カテゴリ:鉄道:建設・工事
常磐線利根川橋梁架け替え工事(2011年9月18日取材)
公開日:2011年12月05日20:38

常磐快速線天王台~取手間にある利根川橋梁では現在老朽化した橋を架け替える事業が進められています。昨年9月にこの事業について文献調査と現地調査を行いましたが、それから1年が経過したため今年9月に再度現地を訪問してまいりましたのでその状況をお伝えいたします。
■常磐線利根川橋梁の現状と架け替えの概要

1989年の常磐線利根川橋梁の航空写真。上側の橋梁が架け替え対象の快速線。右が取手駅方向。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋
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現在の常磐快速線利根川橋梁(全長964m)は1958(昭和33)~1963(昭和38)年に利根川の治水事業に伴い架け替えられた4代目のものです。このうち、上り線の橋梁の中央を成すトラス橋は1920(大正9)年に架設された物を補強・流用したもので、製作されてから実に90年以上もの年月が経過しています。このため橋桁には腐食や疲労亀裂など老朽化による損傷が多数発生しており、発見されるたびに補修が繰り返されてきました。また、高水敷(河川敷)に架かるガーター橋の橋脚は原地盤に直接基礎を置く形となっており、完成以来沈下が続いているほか、大規模地震時の液状化による橋梁全体の倒壊が懸念されています。(なお、今年3月の東日本大震災では近隣の我孫子市布佐地区で118棟が全壊する大規模な液状化現象が発生したが、本橋梁は幸いなことに傾斜・倒壊などの事態は免れている。)この対応策としてJR東日本ではこの常磐線利根川橋梁を全面的に架け替えることとし、2009(平成21)年11月から工事が開始されています。

新橋梁の位置
新橋梁は隣接する緩行線の橋梁と現在の橋梁の間に架設されます。新橋梁の橋桁は緩行線と同じ上下線が一体となった複線トラス橋で、騒音防止と強風対策のため閉床式(有道床)桁となる計画です。橋脚は隣接する緩行線との間隔が狭いことから川の流れを阻害しないよう緩行線の橋脚と流路方向に対して同一線上に並ぶような配置とし、個数は緩行線より3径間少ない9径間とされました。なお、新橋梁の予定地は明治時代の橋梁があった場所で地中にはその基礎の一部が残存していますが、河川内で作業ができるのは渇水期となる11~5月の7ヶ月間しかないため、基礎杭や掘削用の土留壁(矢板)の配置を工夫し、残存物の撤去量が最小限となるよう配慮されています。新橋梁と既存の線路を接続する両側のアプローチ部分は上野側が盛土+高架橋を新設、土浦側が既存の盛土を改良することになっており、特急列車でも速度制限がかからないよう130km/hで走行可能な線形となる計画です。
工事のスケジュールは2009(平成21)年から延べ10年間で予定されており、具体的には以下のようになっています。
2009年4月~:準備工事(完了)
2009年11月~2010年5月(第1渇水期):橋脚施工(完了)
2010年5月~:上野方アプローチ部分の建設開始(2012年11月まで)(進行中)
2010年11月~2011年5月(第2渇水期):橋脚施工+高水敷の橋梁架設(橋脚完成部分)(完了)
2011年11月~2012年5月(第3渇水期):高水敷の橋梁架設(進行中)
2012年2月~:軌道敷設・電気設備施工(完成した部分から)
2012年5月~2013年3月(出水期):・低水敷の橋梁架設(トラベラークレーン使用)
2013年秋:上り線切替
2014年秋:下り線切替
切替~2019年:旧橋梁撤去
なお、この常磐線利根川橋梁架け替えについては今年初めに作成した記事でより詳しく解説しておりますので、そちらもあわせてご覧ください。
▼関連記事
常磐線利根川橋梁架け替え工事(2010年9月5日取材)(2011年1月12日作成)
■2011年9月18日の状況

北側を通る国道6号線大利根橋から見た常磐線利根川橋梁
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2009(平成21)年11月の着工以後、工事は順調に進められており昨年9月訪問時は上野方半分の橋脚が完成した状態となっていました。その後は東日本大震災の発生などがあったものの、工事に大幅な遅延は生じていない模様で今回訪問時は当初の予定通り上野方の高水敷(河川敷)部分のトラス橋の架設が完了し、残りの部分も橋脚の構築が完了し、11月の渇水期の到来を待っている状態でした。

国道6号線大利根橋から架設が完了した上野方のトラス橋を見る。手前のE531系は上り列車。
上野方の高水敷部分は昨年訪問時点で既に橋脚が全て完成しており、今回訪問時はその上に複線幅のトラス橋が架設されていました。トラス橋は隣にある緩行線のものが低水敷~高水敷の間で3段階に高さが変化しているのに対し、今回新設された快速線の新しいトラス橋は全長に渡り同じ高さとなる模様で、両者を比較すると後者のほうがかなり縦長の断面となっているのがわかります。


左:緩行線の列車内から見た橋脚
右:大利根橋から見た橋脚。中央が新橋梁の物で、奥の緩行線と物と同一線上にあることがわかる。
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一方、橋脚のほうも前回未着工だった取手駅側の高水敷部分まで全て構築が完了していました。構築が完了した橋脚を横から見ると、当初計画どおり隣にある緩行線の橋脚と川の流路方向に向かって同一線上に配置されているのが確認できます。橋脚の形状は快速線の現橋梁や緩行線の橋梁が上部で円錐を逆さにしたような形状で断面が大きくなるのに対し、今回構築された快速線の新橋梁のものは高さに関係なく同一断面となっており、構造の簡素化が図られていることがわかります。


左:前回訪問時に取手側の河川敷から新橋梁の予定地を見たところ。
右:今回訪問時の同じ場所。手前側にも橋脚ができ、奥にはトラス橋が姿を現した。
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こちらは取手駅側の高水敷(河川敷)から新橋梁の予定地を見たところで左が前回訪問時(2010年9月5日)、右が今回訪問時(2011年9月18日)の様子です。前回訪問時は河道を挟んだ対岸でしか完成していなかった橋脚が手前側でも完成していることがわかります。また、前回橋脚が出来上がった河道の対岸の橋脚上にはトラス橋が載せられたことがわかります。本記事作成時はすでに第3渇水期(2011年11月~2012年5月)に入っているため、予定通り工事が再開されていれば現在はさらに手前に向かってトラスの架設が進んでいるものと思われます。


左:前回訪問時の取手側の新橋梁予定地の堤防。特に何も作業は行われていなかった。
右:今回訪問時の同じ場所。コンクリート製の橋台が埋め込まれた。
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こちらは同じ場所で後ろに振り返ったところで、左の快速線の現橋梁と右の緩行線の橋梁の間の堤防に新橋梁の橋台が構築される場所です。左が前回訪問時、右が今回訪問時の様子でこの1年の間にコンクリート製の橋台が構築され完成したことがわかります。先述の橋脚の写真と比べて右側の緩行線との間隔が狭くなっていますが、これは緩行線の線路が取手駅に入るため快速線に向かって近づいているためです。
ちなみに、本記事作成(2011年12月5日)時点のGoogleマップの航空写真には取手側の高水敷で橋脚と橋台の構築作業が進められている様子が写っています。→こちら


左:前回訪問時に取手駅(3・4番線ホーム)から上野方を見たところ。工事の状況はまだ確認できない。
右:今回訪問時の同じ場所。左の緩行線と右の快速線の間に新橋梁のトラスが出現した。
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最後に取手駅のホーム(3・4番線)から橋梁を見た様子です。前回は橋脚しか完成していなかったため、駅のホームから工事の様子をうかがうことはできませんでしたが、今回は快速線・緩行線の隙間の遠方にトラス橋が架設されつつあることが確認できました。写真の通り、新橋梁は快速線の上り本線(3番線)の真正面に位置しており、完成後は現在とは異なり上り線が直線に近い形で橋梁へ向かい、下り線がS字にカーブしながら橋梁へ進むことがわかります。また、右に見える両渡り線は4・5番線で折り返す列車が使用しているものですが、この配置のままでは下り本線と新橋梁が滑らかなカーブで接続できないため、新橋梁完成時には現在と比べ大幅に線路配置が変化することが予測できます。
▼参考
吉川・滝澤・水野・土屋 - 常磐線利根川橋梁改良(計画) - 日本鉄道施設協会誌2010年7月号50~52ページ
常磐快速線利根川橋りょう改良その1工事を受注 - 東鉄工業株式会社トピックス(PDF)
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常磐線利根川橋梁架け替え工事(2010年9月5日取材)(2011年1月12日作成)
去る2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では千葉県から青森県にかけての太平洋沿岸が地震と直後に到来した大津波により未曾有の被害を受けました。その被害は常磐線も例外ではなく、福島県内では線路や駅が完全に流失した箇所も存在し、集落ごと内陸部へ移設することも含め検討が続けられています。また、常磐線の近傍にある東京電力福島第一原子力発電所で発生した事故は未だに収束が叶っておらず、常磐線を取り巻く状況は依然として未確定要素が多く存在します。そうした中でもJR東日本は常磐線について「責任を持って復旧させる」との社長の言葉通り着実に復旧作業を進め、現在は福島第一原発の警戒区域を除くほとんどの区間で運転を再開し、被災地復興に向けた足としての重要な機能を担っています。
常磐線の新しい利根川橋梁が完成するのは3年後の2014年秋の予定です。架け替え工事完成により震災復興の主役としての常磐線の機能がさらに強化されることを期待いたします。
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