JR東西線のトンネル換気方式 - JR東西線(7)

JR東西線 前人未到の深さで大阪中心部を貫いた地下鉄道のすべて
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東天満換気所の記事で触れたとおりJR東西線ではトンネルの換気に中間換気方式を採用している。地下鉄や道路トンネルの換気方式にはこのほかにも様々な方式が実用化されている。今回はその換気方式それぞれの特徴やJR東西線でなぜ中間換気方式が採用されたのかについて解説することとしたい。

■自然換気方式
自然換気方式の概略図
自然換気方式の概略図

トンネルの換気方式の中で最も原始的なものがこの自然換気方式である。この方式では一定間隔ごとに地上に通じる換気口を設けて(トンネルが短い場合は無いこともある)、内部を通過する車両が起こす気圧変動により換気を行う方式である。具体的には車両の進行方向側は車両により押された空気で気圧が上がるため換気口を通じてトンネル内の空気が排出される。一方、進行方向と反対側は車両がいなくなったことで気圧が下がるため、換気口を通じて地上の空気が吸い込まれる。地下鉄の場合、多くのトンネルは道路下を通っており、換気口は歩道上に開いていることが多い。よく路上の鉄格子から電車の走行音とともに独特な臭いのする風が出ていることがあるが、その多くはこの地下鉄の自然換気口によるものである。

代々木公園(東京都渋谷区)内にある東京メトロ千代田線の自然換気口。 駅構内の自然換気口。ルーバーの先が路上の換気口へ通じる。
左:代々木公園(東京都渋谷区)内にある東京メトロ千代田線の自然換気口。2007年6月3日撮影
右:駅構内の自然換気口。ルーバーの先が路上の換気口へ通じる。2006年10月7日、東京メトロ日比谷線八丁堀駅で撮影。

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この自然換気方式は送風機などの動力が不要であるため、初期に建設された地下鉄において多く採用された。しかし、換気量はトンネル内を走行する車両の挙動に完全に依存するため、長大トンネルや深度が深いトンネルでの採用はほぼ不可能である。また、トンネルに換気用の横穴を多数設ける必要があることから、シールドトンネルでの利用は非常に困難であり近年開業した地下鉄ではほとんど採用されていない。

■機械換気方式

送風機を利用してトンネル内の空気を強制的に出し入れする方式を機械換気方式という。鉄道や道路のトンネル出利用されている機械換気はダクトや換気塔の数量などにより以下の4種類に大別することができる。

●縦流換気方式
縦流換気方式の概略図
縦流換気方式の概略図

縦流換気方式はトンネルの出入口や中間の立坑(地下鉄の場合は駅の端)に送風機を置き、トンネル内部の車両の進行方向と同じ方向へ向けて送風して換気を行う方式である。この方式では送風機を利用して強制的に空気を出し入れすることから内部の車両の動きに関わらず換気を行うことができ、深部のトンネルでも適用が可能である。
しかし、この方式では駅やトンネル中間部に換気口を設ける場合給気用と排気用両方の換気塔や送風機を設置する必要がある(排気した量と同じ量を必ず給気する必要がある)ことから、広大な用地が必要であったりエネルギーの消費量が多くなるという欠点がある。また、トンネル内の車両の走行方向が一定しない場合(単線や複線が1つのトンネルに収まる場合)では車両が起こす風により十分な換気量が確保できない場合もある。そのため、この換気方式は大都市の上下線が独立したトンネルで建設された地下鉄で多く採用されている。当ブログで以前レポートした総武快速線総武トンネル・横須賀線東京トンネル京葉線新東京トンネルもほとんどの区間でこの換気方式を採用している。また、山岳部を通る道路トンネルでも若干採用例がある。

横須賀線新橋駅のホーム端の天井。斜めに突き出しているコンクリートが隣接するシールドトンネルの送風ダクト。 京葉線越中島駅端の換気塔と出入口。駅の反対端にも同じサイズの換気塔がある。
左:横須賀線新橋駅のホーム端の天井。斜めに突き出しているコンクリートが隣接するシールドトンネルの送風ダクト。2008年5月18日撮影
右:京葉線越中島駅端の換気塔と出入口。駅の反対端にも同じサイズの換気塔がある。2009年8月16日撮影

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●中間換気方式
中間換気方式の概略図
中間換気方式の概略図

中間換気方式はトンネル両端(駅)と中間部の換気口に設けた送風機で換気を行うことから縦流換気方式の類型といえるが、トンネル中間部の換気口を排気専用、トンネル両端の換気口を給気専用として利用する点が異なる。この方式では中間換気所から出口側で車両の走行方向に逆らって換気を行うため換気量が若干減少する欠点があるが、一方で中間換気所・トンネル両端に設置される換気口はそれぞれ排気と給気いずれか片方の機能だけ持っていれば済むため、換気塔のサイズが小さくできる利点を持つ。また、駅を給気口として利用する場合では地上出入口を換気口代わりに利用することが可能であるため送風機や換気塔が不要となることもある。
このため、中間換気方式は換気塔用地の取得に莫大な費用がかかる大都市部の地下鉄で多く利用されている。JR東西線では大阪城北詰~加島間の駅間トンネルでこの換気方式を採用している。また、山岳部の道路トンネルではトンネル中間部に煙突状の排気口を設置して両端の坑口から取り込んだ空気をまとめて排気することがよくあるが、これも中間換気方式の1つと見なせるだろう。

●横流換気方式
横流換気方式の概略図
横流換気方式の概略図

横流換気方式トンネルと並行する形でダクトを設置し、トンネル内の各所で同時に換気を行う方式である。ダクトは給気と排気の2本が必要であり、走行路とは別のトンネルを掘ってダクトとする場合と走行路のトンネルの一部を仕切ってダクトとする場合の2種類がある。この方式ではトンネル内を走行する車両の影響を一切受けずに換気が行えるため、全ての換気方式の中で最も安定した性能を得ることができるのが利点である。しかし、走行路とは別に換気用のトンネルを掘削する必要があったり、ダクトを走行路と同じトンネルに収める場合でも、ダクトの分トンネルのサイズを大きくする必要があるため、建設に莫大な費用がかかることとなる。

首都高速大橋ジャンクションの換気口。下方にあるのが給気口、上方にあるのが排気口。
首都高速大橋ジャンクションの換気口。下方にあるのが給気口、上方にあるのが排気口。2010年3月7日、開通前の見学会「山手トンネルウォーク」にて撮影
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鉄道用のトンネルでは排気ガスがある自動車と違って大きな換気容量が必要ないこともあり、横流換気式を採用した例は存在しない。(青函トンネルは本坑と並行する作業坑や先進導坑を換気ダクトとして利用しているが、本坑とは限られた箇所でしか接続していないことから横流換気方式とはいえない。)横流換気方式を本格的に採用している例としては東京の首都高速道路中央環状線の山手トンネルが挙げられる。山手トンネルはほとんどの区間がシールド工法で建設されており、路面の下に大きな空間があるためその部分を2分割して給気・排気のダクトとして利用している。また、給気ダクトは常に地上の新鮮な空気が供給されていることから、トンネル火災時の避難通路も兼用している。

■JR東西線で中間換気方式が採用された理由
▼参考
JR東西線(片福連絡線)工事誌 - 日本鉄道建設公団1998年 157・158ページ

JR東西線のトンネルでは前述の通り中間換気方式を採用している。JR東西線の駅間トンネルはほとんどが上下線が独立した単線シールドとなっており、本来ならば縦流換気方式の方が有利なはずである。にもかかわらずあえて中間換気方式が採用されたのは、駅の予定地周辺で地上出入口と換気塔をまとめて設置するだけの大きさの用地が取得し辛かったためである。つまり、中間換気方式では駅から離れた場所に換気所(換気塔)の用地を独立して取得する必要があるが、その面積は駅出入口と換気塔を併設する場合と比べてごくわずかなものであり、コスト面ではこちらのほうが有利ということからこのような結論となったようである。加えて、中間換気方式は大阪市営地下鉄の各路線ですでに長い歴史があり、関係者から理解を得やすかったというのも採用にいたったもう1つの理由となっているようである。
中間換気方式の採用に際しては以下のような指針を設けてコンピュータによるシミュレーションを行いながら設備の設計を行った。

●トンネル内の気温が32.5℃を上回らないこと。
●給気口は駅の地上出入口(階段)を基本とする。
●駅の階段における平均風速は1.7m/s以下とし、オーバーする場合は換気塔を追加して補給する。


この結果、新福島駅を除く各駅で地上出入口に給気補助用として小型の換気塔を併設したほか、御幣島駅については中間換気所の形状的な制約(詳細は該当記事で解説予定)からシールドトンネル入口に噴流ファンを追加している。

▼参考
総武線線増工事誌:東京・津田沼間 - 日本国有鉄道東京第一工事局1973年
東海道線線増工事誌:東京・品川間 - 日本国有鉄道東京第一工事局1977年
京葉線工事誌 - 日本鉄道建設公団1991年
機械設備|地下鉄設備|設備・車両ガイド|市営交通を楽しむ|名古屋市交通局
首都高速道路株式会社 | 特集:山手トンネルを見守る設備
など

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