京葉線の生い立ちと都心線計画 - 京葉線新東京トンネル(1)


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■はじめに
2008年8月から2009年11月にかけてお送りした「総武・東京トンネル」のレポートは各方面より大変ご好評を博しました。この結果を受け、「総武・東京トンネルのみならず、ほかの地下鉄トンネルについても調査してみよう」と考え、次のターゲットとして鉄道ファンの間で比較的注目度が高い、京葉線の潮見~東京間の地下区間を選び、今年初めより調査を続けてまいりました。この度その調査がほぼ終了し、記事にできる程度にまとまったため、今回よりブログへの連載を開始することといたしました。
なお、今回参考資料として主に用いたのは日本鉄道建設公団(鉄建公団、現在の鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が1991(平成3)年に発行した「京葉線工事誌」です。この資料は筆者の地元千葉市にある千葉県立中央図書館にも収蔵されており、前回の「総武・東京トンネル」のような多大な時間と手間をかけることなくトンネルの概要を知ることができました。また、今回はこの工事誌だけでなく国立国会図書館に収蔵されている鉄道・土木・建築などの専門雑誌も参考し、より詳細かつ正確な情報収集を目指しました。この調査方法は本レポートと並行して行っている大学の卒業研究から得られたものです。




■計画の大転換・・・貨物線から旅客線への変更
▼参考
京葉線工事誌 1991(平成3)年日本鉄道建設公団 全般
日本国有鉄道東京第1工事局第19回施工研究発表会記録「京葉線東京地下駅の設計・施工計画について」 東工35-2 1985(昭和60)年3月日本国有鉄道


京葉線の地図(Yahoo!地図情報)

東京駅から千葉県の蘇我駅を結ぶ全長43.0kmの京葉線は、昭和30年代から開始された東京都江東区から千葉県君津市にかけての東京湾埋め立てにあわせて計画された。当初、この埋立地は工業用地として利用することを前提に造成が行われており、京葉線もそこへ出入りする貨物の輸送を行う路線として位置づけられていた。工事は日本鉄道建設公団により行われ、1975(昭和50)年5月10日には千葉県千葉市臨海部の京葉線ルート上に新設された千葉貨物ターミナル※1と蘇我の間で貨物列車の運行が開始された。しかし、1973(昭和48)年、1979(昭和54)年と2度にわたり日本経済を襲った石油危機(オイルショック)により国内の産業は重工業からサービス業へとシフトし、造成中だった広大な埋立地の多くはその用途を失ってしまう。このため、これらの用地はやむなく住宅団地や東京ディズニーリゾートに代表されるレクリエーション施設に転用することとなり、昭和50年代後半に入ると日本経済の持ち直しとともに開発が急速に進んでゆく。


津田沼駅に停車中の総武線E231系と東西線07系。東西線の混雑は現在も日本の全私鉄の中で1、2位を争う激しさであり、来年春からは混雑緩和のためワイドドア車15000系が導入される予定となっている。2008年7月17日撮影

一方、当時東京都心と千葉県北西部を結ぶ通勤路線は戦前から存在する総武線、京成線と1969(昭和44)年に東陽町~西船橋間が開業した営団地下鉄(現・東京メトロ)東西線の3線であった。これらの路線は千葉県内の各所で次々と進む宅地開発に加え、前述の東京湾岸における宅地開発による通勤客の急増を一手に引き受ける状態となり、ラッシュ時は乗車率が200%を超える超満員が常態化。総武線は1972(昭和47)年に東京~津田沼間を複々線化、東西線は開業以来毎年のように列車の増結・増発を繰り返すが、ラッシュ時の混雑緩和には程遠い状態であった。これらの対策も1987(昭和62)年には限界に達すると予測され、京葉線の沿線自治体からは同線の旅客線化が強く要望されるようになった。そして、1983(昭和58)年9月に京葉線の旅客線化が認可され、正式に通勤路線化されることが決定した。

■東京駅へ接続(京葉都心線)

当初計画(京葉湾岸線)と現在の京葉線(京葉都心線)

当初計画されていた京葉線は蘇我から東京湾岸を通り、現在の臨海副都心を地下・海底トンネルで通過し、大井埠頭に新しく建設する東京貨物ターミナルへ接続することになっていた(工事誌では「京葉湾岸線」と呼ばれている)※2。また、船橋付近では首都圏外周部に新しく建設する武蔵野線(西船橋~南浦和~府中本町~新鶴見)と接続し、最終的に貨物用の環状鉄道を形成する計画であった。そのため、この路線をそのままの形で旅客線化しても都心方向へ向かうには西船橋で総武線・東西線に乗り換えるか、新木場で有楽町線に乗り換えることとなり、通勤輸送のバイパス路線としての機能を十分果たせない。


京葉線の「新東京トンネル」のルート。ちなみに、右上に見える空地は現在の木場公園で、都営大江戸線木場車両検修場の工事が行われていることが分かる。
(C)国土交通省 国土交通省オルソ化空中写真ダウンロードシステムのデータに筆者が加筆
※クリックで拡大

そこで、新木場駅ら分岐する新線を作り、都心最大のターミナルである東京駅へダイレクトに接続することとした。この新線は建設中は「京葉都心線」と呼ばれ、途中に「潮見(しおみ)」「越中島(えっちゅうじま)※3」「八丁堀(はっちょうぼり)」の3駅が設けられた。また、都心の土地利用率が高い地区を通過することからおよそ3分の2が地下区間となっており、工事誌では「新東京トンネル」と呼ばれている。

●工区割りと各施設の名称
全長4951.52mの京葉線「新東京トンネル」は11のトンネル(うち3つは駅部トンネル)と6つの立坑により構成される。以下に各施設の名称とキロ程を示す。なお、工事誌に記載されているキロ程は東京起点のものと新砂町(現・新木場)起点のものが混在しているが、本レポートではすべて東京起点に統一している。そのため、一部の数字が一致しない、もしくは計算上の値になっているものがある。


※クリックで拡大

東京駅駅部 -0km224m66~0km225m08 L=449.74m

NATMトンネル 0km225m08~0km297m73 L=72.65m

(シールド立坑) 0km297m73~0km316m54 L=18.81m

京橋トンネル 0km316m54~0km935m54 L=619.00m

西八丁堀第2立坑 0km935m54~0km956m04 L=20.50m

西八丁堀トンネル 0km956m04~1km050m18 L=94.14m

西八丁堀立坑   1km050m18~1km075m18 L=25.00m

八丁堀駅駅部 1km075m18~1km375m08 L=299.9m

高橋立坑 1km375m08~1km400m08 L=25.00m

新川トンネル 1km400m08~1km839m78 L=439.70m

隅田川立坑 1km839m78~1km858m38 L=18.60m

隅田川トンネル 1km858m38~2km635m08 L=776.70m

越中島駅駅部 2km635m08~2km947m08 L=312.00m

越中島トンネル 2km947m08~3km569m12 L=622.04m

東越中島立坑 3km569m12~3km587m92 L=18.80m

東越中島トンネル 3km587m92~4km568m52 L=980.60m

塩浜トンネル 4km568m52~4km726m52 L=158.00m

(地上部分) 4km726m52~4km910m00 L=183.48m

京葉都心線は工期短縮とコスト削減のため機関車けん引の列車や気動車の乗り入れは一切考慮しない設計とされた。そのため、最小曲線半径は400m、最急勾配はトンネル出口付近の33‰と切り詰めた構造になっており、橋梁の設計荷重も重量の軽い電車専用(活荷重:KS-12)となっている。地下区間については臨海部の地盤が軟弱な埋め立て地を通過するため、駅間トンネルについてはすべてシールド工法が使用されている。また、都心部の区間ではさらなる工期短縮とコスト削減のためさまざまなの新工法が使用された。

ちなみに、上の図にも示したが工事誌の断面図に計画線である豊洲~住吉間の地下鉄8号線が描かれている。坑口直下には「入出区区間」なるトンネルも描かれているが、これは東西線の深川車両基地を共用すると仮定したものだろう。

■成田新幹線との関係

成田新幹線が通る予定となっていた北総鉄道印旛日本医大駅付近。現在、来年7月開業予定の成田新高速鉄道の工事が進んでおり、当初の計画とは異なるものの本来の目的である成田空港へのアクセスルートとして活用されることとなった。2008年11月2日撮影

冒頭で、この京葉線「新東京トンネル」が鉄道ファンの間で比較的注目度が高いことを述べたが、その理由はある噂が絶えないためである。その噂とは「すでに完成していた成田新幹線用のトンネルを転用した」というものである。
成田新幹線は東京都心から千葉県成田市の新東京国際空港(現在は成田国際空港に改称)へのアクセス鉄道として1971(昭和46)年制定の整備新幹線計画に組み込まれ、京葉線と同じ鉄建公団により工事が開始された。しかし、単なる通過地点となる沿線自治体で激しい建設反対運動が起きたことや国鉄の深刻な経営悪化に伴う新線建設凍結のため、成田空港入口付近の路盤が完成した1983(昭和58)年以降工事が中止され、国鉄分割民営化によりそのまま計画消滅となったものである。この成田新幹線は東京都心側のルートが現在の京葉線とほぼ同一で計画されていたことから、上記のような噂を生む要因となったようだ。本レポートではこの噂の真偽を確かめるため、各施設の概要だけでなくその工事期間にも注目する。なお、成田新幹線の詳細については今後のレポートの中でも適宜触れていく予定である。

▼関連記事
京葉線千葉貨物ターミナル駅と新港信号場/その1(2008年9月8日作成)
京葉線千葉貨物ターミナル駅と新港信号場/その2(2008年9月12日作成)
京葉線千葉貨物ターミナル駅と新港信号場/その3・終(2008年9月17日作成)
→唯一当初の計画通り開業した千葉貨物ターミナル駅の盛衰とその跡地利用について

▼脚注
※1:千葉貨物ターミナル駅は取扱貨物量の減少に伴い2000(平成12)年3月に廃止された。
※2:本来の京葉線である新木場~東京貨物ターミナル間についても工事は行われた。これらの施設は、東京都やJR東日本が共同で設立した第三セクター東京臨海高速鉄道が引継ぎ、1996(平成8)年にりんかい線として新木場~東京テレポート間が開業、その後は東京貨物ターミナル手前から山手線の大崎まで新たなトンネルを建設し、埼京線と相互直通運転を行っている。かつての計画の名残で新木場駅の東側では京葉線と線路がつながっているが、運賃体系がJR東日本と異なり埼京線と通し運転を行うと経由路線が判別できないため、臨時列車を除き直通運転は行われていない。また、東京貨物ターミナル駅へ通じるトンネルは同駅脇に新設されたりんかい線の東臨運輸区(八潮車両基地)の入出庫線に転用された。
※3:建設中の仮称は西越中島であった。
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