天王洲アイル駅(概説) - りんかい線東臨トンネル(18)

東京臨海高速鉄道りんかい線東臨トンネル ~時代に翻弄されたもうひとつの京葉線~
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■天王洲アイル駅 7km770m
▼参考
臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 134~156ページ

●概説

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天王洲アイル(てんのうずあいる)駅は新木場駅起点7km770m地点(7km652m~7km872m)に設けられた地下駅である。工事中の仮称は「天王洲駅」であった。駅の周辺にはJTBの本社があるシーフォートスクエアやJAL(日本航空)の本社ビルなどのオフィスビルが林立しており、北側には東京モノレール羽田空港線の天王洲アイル駅がある。このような立地条件のため、りんかい線の第二期区間の中でも建設が急がれ、2001(平成13)年3月31日に暫定開業し、翌年12月の全線開業までの間終着駅となっていた。
天王洲アイル駅の本体は開削工法を使用した地下3層構造となっており、地下1階が改札口コンコース、地下2階が機械室、地下3階がホームとなっている。地上と地下1階の改札口を接続する出入口はA・B・Cの3箇所あり、いずれもエスカレータを併設している。(Aは上下併設、B・Cは上りのみ)また、B出入口に併設されているエレベータは地上(1階)に加え、天王洲パークサイドビル2階のスカイウォーク(歩行者用デッキ)にも接続している。このスカイウォークは道路を挟んだ反対側の天王洲郵船ビル・スフィアタワー天王洲を経由して東京モノレールの天王洲アイル駅と接続しており、両路線間の乗換経路として案内されている。地下3階のホームは島式ホーム1面2線で、地下1階の改札口とは階段2箇所、エスカレータ2箇所(いずれも上下併設)、エレベータ1箇所で接続している。ホームの長さは10両編成対応の205m、深さは約25mで、駅の中央付近までは半径800mのカーブとなっており、大崎方へ向かって8パーミルの下り勾配となっている。
なお、駅の上部には品川区の委託を受け、自転車300台を収容可能な地下駐輪場(地下1層、長さ45m、幅12m)を合築している。

天王洲アイル駅の断面図
天王洲アイル駅の断面図

駅の地上にある天王洲通りは交通量はさほど多くはないが、道路下約6mには周辺のオフィスビルに冷暖房の熱源を供給する地域熱供給管(直径2.8m)が通っており、駅に近接して首都高速1号羽田線が通るなど施工に関して注意を要する構造物が多く存在する。一方、りんかい線については関係各所から2000年度内の暫定開業が厳命されていたため、1997(平成9)年1月の着工から正味3年半で工事を完成させる必要があるという厳しい工期設定となった。このため、天王洲通りの大幅な交通規制(4車線→2車線)に加え、隣接する品川区の天王洲公園の一部を借地することにより合計6千平方メートルに及ぶ作業スペースを確保し、昼夜を問わず大量の資材と人員を投入できる体制を整えた。また、掘削範囲内を縦断する地域熱供給管の支持にはトラス桁を使用し、掘削範囲内に打ち込む柱の数を最小限にし、作業効率アップに努めた。このような努力により着工から2年後には床面まであと5mの掘削を残すところまで工事が進んだが、ここで思わぬアクシデントに襲われた。



事故が発生したのは1999(平成11)年9月29日で当時は地表面下27.5mまで掘削が行われていた。この掘削範囲の外側には土砂の崩壊を防ぐため、土留壁が設けられているが上部の埋設物などの関係で壁の構築にはSMW式柱列杭とRC地中連続壁(鉄筋コンクリート壁)の2種類が用いられている。このうち、新木場方の駅端はシールドトンネルが取り付く関係上、両者の接続部分が鋭角的な形状となっており、どうしても壁に隙間(不連続な部分)が生じることが避けられなかった。そのため、この部分は予め地上から背面に地盤改良(CJG工法※1)を行い、掘削直後に隙間を埋める形で鉄板を設置して裏にモルタルを流し込み、湧水を抑えるという掘削方法がとられていた。しかし、事故当日にこの隙間から土砂30~40立方メートルを含む毎分200リットルの出水が発生した。直ちに土のうを積んで出水を抑える対策を行ったが、最初の出水から2時間経過したところで出水の圧力により土のうが吹き飛ばされ、出水量も毎分2~4立方メートルに増加し、坑内が冠水し始めた。さらに、最初出水から3時間後には出水地点真上の駐車場で地面が陥没しているのが見つかった。

▼脚注
※CJG工法:コラムジェットグラウト工法。地中に打ち込んだ管からセメント系の硬化剤を高圧で噴射しながら引き上げることにより地盤改良を行う。

出水事故発生地点と地表陥没の範囲(工事誌146ページ図3-3-3-10より) 出水事故発生地点と地表陥没の範囲(工事誌146ページ図3-3-3-10より)
出水事故発生地点と地表陥没の範囲(工事誌146ページ図3-3-3-10より)
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陥没箇所のすぐ脇には首都高速1号線の橋脚が4基あり、このまま出水が続くと橋脚が傾く恐れがあったため、緊急対策として坑内に京浜運河から取水した海水約9万立方メートルを投入し、地表面下8.5mまで水没させ、坑内外での水圧差をなくして出水の軽減を図ることとした。また、陥没箇所には地上から砕石やモルタルなどを投入し、空洞の充填と出水の抑制を行った。さらに、陥没箇所に近接する首都高速は橋脚の傾斜に備えて、鋼製のベント(仮設の橋脚)を設置し、桁を支えることとした。
その後は陥没箇所を中心に28本に及ぶボーリング調査を行い、(社)日本トンネル技術協会に設立されたの事故調査委員会において恒久的な対策に関する検討を行った。その結果、

(1)首都高速橋脚への影響を防止するため、出水箇所に近接する橋脚2基を取り囲む形で柱列式連続壁(TBH杭)を構築する。
(2)再度出水が発生するのを抑えるため、出水箇所を取り囲む形で鋼管杭連続壁の構築と薬液注入を行う。
(3)坑内の水を排水するのに先立ち、地中水平変位計4本、沈下計5本を設置し、地盤の変位を観測する。

という対策が行われた。一通りの対策が終わると、今度は坑内に満たした海水を排水する作業に移るが、再度出水が発生していないことを確認するため出水箇所近傍に観測井を設置し、8日間かけて慎重に排水が行われた。排水後確認された出水箇所の状態は以下のようなものであった。

出水箇所の状態(工事誌146ページ図3-3-3-11より)
出水箇所の状態(工事誌146ページ図3-3-3-11より)
※Ds2層:江戸川砂層


(1)出水に伴って流入した土砂の8割は東京礫層(Dg2層)に含まれていた礫(れき)であり、粒径は10cm程度のものが最も多く、中には30cmを超える巨礫も多数確認されていた。(東京礫層では通常このような巨礫はあまり含まれていない。)
(2)出水部のおおよその位置は確認できるが明確な穴などはなかった。
(3)出水部上方の止水鉄板は一部が捲れあがっており、相当の水圧が作用したことが予想された。
(4)両側にある土留壁は設計通りの形状となっており、問題はなかったと判断される。
(5)出水部を試掘したところ、下半分には硬化したモルタル状の地盤が確認されたが、上半分にはそれがなかった

このため、出水の主たる原因は事前の地質調査で発見できなかった巨礫の存在により東京礫総内部にCJG工法の改良材が十分に行き渡らなかったことに加え、、止水鉄板の設置が後回しにされていたことから掘削に伴い発生した坑内外の水圧差に耐えられず大量出水に至った物と推察された。
この事故により天王洲アイル駅の工事は3ヶ月間ストップし、ただでさえ短い工期だったものが更なる短縮を求められることとなった。このため、トンネル本体部分の構築にあたってはコンクリート打設後の養生時間を短縮するため、コンクリートに予め止水材と硬化時の熱で膨張する材料を混入させておくという工夫がなされた。前者はコンクリートに亀裂が入り漏水が発生した場合自らが溶け出して亀裂を埋める(自己修復する)もの、後者はコンクリート硬化時の収縮を相殺し、亀裂の発生を防止するものである。また、通常は止水板を後付するコンクリートの打ち継ぎ部分にも予め止水注入用チューブを埋めておき、コンクリートの打設完了後に一気に止水注入を完了させることとした。これらの工夫によりトンネル外側の防水工が不要となり、2ヶ月以上の工期短縮が実現し、出水事故による工事の遅れをほぼ吸収することが可能となった。

(つづく)
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