カテゴリ:鉄道:建設・工事
武蔵野線吉川美南駅、開業!
公開日:2012年03月18日22:42

昨日3月17日、全国のJRグループで一斉にダイヤ改正が実施されました。北陸本線の寝台特急「日本海」の廃止や東海道・山陽新幹線の100系・300系の引退などが話題となりましたが、一方で常磐線の新型特急車両E657系の運転開始や武蔵野線の新駅開業など新しく始まったものもあります。今回はその中から武蔵野線吉川~新三郷間に開業した新駅「吉川美南駅」の開業イベントの様子をお伝えいたします。
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武蔵野線吉川美南駅新設工事(2010年9月5日取材)(2010年10月15日作成)
■武蔵野操車場跡地の再開発

在りし日の武蔵野操車場(現在の新三郷駅付近) ※クリックで拡大
(国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真(昭和49年)より抜粋)
武蔵野線は当初、貨物専用線として計画されたもので、現在の吉川~三郷間には「武蔵野操車場」と称する貨車の仕分け施設が存在しました。この武蔵野操車場はコンピュータによる貨車の自動入換などに対応した最新鋭の設備を持ったものでしたが、国鉄の貨物輸送のシステムチェンジ(操車場による組み換え方式から拠点駅間の直行輸送に移行)により1974(昭和49)年の開業からわずか10年で廃止されてしまいます。以後、武蔵野線の上下本線に挟まれた操車場跡地は国鉄分割民営化を挟んで15年にわたり放置されました。この間に操車場付近には新三郷駅が開業しましたが、操車場を挟んで上下線のホームが300m以上離れるという極めて異様な構造となっており、「世界一ホームが離れている駅」としてギネスブックにも登録されていました。この構造のままでは跡地の再開発に大きな支障が出るため、1999(平成11)年に上り線(府中本町行き)を下り線(西船橋行き)に近づける形で線路が統合され、ようやく跡地利用が開始されました。
武蔵野操車場跡地は吉川市と三郷市にまたがっており、このうち三郷市側(54.4ha)については三井不動産を中心とする民間デベロッパー5社により「新三郷ららシティ」の名称で開発が進められ、2008(平成20)年頃から「ららぽーと新三郷」「IKEA」「コストコ」などのショッピングモールや住宅が順次建設されています。一方、吉川市側(28.8ha)の開発は三郷市側より遅れたものの、2007(平成19)年に策定された吉川市の第4次総合振興計画において具体的な利用方針が示され、以後開発に向けた区画整理が進行中となっています。この再開発の一環で新設されたのが吉川美南駅です。
■吉川美南駅の概要
吉川市側の操車場跡地の再開発は吉川市、鉄道建設運輸施整備支援機構(旧・国鉄清算事業団)、都市再生機構(UR)の3者により進められており、計画人口は操車場跡地部分のみで3,500人、周辺部も含めると19,000人となっています。これら開発地区の公共交通機関を確保するため、吉川市はJR東日本に対し、新駅の設置を要請してきました。
同じ頃、JR東日本では武蔵野線の東半分の区間に折り返し設備を新設することを検討していました。武蔵野線の東半分の区間で折り返しが可能なのは東武伊勢崎線と交差する南越谷駅と総武線と交差する西船橋駅のみ※となっており、両駅間は実に28.3kmの距離があります。また、南越谷駅の折り返し設備は駅から離れた所に引き上げ線があり、1時間当たりの折り返し可能本数は1、2本程度が限度であるなど、現在の武蔵野線の輸送量に対しては大きく不足しています。8両編成の武蔵野線で十分な輸送力を確保するには最低でも1時間当たり7本程度の運転本数を確保する必要があり、折り返し設備は本線とは別の線路を設ける必要がありますが、周辺の開発が進んだ既存の駅にこのような設備を追加することは容易ではありません。
ここで、吉川市から設置を要請されていた新駅に折り返し設備を追加した場合についてシミュレーションを行ったところ、西側では南越谷駅で東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)に、東側では南流山駅でつくばエクスプレス線に乗り継ぎが可能であり、振り替え輸送を行う場合でも十分な輸送力が確保できることがわかりました。このような経緯から、吉川市・JR東日本の間で方向性が一致し、2007(平成19)年に両者の間で正式に新駅設置に関する覚書が交わされました。2009(平成21)年8月には市民を対象に新駅の名称の公募が行われ、「吉川なまずの里」「吉川美南」「むさし吉川」の3案がJR東日本に提示され、最終的に「吉川美南(よしかわみなみ)」が新駅名として採用されました。なお、新駅の総工費は概算で71億6800万円となっており、このうち折り返し設備の設置に要する28億800万円をJR東日本が負担し、残りは吉川市が負担することとなっています。(これは工事中の数字であり、今後変更される場合があります。)
▼脚注
※この他に新松戸駅でも折り返しが可能であるが、この折り返しは隣の南流山駅にあるホームのない中線を利用するものであり、南越谷駅と同様設定可能は本数は限られる。
<吉川美南駅に関するこれまでの経緯>
2007年3月19日 吉川市に対しJR東日本から新駅設置を前提とした協議開始の回答がなされる
2007年12月20日 吉川市とJR東日本の間で新駅設置に関する覚書を締結
2009年6月8日 吉川市とJR東日本の間で新駅工事に関する施工協定を締結
2009年7月10日 吉川市とJR東日本の間で駅設備改修工事・電気通信設備移設工事についての協定を締結
2010年1月27日 新駅名称が「吉川美南」に決定
2012年3月17日 新駅開業

吉川美南駅の配線
吉川美南駅が新設されたのは吉川~新三郷間のほぼ中間地点にある中曽根跨線橋付近です。新駅設置にあたっては以下の3つの条件が課せられました。
●本線の通過速度は武蔵野線の最高速度である95km/hとする。
●下り線側にある保守機材線や線路上空横切る中曽根跨線橋の橋脚・橋台に手を加えない。
●新駅予定地地下には川が流れており、不等沈下の恐れがあるためポイントやホームはこの部分を避ける。
この結果、吉川美南駅の設置位置は中曽根跨線橋から数百m西船橋寄りに進んだ地点(新鶴見信号場起点74.7km付近)に決定しました。駅構内の配線は1時間当たり7本の折り返し能力を確保することを条件に2面3線・2面4線など複数の構造が検討されましたが、新たな用地買収が不要であることや、もともとある線路の大半を流用できることから、上り線を移設して島式ホーム1面と対向式ホーム1面を新設する案が採用されました。また、駅の両端には上下本線を接続する片渡り線が1組ずつ設けられています。この渡り線を設置したことにより、当駅から片方の区間が不通となった場合、2本の線路を使って折り返すことが可能となり、1時間当たり7本の折り返し能力を確保することができます。(→当駅から西船橋方面が不通となった場合の折り返し方法の図)この場合、折り返しに使わない線路には列車を1編成待機させておき、運転再開時は直ちにその列車を発車させることで列車間隔が極端に開き、新たな遅延の原因となることを防止できます。


左:中曽根跨線橋から見た工事中の吉川美南駅
右:東側のJRグラウンドに掲げられていた新駅の完成予想写真。この場所は現在東口駅前ロータリーになっている。
2枚とも2010年9月5日撮影 ※クリックで拡大
吉川美南駅の工事は2009(平成21)年より開始され、2010(平成22)年9月には上り線の線路を移設する工事が行われました。上り線の移設完了後は中線両端のポイントの新設や駅舎の建設が進められ、当初予定通り2011年度末(2012年3月)の開業を迎えました。
■開業した吉川美南駅


左:西口ロータリーからみた吉川美南駅の駅舎。
右:東口ロータリーから見た駅舎。西口と同一のデザインである。
※クリックで拡大
吉川美南駅の駅舎は地下に川があるため、橋上駅舎となっています。デザインコンセプトは「自然と人とともに生きる駅」で、西口・東口のる階段部分には里山の森や葉をイメージした楕円形の大きな窓が設けられています。駅前ロータリーは西口・東口の両方に設置されており、操車場跡地側の西口では路線バスの停留所やタクシー乗り場が設けられています。東口はJR東日本が所有していたグラウンドの跡地で、現在はまだ周囲は更地の状態ですが、駅周辺の開発計画に含まれていることから、今後は建物が建っていくことも予想されます。


左:駅舎中央にある改札口
右:自動改札機は5通路ある
※クリックで拡大
駅舎の内部は天井が高く、開放的な空間となっています。改札口は駅舎の中央にあり、天井には背後から照明で照らされた巨大な「吉川美南駅」の切り抜き文字が設置されています。自動券売機は改札口へ向かって左側にあり、自動券売機と指定席券売機が設置されています。みどりの窓口はありません。自動改札機は5通路あり、そのうち1通路は車いすでの利用に対応した幅広タイプとなっています。有人通路は自動券売機と改札機の間にあり、最近主流のガラス窓で囲まれたタイプとなっています。


左:西口・東口ともに階段前にはエレベータが併設されている。
右:改札口前にある室瀬和美作の漆絵「木精」がある。
※クリックで拡大
改札口前を横切る西口・東口へ通じる通路は吉川市が管理する自由通路となっています。西口・東口へ降りる階段の前にはエレベータが設置されており、4時30分から1時30分まで利用可能となっています。改札口の前には人間国宝(重要無形文化財保持者)である室瀬和美氏作の漆絵「木精」があります。


左:西口へ向かう通路
右:東口へ向かう通路。道路をまたぐ分、こちらの方が長い。
自由通路は東口側が道路をまたぐ構造になっているため、双方で長さが異なっています。東口側の道路をまたぐ部分は窓が多く設置されており、昼間は照明なしでも十分な明るさを確保できています。

改札内コンコース。 ※クリックで拡大
改札内コンコースも自由通路と同じく天井が高い構造となっています。壁面にところどころある窓はいずれも小さな格子状の曇りガラスを合わせたものとなっており、光のみを取り込むものとなっています。ホームへ降りる階段は吉川駅側がエスカレータ、新三郷駅側が階段となっており、その間にはシースルータイプのエレベータが設置されています。トイレは改札口脇にあり、車いす・オストメイトなどに対応した多機能トイレも設置されています。


左:ホームは下り線側(1番線)が対向式、上り線側(2・3番線)が島式。
右:案内板はLEDを使用した省エネタイプ
※クリックで拡大
地上のホームは当初計画通り下り線側(1番線)が対向式ホーム1面、中線・上り線側(2・3番線)が島式ホーム1面となっています。中線(2番線)の線路はまくらぎが1995年製で、旧上り本線のものを流用したことがわかります。ホームの床は最近主流の淡色のタイルを敷き詰めたもので、線路側の端にある点字ブロックはJIS(日本工業規格)準処の点状突起25点と線状突起1本を組み合わせたタイプとなっています。ホーム天井にある案内板はいずれもバックライトにLEDを使用した省エネタイプとなっています。また、各ホームにある発車案内板は高輝度LEDを使用した新型となっています。なお、武蔵野線は去る2012年1月22日よりATOS(東京圏輸送管理システム)が導入されており、発車案内板の表示内容や列車の到着・発車に関する案内放送は全てATOSと連動したものとなっています。


左:ホーム端から吉川駅方向を見る。奥に見える陸橋が中曽根跨線橋。
右:ホーム端から新三郷駅方向を見る。こちらは出発信号機までかなりの距離がある。
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駅の両端はいずれも中線(2番線)がY字に分岐して上下本線に合流しています。また、ホームからは見づらいですが、その先には折り返しに使用する上下本線間を接続する片渡り線があります。なお、右写真の通り新三郷駅寄りはホーム端から出発信号機まで2両分ほどのスペースがあり、将来の10両編成化に対応した構造であることがわかります。
■開業記念イベント


駅構内に掲出されたポスター ※クリックで拡大
開業初日の3月17日(土)は朝8時より吉川美南駅と吉川駅で記念入場券が発売されました。記念入場券価格が570円で吉川美南駅の駅舎の完成予想図、武蔵野線を走る209系・103系電車、吉川市特産のなまずをモチーフにしたイメージキャラクター「なまりん」が描かれており、吉川美南駅の入場券が販売価格分(大人3枚・小人3枚)付いています。この記念入場券は吉川美南駅・吉川駅合わせて2,000セット限定で発売され、あいにくの雨にもかかわらず発売開始から2時間程度で全数が完売となる盛況ぶりでした。このほか、吉川美南駅の駅舎内や吉川駅近くでは地元商工会による出店などのイベントも開催されました。


左:17日の朝8時から発売された吉川美南駅開業記念入場券とスタンプラリーの台紙
右:午前中、駅構内では地元商工会による獅子舞演舞や子ども向けの駅長制服撮影会などが開催された。
※クリックで拡大
この他、武蔵野線では吉川美南駅の開業に合わせてスタンプラリーが開催されています。スタンプラリーは吉川美南駅と「東」「西」「南」「北」が付く駅のいずれか4駅(特別賞・A賞)または2駅(B賞)のスタンプを押した台紙を事務局に送ると賞品がもらえるもので、「特別賞」(3名)は置時計、「A賞」(70名)はペーパーウェイト、「B賞」(300名)はジグソーパズルがそれぞれ当たります。開催期間は5月6日(日)までですので、まだの方はぜひともチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

吉川市のイメージキャラクター「なまりん」。背後の操車場跡地はまだほとんどが更地。
吉川美南駅前の操車場跡地は、家電量販店のケーズデンキが開店した以外は最低限の区画整理がなされただけで、ほとんどが更地となっています。今後は操車場跡地以外の土地も含め、大規模な宅地開発が予定されており、駅西方の一部では戸建住宅が完成しています。越谷レイクタウン、新三郷ららシティに続く埼玉県の武蔵野線沿線の第3のニュータウンとして発展が期待されます。
最後に、吉川美南駅構内や開業イベントの様子を動画でご覧頂きながら、今回のレポートを締めくくりたいと思います。
武蔵野線吉川美南駅開業 - YouTube 音量注意!
▼関連記事
新三郷駅・・・ギネスに載った駅のいま・これから(2008年4月16日作成)
武蔵野線吉川美南駅新設工事(2010年9月5日取材)(2010年10月15日作成)
▼参考
三井不動産|「武蔵野操車場跡地」の大規模複合開発、「新三郷 ららシティ」に名称決定
ららぽーと新三郷
武蔵野操車場跡地及び周辺地域のまちづくり - 吉川市公式ホームページ
新駅情報 - 吉川市公式ホームページ
首都圏輸送障害対策の一事例―武蔵野線吉川・新三郷間新駅設置計画― - 日本鉄道施設協会誌2009年1月号
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