和歌山電鉄貴志川線(2)生まれ変った車両と貴志駅 - 関西旅行2010(19)
公開日:2011年07月31日14:52
前回は和歌山電鉄貴志川線の概要と歴史について解説しましたので、今回はいよいよ実際に貴志川線に乗って終点貴志駅まで向かうこととします。(取材日2010年8月25日)
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和歌山電鉄貴志川線(1)和歌山電鉄移管まで - 関西旅行2010(18)(2011年7月29日作成)
1日乗車券
今回は途中で下車することもあったため、1日乗車券を利用しました。1日乗車券は650円で、1日限り全線乗り降り自由となるものです。和歌山~貴志間の運賃は片道360円なので、終点まで往復する場合は1日乗車券を購入した方が70円お得になります。この1日乗車券は乗車年月日の部分がスクラッチカードになっており、日付の数字をコインで削って利用するものです。(従って事前に購入しておくことも可能。ただし、2箇所以上削った場合無効となるため注意。)
個性的な車両




左上:伊太祈曽駅構内に停車中のおもちゃ電車(左、2276-2706)とたま電車(右、2275-2705)
右上:和歌山駅に停車中のいちご電車(2271-2701)
左下:「いちご電車」の車内
右下:「いちご電車」の貫通路の暖簾と協賛者の名簿
※クリックで拡大
南海電鉄時代に貴志川線に導入された2270系(元南海電鉄22000系)は和歌山電鉄移管にあたり、そのまま無償で譲渡されました。移管後、和歌山電鉄ではPRのため車両デザインのリニューアルに着手しました。デザインを手がけたのはJR九州や和歌山電鉄の親会社である岡山電気軌道(両備グループ)のデザイン顧問を務める水戸岡鋭治氏です。これまで3編成のリニューアルが行われており、いずれも大変個性的なデザインで全国的に話題となっています。各編成の概要は以下の通りです。
●いちご電車(2271-2701)
2006(平成18)年8月6日デビュー。ホワイトベースの車体に貴志川線沿線が特産のイチゴがふんだんに描かれている。車内は天然木を多用した温かみのある雰囲気となっており、車端部は既設の座席を撤去して木製のベンチを設置している。また、車端部の壁には「いちご電車」のリニューアルにあたり協賛を行った個人の名簿が掲出されている。
●おもちゃ電車(2276-2706)
2007(平成19)年7月29日デビュー。リニューアルにあたっては海南市にある玩具の通信販売業者「T.J GrosNet」(2008年4月経営破綻)が5年間の広告費を前払いしてその費用を負担した。車体は全面赤で、電車の絵柄と「OMODEN」のロゴが随所に配されている。車内は「おとなもこどもも楽しめる」ことをコンセプトに、フィギュアのショーケースやガチャガチャマシーンによるおもちゃの販売などが行われている。
●たま電車(2275-2705)
2009(平成21)年3月21日デビュー。2008年に貴志駅の「スーパー駅長」に就任した三毛猫「たま」(後述)を車両内外に大きく描いてPRしている。リニューアルの費用は「いちご電車」と同じく国内外からの寄付金によって賄われている。車体はホワイトをベースに全部で101匹の「たま」の絵が描かれており、前面も顔をイメージして窓下に片側3本の「ひげ」が描かれている。車内は他の2編成と同様木材を多用し、車端部には「たま」が同情する場合に使用するケージや猫に関する本を並べる本棚が設置されている。
今回はこのうち、「いちご電車」(2271-2701)に乗車できました。車内は木目調の内装のほか、電球色の蛍光灯を使用しており、見た目以上に温かさを感じさせる雰囲気となっています。(注:現在は節電のため昼間の車内灯は消灯が基本となっています。)
新生「たまミュージアム貴志駅」

貴志駅駅長室の「スーパー駅長『たま』」。ご高齢ということもあり、寝ていることも多い。
2007(平成19)年1月5日、それまで貴志駅脇の売店「小山商店」で飼われていた三毛猫の「たま」が貴志駅の駅長として和歌山電鉄から正式に任命されたことで話題となりました。
遡ること約9ヶ月前の貴志川線の和歌山電鉄移管にあたり、貴志駅は合理化のため無人駅となり、あわせて駅施設の土地は南海電鉄から紀の川市へ所有者が変更されました。紀の川市は公有地となった貴志駅構内の整備を行うこととし、売店の立ち退きが必要となったため、困った店主は2006年4月1日の和歌山電鉄移管記念イベントの後、小嶋社長に直々に「貴志駅に猫たちを住まわせてくれないか」と相談を持ちかけました。ここで小嶋社長はひらめいたのです。「この猫を貴志駅の『駅長』にしよう」と。
その後、制帽の製作などが行われ、翌年の1月5日に和歌山電鉄により「任命式」が執り行われ、正式にたまは「駅長」として任命されることとなります。あわせて同居していたたまの母親の「ミーコ」(2009年死去)、「ちび」も「助役」として任命されました。猫が鉄道会社から駅職員として正式な任命を受けるのは前代未聞のことです。これら3匹の猫の役割はズバリ「招き猫」です。
たま駅長の就任は全国で話題となり、遠方から貴志駅に訪れる観光客は日増しに増加し、貴志駅の利用者数は前年比10%以上の増加を見せるなど、驚異的な「客寄せ効果」を発揮しました。この業績により翌2008(平成20)年1月にたまは「スーパー駅長」に昇進、4月には改札口脇に専用の「駅長室」が設置されました。さらに、5月にはフランスのドキュメンタリー映画「ネコを探して」への出演が決定、この映画は2年後の2010(平成22)年夏に日本でも公開され話題となりました。さらに10月には和歌山県の仁坂知事が貴志駅を訪れ、人で言う「名誉県民」に相当する「和歌山県勳功爵位」の表彰状を授けました。これはたまが和歌山県の地域活性化に著しい功績を残したことの証です。さらに、2010(平成20)年1月にたまは和歌山電鉄の執行役員に昇進しました。以降、たまの名前は同社ホームページの「会社案内」の項目にも記載されており、名実ともに同社中枢の担い手となったことになります。


左:2010年8月に完成した「たまミュージアム貴志駅」
右:駅車内に新設された「たまカフェ」
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たま駅長が話題になる一方で、建設から80年以上が経過した貴志駅は駅舎の老朽化が進んでおり、種々の検討の結果、駅舎を全面的に改築することとなりました。新駅舎のデザインは車両と同じく水戸岡鋭冶氏が担当し、「究極のエコ・ネコロジカル建築」をコンセプトにたま駅長をデザインのメインに置き、天然木や石材をふんだんに使用した自然色豊かな雰囲気とされました。この新駅舎は今回の訪問直前の2010(平成20)年8月6日に完成し、当日は小嶋社長ら関係者出席の下、盛大な竣工式が執り行われました。
新しい貴志駅は「たまミュージアム」という副名を持ち、駅舎は現在では珍しい萱葺き屋根となっており、その形状は猫の目・耳そのものとなっています。新駅舎も引き続き無人駅となりますが、旧駅舎時代は別棟となっていた小山商店が内部に合築となったほか、ホームへの通路を挟んだ反対側には新たに待合室をかねて「たまカフェ」と呼ばれる喫茶店がオープンしました。駅舎中央にはたまが常駐するガラス張りの「駅長室」が設けられたほか、その周りの壁面にはたまの絵や写真が所狭しと飾られています。
<たまミュージアム貴志駅・点描>












写真の説明
1段目左から・・・
1、駅の先にある踏切から見たホーム
2、ホーム側にあるのれん
3、ロータリー側にあるのれん
4、ロータリー側では「たま」のパネルが来訪者を出迎える。
2段目左から・・・
5、「たまカフェ」内に展示されている貴志川線のキーホルダー・缶バッジなど
6、暑かったので「たまカフェ」でいちごアイスクリームを注文。紙カップにはちゃんと「たま」が描かれている。
7、壁面にあるポスター
8、床面にも「たま」が描かれたタイルが埋め込まれる。
3段目左から・・・
9、枠に「たま」の写真がはめ込まれた時刻表
10、「たま」の写真
11、壁面にあるポスター
12、同上
なお、たま駅長並びに貴志駅に訪問される際の注意点は
●貴志駅には駐車場が無いため、電車で来訪すること(伊太祈曽駅・和歌山駅に駐車場有)
●たま駅長は日曜日が公休である
●たま駅長に向けてカメラのフラッシュ撮影をしないこと
●たま駅長は高齢(12歳、人に換算すると70歳超)のため、負担をかけること(寝ているのに無理に起こす、食べ物を与える)などはしないこと
となっています。
和歌山電鉄貴志川線の将来

「いちご電車」車内にある日本鉄道賞のトロフィーと賞状
和歌山電鉄貴志川線の優れた取り組みは全国の地方鉄道にも影響を与えています。この功績により和歌山電鉄は2006(平成18)年に国土交通省の「第5回日本鉄道賞」を受賞しています。
現在、貴志川線では活性化に向けた一連のPR活動のほかにも、踏切の安全対策や線路の重軌条化・PCまくらぎ化、さらに線内に3箇所ある変電所の老朽化対応として架線電圧の昇圧(600V→1500V)と変電所の統廃合などが計画・推進されています。架線電圧の昇圧については、使用している2270系車両がもともと南海本線での走行を考慮して複電圧対応車となっていたことから、架線設備の軽微な改修のみで可能であることもこれを後押ししています。
今年1月、たま駅長は和歌山電鉄の執行役員から常務執行役員へ再昇進しました。引き続き日本の地方鉄道活性化のパイオニアとして今後も話題を提供してくれることを願っています。
▼参考
和歌山電鐵 貴志川線 猫のスーパー駅長「たま」とおもちゃ電車といちご電車
両備グループ|代表メッセージ
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(つづく)
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