門線側にしか設置されていませんでした。このため、都営新宿線で当駅に到着後に目的とは反対側の改札口に出てしまった場合、一旦ホームまで戻ってホーム経由で反対側の改札口に出るか、改札を出て地下2階の端にある連絡通路を経由して反対側のコンコースに出る必要があり不便な状態となっていました。半蔵門線・都営新宿線でコンコースが一体化されたことにより、都営新宿線側からも地下3階の連絡通路が利用可能となり、迂回する距離が大幅に短縮されました。
 なお、今回壁が撤去された半蔵門線押上方面行き・都営新宿線新宿方面行きホームは、電車の向かう方向が東西で逆になっていることもあり、実際は乗り換え客の多くが引き続き地下3階のコンコースを経由しているように見受けられました。ただし、乗り換えに際して改札口を経由しないことにより移動距離が若干短縮されたこと、定期券やきっぷを自動改札機に通す必要が無くなったことから、乗り換えに要する所要時間・動作は大きく軽減されており、この点は評価に値します。


■改札通過サービス
改札通過サービスのイメージ。異なる会社線のコンコース・ホームを通じて直接つながっていない改札口や地上出入口を利用できる。
改札通過サービスのイメージ。異なる会社線のコンコース・ホームを通じて直接つながっていない改札口や地上出入口を利用できる。
※クリックで拡大

 九段下駅の仕切り壁撤去に加えて、3月16日からは市ヶ谷駅、後楽園駅、春日駅で「改札通過サービス」が開始されました。これはICカード乗車券(Suica・PASMO・ICOCAなど)を利用してこれらの駅で乗下車する際、異なる事業者側のコンコースやホームを経由して改札口・ホームを行き来できるというものです。具体的な例は以下のようになっています。

市ヶ谷駅の場合後楽園駅・春日駅の場合
例:都営新宿線ホーム→5出入口のルート

<従来>
都営新宿線ホーム(B3F)→改札出場(B1F)→1出入口(以降地上)→靖国通り→外堀通り→5出入口

<改札通過サービス>
都営新宿線ホーム(B3F)→連絡改札通過(B2F)→南北線改札出場(B3F)→5出入口
例:丸ノ内線ホーム→A6出入口のルート

<従来>
丸ノ内線ホーム(2F)→南北線改札出場(B1F)→都営大江戸線コンコース(B2F)→A3出入口(以降地上)→白山通り→A6出入口

<改札通過サービス>
丸ノ内線ホーム(2F)→連絡改札口(B5F)→都営大江戸線ホーム(B4F)→都営三田線ホーム(B2F)→A6出入口


改札通過サービスが導入されたことにより、市ヶ谷駅では外濠を挟んで対岸に位置する東京メトロ・都営地下鉄の地上出入口が相互に利用可能となり、地下駅特有の上下移動の多さを含んだとしても、駅から離れた地上の道路を大きく迂回していた分の移動経路が大幅に短縮されました。また、後楽園駅・春日駅についても距離が離れ、改札外ではつながっていない丸ノ内線ホーム・都営三田線ホーム相互の改札口を利用可能となり、地上での移動距離が短縮され、悪天候時に威力を発揮することになりました。

後楽園駅・春日駅地下4階にある東京メトロ・都営地下鉄連絡改札口
後楽園駅地下1階の東京メトロ南北線改札口 春日駅地下2階の都営大江戸線改札口
上:後楽園駅・春日駅地下4階にある東京メトロ・都営地下鉄連絡改札口
下左:後楽園駅地下1階の東京メトロ南北線改札口
下右:春日駅地下2階の都営大江戸線改札口。3枚とも2013年4月14日撮影

※クリックで拡大

 改札通過サービスは現段階では東京メトロと都営地下鉄の連絡改札口がある市ヶ谷駅・後楽園駅・春日駅のみの試験的導入の意味合いが強いものとなっています。このため、各駅とも改札口周辺に注意事項を記載したポスターは掲出されているものの、電照式の案内板にはこのサービスについての記述は無いなど、大々的にPRはされていません。ただし、前述の協議会の中で連絡改札口が無い駅についても、この改札通過サービスを導入することが提案されており、利用者から好評であればさらに導入駅が増える可能性もあります。

■その他

 今回採り上げた九段下駅のホーム・コンコース一体化、改札通過サービスの他には東京メトロ日比谷線秋葉原駅・都営新宿線岩本町駅の乗換駅追加(乗継割引適用)があります。両駅は神田川を挟んで300mほどの距離にあり、特に秋葉原駅の南端にある4・5出入口と岩本町駅のA3・A4出入口の間はおよそ100mしか離れていません。このため、以前から乗り換え駅追加に対する要望が多く挙がっており、今回の乗り継ぎサービス改善の合わせて乗換駅として指定されました。これにより、乗継割引(70円引き)が適用されるようになり、一部区間で運賃が値下がりしました。


 今年1月には今回のメトロ・都営地下鉄のサービス一元化推進の主である猪瀬直樹都知事が、国土交通省の大田昭宏大臣に対し、両者の経営一元化についての協力を申し入れるなど、今回取り上げた議論は引き続き動きを見せています。現段階では都営地下鉄の長期債務の問題から、具体的な政策の発表はありませんが、2020年の東京オリンピック開催の可能性も見えつつあることから、引き続き利用者にわかりやすい交通体系の構築に向けて議論が深まることを期待します。

▼参考
東京の地下鉄の一元化について/東京都都市整備局

(以下、タイトルが同じものは同一の内容。)
東京の地下鉄のサービス一体化に向けた取り組みについて - 東京メトロ ニュースリリース(PDF)
東京の地下鉄のサービスの一体化に向けた取り組みについて - 東京都交通局
九段下駅の乗換改善に向けた工事の開始について - 東京メトロ ニュースリリース(PDF)
九段下駅の乗換改善に向けた工事の開始について - 東京都交通局
平成25年3月16日(土) 東京の地下鉄がさらに便利になります ①九段下駅の乗換改善 ②乗換駅の追加指定(岩本町駅・秋葉原駅) ③改札通過サービス(春日駅・後楽園駅、市ケ谷駅) - 東京メトロ(PDF)
平成25年3月16日(土) 東京の地下鉄がさらに便利になります | 東京都交通局

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