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坑口付近~東越中島立坑(概説) - 京葉線新東京トンネル(4)
公開日:2009年12月16日00:16

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■東越中島トンネル:3km587m92~4km568m52(L=980.60m)
▼参考
京葉線工事誌 519~553・650~675ページ
工期:1987(昭和62)年2月~1988(昭和63)年10月(支障物撤去・シールド掘進)
●概説

東越中島トンネルの位置 ※クリックで拡大
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆
越中島換気所を過ぎると、京葉線は上下線が別のシールドトンネル「東越中島トンネル」に入る。この東越中島トンネルは曲線半径が異なる4つのルートが検討されたが、
1、越中島貨物駅構内ではできるだけ汐見運河側に寄せる。
2、塩崎保育園からは工事の影響に配慮して離す。
3、三つ目通りの上空を通る首都高速の基礎に干渉しない。
4、汐浜サンハイツと都営塩浜第2アパートの間を通り、双方との干渉を最小限にする。
5、富士倉庫・いずみ倉庫の常温倉庫の間を通り、双方との干渉を最小限にする。
6、浜崎橋の基礎に干渉しない。
7、以前取得済みだった江東区越中島3丁目の遊休地(詳細は後日別記事)を利用して東越中島立坑を設置するため、これを変更しないl。
といった理由から現在のルートが選定された。
実際に建設されたトンネルは坑口から引き続き33.0パーミルの勾配で下った後、頭上を首都高速9号深川線が通る三つ目通り(都道319号線)の直下付近から3.3パーミルの下り勾配となる。三つ目通りを過ぎると半径400mのカーブを描き針路を西から西北西に変える。平久運河に掛かる浜崎橋の南をかすめ、農林水産省の深川倉庫の地下を通る。ここで半径1200mのカーブを描きながら針路を北西に変え、汐浜運河に掛かる浜園橋の東をかすめると東越中島立坑に到達する。
本トンネルは全体的に土被りが薄いことから土圧バランス形シールドが採用され、掘進は東越中島立坑から開始された。本トンネルは民有地の直下を多く通過するが、この付近は地盤が軟弱であることからほとんどの建物が杭基礎となっている。また、地下を通るライフライン建設の際に打ち込まれた土留め壁なども多数残存しており、これらがシールド掘進の支障となることが予想された。このため、ルート上にある建物では杭をトンネル断面外に移設するアンダーピニング(受け替え)が数多く行われたほか、地中にある各種障害物の除去が行われた。改良を行った構造物と内容について以下、新木場側から一覧にする。
1、下水道・NTT洞道(三つ目通り地下)の土留め壁撤去
三つ目通りの地下9m付近には1974(昭和49)年に建設された下水道・NTTの洞道(トンネル)が通っている。この洞道の建設時に土留め壁として使用した鋼矢板が東越中島トンネルの断面内にあったため、シールド掘進前の1987(昭和62)年7月より地上からの撤去作業が開始された。三つ目通りは上下線で最大2千台/hの交通量があるため作業は夜間に限定された。
しかし、鋼矢板にはL字型の鋼材が溶接されており、引き抜きに対する抵抗力が強くなっていたため作業は困難を極めた。工事の経過が工事誌650ページ以降に記述されているので抜粋すると以下の通りである。
7月31日夜 多滑車にて引抜力120tで引き抜きを試みるが失敗。 8月4日 2tハンマーで打撃を与えた後、多滑車にて引抜力180tで引き抜きを試みるが失敗。 8月23日昼 直近の都営塩浜2丁目アパートの了解を得て低振動バイブロハンマーにより引き抜きを試みたところ、溶接金物を引きちぎって2枚同時に5m引き抜くことに成功したが、アパートへの振動が激しく住民が驚いて飛び出してくる状態だったため、この方法は採用できないと判断。 9月4日 アパートから離れた富士倉庫(後述)敷地内でさらに低振動のバイブロハンマーを試験施工したが、振動は8月23日とほぼ同じで採用不可と判断。 9月18日夜 240t油圧引抜機のより8月23日に引き抜いた鋼矢板に隣接した鋼矢板の引き抜きを試みるが、引抜力210tで路面の覆工桁が2cm沈下した(重量に耐えられなかった)ため作業を中止。 |
以上のような結果のほか、周囲の試掘を行ったところ撤去が必要な鋼矢板の数が当初の110枚から190枚に倍増することが判明したため、地上からの処理は不可能と判断された。そこで、坑内から撤去を行うことになり、前処理として地表からCJG工法※による地盤改良を行った。その後、鋼矢板は坑内から手作業でガス溶断を行い撤去した。なお、最終的にこの工事だけで8.8億円もの費用が掛かっている。工事誌を見る限りでは、この土留め壁撤去が新東京トンネル全体を通して唯一工事に苦戦した場所と思われる。
▼脚注
※:CJG(コラムジェットグラウト)工法。地中に打ち込んだ管の先から高圧で水を噴射し、地盤を切削する。その後、同じ管から地盤改良材を注入し、地中に改良体を形成する。
▼参考
ライト工業 |地盤改良◆高圧噴射◆| CJG工法
2、富士倉庫基礎杭撤去

改修前(左)と改修後(右)のイメージ
浜崎橋付近には富士倉庫運輸の倉庫(1~3号の3棟)が建っているが、このうち1号倉庫と3号倉庫の基礎杭がトンネルに干渉する。このため、3号倉庫は全面撤去(用地補償)、1号倉庫は支障となる3階建て事務室棟部分のアンダーピニングを行った。アンダーピニングは
1、事務所棟の地下を掘削し、トンネルに被らない位置に新しい基礎杭を打ち込む。
2、建物を支える梁(はり)を構築し、新しく打ち込んだ杭に荷重を移行させる。
3、トンネルに支障となる古い杭を撤去・埋め戻しをする。
という手順で行われた。
3、平久運河・汐浜運河の護岸改築
東越中島トンネルは平久運河に架かる浜崎橋の脇と汐浜運河に架かる浜園橋の脇をそれぞれ通過するが、双方の運河の護岸に打ち込まれている杭基礎がトンネルに干渉する。そのため、杭を撤去するとともに護岸全体を造り変えることとし、1985(昭和60)年から2年間かけて工事が行われた。以下、図により手順を説明する。

平久運河・汐浜運河の護岸改築の手順
※クリックで拡大
1、着工前。
2、護岸に近い運河の中に鋼矢板でできた仮設の締切堤と桟橋をつくり、古い護岸を取り壊し、杭を引き抜く。
3、トンネルの支障にならない位置に新しい杭を打ち込み、新しい護岸を構築する。
4、締切堤の引き抜き、桟橋の柱跡を埋め戻す。その後シールド掘進。
なお、工事に使用した仮設の桟橋を支える柱はトンネルの天井付近の高さまで打ち込まれており、引き抜いた跡を放置するとシールド通過の際運河の水を大量に引き込む恐れがあった。東越中島トンネルはシールドマシンの隔壁に開口部がある土圧式シールドであり、大量の出水は致命的である。そのため、柱を引き抜いた跡には薬液注入を行い、穴を塞いでいる。
4、農林水産省深川倉庫の防護
平久運河の浜崎橋から汐見運河の浜園橋の間では農林水産省深川倉庫の地下を通る。この倉庫は1924(大正13)年に建設された非常に古い建物で、基礎コンクリートの老朽化が著しく進んでおり、わずかな変状の発生も許されない状態であった。(シミュレーションを行ったところ、コンクリートとしての断面性能は一応確保できているものの、2cm変状が発生すると破壊するという結果が出た。)トンネルは倉庫の基礎である松杭の先端から5m下を通過するため、あらかじめ基礎の鉄筋コンクリートを補強したうえで、シールド掘進時は坑内から薬液注入を行い若干地盤を隆起させることで沈下量をほぼゼロに抑えることとした。
なお、これ以外の構造物についても必要に応じて基礎の改造や坑内からの薬液注入を行い、沈下を防止している。
また、到達部付近では越中島貨物駅から延びる東京都専用線が並行している。この専用線は廃止直前で列車本数は著しく減少していたが、営業中の路線である以上、線路に大きな変形が発生した場合列車の脱線など事故につながることは変わりない。そのため、直下でのシールド掘進中は1日あたり6回の計測(通り・高低狂い)が行われたほか、万一線路に変形が発生した場合はすぐに復旧できるよう線路脇に補充用のバラスト(砕石)が準備された。
完成したシールドトンネル内にはセグメントの補強、防水、防蝕、壁面の平滑化(縦流換気を行うに当たり空気抵抗を低減させる)、防振などの目的で全区間で二次覆工(壁面にもう1枚コンクリートを巻き立てる)が行われた。設計上は強度を負担しない化粧材とされたが、荷重が大きい運河の直下は全周に、そのほかの区間は上部120°の範囲に鉄筋を配置している。なお、工事の途中からは作業効率を上げるため、移動式の型枠を導入し、シールド掘進と同時並行で二次覆工を施工した。
(つづく)
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