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品川埠頭分岐点(2)開削トンネルへの改築 - りんかい線東臨トンネル(16)
公開日:2012年01月15日16:24

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■品川埠頭トンネル 6km805m~7km071m(L=266m)
▼参考
京葉線大型シールド工事の現況 - 建設の機械化1975年12月号3~9ページ
臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 106~117・294~301・570~582ページ
●概説
トンネルの概要・京葉線用として建設された複線シールドトンネルについては前回の記事を参照。
■りんかい線用の開削トンネルへ改築
より大きな地図で 東京臨海高速鉄道りんかい線東臨トンネル を表示
用地取得に多大な苦労をかけて完成した品川埠頭の京葉線シールドトンネルは完成直後に工事が凍結されたことにより、1996(平成8)年10月にりんかい線開業に向けて工事が再開されるまでの12年間にわたり地中に封印されることとなった。トンネル自体は海に近い環境であることを考慮して、止水対策を厳重に行っていることもあり、僅かな漏水の発生以外は傷みや沈下も無くそのままりんかい線に流用することが可能な状態であった。しかし、りんかい線の第二期区間は天王洲アイル駅を経由すること、車両基地は東京貨物ターミナル駅の脇に設置されることから、このシールドトンネルの一部を取り壊して線路を分岐させることとなった。撤去するのは工事にあたり揉めに揉めたあの松岡冷蔵倉庫の近接部分を含む170mの区間である。

トンネルの撤去範囲と品川埠頭トンネルの位置
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋
京葉線時代のシールドトンネルを撤去して新設される開削トンネル「品川埠頭トンネル」と称し、りんかい線の本線と入出庫線分岐部分に加え、トンネルの換気設備と電車の走行電力を供給する品川変電所が併設されることとなった。また、大崎側の端は隣接する天王洲トンネル(シールド)の発進立坑にもなったため、開削部分の全長は266m(新木場起点6km805m~7km071m)となり、トンネルの断面は新木場側から1層1径間、1層2径間、2層2径間、2層1径間、2層3径間と目まぐるしく変化している。このうち、2層になっている部分は上層階を換気設備と変電所の電力設備、下層階を線路として使用している。また、換気塔は大崎側の終端部の線路外に設置している。

品川埠頭トンネルの断面の変化 ※クリックで拡大
品川埠頭トンネルの工事は1996(平成8)年10月末より開始された。第二期区間の概要の記事でも述べたとおり、この時点で、既に関係各所から2001(平成13)年3月の天王洲アイル駅までの暫定開業が厳命されており、工期は5年弱と地下鉄の建設工事としてはかなりタイトなスケジュールとなった。
品川埠頭トンネルの地上部にある道路は品川埠頭に向かうトラック・トレーラーのメインの交通路となっており、警察などとの協議の結果昼間の交通規制や道路上への作業帯の設置が一切認められなかった。このため、地上を使用する作業は全て夜間に行わざるを得ず、重機類は作業が終了するたびに待機場所への移動を強いられるという大変厳しい施工条件となった。さらに、新設される開削トンネルは既設のシールドトンネルよりも幅が広いため、松岡冷蔵の敷地に食い込むこととなったが、京葉線のシールドトンネル施工時と同様トンネルの真上に荷捌ステージがあるため、作業ができるのは1週間のうちで倉庫が休業となる土曜日の2時から日曜日の22時までのわずか44時間に限定された。このため、掘削に先立つ土留め杭の打ち込みに当たっては荷捌ステージの屋根を開閉式に改造し、ステージ自体も移動式の仮設ブロックに改造するなど短時間で撤去・再設置可能な構造にする工夫が求められた。ただし、京葉線シールドトンネル施工時とは違い、松岡冷蔵の会社側から工事に対して表立った反対などは受けなかったようである。(工事誌では明言されていないが、これは後述する通り日通の燻蒸倉庫の閉鎖が決定していたためと思われる。)
なお、土留壁はシールドトンネルの撤去部分とそれ以外の部分で構造が異なっており、前者は継手が付いた鋼管を並べる方式(ONS工法)、後者はセメントと土砂を混ぜ合わせて柱を作る方式(SMW工法)が用いられている。土留壁の設置完了後は内部を掘削し、いよいよ最大の難関である既設シールドトンネルの撤去にとりかかることになる。シールドトンネルは外径10.7mの複線断面で、壁面は建設当時標準的に使用されていた厚さ60cmの中子型セグメント(1リングあたり11分割)と厚さ30cmのコンクリート製の二次覆工により構成されている。このシールドトンネルの撤去にあたっては工期短縮のため、以下の3つの方法が提案された。
1案:二次覆工を破砕機で取り壊した後、セグメント同士を留めるボルトを切断し、引き上げる。
2案:二次覆工を破砕機で取り壊した後、ワイヤーソー※でセグメントを切断し、引き上げる。
3案:ワイヤーソーで二次覆工とセグメントを一緒に切断し、引き上げる。
これら3案について、実際に試験施工を行った結果、(3)は壁面に埋没している金具を一緒に切断するためワイヤーソーの消耗が激しくコストがかさむという欠点があるが、(1)(2)は二次覆工を撤去する際に粉じん対策が必要となるため、作業員の安全や健康を最優先とし、(3)案を採用することになった。
▼脚注
※ワイヤーソー:金属製のワイヤーにダイヤモンドの粉を混ぜ込んだ工具で、これを高速で動かしながらコンクリートに当てることでコンクリートを切断する。

シールドトンネル解体・撤去の手順 ※クリックで拡大
シールドトンネルの解体は本来であればセグメントピースの切れ目に沿って行うことが望ましいが、解体着手時点でトンネル内の中央にはすでに上部の掘削用の杭が貫通しており、作業スペースが限定された。このため、セグメントの切断はピース同士の切れ目を無視し、左右対称に全部で11個に分割して搬出することとした。シールドトンネルの解体の手順は以下のとおりである。
(1)二次覆工縁切り(両端)
シールドトンネルは掘削に伴い上から掛かる荷重が減少すると地下水の水圧で浮き上がるが、この影響が撤去しない区間にまで及ぶことは好ましくない。そのため、シールドトンネル側部の掘削(6次掘削)の前に撤去区間両端のトンネル内で二次覆工を切断しておく。
(2)6次掘削・セグメント切断
トンネルの上部1/3程度の深さまでトンネルの側部を掘削する。この際、土留壁が掘削範囲内に倒れ込まないように本来であれば横梁を設置するが、今回の場合シールドトンネルが邪魔をして設置できないため代わりに土留壁から斜め下に向けてグラウンドアンカーを打ち込む。掘削完了後はトンネルにワイヤーソーを通すための穴を開け、ワイヤーソーでセグメントを切断する。
(3)セグメント搬出
セグメント切断が完了したら、クレーンで地上に搬出する。切断済のセグメントは不安定となるため、必要に応じて下から足場を仮設するなどして落下しないよう支えておく。
(4)7次掘削・セグメント搬出
トンネルの上1/3の撤去が完了したら、新設トンネルの床に相当する深さまで側部を掘削する。(7次掘削)その後は(2)(3)の手順を繰り返して引き続きトンネルを解体していく。
(5)インバートコンクリート・下部セグメント解体・搬出
側部の解体が完了したら、トンネル床面のインバートコンクリートを破砕し、下部セグメントを露出させる。露出させたセグメントはピース同士のボルトを切断し、クレーンで地上に搬出する。
このようにしてシールドトンネルの解体・撤去が完了した後は底面を整地し、鉄筋コンクリート製のボックストンネルを構築した。なお、新トンネルのうち新木場側40mと大崎側24mについては隣接工区の工事でも使用するため、仮設の仕切り壁を設置して他の部分よりも早期に完成させている。このような幾多もの工期短縮に向けた工夫により、天王洲アイル駅暫定開業1年前にはトンネル本体の工事は大方完了させることができた。
●現地写真(地上)

トンネル真上の交差点から品川埠頭コンテナターミナルを見る。奥に対岸のお台場の観覧車などが見える。2011年7月23日撮影
品川埠頭は天王洲アイル駅近くにある野球場を除けば純然たる工業地帯で、1人、徒歩での現地調査はかなり躊躇していたが、実際の状況がわからないことにはレポートをお送りできないということで昨年夏に現地調査を敢行してきた。工業地帯の真ん中で写真を撮っているのは傍から見て明らかに不審に見えたことだろうが、職務質問などを受けることは無かったのは幸いといえるだろう。(別に産業スパイなど違法行為をしているわけではないのだが。)
調査したのは土曜日の昼間であったが、りんかい線のトンネルの上にある品川埠頭の入口の道路は、首都圏の朝ラッシュ時並みの密度で海上コンテナを積んだトレーラーが行き来しており、これでは交通規制がままならないというのも納得であった。トンネル建設に伴い地面が掘り返されたのはこの写真の画面左端に見える交差点の角あたりであるが、地上にトンネルの存在をうかがわせる施設は無く、路面の舗装も開業から10年が経過し、周囲と同化してしまっていることからどこまで手を加えたのは判別できない。


左:松岡冷蔵倉庫の建物。
右:松岡冷蔵倉庫の荷捌きステージ。2枚とも2011年7月23日撮影
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京葉線のシールドトンネル建設にあたって強硬な反対を行ったとされる松岡冷蔵倉庫は、当時の建物が現在もそのまま使用されている。荷捌きステージは道路側に面した建物の壁面に8個設けられており、建物と道路の間はトラックが1台止まれるくらいのスペースしかなく、工事の際苦労したであろうことがうかがえる。荷捌きステージの前の地面は真新しいコンクリートとなっているが、倉庫自体の外壁も最近改修したように見えることから、この地面がりんかい線の工事の際敷設されたものなのか、倉庫の改修にあわせて一緒に敷設されたものなのかは判断できなかった。


左:燻蒸倉庫が無くなり、普通の倉庫に改築された日本通運の倉庫。
右:燻蒸倉庫の跡地はトレーラーの駐車場になっている。2枚とも2011年7月23日撮影
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道路を隔てて松岡冷蔵の向かいにあった日本通運の燻蒸倉庫は何と跡形も無く消滅し、トレーラーの駐車場になっていた。燻蒸倉庫が無くなった時期は不明であるが、3年前にりんかい線の資料集めを始めた頃には地図上からその存在が消えていたことから、少なくともそれ以前には閉鎖されていたものと思われる。燻蒸倉庫跡地の隣には最近新築されたと思われる日通の倉庫があるが、Googleのデータによるとこの施設は「日本通運(株) 東京海外引越支店営業第一部営業第一グループ」という名称らしく、引き続き海外からの荷物は扱ってはいるものの、その業務は単なる集配に特化されている模様である。燻蒸倉庫が無くなったのは衛生状態の向上に加え、燻蒸作業を土地代や人件費が安い海外(生産地)で行うことが一般化したためのようだ。地下の線路の形状まで影響を及ぼした施設がこうもあっけなく消滅してしまうという現実を見ると、苦闘を強いられた鉄建公団の担当者が何とも不憫に思えてしまう。

品川埠頭トンネルの地上。中央に見える白い建物がトンネルの換気塔。2011年7月23日撮影
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松岡冷蔵倉庫の前で本線と入出庫線が分岐した後、本線は道路に沿って天王洲アイル駅方面に進む。トンネルの上部には換気施設と変電所が設けられており、この換気塔が道路脇のコンテナ置き場の一角に設けられている。換気塔はお台場地区にあったものとは異なり、機能優先の無機質な白色の建物となっており、換気口は屋上と側面に開いている。また、道路側の壁面には人1人が出入りできるくらいのサイズの扉が付いているが、これがトンネルの非常口として設けられている物なのか、資材搬入口なのかは表記が無いためよくわからない。
●現地写真(地下)


左:品川埠頭トンネルの始点。シールドトンネルより開削トンネルの方が幅が狭い。
右:分岐後。左に進むのが東臨運輸区(八潮車両基地)へ向かう入出庫線。2枚とも2011年7月9日撮影
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こちらは下り列車から撮影した品川埠頭トンネルの内部である。前回と同様動画から切り出したもので、夏の節電期間中だったこともありトンネル内の照明が少なく、画質が悪い点はご容赦願いたい。
左の写真は入出庫線と本線が分岐する直前の映像で、直進する入出庫線から右側に16番片開き分岐器(制限速度60km/h)で本線が分岐していくのがわかる。(分岐点のキロ程は新木場起点6km820m。)入出庫線はこの時点では複線となっており、下り本線は右側の入出庫線と平面交差しているが、入出庫線はそもそも通過本数が非常に少ないので平面交差が問題になることはほとんどない。右の写真は分岐後の映像で、左側に外れていく入出庫線のトンネル(八潮トンネル)はすぐに複線シールドトンネルに戻っていることが分かる。一方、自分が乗っている本線は右側にカーブする開削トンネルを進み、天王洲アイル駅へ向かう。
なお、本記事作成時点でのWikipediaにはこの入出庫線・車庫線の分岐点について「品川埠頭分岐部信号場」なる独立した記事が作成されているが、工事誌に掲載されている配線図によるとこの分岐点は天王洲アイル駅構内という扱いになっている。 (2012年5月14日追記:その後、読者の方よりで「東京テレポート駅構内ではないか」との情報をいただきました。これについてはコメント欄をご参照ください。本記事の内容ついては当面の間「調査中につき保留」とさせていただきます。) Wikipediaの記事は編集履歴を見る限り、初版がIPユーザーによって作成されたものであり、その時点で一切出典が示されていないことやそれ以降ほとんど加筆訂正も無いこと、さらにGoogleなどで「品川埠頭分岐部信号場」と検索してもWikipediaの記述をまる写ししたと思われるページしか出てこないことから、その信憑性には大きな疑問が残る。ただし、開業後に独立した信号場に格上げされた可能性も無いとは言い切れないので、ここでは一応両論併記としておく。この件について正確な情報源のお持ちの方がいらっしゃればぜひともお知らせ願いたい。(なお、りんかい線の信号機は閉塞番号や場内・出発の種別を示す表記が一切ないため、信号機を見ただけではどこまでが停車場・信号場の構内なのかは判別できない。)
りんかい線前面展望・4/7 東京テレポート→天王洲アイル - YouTube 音量注意!
(つづく)
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