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御幣島駅~加島駅(概説) - JR東西線(25)
公開日:2011年08月04日22:13

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御幣島シールド 8km670m~10km225m(L=1555m)
▼参考
JR東西線(片福連絡線)工事誌 - 日本鉄道建設公団1998年 93~96・310~312ページ・断面図
特集「平成9年開業新線」Ⅱ.JR東西線(片福連絡線) - 日本鉄道施設協会誌1997年7月号13~24ページ
●概説
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御幣島駅を出たJR東西線は東海道線(JR神戸線)と交差する少し手前までみてじま筋(大阪府道10号大阪池田線)の地下を進む。この区間も単線シールドトンネル2本となっており、「御幣島シールド」という名称になっている。ルートは地上の御幣島6丁目交差点付近までみてじま筋をトレースし、その後はみてじま筋の西側に徐々に外れていくような形態となっている。後半でみてじま筋殻外れるのは終端に阪神高速11号池田線の橋脚や、みてじま筋が東海道線をオーバークロスする陸橋があるためである。平面線形は御幣島駅側から半径3000m、半径4000m、半径6000m、半径10000mの緩いカーブを描き、東海道線の手前で半径250mの急カーブで進路を北から西に変えて東海道線の北側にある加島駅に到達している。勾配は御幣島駅から610mが8.5パーミルの下り勾配、そこから御幣島換気所(京橋起点9km780m、御幣島駅から1110m地点)までが2.1パーミルの下り勾配、そこから加島駅までが32パーミルの上り勾配となっている。なお、この御幣島シールドは御幣島駅から1414mの地点までが鉄建公団の施工となっており、残り141mの区間はJR西日本に施工が委託されている。これは終端部で東海道線の直下を横断するためである。
なお、この御幣島シールド工事中の1997(平成7)年2月13日には使用済みのベルトコンベアをガス切断で解体中に出た火花がゴムに引火し、火災が発生している。

御幣島シールドの支障箇所
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和60年)より抜粋
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御幣島シールドの特徴は後半の区間でみてじま筋沿道の民有地の下を通過することである。JR東西線の建設当時、みてじま筋には中小の工場が密集していた。このような工場に設置されている工作機械の中には安定性を確保するため、地中深くに基礎杭を打ち込んでいるものもあり、そのいくつかが御幣島シールドの掘進に支障となることが判明した。工事誌には具体的に以下の3件について書かれている。
1、川村工業(株)(9km670m付近)
工場建屋と建屋内に設置されている精密鍛造用大型油圧プレス機のコンクリート基礎杭長さ20m)(がシールド断面内に位置しており、掘進の支障となった。このため、3年間の協議の末、工場建屋とプレス機はシールドに支障しない位置に会社側が移設することで合意、シールド通過前の1992(平成4)年12月までに工事が行われた。
2、佐藤商事(株)(9km770m付近)
みてじま筋に面して5階建ての事務所・社宅が設置されており、この基礎杭(長さ23m)がシールド断面内に位置し、掘進の支障となった。この土地は隣接する御幣島換気所(後述)の作業用地にもなったため、シールド掘進前の1992(平成4)年8月までに解体・撤去された。なお、換気所の工事は有償での借地により行われたため、トンネルの完成後に跡地は返還され直接基礎の2階建て事務所が新たに建設されている。
3、明治製菓(株)淀川工場(9km930m~10km070m付近)
淀川シールドはみてじま筋から東海道線の北側にある加島駅へ向かう際、民有地の下をカーブしながら斜めに横断する。この地上部には当時明治製菓(株)の淀川工場が存在した。シールドのルート上には事務所の建物のほか、各種原材料プラントが複雑に絡みながら多数立地しており、シールド掘進の支障となった。このことは国鉄時代のJR東西線の計画当初から問題視されており、対処方法について長期間にわたり明治製菓と協議が行われていた。その結果、南側にある事務所やボイラー室については撤去は行わず、鉄建公団施工で沈下防止対策(基礎周辺の地盤改良)を行うこと、原材料プラントは1991(平成3)年9月までに敷地外へ移転することで合意がなされた。残置部分の地盤改良は2種類あり、トンネルの真上に位置する建物については床下に薬液注入による固化体を形成した。また、トンネルのルートと隣接する建物についてはトンネルに面した側に防護壁を打ち込み、シールド掘進に伴う土砂の巻き込みを防止することとした。
なお、いずれのケースも地中の基礎杭の引き抜きは鉄建公団が直接行っている。これは相手側の企業に委託した場合、十分な施工管理ができず基礎杭の取り残しなどのトラブルの可能性があったためである。

東海道線交差部分の薬液注入
一方、JR西日本が施工する東海道線直下を横断する区間は土被りが6~9mと薄く、その大半は崩れやすい砂質の盛土となっていた。横断するのは東海道線上下の複々線+北方貨物線1線の計5線で、沈下による列車運行への影響を防止するため、シールド掘進に先立ち盛土内に薬液注入を行い、厚さ3~5mの固化体を形成して掘削に伴う影響を防止した。
●現地写真
→御幣島換気所と合わせて次の記事で解説予定。
御幣島換気所 9km780m
▼参考
JR東西線(片福連絡線)工事誌 - 日本鉄道建設公団1998年 157・158・335・336ページ・断面図
●概説

御幣島換気所の断面図
御幣島換気所は御幣島シールドの加島駅寄り(京橋起点9km780m、御幣島駅から1110m地点)に設けられた立坑で、トンネルの換気と排水を行う。立坑は地下6層構造で、地下1・2階が消音器室、地下3階が送風機室、地下4階が電気室、地下5階がポンプ室とシールドトンネル本坑との連絡階、地下6階が本坑の排水を受ける貯水槽となっている。本坑との連絡横坑はJR東西線の他の換気所と同様凍結工法を用いて非開削で掘削している。
この御幣島換気所は地上の用地の制約※から上下線間に開削工法で立坑を掘削するのが不可能だったため、やむを得ず下り線の西側に細長い立坑を設けた構造となっている。このため、上り線のトンネルは下り線のトンネルを経由して換気を行うという形態となっている。ここで問題となるのが上下線で換気量に差が出てしまうという点である。特に問題となるのが何らかの原因で上り線のトンネル内に列車が長時間停車してしまった場合で、コンピュータによるシミュレーションの結果換気量が不足すると予測された。この対策として御幣島駅上り線の尼崎方の端に送風機(噴流ファン)を追加し、緊急時の換気量を確保することとした。
●現地写真
→次回解説予定。
▼脚注
※:御幣島換気所の地上はみてじま筋が海道線を越える陸橋に向けて上り始める地点となっており、トンネルは陸橋の側道の下に位置している。また、隣接してみてじま筋と交差するアンダーパス道路も通っていた。このため、工事中の代替路を設けるスペースが無く、開削工法による立坑建設が不可能だった。
(つづく)
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