カテゴリ:鉄道:建設・工事
南武線稲城長沼駅高架化工事(2012年1月28日取材)
公開日:2012年02月03日20:35

神奈川県の川崎から東京都の立川駅を結ぶ南武線の稲田堤~府中本町間では現在線路の高架化工事が行われています。この事業について当ブログでは昨年1月に取材を行いましたが、それから1年が経ち進展がありましたので再度取材を行いました。今回は昨年12月に下り線が高架化された稲城長沼駅・南多摩駅を中心に現状をお伝えいたします。
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南武線稲城長沼駅高架化工事(2011年1月15日取材)(2011年8月2日作成)
■南武線連続立体交差事業の概要
南武線連続立体交差事業は南武線稲田堤~府中本町間(4.3km)を高架化するものです。この区間では鶴川街道(都道19号町田調布線)、府中街道(都道9号川崎府中線)という2本の幹線道路が交差しており、前者の踏切を原因として激しい交通渋滞が発生していました。連続立体交差化にあたっては高架化と地下化の2種類の案が検討されましたが、南多摩駅のすぐ北で多摩川と交差していること、南武線は貨物列車が走行することから急勾配が造れないこと、矢野口~稲城長沼間で交差する稲城大橋有料道路が部分的に地下化されていることから高架化を行う方針で決定されました。


左:高架化が完了した矢野口駅のホーム。
右:矢野口駅の東側で交差する鶴川街道。2枚とも2011年1月15日撮影
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工事は矢野口駅~稲城長沼駅東側(第1期区間)と稲城長沼駅東側~府中本町駅(第2期区間)の2つに分割して行われており、第1期区間は1997(平成9)年1月に着工し、2005(平成17)年10月に完成しました。これにより8箇所の踏切が廃止され、翌2006(平成18)年4月には矢野口駅付近で交差している鶴川街道の多摩川原橋の4車線化とバイパス新道(都道多摩3・1・6号線)への付け替えが完成し、長年の懸案だった交通渋滞がほぼ解消されました。また、高架橋北側には側道、高架下にはスーパーなどの商業施設が整備され、地域分断の解消や住民生活の向上に寄与しています。
続く第2期区間の工事は第1期区間完成直後の2006(平成18)年3月から開始され、2009(平成21)年10月には上下線の仮線(工事スペースを確保するために設置した仮の線路)への切り替えが完了し、高架橋の建設が本格的に開始されました。事業の歴史は以下の通りです。
<南武線連続立体交差事業の歴史>
1989年4月 建設省(現・国土交通省)の事業採択
1992年1月 都市計画決定
1993年3月 事業認可
1997年1月 第1期区間(稲田堤~稲城長沼間)着工
2005年10月 第1期区間完成
2006年3月 第2期区間(稲城長沼~府中本町間)着工
2007年3月 稲城長沼駅仮駅舎使用開始
2008年6月 第2期区間上り線(川崎方面)を仮線に切り替え
2009年10月 第2期区間下り線(立川方面)を仮線に切り替え
2011年12月 第2期区間下り線高架化完成(詳細は後述)
2014年春 第2期区間上り線高架化完成予定
2015年春 稲城長沼駅2面4線化完成予定
最終的な完成は2014年春が予定されており、第1期区間の8箇所に加え稲城長沼~府中本町間にある7箇所の踏切が廃止されることになります。なお、この事業は道路整備の一環として東京都が事業主体となり進められています。第1期区間・第2期区間をあわせた総事業費は約598億円で、その負担の内訳は国が45%(ガソリン税・自動車税などの国庫補助)、東京都が31%、稲城市が13%、JR東日本が11%となっています。
■下り線が高架化された第2期区間(2012年1月28日取材)
2006(平成18)年3月に着工した第2期区間(稲城長沼~府中本町間)の工事は順調に進み、下り線の高架橋がほぼ完成したことから、当初予定よりもやや早い2011(平成23)年12月23日(金・祝)に高架線への切替工事が行われました。切替工事は23日の18:40頃から翌朝の4:50頃までの約10時間に渡り行われ、23日の工事時間中は矢野口~府中本町間の列車が全面的に運休し、バス代行輸送が行われました。また、登戸~矢野口間は下り線を使用した35分間間隔の単線運転、府中本町~立川間は20~40分間隔の折返し運転となり、武蔵野線や他社線による振替輸送が行われました。工事は予定通り翌朝初電までに完了し、稲城長沼駅と南多摩駅の下り線が高架化されました。以下、高架化された2駅の状況について解説していきます。
●稲城長沼駅

下り線高架化後の稲城長沼駅の配線図
高架化完成時の稲城長沼駅は2面4線となり、4線ある線路のうち内側2線は折返し可能な配線となる予定です。(2番線は川崎方面のみ、3番線は両方向に折返し可能。)今回の下り線高架化では下り線ホームの1面2線のみが完成しており、当駅から川崎方面への折返しを可能にするため第1期区間・第2期区間の接続地点(切替地点)から稲城長沼駅までの高架橋は上下2線分建設され、将来上り線となる線路を暫定的に折返し専用の中線として使用しています。


左:高架線と地上線の接続地点。右側に逸れていく上り線は仮設高架橋。(前回訪問時の同じ地点)
右:高架化された稲城長沼駅の下り線ホームから立川方面を見る。
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第1期区間・第2期区間の接続地点は本来の高架橋の脇に仮設の高架橋(斜路)を設けて線路を地上へ降ろしています。上り線の線路を利用した中線はこの場所で上り線に合流しており、駅からかなり距離があることから第2出発信号機も設けられています。なお、左写真で直進する高架橋は第1期区間完成時に地上へ降りる斜路として使用されていたもので、第2期区間への接続に際し高架橋全体をジャッキアップして本来の高さにかさ上げしたことは昨年の記事で触れたとおりです。
稲城長沼駅の川崎方は配線が既に完成形となっており、将来折返しに使用する両渡り線(ポイント)も設置されています。ただし、上り本線(1番線)の高架橋はまだ出来上がっていないため、ポイントの直後で軌道が途切れています。

高架化された稲城長沼駅の下り線ホーム(3・4番線)
高架化された下り線は弾性まくらぎ直結軌道、インテグレート架線を用いる、最近の新線では標準的な構造となっています。稲城長沼駅のホームは床面がアスファルトの一般的なものとなっています。ホームを覆う屋根もI型の鋼材と波型の金属板を用いた単純なものとなっており、ホーム上の柱は中央に1列に集約されるなどコスト削減を主眼に置いていることがわかります。線路側の防風壁は波型の金属板を組み合わせたもので、所々丸い窓が設けられています。これは稲城市の特産品であるぶどうや梨をイメージしたものです。
なお、線路の番号は今回使用開始となった中線が3番線、下り本線が4番線となっており、上り線高架化完成時の改番を避けています。後述する通り地上に残る上り線は1番線のみであるため、現在は2番線が欠番となっています。


左:中線(3番線)の立川方は行き止まりとなっている。
右:ホームの両端には延長スペースらしきものがある。
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中線として使用されている3番線は高架化完成時に両方向に進出可能な配線となる予定ですが、今回の下り線高架化ではまだそこまで使用頻度が高くないことから立川方は行き止まりとなっており、バラストが盛られています。また、行き止まりの先は2番線や下り本線と接続するポイントが設置される予定ですが、こちらもまだまくらぎが一部敷設されたのみに留まっています。
なお、高架化された稲城長沼駅の下り線ホームは右の写真の通り両端に0.5両分ずつ作りかけのホームらしきものがあり、立川方はその先にさらに1両分程度ホームを増設可能な空間が見られます。公式には発表されていませんが、将来の増結を視野に入れたものと思われます。


左:下り線ホームへ上がる階段・エスカレータ・エレベータ。
右:駅舎へ向かう通路は地上の旧ホームを経由する。
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稲城長沼駅の駅舎は下り線の高架化ごも引き続き北側(上り線側)のみに設けられており、高架の下り線ホームと駅舎を接続する通路は現時点では旧地上ホームの跨線橋を利用する形態となっています。跨線橋から高架の下りホームの間の仮設通路は高架下に設けられており、ホームへ上がる階段・エスカレータ・エレベータとその付近の床面のみ本来の形で完成しています。

地上に残る上り線ホームと旧下り線ホーム


左:地上の上り線ホームから川崎方面を見る。高架橋は旧下り線ホームの直前まで出来ている。
右:同じく地上の上り線ホームから立川方を見る。折返しに使用していたY線が残る。
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下り線の高架化に伴い使用停止となった地上の旧下り線ホームは、現在のところ上り線との間にフェンスが置かれ、一部のレールが撤去されたのみで放置されています。駅の立川方にあった折返し用の引上げ線(Y線)もそのままとなっており、列車が走行していないことから今回訪問時は数日前に降った雪が少し残っていました。この旧上り線のホームがある場所には今後新上り線ホームの高架橋が建設されるため、まもなく取り壊されるものと思われます。ホームの川崎方に立つと地上の旧ホームに重ならないぎりぎりの位置まで高架橋が建設されており、完成時の高架橋のおおよその位置が推測できます。
●南多摩駅

下り線高架化後の南多摩駅の配線図
高架化完成時の南多摩駅は地上時代とは異なり島式ホーム1面2線の構造となる予定です。今回の下り線高架化ではこのホームの下り線側半分のみが使用されており、地上の旧ホームに重なる上り線の軌道部分の高架橋は全くの手付かずの状態となっています。
なお、当駅の立川寄りには都道(主要地方道)第9号川崎府中線(都市計画道路多摩3・3・7号)の新設工事が進められており、2011(平成23)年4月23日に暫定的に2車線の供用が開始されました。この道路と交差する部分の高架橋は矢野口駅付近にあるものと似たコンクリート製のアーチ橋となっています。このアーチ橋を過ぎると線路は地上に降りて多摩川を渡ります。


左:高架化された南多摩駅下り線ホームに停車中の205系
右:振り返って立川方面へ出発する様子を見たところ。アーチ橋の下には昨年道路が新設された。(地上ホーム時代の同じ場所)
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高架化された南多摩駅の下り線ホームは島式ホームの片面のみを使用しており、未完成の上り線側は全面が柵で覆われています。ホームの構造は稲城長沼駅とほぼ同様ですが、防風壁に設けられている窓の形状は稲城長沼駅とは異なり、正方形となっています。これは駅の南西にある稲城市立病院付近で発見された大丸瓦谷戸窯跡から出土した方形磚(せん)※をイメージしたものです。
▼脚注
※方形磚:建物の床面に敷くレンガ状の焼き物。
▼参考
発掘された瓦谷戸窯跡 - 稲城市教育委員会


左:地上に残る上り線ホームと旧下り線ホーム
右:地上の上り線ホームと高架の下り線ホームを連絡する通路
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南多摩駅の仮設駅舎は前回訪問時と同じく高架橋の南側に設けられています。地上の上り線ホームへ向かう通路は以前からある仮設の跨線橋を流用しており、地上の旧下り線ホームへ下りていた階段を塞ぎ、その部分から高架の新下り線ホームへ接続しています。このため、駅舎と上り線ホームを行き来するには必ず高架の下り線ホームを経由することになります。地上の旧下り線ホームは稲城長沼駅と同様現時点では放置されていますが、今後この場所には上り線の高架橋が建設されるためまもなく取り壊しが始まるものと思われます。


左:高架橋南側にある仮設駅舎
右:駅舎から高架下の階段へ向かう通路。左には高架下の駅舎に続くと思われるシャッターが見える。
(前回訪問時の同じ地点)
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現時点では高架下の駅舎がまだ出来上がっていないため、高架橋南側の駅舎と下り線ホームへ上る階段の間は高架橋の外にある仮設通路で行き来する形態となっています。高架下の駅舎は外装の一部が完成しており、仮設通路からは将来駅舎の入口になると思われる大きなシャッターが確認できます。下り線ホームへ上がる階段・エスカレータ・エレベータは稲城長沼駅と同様完成形となっており、この部分のみ床面など内装の一部が出来上がっています。

南多摩駅の川崎方からは新宿副都心の高層ビル群や東京スカイツリーが見えた。
今回の稲城長沼~府中本町間の下り線高架化により、区間内にある7箇所の踏切の遮断時間が約3割減少しました。上り線の高架化は2年後の春の予定となっています。この高架化に合わせて稲城長沼駅・南多摩駅の周辺では土地区画整理事業も進められており、完成後の両駅は21世紀に相応しい近代的な設備となります。
▼参考
進めています JR南武線連続立体交差事業_稲城市ホームページ
JR南武線の下り線を12月に高架化します!|東京都
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