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第一期区間開業と第二期区間の計画 - りんかい線東臨トンネル(12)
公開日:2011年12月16日22:49

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前回の記事でりんかい線の第一期区間の施設の特徴について一通りの解説が終了した。今回はりんかい線の第一期開業後の状況と、続く第二期区間の計画についてその歴史や概要について眺めることとしたい。
臨海副都心線第一期区間開業と世界都市博覧会中止
▼参考
(1)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 1~3ページ
(2)首都圏における新線開業 5、東京臨海高速鉄道臨海副都心線 - 日本鉄道施設協会誌1996年9月号20~31ページ
(3)東京都港湾局 臨海副都心まちづくり推進計画
(4)後悔だけは避けられた : 都市博中止が臨海副都心に与えた影響(建築界の動向と展望) - 建築雑誌.建築年報1996年9月(リンク先CiNii)

お台場海浜公園から見たレインボーブリッジ。臨海副都心で当初計画通り完成した数少ない建築物の1つ。2007年12月1日撮影
臨海副都心線の第一期区間である新木場~東京テレポート間4.9kmは1996(平成8)年3月30日に開業した。当時の臨海副都心は有明コロシアムや東京ビッグサイトなどがある以外は一面の更地で、臨海副都心線は全列車が4両編成、1日の利用者数は1万5千人程度にとどまるなど、今ではおおよそ信じ難い文字通り「都会の中のローカル線」と化していた。この傾向は同時期に開業した新交通ゆりかもめも同じであったが、臨海副都心線は東京都心から離れた新木場駅にしか接続していない分利用者の少なさはより顕著であった。
この超閑散状態は開業後まもなく開催される予定だった世界都市博覧会(以下、都市博)により解消される“はず”だった。だが、臨海副都心線の開業前年の4月に行われた都知事選で都市博中止を公約に掲げた青島幸男知事が170万票という圧倒的得票数で当選を果たし、就任翌月には公約通り都市博中止を決定してしまった。
この都市博中止により臨海副都心の開発計画は大幅な見直しを余儀なくされた。見直し後の計画は臨海副都心自体が東京のビジネスの中心として機能するのではなく、新興産業(ベンチャー企業)の育成や都民のレクリエーションの場として機能することを主眼としたもので、一言で言えば立ち位置を「メイン」から「サブ」に転換したものである。これにあわせ、居住人口を4万2千人、就業人口を7万人にそれぞれ35%削減し、インフラの完成時期も数年ずつ延期されている。また、開発計画は名目上10年スパンの割り振りとしているが、5年ごとに必要に応じて計画を柔軟に見直し、その都度予算計画を立てることとした。これは当初の計画が年月の経過とともに経済情勢とどんどん乖離し、最終的に計画全てが破綻し、投資も無駄になるという最悪の結末を迎えたことに対する反省である。以下は都市博中止決定後の1996(平成8)年7月に都議会・都民の意見・提案を元に策定された臨海副都心の新しい開発計画、「臨海副都心開発の基本方針」の一部である。
「臨海副都心開発の基本方針」に盛り込まれた開発計画(参考資料(3)による) 画像版
年度 | ~1995年度 | ~2005年度 | ~2015年度 |
開発 内容 | 都市活動の開始に必要な基盤と戦略的拠点を整備し、街づくりが始動する。 台場地区は街が完成する。 | 交通アクセス充実が図られる。 有明北地区の埋め立てが完成する。 有明南地区の街が完成する。 | 都市基盤の整備が完了するとともに広域交通基盤の整備が完成する。 青海地区・有明北地区の街が完成する。 |
主な 施設 | レインボーブリッジ(1993年) 新交通ゆりかもめ (新橋~有明・1995年) 臨海副都心線(新木場~ 東京テレポート・1996年) 東京ビッグサイト(1995年) テレコムセンター(同上) | 臨海副都心線延伸 (東京テレポート~大崎 ・2000年) 新交通ゆりかもめ延伸 (有明~豊洲・2005年) 放射34号線(晴海通り)拡幅・延伸 環状2号線・補助315号線 (新交通ゆりかもめの延伸に 必要な区間) 有明北地区の埋め立て造成 | 環状2号線延伸(新橋~有明) 補助314号線 補助315号線 (豊洲~有明2丁目) |
この都市博中止と臨海副都心開発計画の大幅変更は京葉線時代から通算して3度目の危機であり、臨海副都心線の存在意義そのものを脅かしかねない“大事件”であった。上記の通り、臨海副都心線の第二期区間は建設の中止という事態は免れたものの、後述する通り少なからず影響を受けている。
第二期区間のルート選定
▼参考
(5)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 3~19・46~50ページ
臨海副都心線の第二期区間の計画の推移を見る前に、「そもそも第二期区間とはどういうものなのか?」ということをその決定の経緯を交えながら解説することとしたい。
臨海副都心線は1989(平成元)年の計画策定当初より西側の終点を大崎駅とすることが確定していた。東京テレポート駅以西については完成していた京葉線用のトンネルで東京港をくぐり、品川埠頭から先は新たにトンネルを建設して大崎駅を目指すこととなった。この区間のルートは1989(平成元)~1990(平成2)年にかけて検討が行われている。ルート選定は
1、施工済みの京葉線の構造物を極力活用する
2、道路下を活用して民有地の買収を最小限とする
3、大崎駅で他線(湘南新宿ライン)と相互直通運転を可能にする
4、中間駅で他鉄道駅との乗り換えの利便性を向上する
5、将来の鶴見方面への延伸の可能性を残す
の5つをポイントとし、コスト削減、工期短縮、鉄道ネットワークの拡大などを重点的に考慮することとした。この結果考えられたのが以下の6つのルート案である。
りんかい線第二期区間計画ルート - Googleマイマップ
1:環6Aルート(黄色の線)
距離/所要時間:10.2km/12分
接続駅:京急新馬場駅
総工費:2140億円
特徴:大崎駅までの所要時間がもっとも短いが、京急新馬場駅とは距離があり乗り換えに時間がかかる。また、目黒川の地下には首都高速中央環状品川線の計画があり、民有地の買収区間が850mと長い。また、大崎駅の直前で合流するため構内配線の関係上直通運転が制限される。
2:環6Bルート(橙色の線)
距離/所要時間:11.1km/13分
接続駅:京急新馬場駅
総工費:2330億円
特徴:京急新馬場駅までは環6Bルートと同一で、そこから先は大きく南を迂回して大崎駅に至る。民有地の買収区間が6案の中で最長の1.2kmに及び、交差する山手電車区・大井工場(現・東京総合車両センター)の受け替えなど難工事となることが予想される。
3:補26ルート(青色の線)
距離/所要時間:12.2km/15分
接続駅:JR/東急大井町駅
総工費:2160億円
特徴:完成済みの京葉線の構造物を多く活用するルート。大井埠頭~大井町駅は整備中の補助26号線の下を利用するため民有地の買収が少なくて済むほか、沿線に再開発計画が複数存在するなど都市開発に与えるインパクトも大きい。また、大井町駅ではJR・東急の駅と近接して駅を設置できるため乗り換えの利便性が高い。
4:補160ルート(赤色の線)
距離/所要時間:12.2km/15分
接続駅:JR/東急大井町駅
総工費:2370億円
特徴:天王洲通り・補助26号線の下を利用して大井町駅へ向かうルート。急カーブが少なく高速運転には適するが、民有地の買収区間が500mと長く補26ルートと比較して京葉線の構造物約1kmが活用できずコストがかさむ。沿線では複数の再開発計画があり都市計画に与えるインパクトは大きい。
5:補146ルート(緑色の線)
距離/所要時間:12.1km/15分
接続駅:JR/東急大井町駅
総工費:2390億円
特徴:海岸通り・補助26号線の下を利用して大井町駅に向かうルート。補160ルートと同じく急カーブが少ないが、民有地の買収区間が約1kmと長く、京葉線の構造物の活用区間が短いため6案の中で最もコストがかさむ。
6:補28ルート(水色の線)
距離/所要時間:12.0km/14分
接続駅:京急青物横丁駅・JR/東急大井町駅
総工費:2330億円
特徴:完成済みの京葉線が大井埠頭に入る地点から分岐し、京急青物横丁駅駅付近を通る補助28号線の下を利用して大井町駅に向かうルート。大井埠頭付近では京葉線の構造物が浅いところを通るため、トンネルを浅いところに建設することになり交差する東京モノレールや首都高速1号羽田線の大規模な改修が必要。また、補助28号線は拡幅が未着手であり、急カーブが連続するため高速運転の妨げになる。
これら6つの案を検討した結果、線形・他路線との接続・都市開発計画との兼ね合いなどから補26ルートと補160ルートが有力視された。1991年以降は交差する構造物(計画を含む)を含めた検討が続けられたが、第二期区間の開業時期が2000(平成12)年12月に設定され、鉄道事業免許の申請を行うタイムリミットを迎えたことから1994(平成6)年に補160ルートを基本に建設を進めることが決定された。臨海副都心線第二期区間の第一種鉄道事業免許は1994(平成6)年3月29日に申請が行われ、同年5月12日に免許を取得した。
第二期区間の建設計画と推移
▼参考
(5)臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 3~19・46~50ページ
このように臨海副都心線の第二期区間(東京テレポート~大崎)の完成時期は2000年12月とされており、第一期区間の開業延期時もこの数字は据え置かれた。これは2000年の開業を前提に臨海副都心線の整備費用の一部を進出企業が拠出しているためである。これに間に合わせるため工事に必要な施工認可の申請は1995年4月に行われた。しかし、その直後に前述の都市博中止が決定し、臨海副都心線の取り扱いも未定の状態となったため一旦提出した施工認可の申請も取り下げを余儀なくされた。7ヶ月の凍結の後11月に再度施工認可申請を行い、12月に認可が下りたが第一期区間の開業延期に加え、この半年間の凍結はあまりにも大きな痛手であり、2000年12月の第二期区間開業は絶望的となってしまった。
これを受け、東京都・東京臨海高速鉄道・鉄建公団の三者では1996(平成8)年~1998(平成10)年の2年間にわたり協議会を設置し、工期短縮の可能性を探るため(工費の増大を承知の上で)工法を変更することや関係機関との綿密な協議を続け、「天王洲アイル駅までを2001(平成13)年6月に暫定開業、2002(平成14)年12月に全線開業が可能である」という結果を報告した。しかし、この頃になると低調だったとはいえ見直し後の臨海副都心開発も進展の兆しを見せ始めており、都の港湾局からさらなる開業時期の前倒しについて強力な要請を受けることとなった。このため、三者で更なる検討を重ねた結果、天王洲アイル駅までの暫定開業を2001年3月まで早めることが可能であると判断し、翌1999(平成11)年2月8日に第二期区間の開業時期について東京都が正式に発表した。なお、第二期区間の全線開業まで不足する輸送力については新交通ゆりかもめやバス路線の増発で凌ぐこととした。
<臨海副都心線第二期区間の建設に関する年表>
1994年5月 第二期区間(東京テレポート~大崎)の第一種鉄道事業免許取得
1995年5月 工事施工認可申請(都市博中止に伴い取り下げ)
1995年5月 青島都知事が都市博中止を決定
1995年11月 工事施工認可再申請
1995年12月 工事施工認可
(1996年3月 第一期区間開業)
1996年2月 鉄建公団に対し建設の指示(鉄建公団民鉄線工事、いわゆる「公団P線」)
1996年110月 着工
2001年3月 東京テレポート~天王洲アイル間暫定開業
2002年12月 天王洲アイル~大崎間全線開業、JR埼京線と相互直通運転を開始
<臨海副都心線第二期区間に関する東京都との協議結果>
1996年7月 東京都の瀬田副知事が鉄建公団総裁に早期完成を陳情。都・東京臨海高速鉄道・公団の三者協議会設置。
1997年2月 三者の間で工法変更・工費増額の確認書を締結
1997年4月 総裁が副知事に検討結果を報告
1997年9月 都が工期短縮案の検討要請(大井町通過を含む4案)
1997年11月 都の案に対し検討結果を報告
1997年11月 都が目標工期を提案
1998年12月 都の提案の検討結果(暫定開業を検討)を報告
1998年1月 暫定開業の検討結果を報告(全線:2002年12月、暫定:2001年6月)
1998年7月 東京都と都港湾局が工期短縮を強く要請(全線:2002年9月、暫定:2001年3月)
都に検討結果を報告(全線:2002年度中、暫定:2001年度初め)
副知事が暫定開業を2000年度内、全線開業を2002年の早い時期にするよう要望
1999年2月 東京都が臨海副都心線の開業時期を公表(全線:2002年12月、暫定:2000年度末)

臨海副都心線第二期区間の断面図
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臨海副都心線の第二期区間は第一期区間とは異なり既成の都市の中を通るため、既存の地下構造物を避けてトンネルが深い位置に設置されることとなった。また、品川シーサイド駅以西は地上の道路幅が狭いため上下線のトンネルを二段に重ね、大井町駅についてはホーム・線路部分のトンネルをシールド工法で建設するなど可能な限り工期を短縮するための工夫が随所に見られる。各構造物の名称と位置(新木場駅起点のキロ程)は以下の通り。
東京テレポート駅 4km795m~5km005m(中心 4km900m)
台場第3トンネル 5km005m~5km960m
(13号地立坑 5km972m)
台場第4トンネル 5km972m~6km805m
品川埠頭トンネル 6km805m~7km071m(6km845mより車庫線(八潮トンネル)が分岐)
天王洲トンネル 7km071m~7km652m
天王洲アイル駅 7km652m~7km872m(中心 7km770m)
東品川トンネル 7km872m~8km856m
品川シーサイド駅 8km856m~9km076m(中心 8km970m)
東大井トンネル 9km076m~10km400m
大井町駅 10km400m~10km831m(中心 10km550m)
(広町立坑 10km822m 工事終了後閉鎖)
第1広町トンネル 10km852m~11km082m
(第2広町立坑 11km085m)
第2広町トンネル 11km095m~11km513m
(東臨トンネル大崎側坑口 11km513m)
大崎駅 (中心 12km246m)
この第二期区間の工事は第一期区間と同様基本的には鉄建公団が担当しているが、大崎駅構内にかかる終端500mの区間はJR東日本の営業中の区域となることから、東京臨海高速鉄道の自社工事とし、同社がJR東日本東京工事事務所に工事を委託している。
また、第二期区間の全長7.1kmの本線うち第一期開業時に取得済みの区間を除く新木場側1.0kmと品川埠頭トンネル内で分岐する車庫線(八潮トンネル)2.8kmは第一期区間と同様、京葉線用として建設された構造物を国鉄清算事業団から購入したものである。この区間には海底トンネルが含まれており、未成線ということで長期間放置されていたことから、臨海副都心線への流用に当たっては健全度調査や補修工事が必要であり、売却に先立つ1995(平成7)年に鉄道総合技術研究所により詳細な調査が行われた。この結果、比較的傷みが少ないと判断された新木場側1.7kmを1995(平成7)年度に、残りの2.1kmを1996(平成8)年度にそれぞれ取得している。購入費用の総額は以下の通り。
<旧京葉線構造物の購入費用(第2期区間)>
土地及び地上権代金:24,817,883,930円
工作物代金:12,308,639,910円
合計代金:37,126,523,840円
臨海副都心線第二期区間の総工費は当初この既設構造物の購入費用を含めた約2192億円で認可を受けた。しかし、工事途上で品川シーサイド駅付近で伏流水が見つかり対策が必要となったことや、前述の通り工期短縮のため大井町駅付近を中心に工法を変更したことから、1998(平成10)年に総工費を約442億円増しの約2634億円に改定した。
次回以降はこの第二期区間の各構造物の特徴と現地調査の結果について順次解説することとしたい。
(つづく)
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