和歌山電鉄貴志川線(1)和歌山電鉄移管まで - 関西旅行2010(18)

伊太祁曽駅の車庫に停車中の2270系「おもちゃ電車」(2276-2706)

昨年夏の関西旅行の続きです。阪和線で和歌山駅へ向かった後はそこから和歌山電鉄貴志川線に乗車しました。今回は2回に分けてこの和歌山電鉄貴志川線について解説したいと思います。

※和歌山電鉄の「鉄」の字は正式には「」ですが、文字変換の効率化のため本文中では「鉄」の字を主に使用します。

和歌山電鐡貴志川線の概要


和歌山電鉄貴志川線はJR阪和線・紀勢線・和歌山線が集まる和歌山駅から紀の川市の貴志駅を結ぶ全長14.3kmの私鉄路線です。貴志川線は沿線に存在する日前宮、竃山神社、伊太祁曽神社などの参拝者を運ぶこと目的として1916(大正5)年に開設された路線で、全部で14の駅が存在します。全線単線で、上下列車が交換可能な駅は日前宮駅、岡崎前駅、伊太祈曽駅の3駅、車両基地は伊太祁曽駅構内にあります。(和歌山電鉄本社も同駅にある。)運行本数は和歌山~伊太祁曽間が朝夕約15分間隔、それ以外の時間帯が約30分間隔伊太祁曽~貴志間が終日約30分間隔となっており、地方の私鉄路線では比較的本数が多くなっています。



廃線の危機と復活劇

和歌山電鉄株式会社の本社がある伊太祁曽駅。
和歌山電鉄株式会社の本社がある伊太祁曽駅。

貴志川線を運営する和歌山電鉄株式会社は2005(平成17)年に設立された新しい鉄道会社、しかも親会社は貴志川線から遠く離れた岡山県に本社がある岡山電気軌道です。なぜこのような形態となったのでしょうか?ここに至るまでには幾重もの紆余曲折があったのです。
貴志川線はかつて南海電鉄(別記事作成予定)が運営している鉄道路線でした。地方の発展に寄与した貴志川線ですが、昭和40年代以降は自動車の普及による利用者の減少が進み、平成に入るとその数はピーク時の半分にまで落ち込むようになりました。南海電鉄では駅の無人化やワンマン運転など徹底した合理化を続けてきましたが、2003(平成15)年度には5億円を超える赤字を出すなど路線の維持も限界に達し、ついに2004(平成16)年8月に南海電鉄は沿線自治体に貴志川線を廃止する旨を報告し、国土交通省近畿運輸局に貴志川線廃止の届出を提出しました。
これに驚いた沿線住民たちは貴志川線の存続に向けた活動を行うため、「貴志川線の未来を“つくる”会」という団体を結成し、手始めとしてNHKの情報番組「難問解決!ご近所の底力」への出演し、貴志川線の危機を沿線のみならず全国に向けてPRしました。以降、「つくる会」は南海電鉄とも協力しながら街づくり、環境など様々な面から貴志川線の存続をアピールし、2005(平成17)年2月には貴志川線を引き継ぐ事業者を全国から募集。翌月の締め切りまでに9つの団体から応募がありました。厳正なる審査の結果、貴志川線の引継ぎ事業者は岡山市で路面電車を運行する「岡山電気軌道」(両備グループ)に決定しました。同年6月には貴志川線を運営する新会社「和歌山電鐵株式会社」が設立され、2006(平成18)年4月1日、晴れて貴志川線は南海電鉄から和歌山電鉄へ移管されました。

<貴志川線存廃をめぐる年表>
2004年8月10日 南海電鉄が和歌山県、和歌山市、貴志川町に貴志川線廃止を報告
2004年9月2日 「つくる会」がNHK「難問解決!ご近所の底力」に出演(以後何度か出演)
2004年9月30日 国交省近畿運輸局に貴志川線の鉄道事業廃止届を提出
2004年10月以降 沿線住民や関係者による勉強会を開催
2005年2月4日 和歌山県が貴志川線存続に必要な初期投資の全額負担を決定
2005年2月23日 貴志川線引継ぎ事業者の募集を開始(3月22日まで)
2005年2月27日 南海電鉄が「貴志川線の日」イベントを開催。(全線170円均一運賃)
2005年4月28日 引継ぎ事業者が岡山電気軌道に決定
2005年5月21日 和歌山市長・貴志川町長が南海電鉄に4月までの廃線延期を申入れ(6月9日決定)
2005年6月11日 引継ぎ事業社名を「和歌山電鐵株式会社」に決定
2005年6月27日 新会社設立
(2005年11月7日 貴志川町が粉河町・打田町・那賀町・桃山町と合併し「紀の川市」になる)
2006年1月20日 国土交通省へ鉄道事業譲渡譲受認可申請書を提出(2月28日に正式認可)
2006年4月1日 貴志川線が南海電鉄から和歌山電鉄に移管

和歌山電鉄への移管に当たり、鉄道用地は2億3千万円で和歌山市と紀の川市にそれぞれ譲渡されました。一方、車両などの鉄道資産は南海電鉄から和歌山電鉄へ無償で譲渡されました。これによりいわゆる「上下分離方式」となり、鉄道会社の固定資産税などの負担が軽減されることとなりました。また、移管直後は現行ダイヤ・運賃を維持しつつ更なる合理化を進めるため、終点貴志駅の終日無人化、伊太祁曽駅の夜間改札無人化、他社路線との連絡切符廃止などが行われました。

次回は実際に和歌山電鉄貴志川線に乗車して終点貴志駅まで向かいます。


▼参考
和歌山電鐵 貴志川線 猫のスーパー駅長「たま」とおもちゃ電車といちご電車
貴志川線の未来を”つくる”会 - もっと!ずっと!貴志川線

▼関連記事:「関西旅行2010」
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(つづく)
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