相鉄・JR直通線建設工事(2013年9月取材)

外側2線の線路が無くなった西谷駅

現在、相鉄線西谷駅とJR東海道貨物線横浜羽沢駅・東急東横線日吉駅の間で「相鉄・JR直通線」「相鉄・東急直通線」(神奈川東部方面線)の建設が進められています。昨年8月に「相鉄・JR直通線」の工事の進捗状況について現地調査を行いました。さらにその後、「相鉄・東急直通線」についても本格的な工事が開始されたことから、日吉駅付近を中心に4月上旬に調査を行いました。前者については半年ほど経ってしまいましたが、この機会に両調査の内容を2記事連続でお届けしたいと思います。1回目の今回は直通線の概要と「相鉄・JR直通線」の現在の状況についてです。

※2013年8月・2014年4月の調査日はともに天候が大変悪かったため、一部お見苦しい状態の写真もございます。ご了承ください。

▼関連記事
相鉄・JR直通線建設工事(2012年9月8日取材)(2012年9月19日作成)

■相鉄線を取り巻く現状と神奈川東部方面線


より大きな地図で 相鉄・JR直通線&相鉄・東急直通線 を表示
相鉄線と神奈川東部方面線の位置。青が現行の相鉄線、赤が相鉄・JR直通線、ピンクが相鉄・東急直通線。
 
 相模鉄道(以下、相鉄)は神奈川県の中心部にある横浜駅と海老名駅を結ぶ全長24.6kmの本線と二俣川駅から分岐し、湘南台駅を結ぶ全長11.3kmのいずみ野線を運行しています。相鉄線の沿線は主に住宅地となっていますが、相鉄線の利用者数は1995(平成7)年をピークに減少傾向が続いています。これは相鉄線が首都圏の大手民鉄の中では唯一東京都心に直接乗り入れておらず、住宅の都心回帰傾向の影響を強く受けたためとみられています。
 一方、相鉄線に関しては2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会(現・交通政策審議会)第18号答申において二俣川駅から、新横浜駅を経由して東急東横線大倉山駅に至る「神奈川東部方面線」と称する新線を建設することが提唱されていました。しかし、新線の予定地の多くは宅地開発が成熟しており、用地買収の必要性を考慮すると民鉄一社が独自で行うことは困難となっており、前述の沿線人口回復の観点から必要性は認識されつつもこれまで膠着状態が続いてきました。

速達性向上事業のイメージ 受益活用型上下分離方式のフロー
速達性向上事業のイメージ(左)と受益活用型上下分離方式のフロー(右)

 しかし、近年大都市の新線建設に利用できる新たな公的補助制度である「都市鉄道等利便増進事業」が新設され、神奈川東部方面線もこの制度の対象となることが決定しました。この制度はいわゆる「上下分離方式」の一種で、神奈川東部方面線の場合では、トンネルや線路を鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT、以下鉄道・運輸機構)が建設し、完成後は相鉄・東急が鉄道・運輸機構に線路使用料を支払いながら建設費の償還を行うものです。この制度は主に大都市で既にある路線同士をつなぐ短絡線を建設して所要時間を短縮する場合(速達性向上事業)や、駅の大規模改良により利便性を向上する場合(駅施設利用円滑化事業)を対象としたもので、神奈川東部方面線は前者の「速達性向上事業」に該当します。
 計画はまず第1段階として、2018年度を目途に相鉄線西谷駅とJR東日本東海道貨物線の横浜羽沢駅との間に「相鉄・JR直通線」を開業させ、東海道貨物線・横須賀線を経由して東京都心方面への直通運転を開始します。続いて2019年度には横浜羽沢駅から東急線の日吉駅(接続駅を当初の大倉山駅から変更)までの間に「相鉄・東急直通線」を開業させ、東急目黒線・東横線経由で東京都心方面への直通運転を拡大します。両路線とも住宅地の中を通ることから全線地下式となり、分岐点となる横浜羽沢駅の近傍に「羽沢駅」(仮称)、相鉄・東急直通線の途中には「新横浜駅」「新綱島駅」(いずれも仮称)が新設されます。これにより、相鉄線沿線から東京都心までの所要時間は現在よりも最大で15分程度、新幹線の乗り換え駅である新横浜駅までの所要時間は20分程度短縮される見込みです。

■相鉄・JR直通線の概要
相鉄・JR直通線全体の縦断面図
西谷駅のトンネル入口 西谷駅付近の箱型トンネル 西谷~羽沢のシールドトンネル
羽沢駅 羽沢駅先のJR・東急直通線分岐 横浜羽沢駅構内の接続部
相鉄・JR直通線の断面図
上段(1):相鉄・JR直通線全体の縦断面図
中段(2~4):左から西谷駅のトンネル入口、西谷駅付近の箱型トンネル、西谷~羽沢のシールドトンネル
下段(5~7):左から羽沢駅、羽沢駅先のJR・東急直通線分岐、横浜羽沢駅構内の接続部


 相鉄線西谷駅とJR東海道貨物線横浜羽沢駅を結ぶ「相鉄・JR直通線」は全長約3030mで、中央部約約1930mは地下式となっています。横浜羽沢駅に接する部分には対向式ホーム2面2線の地下駅「羽沢駅」(仮称)が新設されます。羽沢駅の先は内側から日吉方面に向かう相鉄・東急直通線(後述)を分岐した後、横浜羽沢駅構内に入り、東海道貨物線の上下線に合流します。
 東海道貨物線に合流後は鶴見駅を経由して品鶴線(横須賀線・湘南新宿ライン)に入り、東京都心方面に向かいます。当初計画では東京都心側は湘南新宿ライン(渋谷・新宿方面)への乗り入れが予定されていましたが、横浜市の要請によりその後品川・東京方面への乗り入れも検討されています。東海道線へ直通させる場合、品川駅で平面交差が発生するため運行本数に制約があり、実現した場合どのような運行方法がとられるのか注目されます。
 相鉄・JR直通線の工事は2010(平成22)年3月から開始され、当初は2015年4月の完成が予定されていました。しかし、後述する通り横浜羽沢駅構内の工事が難航しており、2015年の完成が難しくなったことから、今年3月に完成予定を3年延期することが決定されました。これにより事業費は当初の約683億円から約782億円に増加する見込みです。

<相鉄・JR直通線の事業の推移>
2006年11月21日 速達性向上計画認定
2007年10月29・30日 事業説明会開催
2007年11月5日~12月19日 環境影響評価(環境アセスメント)方法書縦覧
2008年8月24~26日 都市計画市素案説明会開催
2008年8月25日~9月8日 都市計画市素案縦覧
2009年3月16・17日 西谷駅引上げ線整備に関する説明会開催
2009年5月17~19日 環境影響評価準備書に関する説明会開催
2009年5月15日~6月29日 環境影響評価準備書・都市計画案縦覧
2009年9月15日~10月14日 環境影響評価書縦覧
2009年10月20日 工事施工認可
2010年3月15日 都市計画決定・環境影響評価報告書公告
2010年3月25日 起工式
2011年1月21日 羽沢駅(仮称)工事説明会
2011年12月1日 西谷トンネル他準備工事着手
2012年4月 都市計画法に基づく事業説明会
2012年10月 西谷トンネル工事説明会
2014年3月25日 速達性向上計画変更認定(完成年2015→2018

■相鉄・JR直通線の建設工事の状況(2013年9月7日取材)
●西谷駅
西谷駅の改良前後の配線図 西谷駅の改良前後の配線図
西谷駅の改良前後の配線図

 西谷(にしや)駅は島式ホーム2面4線の配線となっており、これまでは外側2線が各駅停車が優等列車の通過待ちをする待避線となっていました。直通線開通後はこの外側2線の横浜寄りが直通線に直結され、東京都心方面専用の線路になる予定です。また、当駅から二俣川方面は横浜方面から来た列車と直通線経由で東京方面から来た列車全てを直通させると輸送力過剰となるため、一部の列車を西谷駅折り返しとする計画となっています。このため、西谷駅の二俣川寄りの盛土高架を拡幅して上下線の間隔を広げ、空いた場所に折り返しのための引上線が2線設置される予定になっています。この引上線は現時点の計画では横浜方面からの列車メインで使用することになっていますが、配線上は直通線側からも利用可能となっており、場合によっては直通線の列車が当駅で折り返すことも可能となる模様です。

上り列車から見た引上線線予定地の終端 さらに先に進んだところ。中央付近で帷子川と交差している。
左(1):上り列車から見た引上線線予定地の終端
右(2):さらに先に進んだところ。中央付近で帷子川と交差している。(同じ場所の2011年9月10日の様子


 西谷駅の海老名方の引上線新設工事は2012年頃より本格化しており、現行の本線の両側で新しい本線の線路敷となる盛土高架が姿を現しつつあります。右側の写真では新しい下り本線の予定地に戸建て住宅が残っていますが、その後取り壊されています。


※この先画像が11枚(約412KB)あります。画像はスクロールに従って自動で読み込まれます。(Javascriptが有効の場合のみ)容量にご注意ください。



帷子川の橋梁新設工事。白い物体が新しい本線の桁を支える橋台。 帷子川の橋梁新設工事。白い物体が新しい本線の桁を支える橋台。
帷子川の橋梁新設工事。白い物体が新しい本線の桁を支える橋台。

 引上線設置区間の途中では帷子川(かたびらがわ)と斜めに交差しており、その部分は鋼製の新しい桁橋が架けられることになっています。線路周辺が狭く、橋桁を一度に搬入することができないため、横浜寄りの線路脇を作業スペースとし、そこで組み立てを行いながら徐々に川の上に繰り出していく方法がとられる予定となっています。昨年9月の調査時は現行の線路の両側でコンクリートの橋台を構築する工事が進められていました。

西谷駅のホーム脇では斜面を切り崩すため杭の打ち込みが行われていた。
西谷駅のホーム脇では斜面を切り崩すため杭の打ち込みが行われていた。

 西谷駅付近は起伏が激しいため、駅構内では上り線側の地盤が高くなっており、掘割のような形状となっています。引上線設置に伴い線路敷の幅が広がるため、斜面を切り崩して掘割を拡大する必要があります。昨年夏の調査時は斜面の切り崩しに向けて杭を打ち込む作業が行われていました。

西谷駅横浜方の歩道橋から駅構内を見る。4番線の線路は完全に撤去された。 同じ場所から横浜方面を見る。線路の両側で直通線の工事が進む。
左(1):西谷駅横浜方の歩道橋から駅構内を見る。4番線の線路は完全に撤去された。
右(2):同じ場所から横浜方面を見る。線路の両側で直通線の工事が進む。


 西谷駅は2012年4月のダイヤ改正を以って上り副本線の4番線の使用を停止し、直通線転用に向けた工事が本格化しています。4番線の使用停止に伴い、当駅で優等列車が各駅停車を追い抜くことができなくなるため、平日朝の「快速」の運行が休止されています。横浜方面は現行の本線の両側で直通線が地下に入るアプローチ部分を建設する工事が進められていますが、一部用地買収が完了していない場所があり、今後の事業進展に影響が出ないか気がかりなところです。

西谷駅の先に設けられたシールドトンネルの到達立坑。
西谷駅の先に設けられたシールドトンネルの到達立坑。2014年1月5日撮影

 さらに先、上星川駅に向かって東から南に針路を変えるカーブの途中には羽沢駅(仮称)の端から発進したシールドマシンが到達する立坑が設けられています。シールドマシンの掘進は昨年2月より既に開始されていることから、この到達立坑は早期に完成させる必要があるため、アプローチ部分よりも優先して掘削が進められています。立坑の掘削に伴い、すぐ脇を通る本線の線路は一部がバラスト軌道から鉄桁を用いた仮設構造に変更されています。また、立坑のすぐ脇には水路が流れており、シールドマシンが水路の下を通過する際底が抜けないよう補強も合わせて行われている模様です。

●羽沢駅(仮称)
羽沢歩道橋から西谷方面を見る。立坑上部は巨大な防音ハウスで覆われている。 防音ハウスと住宅地の近接状況。
左(1):羽沢歩道橋から西谷方面を見る。立坑上部は巨大な防音ハウスで覆われている。
(同じ場所の2011年9月10日/2012年9月8日の様子)
右(2):防音ハウスと住宅地の近接状況。


 羽沢駅(仮称)は対向式ホーム2面2線の地下駅でトンネルは地下2層構造となり、地上1・2階に駅施設が設置される予定です。羽沢駅の西側は、羽沢~西谷間のシールドトンネル(西谷トンネル)の発進立坑を兼ねていることから、2010年の着工以来優先して工事が進められており、トンネル本体も一部完成しています。
 西谷トンネルの掘進は前述のとおり昨年2月に開始されました。西谷トンネルは全長1441.6m、直径約10.5m(複線)で、工場で製作したコンクリートのブロック(セグメント)を組み立てるのではなく、シールドマシン内部に型枠を設置し、そこにコンクリートを流し込んでトンネル外枠を造る「SENS」という新しい工法が用いられています。これにより一般的なシールドトンネルと比べ約20億円のコストダウンを実現しています。シールドトンネルの掘進では地上に掘削で出た土砂を処理する設備やコンクリートを作るプラントが必要となりますが、羽沢駅の周辺は住宅地であるため、掘進開始と同時期に巨大なプレハブ建屋(防音ハウス)が建設されており、関係する設備は全てこの建屋内部に収められ、騒音が外に漏れないよう配慮されています。

羽沢駅の工事現場を囲む道路に向けて掲出されている工事予定表。 シールドマシンの掘進状況を示す掲示物。
左(1):羽沢駅の工事現場を囲む道路に向けて掲出されている工事予定表。
右(2):シールドマシンの掘進状況を示す掲示物。

※左画像波クリックで高解像度版(1200×900px/218KB)を表示

 羽沢駅の工事現場を囲む道路に設置されている掲示板には、現在の工事の進捗状況や今後の予定を告知する案内が数種類掲出されています。左の画像は羽沢駅本体の工事の現在の進捗状況で、赤や青で塗られた部分が現在工事が進行中のエリアを示しており、駅のほぼ全域で工事が進んでいることがわかります。(同じ図は事業者が開設している公式サイトでも確認できます。)シールドトンネルの掘進も開始されたことから、新たに現在の掘進距離や位置を示す掲示物も追加されています。

羽沢歩道橋から新横浜方面を見る。この先のJR委託区間の工事はほとんど進んでいない。
羽沢歩道橋から新横浜方面を見る。この先のJR委託区間の工事はほとんど進んでいない。
(同じ場所の2011年9月10日/2012年9月8日の様子)


 羽沢駅の先は上下線が各2線に分岐し、外側2線が上の写真右側に見える横浜羽沢駅(貨物駅)構内に入り、東海道貨物線と合流します。内側2線は高度を下げて左側の道路(環状2号線)の下に入り、新横浜駅に向かう相鉄・東急直通線になります。東海度貨物線の下り本線は側に見える現在は使用していない荷捌き用ホームの反対側を通っているため、直通線下り線の連絡線は荷捌き用ホームの下にトンネルを埋め込んで建設されることになっています。この連絡線は東海道貨物線の運行や横浜羽沢駅の作業に関係する部分が多いことから、所有者であるJRに工事が委託されています。

東側の丘陵地から横浜羽沢駅構内を見る。直通線下り線の連絡線は左奥に見える荷捌き用ホームの下を通り、右端付近で東海道貨物線下り本線と合流する計画。
東側の丘陵地から横浜羽沢駅構内を見る。直通線下り線の連絡線は左奥に見える荷捌き用ホームの下を通り、右端付近で東海道貨物線下り本線と合流する計画。
※クリックで高解像度版(2500×624px/168KB)を表示

 連絡線の予定地には水路が通っていたため、2010年の着工後はまずこの水路を環状2号線側に移設する工事が行われました。水路の移設は終了しましたが、東海道貨物線側は高架下の施設が撤去された程度で大きな変化はなく、連絡線本体に関してはほとんど工事が進んでいない状態となっています。これは東海道貨物線が日本の物流の大動脈であることから、昼夜を問わず大量に貨物列車が走行しており、長時間列車を止めて高架橋の改築などを行うことが容易でないためです。この部分の工事の難航が相鉄・JR直通線全体のスケジュールにも影響しており、前述した完成予定の延期(2015年4月から2018年度中)につながることとなりました。
 鉄道・運輸機構の施工部分に関してはこれまで極めて順調に工事が進んでいた相鉄・JR直通線ですが、最も重要なJR東海道貨物線との接続部分で思わぬ足かせが生じることになってしまいました。現時点では「2018年度中」の完成が予定されていますが、現地の様子を見る限りではこの通り進むのかも微妙と思わざるを得ませんでした。

次回は羽沢駅から新横浜駅を経由して東急目黒線・東横線日吉駅に至る「相鉄・東急直通線」の概要と現在の工事の状況についてお伝えします。記事公開までしばらくお待ちください。

相鉄・東急直通線建設工事についてはこちら


▼関連記事
路線の概要 - 相鉄・JR直通線&相鉄・東急直通線新設工事2011(1)(2011年10月3日作成)
現在の工事状況 - 相鉄・JR直通線&相鉄・東急直通線新設工事2011(2)(2011年10月14日作成)
相鉄・JR直通線建設工事(2012年9月8日取材)(2012年9月19日作成)

▼参考
山西,相鉄・JR直通線事業および相鉄・東急直通線事業の概要~相模鉄道における都心直通プロジェクト~ - 土木技術2010年10月号18~23ページ(リンク先CiNii)
都心直通プロジェクト - 相鉄グループ
都市鉄道利便増進事業 相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線
横浜市 都市整備局 都市交通課 神奈川東部方面線の整備


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