カテゴリ:鉄道:建設・工事
事業の概要と2011年3月6日の線路切替 - 浦和駅高架化工事(1)
公開日:2011年12月26日23:53

東北本線の浦和駅では現在線路の高架化工事が行われています。当ブログでは2008年2月と2010年2月にこの事業について取材しましたが、それから1年以上が経過したため今年3月と10月に再度取材を行いました。今回はまず事業の概要と今年3月6日に行われた東北旅客線下り線の切替工事に伴う運転変更の模様をお伝えいたします。
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浦和駅高架化工事 (2008年3月5日作成)
浦和駅高架化工事(2010年2月6日取材)(2010年2月24日作成)
■東北本線浦和駅高架化工事の経緯
浦和駅が現在の3複線の形態になったのは1968(昭和43)年10月1日に行われた国鉄の全国一斉白紙ダイヤ改正(通称「ヨンサントオ」)の時です。この3複線化では当時の浦和市の強い要請を受け、東北旅客線(列車線)にホームが増設されることになりましたが、当時の浦和駅では既に西口駅前広場新設の都市計画があり、用地が不足したため西側に存在した貨物駅の撤去跡などを利用してホームが建設されています。また、貨物駅跡地をホーム増設に当てた結果、西口側は駅舎の設置スペースが不足したため、3複線化で増設される貨物線のみを高架化してその下に駅施設を収容することとしました。3複線すべてが高架構造とならなかったのは当時の国鉄の経営悪化や建設技術の未発達によるものと考えられます。
以後30年間、浦和駅の構造は大きく変化することなく推移しましたが、線路の大半が地平を通っているため、東西方向の連絡が駅両側にある狭い地下道に限られた結果、駅の東西で開発状況にばらつきが見られるようになりました。このため、さいたま市に合併される前の浦和市時代より浦和駅の高架化と東西自由通路の設置、さらに駅前の大規模再開発や南側を通る都市計画道路田島大牧線(県道さいたま草加線)の4車線化などが検討されてきました。しかし、この区間は1968年の3複線化時点で踏切が全廃されており、高架化の補助対象である連続立体交差事業に該当しないことから、地方自治体(埼玉県・浦和市)や鉄道事業者の費用負担が高額となるためこれまで着手できない状態が続いていました。


左:京浜東北線南行の高架化が完了した頃の浦和駅。他の線路はまだ地上にある。
右:駅南側で拡幅中の都市計画道路田島大牧線。2枚とも2008年2月18日撮影
※クリックで拡大
その後、1996(平成8)年になり都市計画道路田島大牧線の拡幅が国の「限度額立体交差事業」の対象となることが決定し、ようやく駅全体の高架化が決定し、1999(平成11)年11月に埼玉県を事業主体として都市計画決定がなされました。(その後、さいたま市の政令指定都市化に伴い、2003(平成15)年4月に事業主体をさいたま市に委譲。)
また、この事業の着手に当たっては地平となっている京浜東北線・東北旅客線の高架化と都市計画道路田島大牧線の拡幅に加え、浦和市の要請により貨物線(湘南新宿ライン)へのホーム増設が追加されました。ホーム増設に必要な用地の取得は高架化と同時並行で進めていくことにより、事業の効率化を図っています。このホーム増設により浦和駅への湘南新宿ラインの停車が可能となり、新宿・横浜方面への利便性が現在よりも格段に高まることが期待されています。
工事は用地買収に手間取ったため、着工が2005(平成17)年3月まで遅れましたがその後は順調に進捗し、去る2011(平成23)年3月6日には最後まで地上に残っていた東北旅客線下り線の高架化が完成しています。(後述)最終的な完成は2012年度内を予定しています。
▼脚注
※限度額立体交差事業:一般に鉄道と道路の立体交差化は道路側を地下化もしくは陸橋化して行うこととなっているが、費用・地形などの要因により鉄道側の高架化の方が相応しいことがある。このような事業において道路側を立体交差化するときの費用を限度として国庫補助を受けることができるのがこの「限度額立体交差事業」の制度である。(今回のように道路に付属する駅まで高架化する場合は補助額が不足するため、その分は地方自治体などが補填することとなる。)
■浦和駅高架化工事の手順
浦和駅の高架化工事の工事延長は東京起点23km400m~24km720m(駅中心は24km210m)の1320mとなっています。高架化工事は東側(京浜東北線南行側)で新たに用地を買収して1線ずつ高架化することを基本としていますが、駅の上野方は東北旅客線の上下線間に保守機材用の側線があり、これを仮線用地に転用することが可能であったことから、工事に先立って線路を西側に詰めて再配置して高架橋を建設しており、新たな用地買収は発生していません。
なお、高架化着工前の東北旅客線は機関車けん引の列車の設計けん引重量が1350トンのままとなっていましたが、長編成の客車列車や貨物列車が消滅して久しいことから、事業に先立ち設計けん引重量を1150トンに減らす手続きを行い、1999(平成11)年11月に当時の運輸省より認可を受けました。これにより東北旅客線の高架橋の取り付け勾配は貨物線の10パーミルではなく、電車専用線である京浜東北線と同じ19.0~19.5パーミルで建設され、工事延長の削減によるコスト低減を図っています。
高架橋の具体的な建設手順は以下に示します。

1、京浜東北線南行の東側に1線分の高架橋を建設し、京浜東北線南行を高架に切り替える。
(2007年1月完了)

2、空いたスペースにもう1線分の高架橋を建設し、京浜東北線北行を高架に切り替える。
(2008年5月完了)

3、同様の手順で、東北線上りを高架に切り替える。
(2009年12月完了)

4、同様の手順で、東北線下りを高架に切り替える。
(2011年3月完了)

5、さらに空いたスペースに東北貨物線(湘南新宿ライン)用の高架橋を1線分建設し、同上り線をそこに移設する。

6、東北貨物線下りと上りの間にホームを建設して完成。
(2012年度完了予定)
最後の段階である東北貨物線(湘南新宿ライン)へのホーム追加は上り線(南行)専用の高架橋と、ホームの建設が行われることになりますが、この際ホームへの階段を設置するため既設の高架橋を一部取り壊す必要があります。この部分の手順については参照した資料には詳しい記述はなく、どのように進めるのか興味深いところです。
▼参考
小林,有光 - 停車場改良あれこれ-鉄道が街が生まれ変わる-(25)東北本線浦和駅 - 日本鉄道施設協会誌2011年1月号4~8ページ
さいたま市暮らしのガイド - まちづくり・交通 - 浦和区内
■東北旅客線下り線の高架切替工事(2011年3月6日)

2011年3月6日の運転変更の概略図 ※クリックで拡大
最後まで地上に残っていた東北旅客線下り線の高架化切り替え工事は2011(平成23)年3月5日(土)夜から翌6日(日)夕方にかけて行われました。工事に際しては作業の安全を確保するため、一部区間の運休・バス代行を含む大幅な運転変更が実施されました。具体的な運転変更の内容は以下の通りです。
●宇都宮・高崎線
5日23:30頃~終電と6日初電~16:45頃まで赤羽~大宮間を東北貨物線経由で運転。このため、浦和駅・さいたま新都心駅は通過となった。また、湘南新宿ラインを含む一部列車が大宮駅折り返しに変更された。
●京浜東北線
6日初電から10:00頃まで南浦和~北浦和間で区間運休となり、両端の各駅で折り返し運転を行った。南浦和駅以南は通常ダイヤで運転、北浦和~大宮間は15分間隔で運転。南浦和~北浦和間はバスによる代行輸送を行った。
●武蔵野線
6日初電から16:45頃まで大宮駅と武蔵野線を直通する「むさしの号」「しもうさ号」が運休となった。
今回は6日朝の運転変更の様子を実際に取材しました。宇都宮・高崎線と京浜東北線それぞれの状況は以下の通りです。
●宇都宮・高崎線

普段は走行しない貨物線経由で上野へ向かう211系。北浦和駅のホーム端より
今回取材した3月6日朝の時点でも宇都宮・高崎線は赤羽~大宮間で東北貨物線(湘南新宿ラインの線路)経由で運転しており、普段は見られない貨物線の線路を走行する211系を見ることができました。案内上は普段複々線で処理している宇都宮線・高崎線・湘南新宿ラインの列車が全て貨物線経由で運転されるため、相当な過密ダイヤになるように思われましたが、実際は信号システムなどの都合でこれらの列車全てを貨物線に押し込むのは不可能だったらしく、かなりの数の列車が大宮駅で宇都宮・高崎方面に折り返しとなっており列車同士の間隔は普段より少し短い程度にとどまっていました。また、大宮駅では宇都宮・高崎線の列車が浦和駅・さいたま新都心駅を通過することを構内放送などで繰り返し案内していました。


左:大宮駅の発車案内板。浦和・さいたま新都心が通過となる旨の告知文がぶら下げられている。
右:宇都宮・高崎線の列車が転線した川口駅構内の渡り線。(写真は湘南新宿ラインの前面展望のため直進側に開通している。) ※クリックで拡大
今回の運転変更では、宇都宮・高崎線の列車が赤羽~大宮間で貨物線の線路を走行したわけですが、その走行ルートは大宮駅側が湘南新宿ラインで普段使用しているものであるのに対し、赤羽駅側は川口~西川口間にある貨物線・旅客線を接続する渡り線で相互に分岐・合流するという変わったものとなりました。この渡り線は運転上は川口駅構内に含まれており(信号場と同様の扱い)、E231系のTIMS画面などでも普段から通過時刻が表示されています。
●京浜東北線


左:北行の線路を逆走して北浦和駅に到着する京浜東北線E233系
右:北浦和駅の赤羽方はまくらぎと代用手信号(停止現示)が置かれ、封鎖されていた。
※クリックで拡大
京浜東北線は上野駅側が南浦和駅で折り返しが行われたため通常ダイヤを維持できたのに対し、大宮駅側は折り返し設備が無い北浦和駅で折り返しが行われました。このため、北浦和~大宮間の京浜東北線は複線の線路を単線並列として使用し、それぞれの線路に1編成ずつある列車を15分間隔でピストン運行させるという運転方法が用いられました。(この運転方法は1990年代に行われた赤羽駅の高架化工事や過去3回行われている浦和駅の線路切替工事でも実績がある。)このため、区間内の各駅では上下線の線路を本来とは逆の方向に列車が走行するという珍しい光景が見られました。以下は南行の線路を逆走して北浦和駅を出発する大宮行き列車の動画です。
2011年3月6日・浦和駅高架化工事に伴う京浜東北線の逆線走行 - YouTube 音量注意!


左:大宮駅停車中の運転台のTIMS画面
右:同じく大宮駅停車中の運転台の保安装置画面。D-ATCを開放して運転している。
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京浜東北線で普段使用している保安装置であるD-ATCはこのような単線並列の運行には対応していません。このため、今回の運転変更に当たってはD-ATCを開放する代わりに、代用閉塞の一種である「指導式」と呼ばれる方法で運行の安全を確保しました。これは各列車の先頭側の運転台に1閉塞につき1人任命された「指導者」が添乗するもので、この指導者が乗車していない列車は走行を認めないことで列車同士の衝突を防止する仕組みです。なお、大宮駅入口には普段は折り返しに使用している両渡り線があり、万一誤動作などで切り替わってしまった場合は別の線路にいる列車と衝突する恐れがあるため、大宮駅進入時はポイント手前で一旦停止し、正しい進路となっているかを確認していました。


左:車内の液晶ディスプレイは逆線運転に対応していないため、JRロゴのみを表示。
右:ATOSも逆線走行に対応していないため、駅の発車案内は「準備中」を表示。
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D-ATCと同様、車上のVISや地上のATOS(東京圏輸送管理システム)など旅客案内設備も逆線走行には対応していないため、運転変更中は終始電源が入っているだけでJRロゴや「準備中」などの文字を表示していました。


左:代行輸送に使用された国際興業バス
右:列車内からみた浦和駅の新旧切替箇所
※クリックで拡大
完全運休となった南浦和駅~浦和駅~北浦和駅の区間はバスによる代行輸送が行われました。代行輸送を担当したのは埼玉県内を中心に路線網を展開する国際興業バスで、最短3分間隔で運行されましたが全体の所要時間は30~40分程度かかると案内されていたことから、前後の区間から利用する乗客は大半が宇都宮・高崎線や埼京線などへ迂回した模様で、激しい混雑などはありませんでした。
この日行われた東北旅客線下り線の切替は予定通り夕方に完了し、高架のホームの使用が開始されました。次回は10月に取材した切替後の東北旅客線下り線や浦和駅構内の状況についてお伝えします。
▼参考
3月工事時にJR東日本の駅で配布されたチラシ
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(つづく)
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