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臨海副都心の開発計画とりんかい線第一期区間 - りんかい線東臨トンネル(2)
公開日:2011年08月27日07:45

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臨海副都心の開発計画
▼参考
(1)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 1~2ページ
(2)臨海副都心線の工事概要 - 建設の機械化1992年12月号3~8ページ
(3)首都圏における新線開業 5、東京臨海高速鉄道臨海副都心線 - 日本鉄道施設協会誌1996年9月号20~31ページ
(4)東京都港湾局 臨海副都心のご紹介
(5)東京都港湾局 臨海副都心まちづくり推進計画
(6)東京臨海副都心(東京テレポートタウン)計画 - 土と基礎1993年5月(リンク先CiNii)

1984(昭和59)年の臨海副都心の航空写真。左下は今年9月に閉館する船の科学館。そのほかの部分は一面の荒地だった。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋
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1986(昭和61)年11月、東京都は「第二次東京都長期計画」を発表した。当時の東京都心はバブル景気も手伝って限界を大きく超える一極集中が進んでおり、その解決に向けて各方面で様々な方策が考えられていた。今年3月の東日本大震災で再び注目を浴びた首都機能移転論などはその最たるものといえる。こうした中、東京都ではその「第二次東京都長期計画」に、当時ほとんど未開発だった10号地(有明)・13号地(台場)を中心に第7番目の副都心である「臨海副都心(愛称:東京レインボータウン・東京テレポートタウン)」を整備することを盛り込んだ。さらに翌年の1987(昭和62)年には「臨海副都心開発基本構想」、2年後の1988(昭和63)年には「臨海副都心開発事業化計画」がそれぞれ東京都から相次いで発表され、開発の具体的な方針が示された。この計画では現状とは異なりオフィスや住宅を主体に整備を進める方針となっており、当初計画では開発面積448ha、居住人口6万3千人、就業人口10万3千人という破格の規模の巨大都市を形成することとされていた。(参考までに2010(平成22)年の臨海副都心の居住人口、就業人口はそれぞれ11,030人、47,000人である。)
1993(平成5)年当時の臨海副都心の整備計画(参考資料(6)による)
年次 | ~1993年 | 1993~1997年 | 1997~2000年 | 2000年~ |
内容 | 基礎的都市基盤と 拠点施設の整備 (始動期) | 円滑な都市形成 を誘導(創設期) | 自立的な発展と都市 機能集積(発展期) | 整備の完成(成熟期) |
主な 施設 | レインボーブリッジ 首都高速11号台場線 新交通システム (新橋~有明) 海上輸送システム テレコムセンター 国際展示場 | 晴海通り拡幅・延伸 環状2号線一部延伸 京葉貨物線旅客化 開業(新木場~青海) | 環状2号線延伸 環状3号線延伸 首都高速10号晴海線 新交通システム延伸 (有明~豊洲) 京葉貨物線旅客化 延伸(大崎まで) | 京葉貨物線延伸 (羽田・鶴見方面) |
封印された京葉貨物線を都市博の交通機関に
▼参考
(7)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 1~4ページ
(8)後悔だけは避けられた : 都市博中止が臨海副都心に与えた影響(建築界の動向と展望) - 建築雑誌.建築年報1996年9月(リンク先CiNii)
京葉線東京貨物ターミナル~新木場間の建設工事が1986(昭和58)年で凍結されたのは前回の記事で述べたとおりである。この区間は未完成であった上完全な枝線となることから、1987年の国鉄分割民営化時にJR東日本は継承せず、国鉄清算事業団(その後鉄建公団に統合され、現在は鉄道建設・運輸施設整備機構となっている)が当面その資産を所有することとなった。
一方、1987年に発表された「臨海部副都心開発基本構想」では、この未完成区間について「羽田・鶴見までの旅客化と大崎への接続を検討する」という文言が盛り込まれ、臨海副都心と内陸の既成都市を接続する大量輸送機関として京葉線の未完成区間を活用することが示された。同じ頃、運輸省・東京都・国鉄清算事業団・JR東日本・鉄建公団・学識経験者により構成される「東京臨海部交通ネットワーク整備計画調査委員会」でも同様の方針が示された。さらに、1989(平成元)年の関東地方交通審議会でも「(前略)開発主体をはじめ関係者間でルート、事業主体、開発利益の整備費への反映方法等につき協議調整を行うことにより検討を進めるものとする」という答申がなされ、京葉線の未完成区間の活用について各方面の方向性で一致した。このような動きを受けて東京都では1990(平成2)年1月に運輸省・建設省・東京都・帝都高速度交通営団(営団地下鉄、現在の東京メトロ)、JR東日本、日本鉄道建設公団(鉄建公団、現在の鉄道建設・運輸施設整備機構)、日本開発銀行(現在の日本政策投資銀行)、国鉄清算事業団、学識経験者から構成される「京葉貨物線旅客化延伸調査委員会」を設置し、具体的な計画策定に向けて動き出した。

お台場中央のシンボルプロムナード公園から南を見る。右奥に見えるテレコムセンターは臨海副都心の整備計画の中で計画通り完成した数少ない建物の1つ。開発失敗という「負の歴史」は広大な空き地という形で現在に至るまで禍根を残している。2007年12月1日撮影
その僅か3ヵ月後、これを後押しする重要な出来事が起きる。「世界都市博覧会(東京フロンティア)」の開催決定である。世界都市博覧会は臨海副都心開発の起爆剤として1994(平成6)年4月から開催が予定されていた東京都独自の博覧会で、12の企業グループ、世界46の都市、国内122の自治体が参加し、会期は約200日、2000万人の入場者数が見込まれていた。大阪万博で協会の事務総長も務めた都知事、鈴木俊一の長年の悲願であったイベントである。
この都市博開催に当たっては観客輸送のための交通機関が必要であり、当時建設中だった新交通システム「ゆりかもめ」とともに京葉線の未完成区間に白羽の矢が立ったのである。1990年11月に策定された東京都の「第三次東京長期計画」において「臨海副都心の交通を強化し、東京の都市構造を多心型へ再編・誘導するため、第三セクターへの出資・補助を前提に平成12年の開業を目指し、京葉線の旅客化と大井町・大崎方面への延伸を図るとともに平成6年4月までに新木場~東京テレポート間を部分開業する」という方針が盛り込まれ、ここに臨海副都心線の整備が正式に決定された。京葉線の工事凍結から7年後のできごとである。
その後、バブル崩壊による急速な景気悪化のため、都市博を含めた臨海副都心の整備計画全体を見直すこととなったが、この時点では都市博の開催時期を1996(平成8)年3月に延期するにとどまった。このため臨海副都心線についても都市博の延期に合わせて開業時期を遅らせるだけにとどまり、再度の工事中断などの事態は免れている。
<臨海副都心線(第一期区間)整備計画の変遷>
1983年7月 京葉線東京貨物ターミナル~新木場間の工事凍結
1987年6月 都「臨海部副都心開発基本構想」発表
1989年10月 関東地方交通審議会東京部会が臨海部新線を答申
1990年11月 都「第三次東京都長期計画」発表
1991年3月 東京臨海高速鉄道株式会社発足
1991年11月 第一期区間(新木場~東京テレポート)の第一種鉄道事業免許取得
(1994年5月 第二期区間(東京テレポート~大崎)の第一種鉄道事業免許取得)
1996年3月 第一期区間開業
臨海副都心線第一期区間(新木場~東京テレポート)の建設計画
▼参考
(2)臨海副都心線の工事概要 - 建設の機械化1992年12月号3~8ページ
(3)首都圏における新線開業 5、東京臨海高速鉄道臨海副都心線 - 日本鉄道施設協会誌1996年9月号20~31ページ
臨海副都心線の第一種鉄道事業免許は1991(平成3)年に東京都が取得した。当初は都市博の運営主体である東京フロンティア協会が期間限定で免許を取得することが考えられていたが、関係機関との協議の結果、東京都・JR東日本・品川区※1と金融機関・公益法人70社が出資する第三セクター「東京臨海高速鉄道株式会社」が1993(平成3)年3月12日に設立され、臨海副都心線の免許を取得・運営することとなった。免許取得翌年の1992(平成4)年には早くも工事施工認可を取得し、本格的な工事が開始された。
<臨海副都心線第一期区間の建設に関する年表>
1990年12月26日 東京臨海高速鉄道株式会社設立発起人会
1991年2月5日 第1種鉄道事業免許申請
1991年3月12日 東京臨海高速鉄道株式会社設立登記
1991年11月1日 免許取得
1991年11月20日 工事施工認可申請
1992年1月30日 鉄建公団が東京臨海高速鉄道から工事受託要請を受ける
1992年2月5日 鉄建公団が運輸大臣に工事受託の認可を申請
1992年2月26日 工事施工認可
1992年3月 着工
1996年8月31日 新木場~東京テレポート間開業
▼脚注
※1 設立当初の出資比率は東京都が84.88%、JR東日本が5%、品川区が1%である。(現在は東京都が91.32%、JR東日本が2.41%、品川区が1.77%、金融機関3社が0.3~0.7%、その他45社が3%となっている。)りんかい線開業後に首都圏共通のプリペイド式の乗車券を導入する際、パスネットとSuicaの両方に対応したのはこの出資比率が関係している。

臨海副都心線新木場~13号地立坑間の断面図
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第一期区間の全長は新木場駅手前のJR京葉線接続点から東京港をくぐる海底トンネル手前の13号地立坑までの6.7kmで、このうち営業運転に使用するのは新木場駅から東京テレポート駅までの4.9kmである。なお、この第一期区間については残念ながら現時点で工事誌の存在を確認できておらず、橋梁やトンネルなどの詳しいキロ程がわかっていない。そのため、ここでは雑誌記事の概略図と現地調査で確認したキロポストの値をもとに各構造物の大雑把な位置を算出した。以下にその値を一覧にする。(すべて新木場駅起点の値)
(JR京葉線接続点 -0km700m付近)
新木場駅 -0km102m~0km102m (中心0km000m)
曙運河橋梁 0km402m(資料の値)
営団地下鉄線路橋 1km147m (橋脚銘板の値)
第2辰巳架道橋 1km295m (橋脚銘板の値)
辰巳運河橋梁 1km783m (橋脚銘板の値)
東雲駅 2km078m~2km282m (中心2km180m)
(東臨トンネル坑口 2km820m)
有明第1トンネル 2km820m~3km100m
有明第2トンネル 3km100m~3km402m
国際展示場駅 3km402m~3km610m (中心3km510m)
有明第3トンネル 3km610m~4km050m
有明第4トンネル 4km050m~4km305m
台場第1トンネル 4km305m~4km525m
(有明立坑 4km530m付近)
台場第2トンネル 4km530m~4km795m
東京テレポート駅 4km795m~5km005m(中心 4km900m)
台場第3トンネル 5km005m~5km960m
(13号地立坑 5km972m)
この第一期区間の総事業費は約1300億円で、その負担の内訳は東京臨海高速鉄道の出資金が240億円、東京都(臨海副都心開発事業会計)の開発者負担金などが636億円、江東区の東雲駅工事負担金が10億円、残り141億円が銀行からの借入金となっている。また、全長6.7kmのうち、約4.8kmの区間については京葉線用として建設された構造物を国鉄清算事業団から購入したうえで臨海副都心線として追加の整備を行い活用している。この部分の購入費用は以下のとおりである。
<旧京葉線構造物の購入費用(第1期区間)>
土地代金:29,497,385,390円
区分地上権代金:13,735,748,210円
工作物代金:20,948,891,900円
合計代金:64,182,025,500円
なお、旧京葉線の構造物は東京テレポート駅以西の第二期区間にもまたがっているが、第一期区間の着工時に購入したのは13号地立坑までで、それ以外については第二期区間の計画確定時に改めて売買契約を結んでいる。
旧京葉線構造物の購入に関する協議は1991年8月から開始され、1992年3月25日に売買契約が成立し、新規建設区間とあわせ工事が開始された。工事は新木場駅が京葉線を運行するJR東日本と地下鉄有楽町線を運行する帝都高速度交通営団に委託した以外は全て鉄建公団が担当した。
なお、ここでは敢えて触れないが、貨物線の線路規格についてある程度詳しい方や前回の記事に掲載した図をよくご覧になった方であれば、上に掲げた断面図からが京葉線の構造物を流用した部分とりんかい線用として最初から建設された部分の判別※2ができるかもしれない。
では、次回以降は各構造物の概要と現地調査の結果を解説しながら京葉線の構造物とりんかい線の関係を探っていくこととしたい。
▼脚注
※2 ヒント:一般に貨物線のこう配の上限は登坂能力の関係上10パーミルとなっている。
(つづく)
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