新小平駅・・・地下水で歪められた駅

カテゴリ:鉄道:駅・施設・風景 | 公開日:2006年12月03日11:30
※この記事はYahoo!ブログから移行したものです。


JR武蔵野線は千葉県・埼玉県・東京都の内陸部を通る路線です。国鉄時代、都心部を抜けていた貨物列車をバイパスさせる目的で計画されました。いわば東京外環自動車道の鉄道版と言ったところでしょうか。その後、沿線自治体の要望や鉄道貨物輸送の衰退もあり計画が変更されて旅客線化されました。しかし、もともと貨物線という計画であったことから、既存路線との接続はほとんど無視され、地図上に直線定規で引いたような路線形態になっています。今回紹介する新小平駅周辺は住宅街の下をトンネルで一気にショートカットしています。

トンネルに挟まれた駅


左:新秋津方。列車が接近すると轟音とともに風が吹いてきます。
右:西国分寺方。

新小平駅は武蔵野線のトンネルと青梅街道が交差する場所に設置されています。駅の新秋津方は「東村山トンネル」、西国分寺方は「小平トンネル」という2つのトンネルにぴったりと挟まれた構造になっています。どちらのトンネルも住宅や畑地の真下、隣接駅のすぐ手前まで続いており、ともに4kmほどの長さがあります。地図や航空写真で見るとその構造の特異さがお分かりいただけると思います。


このような特殊条件のため、武蔵野線開業時には難燃化の改造を受けた特別仕様の101系が使用されました。計画通り貨物線として使われていれば、おそらくここに駅は出来なかったでしょう。

ちなみに、西国分寺方の「小平トンネル」ではその途中から中央線国立駅への短絡線が延びています。通過する車窓からは一瞬ですが暗闇の中にポイントと分岐する線路を見ることが出来ます。

地下水が起こしたミステリー
これだけでも十分変わった構造の駅ですが、さらに仔細に観察するとこの駅の不思議さが見えてきます。



1段目左:ホーム上に中途半端に出っ張ったコンクリート
1段目右:上に向かって幅が広がるよう壁の伸縮繋目
2段目左:部分的に構造の違う道床(ここ以外はスラブ軌道)
2段目右:ホームの下おかしな斜めの線が(赤い矢印の先)
3段目左:ホーム端にある信号関係?の小屋、水平な線路と比べると・・・
3段目右:駅舎から眺めた盛り上がったよう壁(矢印の先)

新秋津方はホームに屋根が無く、雨ざらしの状態です。この部分は上空に格子状の鉄骨が張り巡らされており物々しい雰囲気を醸し出しています。しかも、その両側にあるコンクリート製のよう壁は不自然なまでに歪んでいます。

事の起こりは15年前にさかのぼります。
1991年、この年の9月~10月は台風などの影響により降水量が異常に多くなりました。10月11日、この日も台風21号により80mmの日雨量を観測しています。(気象庁のホームページからそのデータを見ることが出来ます。)そうした中、23時15分新小平駅の新秋津寄りの構造物が突然1.3mも盛り上がり、線路とホームがズタズタに破壊された上、大量の水が入り込み線路は完全に冠水してしまいました。

この水は地下水でした。

新小平駅は深さ10mほどに埋設された巨大なU字溝のような構造をしています。武蔵野台地の地下5~10m付近には「武蔵野礫層」という帯水層があり、この深さになるとそこから地下水位が入ってきてしまう(雨季には地表から6mほどまで上昇する)ため、壁と床を一体の構造にしたようです。このため側壁にも水抜き穴が一切ありません。前述の大雨により、地下水位は渇水期に比べて10m近く上昇しました。(最寄の観測井戸では10月15日に地表から2.48mを記録しています。)その結果、U字溝の半分以上が水没する状態になります。(※1)U字溝は数m間隔で繋目があり、地下水はその部分を押し広げて駅構内へと流れ込みました。地下水が破った場所が「上下で幅が違う伸縮繋目」の部分です。コンクリートの重量構造物でも浮き上がる可能性がある、それは東京駅や上野駅の件でお話したとおりです。それが現実のものとなってしまったわけです。



上:新小平駅の断面図
下:地下水位上昇による破壊の概念図

駅が隆起した後も毎分8tもの水が流れ続けたため、復旧はまず駅の周囲に19本の井戸(※2)を掘り水を1ヶ月間汲み上げ続け地下水位を下げてようやく着手できました。破損したU字溝の床を壊し、元の深さまで掘り下げた上でコンクリートを打ち、その上に通常構造の線路を敷いています。ホームは隆起したU字溝の床の上に作ったため、前述のような「不自然な張り出し」(もとの床にあった突起)や「斜めの線」(隆起した床を切断した跡)が入っています。なお、床には再び浮き上がるのを防止するため10mの深さのアンカーが数本打ち込まれています。また、上下線間のよう壁にも鉄骨を渡して補強を行い壁が地下水で押しつぶされるのを防いでいます。こうして事故から2ヵ月後武蔵野線は復旧しました。(※3)この不通の間、205系の新車回送が総武線経由で行われるなどしたためおぼえていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

ちなみに、ここで地下水が湧くということは当然両側のトンネル内でも地下水が湧くということになります。この湧水は導水管を通じて国分寺市の「姿見の池」と「野川」まで送水しています。

たかが地下水、されど地下水です。自然の威力をまざまざと見せつけられる構造物でした。


<2009年7月26日追記>
※1:U字溝の総重量・背面地盤との摩擦力との計算によると構造体が浮き上がらない限界の水位は底面から5~6m前後となっており、今回の浮き上がりは当然の結果ということになる。なお、復旧に際しては地表面付近まで水位上昇することを想定した強度計算がなされており、今後再びこのような事故が発生する可能性はない。
※2:当初、ディープウェル(深井戸)は8本(揚水量8t/min)でスタートしたが、地下水位を低下させるには全く足りず、すぐに19本に増強された。この結果、揚水量は15t/minとなり公共下水道では容量オーバーとなるため、不通になっている東村山トンネル内に仮設の送水管を敷設し、2km離れた空堀川に放流した。工事開始当初はU字溝の床面に開けた穴から1m以上も水が噴きあがるほどの水圧であり、工事誌にもその写真が掲載されている。
※3:当初「年内復旧は絶望的」と報道されていたが、武蔵野線は貨物列車の大動脈であるという特殊性から24時間体制で工事が行われ、2ヶ月という短期間で復旧が完了した。

▼参考
(社)東京都地質調査業協会 技術ノートNo.30
→20ページに新小平駅の水没事故に関する記載
嘆きの小町日記 第三夜 土の懐のはなし
→水没事故の概要
書籍「鉄道土木技術者が経験した変わった構造物と特異な災害」(仁杉巖監修 池田俊雄・久保村圭助著)
東京都環境局 「JR武蔵野線引込線トンネルの地下水を野川に導水」
→トンネル湧水の活用
武蔵野線新小平駅災害復旧工事誌 - JR東日本東京工事事務所 1991年3月
→JR東日本が発行している公式資料(2009年追記分の出典)
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