東京駅(概説・その2) - 京葉線新東京トンネル(21)


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前回の記事では現在の京葉線東京駅の場所に建設される計画だった成田新幹線の東京駅について検証した。だが、この成田新幹線の駅が建設されていないことを直接的に示した公文書は存在しない。このことが現在に至るまで「成田新幹線の施設を流用した・しない」という論争を巻き起こす原因となっているようだ。
本記事では前回出典として使用しなかった京葉線東京駅の設計・建設記録から、前回の記事で述べた「京葉線の東京駅は成田新幹線の駅ではない」という結論が本当に正しいかどうかを確認することとする。

■東京駅:-0km224m66~0km225m08(L=449.74m)
▼参考
京葉線工事誌 25~32・849~863ページ
京葉線東京地下駅の設計・施工計画について 東工35-2(昭和60年3月)5~29ページ 日本国有鉄道東京第一工事局刊
京葉線東京地下駅における地下連続壁の本体利用について 東工36-2(昭和61年3月)71~73ページ 日本国有鉄道東京第一工事局刊
京葉都心線東京地下駅の施工 建設の機械化1989年1月 22~29ページ 

工期:1985(昭和60)年7月~完成時期不明(1989(平成元)年末頃?)

●概説

京葉線東京駅の位置。成田新幹線の計画位置と全く同じである。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆


京葉線東京駅は東京駅南側の鍛冶橋通り地下に建設された。京橋トンネルと同様この東京地下駅もJR東日本の運営に直接かかわることから工事は鉄建公団ではなく国鉄・JR東日本が受託して行っている。この委託契約に関する記録が京葉線工事誌に記されている。

1983(昭和58)年7月5日 京葉線新砂町―東京間工事実施計画を運輸大臣が認可
1984(昭和59)年5月14日 鉄建公団東京支社と国鉄東京第一工事局間で「京葉線新砂町・東京間鉄道建設に伴う一部施工委託について」と題した協議が行われる
東京地下駅新設・その他工事の依頼
同 11月13日 鉄建公団東京支社と国鉄東京第一工事局間に「京葉線新砂町・東京間鉄道建設その他工事施工に関する協定」を締結
この時点で東京地下駅躯体と京橋トンネルの施工を正式に委託

この契約では単に工事の委託契約を締結しただけであり、具体的な設計の協議などは特に行われていない。
次に、京葉線東京駅の具体的な設計についてである。成田新幹線の記事でも触れた「東工35-1」の「京葉線東京地下駅の設計・施工計画について」によると、まず基本的な設計方針として

(1)東京都用地(都庁第一庁舎)の占用幅を極力少なくする。
(2)経済的な構造とする。
(3)将来計画として、都心ルートを皇居方に延伸する可能性を考慮しておく。
(4)ホームは2面で、延長は310m(15両編成対応)とする。


の4点が挙げられている。なお、今回参考にした文献すべてに言えることであるが、京葉線の駅をなぜ鍛冶橋通りの下に置くことにしたのかについては一切言及されていない。ただ、工期・費用などの問題から例え成田新幹線の計画が無かったとしても、京葉線の駅はこの場所に決まっていたものと考えられる。


京葉線東京駅の断面
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京葉線東京駅は経済性を重視したため、成田新幹線東京駅とは異なり階層は地下4層となっており、地下1階がコンコース、地下2階が機械室、地下3階が改札内コンコース、地下4階がホームとなっている。地下1階は成田新幹線東京駅よりも階高を高くすることで地下鉄丸ノ内線のトンネルを避けつつコンコースを1フロアにまとめることに成功している。また、横須賀線トンネルと交差する西側は地下1階・2階の床面を高くしてトンネルとの干渉を避けている。地下4階のホームは成田新幹線と同様できるだけ浅くすることを主眼に置いており、レール面から天井までの高さを標準部分では5.9m、横須賀線トンネル下※1では4.9m(縮小限界※2)にそれぞれ抑えている。これでも線路の深さは地表面下31m(海抜-29m)であり、青函トンネルの2駅を除くとJR線上の駅では総武快速線馬喰町駅(海抜-27m)を抜いて最も標高が低い駅となった。また、駅の幅方向はホーム幅こそ成田新幹線とほぼ同一の10.5mであるが、都庁第一庁舎敷地への食い込みを最小限にするため、地下4階の中央2線間の柱は廃止され線路部分も在来線で必要な最小限の幅となったことから駅全体の幅は38.8mに縮小されている。(このため、都庁敷地への食い込みは2m弱にとどまっている。)なお、ホーム延長については越中島・八丁堀駅と同様210m(10両編成分)のみを建設し、将来の利用客増加にあわせて310m(15両編成分)に延伸することとしている。

▼脚注
※1:横須賀線下の天井厚さは標準部分より25cm厚い75cmとなっている。
※2:在来線の建築限界は高さ5.7m、幅3.8mとなっており、この範囲内に構造物が侵入している場合縮小限界となる。なお、新幹線の建築限界は高さ6.45m、幅4.4mであり、現在の京葉線の構造物の寸法では新幹線車両の入線自体が不可能である。

▼参考
鉄道工学ハンドブック 久保田博著 1998年グランプリ出版

京葉線東京地下駅の工事は1985(昭和60)年7月より開始された。着工時期についてはいくつかの文献に示されているが、一例として「建設の機械化」の1989(平成元)年1月号より引用すると以下の通りである。

特集:「地下空間利用の展望」 京葉都心線東京地下駅の施工
4、地下駅の施工 (1)一般部の施工


東京地下駅は東京都庁や各社のビルに近接した道路下を33m掘削して地下4階の構造物を造る工事であるため、従来の経験を生かして深礎逆巻工法を採用した。工事は昭和60年7月に着工し、まず道路上の街路樹の移植、埋設間の管種変更等を行い、続いて連続地下壁を路上から施工できるところは路上からBW機で施工した

引用元:建設の機械化 1989年1月号 24ページ
注:太字は引用者による。


もし、成田新幹線の構造物がすでに出来上がっていれば路上の掘削など行うはずは無い。よって、このことから京葉線の東京駅は成田新幹線の駅を流用したものではないことがわかる。


地中連続壁の本体利用のイメージ。左が横須賀・総武快速線東京駅、中央が東北新幹線上野駅、右が京葉線東京駅。京葉線の場合、鉄筋も含めて完全に一体の構造体となっている。(東工36-2 73ページ図3)
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京葉線東京駅の建設では横須賀・総武快速線の東京地下駅と同様、まず駅の両端に当たる部分に地下水や土砂の流入を防ぐため地中連続壁を施工した。横須賀・総武快速線や東北新幹線上野地下駅ではこの地中壁と地下駅本体は完全に独立した構造体であったが、この京葉線東京駅では前述の通り都庁敷地の占用幅を最小限とするため、地中壁を地下駅の内壁と一体化して地下駅全体の幅を削減するという工夫がなされている。地中壁が完成した後は逆巻(さかまき)工法により地下駅本体を順次構築した。この逆巻工法は大規模な地下構造物を建設する際よく用いられる工法で、まず最初に地下駅の柱をすべて打ち込み、続いて1層目の掘削を行い床面の構築が完了させた後2層目の掘削に移り、以下同様の手順を繰り返すというものである。この工法の利点は、完成した階を作業スペースとして利用できることや下層階が完成する前に上層階の建築工事(内装・電気設備など)が行えることであり、結果として全体の工期を短縮することが可能となる。
なお、地下駅の東側ではJR線高架橋と地下鉄丸ノ内線が交差する。JR線高架橋に関しては橋脚基礎杭を撤去したうえで地下駅を掘削し、完成後は地下駅の天井で支えることとし、丸ノ内線に関してはトンネル躯体を仮設梁で支えながら地下駅を掘削し、完成後はJR線と同様地下駅の天井で支えることとした。

以上述べたように京葉線の東京駅は成田新幹線用に計画された東京地下駅とはまったく異なる構造となっている。よって、できていた成田新幹線の駅を流用した物ではないことはもちろん、設計を流用したとも言えず京葉線用としてゼロから設計されたといったほうが正しいだろう。だが、成田新幹線の準備が全く生かされていないかといえばそういうわけでもないのである。


横須賀線シールドトンネル変形防止工のイメージ(京葉線工事誌850ページ図3-8-28)

京葉線東京駅の西側、地下3階部分には横須賀線のトンネル(東京トンネル)が貫通する。この横須賀線のシールドトンネルは前回の記事で述べたとおり、成田新幹線東京駅の建設に備えて交差部付近71mの区間がトンネル建設時に補強されており、京葉線東京駅の建設の際もこの構造はそのまま生かされることになったのである。箱型の地下鉄トンネルのアンダーピニングはこれ以前にも多数例があったが、今回のように営業運転中のシールドトンネルを露出させてアンダーピニングを行うのは世界初となるため、慎重な設計・施工が行われた。シールドトンネル周辺の掘削でまず注意しなければならないのは周囲の土砂を取り除くことによるトンネルの変形である。そのため、この横須賀線トンネル部分の掘削については上下半分ずつにわけて行われ、掘削後はトンネル外周をコンクリートで拘束し、圧力が消失することによるトンネル変形を最小限に抑えることとした。


八重洲側の連絡通路(南部高架橋)の断面

一方、成田新幹線の計画凍結以来放置されていた東京駅本体との連絡通路も、京葉線東京駅への連絡通路として利用することとなり民営化後に工事が再開された。ただし、八重洲側(南部高架橋)については工事再開時点で東海道新幹線と東北新幹線の直通が中止されていたことから、京葉線東京駅側は地上階が省略され地下1・2階のみが建設されている。また、東京駅本体側は京葉線とほぼ同時期に工事が進められていた東北新幹線12・13番線ホーム(現・22・23番線ホーム)の建設工事と同時並行で進められた。一方、横須賀線開削トンネル上層階を利用する丸の内側についても内装が未施工だったことからその工事が行われた。

なお、余談であるが京葉線東京駅の建設記録において成田新幹線について言及しているのは1点目の横須賀線トンネルの補強についての項目のみであり、2点目の東京駅本体との連絡通路については成田新幹線の「な」の字も出てこない。駅設計に関して成田新幹線と京葉線の関連性が薄いことがその要因として考えられるが、一方で成田新幹線のことを執拗に避けているとも受け取れる表現であり、やや不自然に感じられる。京葉線の建設主体は成田新幹線と同じ鉄建公団であることから、過去の「失敗」を封印しようとしたのだろうか?



こうして、京葉線の起点である東京駅は国鉄民営化と同時にすべての工事が着手された。成田新幹線用として着工してから15年、東京駅地下の巨大ターミナルは当初とまったく違う形で、目的地も国際空港成田から東京ディズニーリゾートや幕張新都心などエンターテイメントの街へ変え、工事は着々と進められていった。そして1990(平成2)年3月10日、開業を迎えることとなる。

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