東京駅再開発の状況2011年

建設が進むJPタワーと復原が進む丸の内赤レンガ駅舎
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東京駅では来年の完成を目指して丸の内口赤レンガ駅舎の保存・復原と八重洲口の再開発事業が行われています。当ブログでは着工当時からこの事業に加え、駅周辺での民間の再開発事業について随時お伝えしていますが、昨年の取材から1年以上が経過したため今年3月と10月に再度取材を行いました。今回は9月にJR東日本より発表された完成後の施設概要なども含め、この東京駅と周辺の再開発事業の現状についてお伝えいたします。

■震災被災地の材料が使われた丸の内口赤レンガ駅舎の保存・復原工事

復原工事着工前の丸の内北口の赤レンガ駅舎。 現在の丸の内赤レンガ駅舎。頂部の足場が外され、復原されたドーム屋根が姿を現した。
左:復原工事着工前の丸の内北口の赤レンガ駅舎。2007年5月26日撮影
右:現在の駅舎。頂部の足場が外され、復原されたドーム屋根が姿を現した。2011年10月9日撮影

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東京駅丸の内口に建つ赤レンガ駅舎は太平洋戦争中の空襲により3階部分が焼失し、戦後は八角形の暫定的な構造で復旧が行われていました。その後は幾度か解体の危機に瀕しましたが、市民団体などによる熱心な保存活動が行われ、日本の中央駅のシンボルとしての形を今日まで残してきました。2007(平成19)年からは空襲被害で失われた部分を再構築し創建当時の姿に復原する工事が進められています。この工事では外観を創建当時の状態に戻すのみならず、駅舎内部の壁面・天井などの装飾類についても創建当時の写真などを元に可能な限り再現される計画となっており、現在は構造体の再構築が一通り完了したためこれらの装飾類を試作品を用いながら製作・設置する作業が進められています。また、この東京駅赤レンガ駅舎は国の重要文化財にも指定されていることから、恒久的にその形を保存・維持するため復原工事と並行して基礎へ免震装置を組み込む工事も行われており、こちらは今年11月に全ての装置の組み込みが完了しています。この赤レンガ駅舎では免震装置組み込みに合わせて地下階が新設されることになっており、駅施設や駐車場などに利用される計画です。
赤レンガ駅舎の復原工事の最終的な完成は来年10月の予定となっています。駅舎内の施設の完成時期と施設の概要は以下の通りです。

●駅施設(2012年6月開業予定)
駅舎は3階部分が再構築され、北口・南口のドーム屋根も復原される。また、北口・南口ドーム内には創建当時存在した花飾り、鷲、干支などのレリーフなどが再現される。なお、2012年の完成後は依然と同じく夜間は駅舎全体がライトアップされる。

●JR EAST Travel Service Center(2012年10月1日開業予定)
外国人向けの旅行カウンター(乗車券類の発券業務)・観光案内所・外貨両替所・ATMなどが設置される。

●東京ステーションギャラリー(2012年10月1日開業予定)
復原工事着工前にも存在した施設。「小さくとも本格的な美術館」をコンセプトとし、展示室は2階が創建当時の赤レンガの壁面を生かした内装、3階は現代的な内装で仕上げ、順路の途中では駅構内が見えるようにし、90年を超える東京駅の歴史の移り変わりを肌で感じることができるデザインとする。

●東京ステーションホテル(2012年10月3日開業予定)
復原工事着工前にも存在した施設。内装はヨーロピアン・クラシックスタイルの駅舎外観と調和した重厚感のあるデザインとし、駅の喧騒を忘れさせる落ち着いた空間を提供する。また、現代で求められる情報化(インターネット接続サービス)などにも対応する。客室数は150(ツイン86室、ダブル64室)。

丸の内南口はドーム脇の足場が取り外され、側面の一部が見えていた。屋根の黒い部分がスレートで、その一部は東日本大震災で被災したものも含まれている。



丸の内南口はドーム脇の足場が取り外され、側面の一部が見えていた。屋根の黒い部分がスレートで、その一部は東日本大震災で被災したものも含まれている。2011年10月9日撮影

今年10月訪問時点では赤レンガ駅舎の構造体の工事はおおむね完了して足場が一部取り外されており、復原された屋根や壁面の一部を見ることができました。この復原された屋根のうち、黒い部分は約45万枚の天然スレート板を敷き詰めて造られているもので、その一部には東日本大震災で被災した宮城県石巻市産のものが含まれています。この石巻市産のスレート板の使用に関しては今年4月にその可否を巡って大きな話題となったことで記憶に新しいかと思います。
当初、この赤レンガ駅舎の復原にでは元々ある素材を可能な限り使うということを大きな方針としており、屋根についても着工前の八角形屋根にあったスレート板をそのまま使うこととなっていました。再使用にあたっては傷み具合のチェックや汚れの洗浄が必要であったため、工事に伴い取り外された20万枚のスレート板は2009(平成21)年に産地である石巻市の「熊谷産業」に運ばれ、調査・洗浄が行われたものから順次納品が行われていました。しかし、今年3月11日の東日本大震災で石巻市は大津波に襲われ、出荷直前だった6万5千枚のスレート板も壊滅的な被害を受けました。熊谷産業では津波で流出したスレート板のうち4万5千枚を手作業で回収したものの、工事業者は塩害を懸念して一旦スペイン産のスレート板を使用することを決定してしまいます。ここで待ったをかけたのが赤レンガ駅舎の保存について以前から熱心な活動を展開していた市民団体「赤レンガの東京駅を愛する市民の会」です。市民団体ではJR東日本に対し石巻産のスレート板の使用を求めて約6千名に及ぶ署名を提出し、これを受けたJR東日本は現地で回収・洗浄に成功したスレート板の調査を行いました。その結果4万枚が使用可能と判断され、これらのスレート板は晴れて当初予定通り復原後の赤レンガ駅舎に使用されることが決定したのです。(不足する分は被災を免れた宮城県登米市やスペイン産のものを使用した。)

▼脚注
※スレート:粘板岩。書道で使う硯(すずり)にも使われる材料。

■八重洲口再開発は最終段階へ

グランルーフ・ノースタワー第2期工事着工前の八重洲口。
グランルーフ・ノースタワー第2期工事着工前の八重洲口。2011年3月6日撮影

八重洲口では12階建ての鉄道会館ビル(大丸百貨店東京店旧店舗)を地上42~43階建ての高層ビル2棟と歩行者デッキに建て替える工事が行われています。このうち、高層ビル2棟(「グラントウキョウサウスタワー」「グラントウキョウノースタワー」)は2007(平成19)年10月に完成し、大丸東京店も2008(平成20)年に「ノースタワー」の低層部分へ移転が完了しています。大丸東京店の移転完了後は鉄道会館ビルの解体が進められ、昨年末にはほぼ工事が完了しました。今年に入ってからは「ノースタワー」の第2期工事(南側の増床部分)と歩行者用デッキ「グランルーフ」の建設が続けられています。各施設の概要と完成時期は以下の通りです。

●グラントウキョウノースタワー第2期工事(2012年8月完成予定)
地上13階、地下3階の構造で、全て大丸東京店の増床スペースに充てられる。これにより、大丸東京店の床面積は現在の3万4千平方メートルから4万6千平方メートルに約1.4倍拡張される。

●グランルーフ(2013年秋完成予定)
地上4階・地下3階構造の歩行者用デッキで、「ノースタワー」「サウスタワー」と駅施設の3つを接続するとともに、デッキの下にはバスターミナル・タクシー乗り場の拡張スペースに充てられる。これにより、以前は事実上飽和状態となっていた駅前広場が拡張され、交通結節機能が大幅に強化されることになります。

建設が進む「ノースタワー」増床部分と「グランルーフ」。
建設が進む「ノースタワー」増床部分と「グランルーフ」。2011年10月9日撮影
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今年10月訪問時点では「ノースタワー」の増床部分はおおむね骨組みが出来上がっており、2か月経過した現在は外壁の取り付けや内装工事が開始されているものと思われます。また、グランルーフについても南側の一部は既に膜屋根の取り付けまで完了しており、現在は北側へさらに工事が進んでいるものと思われます。

■JPタワーの建設も順調に進行中

東京中央郵便局旧局舎の背後で建設が進むJPタワー。 2011年10月9日に撮影したJPタワー。
左:東京中央郵便局旧局舎の背後で建設が進むJPタワー。2011年3月6日撮影
右:2011年10月9日に撮影したJPタワー。

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駅本体の再開発とは別に駅前に建つ民間ビルでもここ数年再開発ラッシュが続いており、現在は丸の内南口前にある東京中央郵便局の高層化(「JPタワー」建設)が進行中です。昨年5月に日本郵政グループから発表された内容によると、このJPタワーは地上37階建ての高層棟と地上6階建ての低層棟の2つで構成されており、高層棟の8~37階は賃貸オフィス、低層棟は国際ビジネス・観光・文化など様々な交流施設として活用される計画となっています。東京駅に面した側は1931(昭和6)年に建設された旧局舎を一部残した形となっており、歴史的建築物の保存・活用が図られる計画です。また、地下1階・地上1階の吹き抜けは南北方向に通り抜け可能な構造とし、東京駅と有楽町駅を結ぶ新たなルートとして一般に開放される予定となっています。
今年10月訪問時点ではJPタワーの建設が順調に進んでおり、3月訪問時と比べても建物が高くなっていることが確認できました。一方、その手前にある旧局舎の建物は昨年訪問時に駅に面した屈曲部の一部が解体されているのを確認していますが、今回訪問時はこの部分も含め仮設の壁で覆われており、内部の状態は見ることができませんでした。一時は政治問題にも発展した物件なだけに、どのような形で保存・活用されるのか大いに気になるところです。

▼参考
東京駅が街になる Tokyo Station City
鹿島:東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事の着工について - JR東日本(PDF・2007年5月8日発表)
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事及び八重洲口開発第2期工事について - JR東日本(PDF・2011年9月6日発表)
asahi.com(朝日新聞社):東京駅の屋根材も津波被害 スレート、石巻で補修中に - 社会
東京駅屋根に「被災スレート」…宮城産4万枚 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
「JPタワー(仮称)」の計画概要について - 日本郵政(2010年5月28日発表)

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