武蔵野線吉川美南駅新設工事(2010年9月5日取材)

カテゴリ:鉄道:建設・工事 | 公開日:2010年10月15日10:37
武蔵野線吉川美南駅建設現場

2012年春、武蔵野線吉川~新三郷間に新駅「吉川美南駅」が開業します。今回はこの新駅について鉄道関係の専門雑誌や吉川市のWebページなどの資料と現地調査のデータを合わせて解説したいと思います。

■武蔵野操車場の跡地利用計画
在りし日の武蔵野操車場(現在の新三郷駅付近)
在りし日の武蔵野操車場(現在の新三郷駅付近) ※クリックで拡大
国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真(昭和49年)より抜粋)

首都圏外延部を環状に結ぶ武蔵野線は当初貨物専用線として計画されており、現在の吉川~三郷間には武蔵野操車場という貨車の仕分け施設がありました。しかし、鉄道の貨物輸送の衰退とシステムチェンジ(ヤードでの仕分け方式から拠点駅間の直行方式への移行)に伴い、1984(昭和59)年をもって武蔵野操車場は閉鎖され、同時に武蔵野線自体も旅客線へ転用され、翌1985(昭和60)年には操車場跡地を上下線間に挟む形で新三郷駅が開業しました。この構造ゆえ、開業当初の新三郷駅は上下線のホームが300mも離れており、世界一ホームが離れている駅としてギネスブックにもその名が掲載されることとなりました。
しかし、この構造では操車場の跡地利用に当たって大きな支障となることから、1999(平成11)年に上り線(府中本町方面)を下り線(西船橋方面)に寄せる形で駅が統合され、ようやく跡地の利用が本格的に検討されることとなりました。武蔵野操車場は中央を境として西側が吉川市、東側が三郷市にまたがっており、前者が28.8ヘクタール、後者が54.4ヘクタールと極めて広大な面積を有しています。このうち、後者については三井不動産を中心とする民間デベロッパー5社により「新三郷ららシティ」の名称の下再開発が行われ、2008(平成20)年頃よりららぽーと新三郷をはじめとする各種ショッピングモールや住宅が建設されています。(これについては別の記事で改めて解説する予定。)
一方、吉川市側についてはこれまで手付かずの状態が続いていましたが、2007(平成19)年に策定された吉川市の第4次総合振興計画において具体的な利用方針が示され、ようやく再開発事業が動き出すこととなりました。この中に含まれているのが本記事で解説する武蔵野線の新駅、「吉川美南駅」です。

▼関連記事
新三郷駅・・・ギネスに載った駅のいま・これから(2008年4月16日作成)

▼参考
地区計画のパンフレット(各地区計画の内容)/三郷市公式サイト
三井不動産|「武蔵野操車場跡地」の大規模複合開発、「新三郷 ららシティ」に名称決定
ららぽーと新三郷
武蔵野操車場跡地及び周辺地域のまちづくり - 吉川市公式ホームページ

■吉川美南駅の概要

武蔵野操車場跡地の吉川市側では吉川市、鉄道建設運輸施整備支援機構(国鉄清算事業団の事業を継承)、都市再生機構(UR)の3者により再開発が行われており、計画人口は約3500人となっています。この再開発地区の公共交通機関を確保する観点から、吉川市ではJR東日本に対し武蔵野線吉川~新三郷間の新駅設置を要請してきました。
同じ頃、JR東日本では武蔵野線の東半分の区間に折り返し設備を新設することを検討していました。現在、武蔵野線の東半分(南浦和~西船橋間)で折り返し運転が可能なのは南越谷駅と西船橋駅の2駅のみしかなく、両駅の間は実に28.3kmもの距離があります。また、南越谷駅については駅から離れた場所に折り返し線があることから、同駅での折り返し本数は1時間当たり1~2本が限度であり、事故発生時には輸送混乱が広範囲に及ぶ傾向が見られます。8両編成の武蔵野線で十分な輸送力を確保するには最低でも通常の5割の運行本数(7本/時)が要求されるため、折り返し設備を新設するに当たっては本線とは別の線路を設ける必要がありますが、武蔵野線は駅周辺の開発が進んでおり既存の駅にこのような折り返し設備を追加することは容易ではありません。
一方、吉川市から設置を要請されていた新駅に折り返し設備を併設すると、輸送混乱時でも当駅より西側・東側ともに7本/時の運行本数を確保でき、交差する他線への振り替え輸送も可能になることが判明しました。このような状況により、吉川市とJR東日本の間で思惑が一致し、2007(平成19)年に両者の間で正式に新駅設置に関する覚書が交わされました。そして今年1月には市民の公募により新駅の名称が「吉川美南(よしかわみなみ)」に決定し、開業予定時期が2012(平成24)年春であることが発表されました。

<吉川美南駅に関するこれまでの経緯>
2007年3月19日 吉川市に対しJR東日本から新駅設置を前提とした協議開始の回答がなされる
2007年12月20日 吉川市とJR東日本の間で新駅設置に関する覚書を締結
2009年6月8日 吉川市とJR東日本の間で新駅工事に関する施工協定を締結
2009年7月10日 吉川市とJR東日本の間で駅設備改修工事・電気通信設備移設工事についての協定を締結
2010年1月27日 新駅名称が「吉川美南」に決定
2012年春(予定) 新駅開業


吉川美南駅の設置場所は吉川駅と三郷駅のほぼ中間にある中曽根跨線橋付近とされ、

●本線の通過速度は武蔵野線の最高速度である95km/hとする。
●下り線側にある保守機材線や線路上空横切る中曽根跨線橋の橋脚・橋台に手を加えない。
●新駅予定地地下には川が流れており、不等沈下の恐れがあるためポイントやホームはこの部分を避ける。


といった条件を満たす必要があることからホームについては中曽根跨線橋から西船橋寄りに100mほど進んだ地点に設置されることとなりました。駅舎は地下に川があり掘削が困難であるため橋上駅舎となり、エスカレータ・エレベータを完備した東西自由通路を兼用する予定です。また、上り線側には操車場跡地を利用する形で、また下り線側も道路を跨いだ反対側にあるJR東日本所有のグラウンドを転用する形でそれぞれロータリーを完備した駅前広場が新設されることになっています。なお、新駅の総工費は概算で71億6800万円となっており、このうち折り返し設備の設置に要する28億800万円をJR東日本が負担し、残りは吉川市が負担することとなっています。

吉川美南駅の新設で検討された3つの構内配線
吉川美南駅の新設で検討された3つの構内配線

次に、吉川美南駅の配線の計画についてです。吉川美南駅では折り返し設備が設置されることから、その効果が適切に発揮できるよう駅構内の配線についてまず上図のような3つの案が提示されました。3案とも折り返し運転時の車内点検が省略できるようホーム上で直接折り返しが可能な配線となっていますが、下り線側での新たな用地買収が不要であることや現在ある線路の大半を流用することで工事総量が削減できることから、2番の「下り線が片面ホーム、上り線が島式ホーム」の2面3線に決定しました。

吉川美南駅の構内配線
吉川美南駅の構内配線

最終的に決定した配線は上図のような上下線間に中線が1線入る2面3線の構造で、ホームの幅員は片面となる下り線側が4~6m、島式となる上り線側が5~8mとなります。また、府中本町寄りにある中線と本線の合流ポイント・ホームは保守機材線の分岐や地下を流れる川を避けた配置となります。
一方、この吉川美南駅では駅の両端の上下本線にも片渡りのポイントが設置されます。このポイントは本線で直接折り返すためのもので、当駅より西船橋方面が不通の場合を例にとると以下のような使用方法が考えられています。

吉川美南駅の折り返し設備の運用方法
吉川美南駅の折り返し設備の運用方法(当駅より西船橋側が不通の場合)

1、中線を利用した折り返し(緑色の線)
ホーム手前のポイントで下り線から中線に入る。その後、中線のホーム上で折り返して上り線へ進出し府中本町方面へ向かう。

2、上り本線を利用した折り返し(青色の線)
駅の府中本町寄りにある片渡りポイントで上り線に入り、そのまま上り線を西船橋方面へ逆走してホームに入る。そしてホーム上で折り返して府中本町方面へ向かう。

このように、駅の両端に片渡りポイントを設置することにより当駅より先が不通になった際、2本の線路を使用して折り返し運転を行うことができます。これにより輸送力確保のため必須とされた1時間当たり7本の運行本数を維持することが可能となったわけです。また、これに加えて空いている不通区間へ向かう線路上に列車を待機させることで、運転再開時は直ちにその列車を発車させることが可能となり、列車間隔が極端に開いてしまうのを防止することができるようになります。

▼参考
新駅情報 - 吉川市公式ホームページ
首都圏輸送障害対策の一事例―武蔵野線吉川・新三郷間新駅設置計画― - 日本鉄道施設協会誌2009年1月号

■現地の状況(2010年9月5日取材)
工事中のホーム脇を通過する武蔵野線上り列車。手前のバラストが白い線路が新上り本線。
工事中のホーム脇を通過する武蔵野線上り列車。手前のバラストが白い線路が新上り本線。

2010年9月5日、この吉川美南駅の工事の進捗状況を調査するべくに現地を訪問してまいりました。
この時点では新しい上り本線の軌道のほとんどと島式の上りホーム床版の一部がすでに完成している状態で、2年後の開業に向けて順調に準備が進んでいることをうかがわせていました。

下り線側から工事中のホームを見る。 中曽根跨線橋真下の上り線新旧接続点。 中曽根跨線橋から吉川駅方面を見る。こちらも新しい架線柱が建ち始めている。
左:下り線側から工事中のホームを見る。
中:中曽根跨線橋真下の上り線新旧接続点。
右:中曽根跨線橋から吉川駅方面を見る。こちらも新しい架線柱が建ち始めている。

※クリックで拡大

新上り線の軌道は現在線と同じく通常のバラスト軌道が採用されています。新上り線にはすでに中線へ通じるポイントが組み込まれており、ここには横須賀線品川駅の15番線などで採用されたJR東日本の次世代分岐器が採用されています。現上り線との接続点は中曽根跨線橋の下にあり、すでに接続工事に向けたレール搬入などが済んだ状態でした。
また、線路上空を跨ぐ架線柱は従来のトラスビームに代わり、都内の各路線で採用された鋼管ビームを採用しています。3線化される区間については敷地幅の関係ですでに新しい架線柱へ完全に切り替わっていますが、前後の区間についてはまだ線路の切替が行われていないため、既設の架線柱の脇に新しい架線柱を新設して使用開始を待っているという状況でした。

▼関連記事
品川駅15番線(横須賀線新ホーム)使用開始(2008年3月23日作成)

東側のJRグラウンドに掲げられている新駅の完成予想写真 新駅北側の線路上を跨ぐ中曽根跨線橋。工事のため通行止めになることが告知されている。
左:東側のJRグラウンドに掲げられている新駅の完成予想写真
右:新駅北側の線路上を跨ぐ中曽根跨線橋。工事のため通行止めになることが告知されている。

※クリックで拡大

今回訪問した時点では線路の外側については一切工事が行われていませんでしたが、東側のJR所有のグラウンドにはすでに新駅の完成予想図が掲げれれており、近々駅舎や駅前広場の工事が開始されるものと思われます。また、今回工事の状況を撮影した新駅北側の中曽根跨線橋や周辺の道路についても改良工事が行われるようで、今年の10月上旬から新駅が完成する2012年春まで断続的に通行止めなどの交通規制が行われることが告知されていました。

■10月24日に線路切替工事

このように吉川美南駅では工事が順調に進んでいることから、来る2010年10月24日にいよいよ上り線を新しい線路に切り替える工事が行われることになりました。線路の切り替えは10月23日の終電後から翌24日の早朝にかけて行われる計画となっており、24日は初電から6:30頃まで南越谷~新松戸間で列車を運休し、バスによる代行輸送が行われます。具体的な運転計画は以下の通りです。

●上り列車(府中本町方面)
・南越谷駅・新松戸駅で全列車折り返し運転を行う。新松戸駅から南越谷駅の間はバスによる代行輸送(各駅を経由)を行う。バスの運行間隔は10~20分、新松戸~南越谷間の所要時間は約60分を予定。(道路事情によりさらにかかる可能性もある。)

●下り列車(西船橋方面)
初電から6:30頃まで約30分間隔で列車を運転する。

●代替交通機関
東武鉄道、東京メトロ、埼玉高速鉄道、つくばエクスプレスなど他社線により振替輸送を行う。(Suica・PASMOは振替輸送の対象外なので注意。)

▼参考
新駅設置工事に伴う武蔵野線上下線運休のお知らせ(10月24日) - 吉川市公式ホームページ


武蔵野操車場が廃止されてから今年で26年が経過しました。長らく放置されてきた吉川市側の操車場跡地ですが、この吉川美南駅開業によりいよいよ本格的な再開発が始動することになります。先日街開きが行われた越谷レイクタウンとともに武蔵野線の沿線は今後数年の間に大きく姿を変えていくことになるでしょう。その推移にも注目していきたいところです。

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コメント


貨物操車場好きの自分としては悲しいですね(笑)

2010/10/19 19:26 | URL | 投稿者:鉄オタ
Re: タイトルなし
鉄オタさま>

1984年のダイヤ改正でヤード形の貨物輸送が全廃されて武蔵野操車場のような貨車操車場が一斉に廃止されたわけですが、その後も貨物駅の改良などに起因して残った操車場の統廃合が続いています。例えば総武線の新小岩駅の東側にあった新小岩操車場は1997年に車両の保守部門が移転により閉鎖、2000年には総武線経由の貨物列車の大半が京葉線に転移したため大幅に線路の本数が削減されました。(跡地には私学振興・共済事業団のスポーツ施設が建設されています。)
武蔵野操車場の跡地も新小岩のように市民の生活を充実させるための施設が建設されることを願うばかりです。

2010/10/24 01:59 | URL | 投稿者:takuya870625(管理人)
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