「日本一狭いホーム」だった阪神春日野道駅 - 関西旅行2010(10)
阪神電鉄について触れたついでに同線の改良工事についても触れたいと思います。
阪神電鉄の三宮地下区間では最近になり相次いで駅の大規模な改良工事が行われています。今回は2004(平成16)年に島式ホームから片面ホームへ改良された春日野道駅について解説します。
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阪神電鉄 - 関西旅行2010(9)(2010年1月11日作成)
■日本一狭いホーム
春日野道(かすがのみち)駅は阪神電鉄の神戸側のターミナル駅である三宮駅の隣にある地下駅で、普通列車のみが停車しています。この春日野道駅はかつてある「日本一」の記録を持つ駅として全国的にその名が知られていました。それはズバリ、ホームの幅の狭さです。

春日野道駅の東改札口前にある旧ホームの写真とかつての神戸港の風景。
※クリックで拡大(800*600px)
春日野道駅は1933(昭和8)年にそれまで併用軌道(路面電車)だった阪神本線の岩屋~三宮間が地下化される際、廃止される計画となっていました。しかし、駅周辺に存在する工場などを中心に猛烈な反対運動が起き、工事着手後の1931(昭和6)年に急遽駅の存続が決定しました。この結果、すでに出来上がっていた一般的な複線の開削トンネルの上下線間に無理やりホームを追加せざるを得ないこととなり、史上稀に見る幅わずか3m、長さ120mという極細の島式ホームが誕生することとなりました。また、駅の移転は地下線開業に間に合わなかったため、春日野道駅は地下線開業から1ヶ月間休止扱いとされました。

春日野道駅の断面
その後は車両の大型化に伴い、ただでさえ狭いホームの両端が20cmずつ削られ、幅は2.6mに縮小されました。ホーム上には安全のためステンレス製の手すりが設置されており、電車の到着時刻になり改札口前の待合室(これもホーム上で電車を待つことができない当駅独特の施設であろう)から降りてきた乗客はこれにしがみついて風圧をやり過ごすという極めて危険な状態が続きました。阪神電鉄側でも利用者に配慮して、通過電車の速度は45km/hに制限し、さらに通常運行では上下線の列車がホーム上ですれ違わないようダイヤが構成されていたそうです。このような“生命の危険を感じる構造”であるがゆえ、利用者も厳重な注意を払って駅を利用していたことから、春日野道駅では開業以来70年間人身事故が無かったといわれています。
■「普通の駅」になった現在の春日野道駅


左:現在の春日野道駅。中央の中柱の周囲にある細い台のような部分が旧ホーム。
右:トンネルを丸ごと改築した阪神梅田方の旧ホームの階段跡。
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しかし、阪神・淡路大震災を契機として駅の東側に大規模商業施設・住宅などからなるHAT神戸(神戸市の東部新都心)が整備され利用者数が増加すると、狭小な春日野道駅の容量不足、さらにバリアフリー化の困難さなどが指摘されるようになりました。このため、阪神電鉄ではトンネルの両側を掘削して片面ホームを新設して狭小な既存の島式ホームを廃止することとし、2001(平成13)年から5年間かけて工事が行われました。
この工事では列車を運行しながらトンネルの側壁を取り壊すことになるため、鋼製の防護板を壁面に設置し、その裏で超高圧の水噴射(ウォータージェット)を使用してコンクリート壁を切断・撤去するという手法がとられました。また、現在の東改札口の前にあった旧ホームへの階段部分のトンネルは中柱が設置できないため、山岳トンネルのような天井のアーチと側壁で上部の重量を支える構造になっており、他の部分と異なり天井と側壁を丸ごと造り替える必要がありました。このため、2004(平成16)年9月の新ホーム使用開始時はこの部分を除いた5両分のみが供用され、残る1両分の使用開始はトンネルの改築が完了する2005(平成17)年8月までずれ込むこととなりました。なお、この工事では新たにホームの西側にも改札口が新設され、合わせてトンネルの換気設備改良なども行われています。これは2003(平成15)年に韓国大邱市で発生した地下鉄火災を受けての措置です。


左:リニューアルされた東改札口
右:国道2号線上にある西改札口への入口
※クリックで拡大
新ホームの完成後はエスカレータ・エレベータの利用が可能となり地上からホームまでの完全なバリアフリー化が達成されたほか、通過列車の速度が75km/hに向上しダイヤ構成上のネックが解消されました。使用されなくなった旧ホームは後に中柱に沿って耐震補強用の鋼材が新設された以外は手を加えられておらず、東口改札前の壁面の写真とともに春日野道駅の歴史を静かに語り続けています。
▼参考
阪神電鉄本線春日野道(かすがのみち)駅改良工事 - KAJIMAダイジェスト 2004,September
導入事例:阪神春日野道駅|ビル|業務別ソリューション|製品・サービス|アイテック阪急阪神株式会社
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(つづく)

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