品川駅再開発2020-2021(2)高輪築堤

高輪築堤(4街区)と高輪ゲートウェイ駅

東海道線品川駅構内の車両基地では、上野東京ライン開業に合わせて設備が縮小され再開発が進められています。この過程で、明治時代の鉄道開通時に使用されていた路盤(築堤)が出土しました。前回の高輪ゲートウェイ駅開業に続く2回目となる今回の記事では、高輪築堤出土発表、一般向けに開催された見学会の模様、保存決定までの経緯について解説します。

(1)高輪ゲートウェイ駅開業はこちら

■高輪築堤とは
鉄道開業直前に描かれた高輪大木戸周辺の風景。海上の築堤を鉄道が走る。(歌川広重「東京名勝高縄鉄道之図」)
鉄道開業直前に描かれた高輪大木戸周辺の風景。海上の築堤を鉄道が走る。(歌川広重「東京名勝高縄鉄道之図」)
国立国会図書館デジタルコレクションより


 1872(明治5)年10月14日、日本で最初の鉄道が新橋~横浜(現・桜木町)間に開業しました。この間のルートは現在の東海道線・根岸線とほぼ同じ位置で、当時はまだ東京湾の埋め立てがほとんど進んでいなかったことから、海岸線を走行する区間が多く存在しました。現在の田町駅から品川駅にかけての区間もその一つです。
 この地域は当時6つ存在した品川台場(砲台)に代表されるように首都東京の国防上の要でもあったことから、陸上への線路敷設が許可されず、海岸からわずかに離れた場所に築堤を築いて路盤を確保する方法がとられました。このような海上築堤に鉄道を通すのは世界的に見ても珍しい事例です。この海岸は漁村にもなっていたことから、船舶が出入りできるよう全部で4か所の橋梁(第五~第七)が架けられました。築堤に使用する石材の一部は品川台場を壊して調達され、建設途中の築堤が波にさらわれて崩れてしまうなど、当時の港湾土木技術では難工事となった場所もあったようです。

みなとみらいにある汽車道。高輪築堤と同じく海を埋め立てて作られた線路跡。 青梅鉄道公園からCIAL桜木町アネックスに移設された110号蒸気機関車。当時の資料を元に客車も再現された。
左(1):みなとみらいにある汽車道。高輪築堤と同じく海を埋め立てて作られた線路跡。
右(2):青梅鉄道公園からCIAL桜木町アネックスに移設された110号蒸気機関車。当時の資料を元に客車も再現された。


 鉄道開業当時の高輪築堤に近い風景の場所が横浜のみなとみらいにあります。新橋~横浜間の鉄道開業から約40年後の1911(明治44)年、現在の桜木町駅から赤レンガ倉庫の間に貨物線が開業しました。この線路も横浜港内の海上に築堤を築いて建設されており、現在はその廃線跡が「汽車道」の名称で遊歩道化され歩くことができます。
 また、昨年6月に桜木町駅新南口前にオープンしたCIAL桜木町アネックスには、鉄道開業時に輸入された110号蒸気機関車が展示されています。この機関車は元々東京都青梅市の青梅鉄道公園に保存されていたもので、桜木町への移設にあたり展示用に切り開いていたボイラー側面を閉塞するなど新製当初に近い形への復元が行われています。(青梅鉄道公園時代の写真
 横浜へお越しになった際はぜひこれらをご覧いただき、開業当時の鉄道の様子をイメージしていただければと思います。

▼関連記事
開港の道②「赤レンガ倉庫」「汽車道」 (2006年6月30日作成)

■品川開発プロジェクト(Ⅰ期)の概要
品川駅高輪口。今後京急品川駅地平化、第一京浜の拡幅とバスターミナルの整備などが予定されている。
品川駅高輪口。今後京急品川駅地平化、第一京浜の拡幅とバスターミナルの整備などが予定されている。2020年2月23日撮影

 新橋~横浜間の鉄道開業後、沿線は急速に都市としての発展が始まり、大正に入ると土地を求めて東京湾岸の埋め立てが開始されました。この結果、高輪築堤は埋立地の中に埋没してしまい、100年以上に渡る世代交代の中でその存在はほぼ忘れ去られてしまいました。
 時代は下って2000年代に入ると、前回の記事でも説明した上野東京ライン開業に伴う品川車両基地の再開発プロジェクトが始まりました。ほぼ時を同じくしてリニア中央新幹線の東京側のターミナルが品川駅となることが決定、その開業時期は2027年頃となることが明らかとなりました。これを受け国や東京都は品川車両基地跡地を含む品川・田町エリアを「アジアヘッドクォーター特区」「特定都市再生緊急整備地域」に指定し、戦略的に都市開発を進めていく方針となりました。
 2014年には再開発プロジェクトの基本的方針となる品川駅・田町駅周辺 まちづくりガイドライン2014が策定されました。品川駅は上記の通りリニア中央新幹線のターミナルとなることに加えて羽田空港にも近いことから、東京の玄関口として空路・鉄道・バスなど様々な交通モードの結節点となるよう整備を行う方針とされました。京急品川駅の地平化・2面4線化、品川駅北側の環状4号線と駅前広場新設はそれを具現化する事業です。また、車両基地跡地ではビルの間隔を一定距離確保するなど環境に配慮しつつ、上記の交通結節機能をフル活用し、国際競争力のあるビジネス拠点を整備する方針とされました。再開発地区の名称である「グローバルゲートウェイ品川」にはこのような意味が込められています。2017年と2020年にはこれを元に一部内容を修正したガイドラインが発表されています。

品川開発プロジェクト(Ⅰ期)の施設配置
品川開発プロジェクト(Ⅰ期)の施設配置
国土地理院電子国土Web「淡色地図」「全国最新写真」に加筆


 高輪ゲートウェイ駅開業を1年半後に控えた2018年9月には、車両基地跡地に建設されるビル(Ⅰ期)の計画がJR東日本から発表されました。建設されるビルは全部で7棟で、北側(田町駅側)から順に1街区がタワーマンション、2街区が2,000人収容の多目的ホール、3街区がオフィスビル、4街区がオフィスビル4棟と駅前広場となっています。3街区のビル地下には地域冷暖房プラント※1が整備され、将来的には駅東側にある芝浦水再生センターの排熱を合わせた熱エネルギー利用を行う計画です。また、4街区の駅前広場の直下には8,000m2の.コンベンション施設(展示場)を整備し、近年問題となっている東京の展示場不足を補うとともに、大規模災害時は帰宅困難者の待機場所として活用する計画です。
 なお、再開発エリア西側には隣接して第一京浜(国道15号)と都営浅草線泉岳寺駅があります。泉岳寺駅は昨年3月の記事でお伝えした通り、ホーム拡幅をメインとした大規模拡張を行うことになっています。地上の第一京浜は緊急輸送道路にも指定されていることから、沿道のビルの耐震化が急務となっており、泉岳寺駅拡張用地の確保を兼ねて一体的なビル改築が進められています。(4-2街区・泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業)これら周辺を含めた再開発エリアの各ビルは高輪ゲートウェイ駅の改札口と同レベルのデッキで連結される計画です。
 また、4街区のさらに南側(品川駅側)も5街区・6街区の区画があります。こちらは区域内を横断する環状4号線の完成まで時間を要することや、京急品川駅地平化工事の際仮線敷設等に土地を一時使用する可能性があることから、将来計画という記述に留まっています。

▼脚注
※1 地域冷暖房:冷暖房用の熱源(冷水・温水)を1箇所でまとめて生成し、地下に敷設したパイプを通じて周辺のビルに供給するシステム。大規模なビルが密集している地域で用いられる。個々のビルで空調設備を設置するよりも効率よくエネルギーを利用できる。


■高輪築堤出土から保存決定まで
 品川開発プロジェクト(Ⅰ期)は2019年4月に都市計画決定し、高輪ゲートウェイ駅前では将来のビル建設を考慮した形でアクセス道路やライフラインの整備が開始されました。一方それとほぼ同時期に品川駅の地下で高輪築堤の一部と思われる石垣が出土しました。ここから先は築堤出土から見学会開催、一部保存決定までの経緯を解説します。

●最初の出土から正式発表まで
2019年8月23日、相鉄・JR直通線開業に向けた乗務員訓練のため品川駅7番線に乗り入れた相鉄12000系電車。その足下では日本の鉄道史上最も重要となる遺跡が眠りから目覚めようとしていた。
2019年8月23日、相鉄・JR直通線開業に向けた乗務員訓練のため品川駅7番線に乗り入れた相鉄12000系電車。その足下では日本の鉄道史上最も重要となる遺跡が眠りから目覚めようとしていた。

 品川駅構内では、北通路の拡幅に合わせて地下に物流施設(駅ナカ商業施設の商品搬入用?)を整備することになっており、現在5~10番線東京寄りの線路下を掘削す工事が進められています。この工事が始まって間もない2019年4月に高輪築堤の一部と思われる石垣が発見されました。その後、物流施設へ出入りするためのスロープの掘削中にも同様の石垣が発見されたことから、直ちにその事実が港区や文化庁にも報告され、車両基地西側の線路敷が埋蔵文化財包蔵地※2に登録されました。

▼脚注
※2 埋蔵文化財包蔵地:既知の遺跡の存在範囲を示すもので、この範囲内で都市開発を行う場合は都道府県・政令指定都市の教育委員会への届出を必要とする。(文化財保護法第93・94条)開発行為による予期しない遺跡の損壊を防止するための制度。全国で約46万か所登録されており、現在もその数は増え続けている。当サイトで以前解説した飯田橋駅ホーム移設工事ではこの情報に基づき、新ホームの基礎を遺跡の保存に配慮した構造としている。


明治東京全図(1876年)と現在の高輪ゲートウェイ駅の航空写真比較。築堤は山手線・京浜東北線の旧線路敷の下に埋没していた。
明治東京全図(1876年)と現在の高輪ゲートウェイ駅の航空写真比較。築堤は山手線・京浜東北線の旧線路敷の下に埋没していた。
※明治東京全図は国立公文書館アーカイブ、航空写真は国土地理院電子国土Web「全国最新写真」に加筆


京浜東北線高輪ゲートウェイ→田町の車窓から見た車両基地跡地の再開発エリア。右下の重機の後ろに高輪築堤の石垣が見える。
京浜東北線高輪ゲートウェイ→田町の車窓から見た車両基地跡地の再開発エリア。右下の重機の後ろに高輪築堤の石垣が見える。2020年12月4日撮影

 2019年11月の最後の線路切替実施後に山手線・京浜東北線の線路跡を掘削したところ、さらに同様の石垣が次々と発見されるに至り、高輪築堤は約1.3kmに渡り良好な状態で埋没していることが確実視されました。高輪ゲートウェイフェスト開催期間中もフェンスの裏では発掘作業が継続され、2020年秋には高輪ゲートウェイ駅北側で第七橋梁跡とみられる大規模な石垣が出土しました。この頃になると石垣が京浜東北線(立体交差となっている大宮方面行き)の車窓からも視認できるようになり、正式発表に先立つ11月には東京新聞にその空撮写真が掲載されるほどまで話題となりました。
 12月2日、JR東日本は高輪築堤の出土を正式に発表しました。

●報道公開・見学会開催
 高輪築堤はその注目度の高さゆえに見学の要望が殺到することも予想されました。そこで、JR東日本と港区ではマスコミへの公開に加えて一般向けの見学会開催を決定しました。
 1回目の見学会は3街区の第七橋梁周辺を対象としたもので、開催日は2021年1月10~12日の3日間、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から1日5回、各回の参加人数を20名程度に制限しての開催となりました。1回目の見学会は郵便はがきで受付が実施され、合計300名の定員に対して2,000件もの応募があったとのことです。応募者のほとんどが落選となったことや、コロナ禍で遠方からの参加が難しい現状を受けて、JR東日本では見学会が開催される3日間限定で、高輪築堤の現地の様子や現時点で判明している構造などについてまとめた動画をYouTubeで公開しました。

4月10日に開催された高輪築堤4街区見学会の様子(遠景)
4月10日に開催された高輪築堤4街区見学会の様子(遠景)

 続いて4月10日には、4街区で発見された信号機の土台とみられる張り出しを含む約400mの区間の見学会が開催されました。実は筆者もこの見学会に参加しております。2回目の見学会は前回とは異なり、電話での受付となりました。受付電話番号は1番号のみだったため、当日は朝10時の受付開始から160回ほどリダイヤルし続けてようやくつながり、なんとか申し込みを完了させることができました。(スマホがかけ放題プランじゃなっかったら電話代が大変なことになっていた…)

北(田町)側から見た4街区の築堤。石垣の下には波食に対抗するため大量の木杭が打ち込まれている。斜面中段から上は石垣が失われており、裏込め材である砕石が露出している。
4街区で最重要ポイントとなる信号機跡とみられる張り出し
張り出しの中には信号機台座とみられる十文字に組まれた木材が埋め込まれている。その向こうには枕木と思われる太い木材も見える。
左:北(田町)側から見た4街区の築堤。石垣の下には波食に対抗するため大量の木杭が打ち込まれている。斜面中段から上は石垣が失われており、裏込め材である砕石が露出している。(2,000×1,500px高画質画像/697KB
右上:4街区で最重要ポイントとなる信号機跡とみられる張り出し
右下:張り出しの中には信号機台座とみられる十文字に組まれた木材が埋め込まれている。その向こうには枕木と思われる太い木材も見える。
上:北(田町)側から見た4街区の築堤。石垣の下には波食に対抗するため大量の木杭が打ち込まれている。斜面中段から上は石垣が失われており、裏込め材である砕石が露出している。(2,000×1,500px高画質画像/697KB
中:4街区で最重要ポイントとなる信号機跡とみられる張り出し
下:張り出しの中には信号機台座とみられる十文字に組まれた木材が埋め込まれている。その向こうには枕木と思われる太い木材も見える。

 当日はJR東日本と港区教育委員会の担当者の解説を受けながら、4街区の築堤を歩いて見学しました。現地で配布された紙の資料はネットへのアップロードが禁止であるためお見せ出来ませんが、ほぼ同じ内容のものが1月の見学会開催時と同様にYouTubeのJR東日本公式チャンネルにて公開されています。プレスリリースには「期間限定」とありましたが、見学会開催から1カ月以上経過した現在も視聴可能です。
 出土した築堤の高さは約4m(海抜-1~+3m)で、石垣は品川台場を切り崩したもののほかに神奈川県の真鶴から調達したこと、その角度は波食への耐性が最も高くなる30度となっていることなどが説明されました。また、4街区中央では信号機跡と思われる築堤の張り出しがあり、その中央には信号機の基礎と思われる十文字に組まれた木材が埋め込まれています。なお、高輪橋架道橋(5月11日に閉鎖済みの部分)の側壁に埋め込まれていた石材は、大正時代の埋め立てに伴う水路付け替え時に新たに設置されたものであり、築堤造成時のオリジナルではないとみられるとのことでした。
 見学会は30分ほどという短い時間でしたが、特に港区教育委員会の担当者の熱い語りにより大変充実したイベントとなりました。このような機会を設けていただきましたことに感謝いたします。なお、同様の見学会は6月にも計画されています。

●一部保存決定へ
 高輪築堤の出土発表以後、国内の考古学者などからは築堤の全面保存を求める声が相次ぎました。一例として日本考古学協会の声明を以下に示します。

高輪築堤跡の保存に関する要望書(2021年1月22日発表)
高輪築堤跡4街区調査成果公表にあたっての日本考古学協会長コメント(動画配信あり)(2021年4月5日発表)
高輪築堤跡4街区の破壊方針公表にあたっての日本考古学協会長コメント(動画配信あり) (2021年4月21日発表)

一方、JR東日本や都市再生機構(UR)は保存に関して慎重な姿勢を崩しませんでした。これまで明らかになっている情報から、その理由は以下のような事情であると推察されます。

(1)上野東京ラインの建設費回収
 上野東京ラインのうち純新線区間となる神田駅付近の建設費約400億円は、JR東日本が全額自己負担したことを前回の記事で説明しました。JR東日本は株式を上場した完全民間企業ですから、この400億という多額の費用を社内の別事業で回収できる宛てが無ければ着手できません。ではその宛てとは・・・?
 そうです。その出処こそがこの品川車両基地跡地の再開発による土地の売却益なのです。上野東京ラインは2002年、さらに言えば国鉄分割民営化前の東北新幹線建設時(高架橋を継ぎ足し可能な構造で建設した)から開始されている超長期スパンでの事業であり、まさに社運を賭けているといっても過言ではありません。JR東日本としては高輪築堤の歴史的価値は十分に認めつつも、ビルの規模縮小などその利益を圧迫するような計画変更は何としても避けたかったというのが本音でしょう。

(2)築堤が存在しない前提で開発が始まっていた
 高輪築堤の石垣が最初に出土したのは2019年4月だったことを先ほど説明しました。これ以前に発行された再開発関係の資料には遺跡の「い」の字も出て来ず、JR・行政側ともに築堤の存在は全く把握していなかったことがわかります。

高輪ゲートウェイ駅前のアクセス道路。この下には将来の開発に備えて各種インフラが埋設されている。
高輪ゲートウェイ駅前のアクセス道路。この下には将来の開発に備えて各種インフラが埋設されている。

 最初の出土の時点で高輪ゲートウェイ駅は本体がほぼ完成し、駅へ通じるアクセス道路の整備が開始されていました。このアクセス道路は4街区の外周を通るようになっており、その下には将来の土地利用に備えて電力や水などを供給する管渠が既に埋設されています。また、第七橋梁が出土した2020年秋以降は3街区のビル着工に向けて構造部材(柱・梁・地下連続壁)の工場製作が開始されていました。
 築堤は3街区・4街区のビルと完全に重複する形で存在しています。築堤を避けるようビルの位置や形状を大幅に変更すると既に整備したインフラや製造済みの部材を廃棄する必要が生じ、工期の大幅な遅延と多額の損失が発生してしまいます。見学会でJRや港区の担当者も語っていましたが、これほど長大かつ良好な形で築堤が残存しているとは誰も予想しておらず、築堤が無いことを前提に都市開発がスタートしてしまっていたのです。

(3)羽田空港が近いためビルを高くするのは不可能
 ではその工期延長とコスト増を容認してビルの形状を築堤を避けるよう変更するのはどうでしょうか?まずビルを南北方向に細長くする場合、ビルどうしの間隔が「品川駅北周辺地区まちづくりガイドライン」で定められている60mを下回ってしまいます。ビルの間隔が狭まると東京湾からの風通しが妨げられ、内陸部のヒートアイランド現象悪化などが懸念されます。
 次にビルの高さを高くするというのはどうでしょうか?そもそも品川開発プロジェクトでは、公益に資することを条件にビルの容積率の規制を大幅に緩和しています。築堤の全面保存という公共性と引き換えに階数をさらに上乗せして収益性を維持するという手法です。

羽田空港と高輪ゲートウェイ駅の位置関係。高輪ゲートウェイ駅はC滑走路のちょうど延長上にある。
羽田空港と高輪ゲートウェイ駅の位置関係。高輪ゲートウェイ駅はC滑走路のちょうど延長上にある。
国土地理院電子国土Web「全国ランドサットモザイク画像」に加筆


 実はこれもできません。羽田空港が近いためです。品川の街は羽田空港A・C滑走路の北側の延長線上に位置しています。再開発で建設される高層ビルの高さは1街区173m、3街区167m、4街区164mというように南にいくほど低くなっています。次にこのエリアの建物の高さ制限を国土交通省東京航空局が用意している「羽田空港高さ制限回答システム」で検索すると上記の数字と完全に一致します。つまり、現状で上限目一杯の高さにビルが計画されており、これ以上のサイズアップは不可能なのです。

 高輪築堤の出土を受け、2020年9月よりJR・東京都・有識者が集まり、築堤の保存に関する検討会が7回に渡り開催されました。その中で上記の保存における課題が共有され、2021年4月21日にJR東日本は築堤を一部保存することを発表しました。その内容は

①2街区の公園隣接部40mを現地保存する
②3街区第七橋梁を含む80mを現地保存する
③4街区信号機跡を含む30mを移築保存する(高輪ゲートウェイ駅前中央広場)
④それ以外の区間は詳細な調査(記録保存)を行ったうえで撤去または埋め戻しする


とされました。記録保存を行う部分については将来的にビルの公開空地(新東海道)になる場所でもあるため、VRなど最新技術を用いて来訪者がその風景を体験できるよう取り組むとしています。
 第七橋梁の現地保存に伴い、3街区のビルは線路側にセットバックすることになります。設計を1からやり直す必要があり、製作済みの部材も一部廃棄するため、300~400億円の追加費用が必要になります。また、品川開発プロジェクト(Ⅰ期)のまちびらきは2024年度の予定であり現時点では変更もされていませんが、地域冷暖房プラントを持つ3街区のビル着工が大幅に遅れるため、他のビルの開業スケジュールにも影響を与える可能性があります。JR東日本では行政側と協議しながら費用負担やスケジュールの再検討を進めており、来年1月までに3街区の建築確認再申請を目指すとしています。

■「見なかったことにする」を正義にしないために
 文化財保護法には都市開発の際の遺跡発掘や保存にかかる費用の負担について明記されていません。一般に調査費用は個人宅(自分で居住するもの)の場合行政負担、それ以外の場合土地所有者が負担することになっているようです。これは土地所有者側からすれば、突然地面から湧いて出てきた不法投棄の廃棄物と同じようなものであり、その負担を巡って行政側との軋轢あつれきが絶えません。中には費用負担を避けるため法に定められている開発届を提出せず、無断で遺跡を壊してしまうという例も存在します。
 地中から出てくる厄介なもののもう1つの例として戦時中の不発弾があります。不発弾処理も遺跡と同様にその処理にかかる費用について法的に定められておらず、自治体によって対応が割れています。2015年に大阪市浪速区で実施された不発弾処理では、土地所有者が土嚢や警備の費用など580万円を支払うことになったため、「戦後処理の一環として、行政が処理責任を負うべきだ」として大阪市と国を相手に裁判が起こされました。(2018年2月原告敗訴)
 遺跡は国民の大切な財産、不発弾は一刻も早く消し去るべき脅威、方向性は正反対ですがどちらも公共性の観点では同じくらい重要な意味を持ちます。現在のシステムでは、土地所有者は遺跡を「見なかったことにして埋め戻す」もしくは「黙って壊す」のが最も簡単かつ安く済む問題解決方法になってしまっています。
 高輪築堤は大企業たるJR東日本ですら手に余る規模の遺跡であり、既に再開発が後戻り不可能な段階まで進んでいる中、3か所の現物保存を実現させたことは十分に評価されるべきだと考えます。そして、遺跡保存という極めて公共性の高い行為についてあまりにも個人や私企業の善意に頼り過ぎである現状に関してとても残念に思います。もしかすると高輪築堤も保存に関して政策的・財政的により強力なバックアップがあれば違う結論になっていたかもしれません。
 「儲からないけれど社会的に必要であるもの」に資金を投入して維持するのが税金の持つ本来の趣旨であるはずです。日本の産業史上国宝級と言って差し支えない遺跡の大部分が失われる…そのような愚行が繰り返されないよう、社会全体で文化財を維持していくことができる制度設計を期待します。

▼参考
●JR東日本公式サイト資料
品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)に係る都市計画について(2018年9月25日発表・PDF/4.8MB)
品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)が都市計画決定されました ~高輪ゲートウェイ駅周辺のまちづくりが本格始動します~(2019年4月22日発表・PDF/984KB)
高輪築堤の出土について(2020年12月2日発表・PDF/622KB)
「高輪築堤」現地見学会のご案内(2020年12月10日発表・PDF/822KB)
「高輪築堤」の一般見学会のご案内(4街区)(2021年4月2日発表・PDF/1.2MB)
品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)における高輪築堤の調査・保存について(2021年4月21日発表・PDF/1.2MB)
品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)における高輪築堤調査・保存等検討委員会での検討経緯:JR東日本

●品川・田町地区まちづくりガイドライン(東京都都市整備局)
品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2014 | 東京都都市整備局
品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2020 | 東京都都市整備局
品川駅北周辺地区まちづくりガイドライン(PDF/23.6KB)

●港区公式サイト資料
港区ホームページ/高輪築堤遺跡
港区ホームページ/高輪築堤跡の調査・保存方針の公表に対する港区長及び港区教育長のコメント

●その他
埋蔵文化財 | 文化庁
【150年前の高輪築堤が出土】港区で進む"品川開発プロジェクト"が目指すまちづくりの姿とは | 建設通信新聞Digital
声のチカラ - 埋蔵文化財の発掘、お金は誰が負担?文化財保護法に規定なし(信濃毎日新聞)
【関西の議論】不発弾の撤去、費用は誰が払うのか 各地で訴訟も - 産経ニュース

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