東京メトロ東西線木場駅改良工事(2016年4月10日取材)

木場駅4a出入口

東京メトロ東西線では、現在各駅で混雑緩和のための大規模改良工事が開始されています。前回の南砂町駅に続き、昨年からは木場駅でもシールドトンネルを解体してホームを拡幅する工事がスタートしました。この工事について詳しい資料も手に入りましたので、概要と現地の状況をお伝えします。

■木場駅とその周辺の現状

 東京メトロ東西線の全般の混雑緩和対策については、前回の南砂町駅改良工事の記事をご覧いただくこととし、ここでは木場駅が現在の構造になった理由や、周辺の開発状況も含めた現状について紐解いていくこととします。

木場駅開業当時(1971年)の駅周辺の航空写真。木場駅左下にあるのが現在深川ギャザリアになっているフジクラ深川工場。木場駅の北側にあった貯木場も現在は木場公園に変わっている。
木場駅開業当時(1971年)の駅周辺の航空写真。木場駅左下にあるのが現在深川ギャザリアになっているフジクラ深川工場。木場駅の北側にあった貯木場も現在は木場公園に変わっている。国土地理院地図・空中写真閲覧サービスを使用。
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 木場駅は東京都江東区木場5丁目の永代通り地下にあり、1967(昭和42)年9月の営団地下鉄東西線大手町~東陽町間延伸とともに開業しました。開業当時はその駅名の通り、周囲には「木場」(貯木場・材木問屋街)が広がっており、駅周辺を南北に走る運河が木材の運搬ルートとして使用されていました。また、当駅周辺は荒川(隅田川)などにより形成された厚さ30~40mに及ぶ極めて軟弱な沖積層が分布しており、運河と交差する橋は深い杭を打って支えられています。また、開業当時東京都内では産業やビルの冷房用水として多量の地下水汲み上げが続いており、当駅周辺では年間十数cmという驚異的な速度で地盤沈下が進んでいました。東西線の建設にあたっては、江東区内を高架にする案と地下にする案が検討されましたが、上記のとおり運河を多数船舶が行き来することや、地盤沈下による高架橋の沈下が予想されたことから、地下案が採用され、かつ運河を渡る橋の基礎を避けるため地下20m付近を通る深いルートが選択されました。

東西線門前仲町~木場間の縦断図 木場駅ホーム端から見たシールドトンネル。建設当時はセグメントが剥き出しだったが、後年漏水対策のため二次覆工を行っている。
左(1):東西線門前仲町~木場間の縦断図 ※クリックで拡大(PNG1200×750px/75KB)
右(2):木場駅ホーム端から見たシールドトンネル。建設当時はセグメントが剥き出しだったが、後年漏水対策のため二次覆工を行っている。


 このような深部への地下鉄建設は珍しい試みであり、安全性に配慮して木場駅を含む門前仲町~東陽町間では上下線が独立した単線シールド工法(圧気式)を全面的に採用しました。当時のシールドマシンでは一度に掘削できる距離が短かったため、木場駅は駅の両端にケーソン工法で立坑を設けてそこからシールド掘進を行い、完成後は立坑内にホームへ降りる階段やエスカレータを配置しました。また、木場駅前後の駅間にも中間立坑が2箇所設けられ、現在も換気口(富岡・洲崎換気室)として利用されています。

木場駅の2001年から2014年までの乗降客数の推移
木場駅の2001年から2014年までの乗降客数の推移

 その後江東区では海側の埋め立てが進み、貯木場もより海に近い新木場へ移転しました。跡地にはオフィスビルや住宅が多く建設されたほか、1992(平成4)年には駅南西にあったフジクラ深川工場が千葉県富津市に移転・閉鎖となり、跡地にはイトーヨーカドー木場店やオフィスビルからなる深川ギャザリアが開業しました。この結果、木場駅の乗降客数は2000年から現在までの間に30%も増加しました。木場駅は駅両端の立坑部分を除いて上下線が独立したシールドトンネルで建設されており、ホームの幅が3mと狭く※1なっていいること、階段やエスカレータは20mほどしかない立坑内に無理矢理押し込んだ格好になっているため、何度も乗り継ぎが必要となり地上へ出るまでに長い時間がかかっています。降車客の多くは深川ギャザリアに近い中野寄りの階段に集中しており、列車本数が多い朝ラッシュ時は次の列車が到着するまでに降車客が捌き切れず、列車の遅延やホームからの転落、走行中の列車との接触といった事故のリスクが高まっています。 
 また、中野寄りのホーム端には2008(平成20)年にエレベータを後付けしていますが、このエレベータは駅構内のレイアウトの都合により地下2階の改札階を通過しており、地下1階にエレベータ専用の改札口を設置しています。このため、エレベータを経由すると窓口での精算や、改札階にあるトイレを利用することが不可能になっています。

▼脚注
※1:千代田線の国会議事堂前駅などと異なり、シールドトンネル部分には上下線ホームをつなぐ通路もないため迂回路が無く、狭いホーム上を両端の階段めがけて降車客が殺到する状態となっている。


木場駅地下4階のホーム。上下線が独立したシールドトンネルになっており、ホーム幅は各3mと狭い。 ホームと地上の間は何度もエスカレータを乗り継ぐ必要がある。
中野寄り地下2階の舟木橋方面改札口 同地下1階のエレベータ専用改札口
左上(1):木場駅地下4階のホーム。上下線が独立したシールドトンネルになっており、ホーム幅は各3mと狭い。
右上(2):ホームと地上の間は何度もエスカレータを乗り継ぐ必要がある。
左下(3):中野寄り地下2階の舟木橋方面改札口
右下(4):同地下1階のエレベータ専用改札口


■世界初!営業中のシールドトンネルを解体してホームを拡幅!
木場駅改良工事のイメージ図。赤い部分がシールドトンネルを解体して新規に構築する部分。
木場駅改良工事のイメージ図。赤い部分がシールドトンネルを解体して新規に構築する部分。 ※クリックで拡大(PNG1582×325px/75KB)

 木場駅の不便な状況を解消するため、東京メトロは2013(平成25)年に中野寄りのシールドトンネルの一部を解体してホームを拡幅する工事に着手することを発表しました。営業運転中のシールドトンネルを解体して新たな空間を生み出す工事は世界初の試みになります。具体的な工事内容は以下の通りです。

①シールドトンネルを解体して上下線ホームを連結
混雑が著しいホーム中野寄りのシールドトンネル68.5mを解体し、新たに上下線全体を納める開削トンネルを構築して上下線のホームを連結する。これによりホーム幅は現行の上下線各3mから12mへ大幅に拡大され、降車客の滞留スペースが確保される。

②エスカレータを増設し、改札口への所要時間を短縮
拡幅したホーム内にエスカレータを3機(上り2機・下り1機)増設し、ホームと地下2階の改札口を直結する。これにより、ホームから地上までの所要時間は現在よりおよそ2分短縮される。

③エレベータを増設し、地下2階を利用可能に
新たに構築する開削トンネル内にもう1機エレベータを増設する。これによりエレベータを経由して地下2階に出られるようになり、車椅子などでも改札口の有人窓口やトイレを利用することが可能になる。

エスカレータの増設に当たっては、エスカレータの増設数を2機にした場合と3機にした場合でコンピュータシミュレーションによる比較をし、3機の方が十分な効果が得られることを確認しています。
 木場駅のシールドトンネルは強度の高いダクタイル鋳鉄製のセグメントを使用していますが、このセグメントは将来の部分的な切除などを前提にしておらず、内側に補強のための余裕空間も残っていません。そこで、今回の工事では現在のトンネル外側に開削トンネルを構築し、シールドトンネルのセグメントは全て撤去することとしました。新しい開削トンネルは、シールドトンネル解体の際側壁とシールドのリングの間に機材や人が入る必要があるため、左右に隙間を1mずつ確保した24.6mの幅とされました。木場駅周辺は冒頭で述べたとおり地盤が非常に軟弱であることから、開削トンネルの掘削にあたっては薬液注入による地盤改良を多用して営業中の線路や地上への影響を防止することとしています。具体的な工事の手順は以下の通りです。

①シールド内防護壁設置
①シールド内防護壁設置
掘削作業着手に先立ち、シールドトンネル内周に鋼板と鋼材を曲線加工した防護壁を設置する。これは工事エリアと営業線エリアを隔てる仕切りとなり、土砂や地下水が流入するのを防止する。また、セグメント撤去期間中に剛体架線や照明を吊り下げるための枠としての機能も持つ。
②地中連続壁構築
②地中連続壁構築
掘削中に周囲から土砂や地下水が流入するのを防止するため、路上から地中連続壁を打ち込む。本工事では掘削エリア内に営業中のシールドトンネルがあり、支保工(地中壁が内側に倒れ込まないよう左右の壁の間に渡す突っ張り棒)が設置できないため、強度の高い鋼製地中連続壁を採用する。
③先行地中梁設置
③先行地中梁設置
支保工に代わる地中連続壁の変形防止対策として、B2F天井下・B3F天井下に相当する深さとシールドトンネル下に地盤改良(先行地中梁)を行う。これは、各階の構築作業のための地固めも兼用している。また、シールド下は6m間隔で未改良部分を残す。(→横から見た図
④B2F・B3F天井の順に掘削
④B2F・B3F天井の順に掘削
地中連続壁内側を掘削し、B2Fを構築する。このように浅い階からトンネルを完成させていく方法を逆巻さかまき工法という。同様の手順でB3Fも構築する。
⑤底面構築
⑤底面構築
シールドトンネル下の未改良部分を掘削して新しいトンネルの床面(底面)を構築する。この間シールドは③で形成した地盤改良体で支えておく。完成したら改良体の部分も掘削し、同じように床面を構築する。
同地下1階のエレベータ専用改札口
⑥シールドトンネル解体・仕上げ
シールドトンネルを解体し、B4F天井・ホーム内装などの仕上げ、B2Fより上の埋め戻しを行い完成。

この説明の通り、シールドトンネル内は掘削着工時より防護壁で内面が覆われて※2しまいます。そのため、シールドトンネルの解体の様子などはホーム上からはほとんど見ることができない見込みです。
 この改良工事の総事業費は約200億円で、完成は2021(平成33)年度の予定です。(ただし、昨今の建設業での人材不足、費用の高騰などから、東西線の混雑緩和対策についても年々事業費が増加しており、この数字についても今後修正される可能性がある。)

▼脚注
※2:防護壁で仕切ることにより列車運行時間中でもシールドトンネル外側では作業を行うことができるという利点がある。同様の対策は有楽町線小竹向原~千川間の立体交差化工事などでもみられた。


■掘削準備が進行中
永代通りの工事作業帯に置かれている看板
永代通りの工事作業帯に置かれている看板 

 木場駅改良工事は、2013年に一般競争入札により施工業者が鹿島建設・鉄建建設・銭高組の共同企業体(JV)に決定し、その後詳細設計が実施されました。昨年からは地上の永代通りを交通規制して掘削準備が進められています。今年4月10日(日)に現地の様子を調査しましたので、ここからはその状況をお伝えします。

木場五丁目交差点。東西線は左手前から右奥へ向かう永代通り地下を通っている。 永代通りの工事作業帯
左(1):木場五丁目交差点。東西線は左手前から右奥へ向かう永代通り地下を通っている。(同じ場所の2014年5月2日の様子
右(2):永代通りの工事作業帯
 

 改良工事が実施される木場駅中野寄りの地上は、永代通りと三ッ目通りが交差する木場五丁目交差点になっています。木場五丁目交差点周辺の永代通りでは、昨年末よりトンネル建設に必要となる埋設物の移設作業が進められており、4月訪問時には東行きの1車線が昼夜連続通行規制となっていました。夜間はこれ以外の部分でも通行規制が頻繁に実施されています。今後は埋設物の移設が完了次第、地中連続壁の構築が開始される予定です。

木場五丁目交差点南西に設けられた工事基地 木場五丁目交差点南西に設けられた工事基地
木場五丁目交差点南西に設けられた工事基地 

 木場五丁目交差点南西(4ab出入口前)には、改良工事の資材などを置く基地が設けられています。基地を覆っている壁には今後の工事予定などが掲出されています。

バラスト軌道化された木場駅構内の線路
バラスト軌道化された木場駅構内の線路

 地下のトンネル内は、昨年秋にAB線両線路ともコンクリートの直結軌道からバラスト軌道に改修され、レールもロングレールから一定間隔で継ぎ目がある定尺レールに変更されました。これはシールドトンネルの解体に先立ち床下に地盤改良を行う必要があり、終電~初電の保守作業時間中に軌道の撤去・再敷設を容易にするためとみられます。今後は周辺の掘削に伴い軌道の沈下も予想されることから、工事終了まではこの状態のままになると思われます。

東西線では、前回の南砂町駅、今回の木場駅のほかにも地上掘削を伴うような大規模な改良工事が数か所で行われています。それらについても今後機会をみて調査・記事にしてお伝えできればと考えています。

▼参考
東京地下鉄道東西線建設史 - 帝都高速度交通営団1978年
ホーム拡幅のためシールドトンネルを解体し箱型トンネル化を計画―東京メトロ東西線木場駅― - トンネルと地下2014年6月号47~54ページ
中期経営計画「東京メトロプラン2018~「安心の提供」と「成長への挑戦」~」|東京メトロ
中期経営計画「東京メトロプラン2015~さらなる安心・成長・挑戦~」|東京メトロ(PDF/6.68MB)
メトロの目 PLUS 「改良建設部」インタビュー | 安全。安心。メトロの目
東京メトロが東西線木場駅で世界初の改良工事|日経コンストラクション このエントリーをはてなブックマークに追加
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