つくばエクスプレスの混雑緩和に向けた改良工事(2012年3月17日取材)

三郷中央駅に到着するTX-1000系

東京都の秋葉原駅と茨城県のつくば駅を結ぶつくばエクスプレス線は、開業以来利用者の増加が続き、混雑が激しくなっています。このため、現在各駅で混雑緩和に向けた改良工事が着手されています。今回はその中から、ホーム延伸工事が行われている南流山駅・三郷中央駅、駅構内通路の増設が行われている秋葉原駅の現状についてお伝えします。

■つくばエクスプレス線の開業とこれまで


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 首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス線は、鉄道空白地帯となっていた茨城県の筑波研究学園都市と東京都心を結ぶ鉄道路線を整備することや、混雑が限界に達していたJR常磐線の救済を目的として2005(平成17)年に開業した全長58.3kmの民鉄線です。
 つくばエクスプレス線の元となった「常磐新線」の建設計画は1985(昭和60)年の運輸政策審議会(現・交通政策審議会)第7号答申「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備」の中に喫緊の課題であるとして盛り込まれ、以後首都圏の新線建設の中では最優先で事業が進められてきました。つくばエクスプレス線の建設における特徴としては、鉄道建設と都市開発を同時並行で行う「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」(通称:一体化法)の制定が挙げられます。これは大都市近郊で鉄道の新線建設を行うにあたり、当初予測通りに住宅建設が行われずに鉄道会社が厳しい経営を強いられてしまうことや、住宅建設が無秩序に行われ、住民が交通難民化するのを防止することを目的としたものです。この法律ができた背景には千葉県内で建設された北総鉄道や東葉高速鉄道における失敗があると言われています。

▼脚注
※:北総鉄道や東葉高速鉄道はつくばエクスプレス線と同様の性格を持つ路線であるが開業後に沿線で予定通り住宅の建設が進まなかったことから赤字経営が続いており、建設費の償還のため国内で最高水準の高額な運賃設定を余儀なくされている。

手前2編成が直流専用のTX-1000系、奥2編成が交直両用のTX-2000系。違いはナンバープレートの色。 駅構内の線路上にあるATO地上子。
左:手前2編成が直流専用のTX-1000系、奥2編成が交直両用のTX-2000系。違いはナンバープレートの色。2007年11月3日、第3回つくばエクスプレスまつり(車両基地公開イベント)にて撮影
右:駅構内の線路上にあるATO地上子。2007年7月1日撮影
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 当初の計画ではつくばエクスプレス線は沿線自治体が出資して設立された第3セクターの首都圏新都市鉄道が建設し、開業後はJR東日本が列車の運行を行うこととされていました。しかし、郊外での新線では採算性に疑問が残るという判断により最終的にJR東日本はつくばエクスプレス線への経営参画を見送ることとなり、開業後の運営も首都圏新都市鉄道が担当することとなりました。このため、線路設備の規格はJRのものを基本としつつ、ホームドア・ATOによるワンマン運転など独自のシステムを取り入れており、安全性確保とコスト削減を両立しています。なお、つくばエクスプレス線が位置する茨城県南部には気象庁柿岡地磁気観測所があり、これに対応して守谷~つくば間は交流電化となっています。車両については交流・直流両用のTX-2000系と直流専用のTX-1000系の2形式を用意し、コストアップを防止しています。(参考までに開業までに要した総事業費は8,081億円。)

つくばエクスプレス流山おおたかの森駅と流山おおたかの森SC。
つくばエクスプレス流山おおたかの森駅と流山おおたかの森SC。2007年7月1日撮影
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 2005年に開業を迎えたつくばエクスプレス線は初年度早々から1日あたりの利用者数が当初予測を2万人以上上回る15万7千人を記録しました。これは最高速度130km/hという高速運転により、これまで高速バスで1時間以上かかっていた東京都心~つくば間の所要時間が45分(最速)に短縮されたことが功を奏したもので、高速バスはその後大幅な減便を余儀なくされています。沿線では開業後も住宅や商業施設の建設が急ピッチで続けられ、2007(平成19)年度には1日の利用者数が20万人を突破し、2008年度には営業黒字、2009年度には経常黒字をそれぞれ達成しました。当初、黒字転換は20年かかると予想されており、わずか5年余りで実現できたことはつくばエクスプレス線沿線の人気の沸騰ぶりを象徴していると言えます。

<つくばエクスプレス線の年表>



年・月できごと
1985年7月運輸政策審議会第7号答申に常磐新線の建設計画が盛り込まれる
1989年6月大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法
(一体化法)成立(9月施行)
1991年3月首都圏新都市鉄道株式会社設立
1991年9月沿線1都3県が一体化法に基づく基本計画を建設・運輸・自治省にそれぞれ申請
(10月認可)
1992年1月首都圏新都市鉄道が第1種鉄道事業免許を取得
1993年1月秋葉原~浅草間約3.4kmの工事施工認可
1994年1月守谷~みらい平間約11.7kmの工事施工認可
1994年3月守谷~みらい平間都市計画決定
1994年10月秋葉原駅で起工式を実施
1995年7月TX総合車両基地の安全祈願祭を実施
1996年2月茨城県が一体化法に基づく基本計画変更を国に申請
(万博記念公園駅の追加。3月認可)
1996年12月国が鉄道整備計画見直しの概要を発表
1997年7月沿線が1都3県一体化法に基づく基本計画変更を国に申請
(開業年を2005年に変更。同月承認)
1998年12月流山おおたかの森~守谷間約6.1kmの工事施工認可
1999年3月みらい平~つくば間約12.2kmの工事施工認可
1999年6月つくば市内の区間について都市計画決定(これにより全線で都市計画決定)
2000年7月全線で工事施工認可
2001年1月路線愛称が「つくばエクスプレス」に決定
2001年6月全線で着工
2001年10月シンボルマーク(TX)が決定
2001年12月先行区間(TX総合車両基地とその近傍の試験区間)の軌道敷設着手
2002年8月車両デザイン決定
2003年3月第1編成が日立製作所笠戸工場(山口県)と
川崎重工兵庫工場(兵庫県)から常磐線経由で搬入
2003年4月車両披露式典・一般見学会を実施・第1期走行試験開始
2003年10月全20駅の名称が決定
2004年1月量産車の搬入を開始
2004年3月全線の土木工事が完了
2004年4月第2期試験走行開始
2004年5月北千住駅でレール締結式を実施。全線のレールがつながる。
2004年8月架線接続式が実施され全線の架線がつながる。
2004年11月全線で走行試験開始
2005年2月イメージキャラクター「スピーフィ」決定・
国土交通省に運賃の認可申請・開業日決定
2005年3月運行計画を発表
2005年4月旅客運賃許可・関東運輸局届出
2005年7月ダイヤ発表
2005年8月24日
開業
2006年8月列車内での無線LANサービス開始
2007年1月早期地震警報システム導入
2007年3月首都圏共通ICカード乗車システム「PASMO」導入
2007年5月防雷システム稼動
2008年4月風速計増設
2008年7月TX-2000系を4編成24両増備
2009年4月運行情報配信・高速バス乗り継ぎサービス本格スタート
2009年6月2008年度の営業実績を発表(初の営業黒字
2010年6月2009年度の営業実績を発表(初の経常黒字


■混雑緩和に向けた改良工事

つくばエクスプレス線ではその後も利用者数は増加を続けており、1日の利用者数は昨年度の実績で28万3千人となっています。このため、朝ラッシュ時の駅・列車の混雑が激しくなってきており、最混雑区間である上りの青井→北千住のピーク時間帯(平日朝7時30分~8時30分)の混雑率は160%に達しています。このため、運行会社である首都圏新都市鉄道ではこれまで車両の増備による増発を行ってきました。また、つくばエクスプレス線各駅の構造物は将来の利用者増加に備え、全駅で8両編成への拡張が可能な構造で建設されており、昨年からは一部駅についてホームの延伸や通路の増設といった設備の拡張工事が開始されています。以下、工事が行われている各駅の状況について解説していきます。

●南流山駅
南流山駅ホーム延伸の概略図
南流山駅ホーム延伸の概略図 ※クリックで拡大

 南流山駅はJR武蔵野線との乗換駅で、島式ホーム1面2線の地下駅となっています。1日の乗車人員は線内第3位の2万8千人となっており、朝ラッシュ時は激しく混雑します。地下駅である南流山駅では、ホームの増設が困難であるため、ホーム両端をそれぞれ2両分(40m)ずつ延伸し、上下線で列車の停止位置をずらすことによりホーム上の混雑を緩和することになりました。工事は昨年8月からすでに開始されており、今回訪問時は延伸部分のホーム床が完成し、一部ではタイルの敷設が開始されていました。完成は今年9月の予定で、このホーム延伸により南流山駅では副次的に8両編成への対応も完了します。

南流山駅の秋葉原寄りで進むホーム延伸工事。 南流山駅のつくば寄りでも同様に工事が進む。
左:南流山駅の秋葉原寄りで進むホーム延伸工事。
右:南流山駅のつくば寄りでも同様に工事が進む。

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●三郷中央駅
2両分のホーム台座が建設された三郷中央駅のつくば寄り。
2両分のホーム台座が建設された三郷中央駅のつくば寄り。

 南流山駅の隣にある三郷中央駅は対向式ホーム2面2線の高架駅で、1日あたりの乗車人員は約8千人です。この三郷中央駅では2010(平成22)年頃よりつくば寄りに2両分のホームの台座(骨組み)を追加する工事が行われました。これに遡る事2年前の2008年には、鉄道建設運輸施設整備機構によりつくばエクスプレス線全駅の8両編成対応化工事に関する入札の募集が行われており、三郷中央駅は全駅に先駆けて8両化の準備が行われたことになります。利用者数からすぐにホーム本体の工事が行われることは考えにくいですが、こうして目に見える形で8両化の準備がなされたことは大きな進歩といえるでしょう。

●秋葉原駅
秋葉原駅のホーム終端に新設された上りエスカレータ。 新設されたエスカレータは上階の既設のコンコースにつながる。
左:秋葉原駅のホーム終端に新設された上りエスカレータ。
右:新設されたエスカレータは上階の既設のコンコースにつながる。
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 つくばエクスプレス線が直接都心の交通網と接続するのは秋葉原駅、新御徒町駅、南千住駅、北千住駅の4駅です。しかし、首都圏のほかの民鉄線とは異なり都心内部まで深く進入していないため、終端の秋葉原駅に利用者が集中する傾向が見られ、開業当初より激しい混雑が発生しています。このため、秋葉原駅では自動改札機の増設などの改良工事が矢継ぎ早に行われています。2010年3月からはこれをより深度化させ、エスカレータや駅構内の通路を増設する工事に入っています。このうち、ホームの終端側で行われていた上りエスカレータの追加工事は2010年10月に完成しました。追加されたエスカレータは上階の既設のコンコースに接続するもので、列車到着時のホームの乗客滞留を抑制しています。

改札口の正面で新設工事中の出入口。 新設工事中の出入口はA2出入口の途中に接続する。 改札口~A2出入口の通路新設は地上掘削を伴うため、ヨドバシAkiba前のロータリー内には仮囲いが設けられている。
左:改札口の正面で新設工事中の通路。
中:新設工事中の通路はA2出入口の途中に接続する。
右:改札口~A2出入口の通路新設は地上掘削を伴うため、ヨドバシAkiba前のロータリー内には仮囲いが設けられている。
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ホーム部分のエスカレータ新設完了後は地下1階の改札口前から地上出入口までの間に通路を新設する工事が開始されています。新設される通路は改札口の真正面から始まり、既設のA2出入口(JR秋葉原駅中央改札口前)の通路の途中に接続するもので、あわせてトイレと地上に直接出られるエレベータも設置される予定です。この通路の完成により、つくばエクスプレス線とJR線の間の乗り換えに擁する移動距離が短縮され、駅構内の混雑が緩和される見込みです。(ただし、A2出入口は通路幅が狭いため、新たなボトルネックとなる可能性もある。)なお、この通路の工事は地上掘削を伴うため、真上に位置する駅前ロータリー(ヨドバシAkiba前)には工事用の作業帯が仮設されています。

■車両も増備

2008年に増備されたTX-2000系。開業当初に導入された車両とは車体のカラーが異なる。
2008年に増備されたTX-2000系。開業当初に導入された車両とは車体のカラーが異なる。

この駅改良工事と並行して、車両の増備も予定されています。今回導入されるのは2008年と同様の交直両用車両であるTX-2000系で、3編成18両が導入される予定となっています。これによりつくばエクスプレスの車両は直流専用のTX-1000系が14編成84両、交直両用のTX-2000系が23編成138両の合計37編成222両となる予定です。

■東京駅延伸は近い?

 実はつくばエクスプレス線の起点駅は秋葉原駅ではなく、東京駅が本来の計画とされており、2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会第18号答申でも今後整備を検討するべき路線(B)として位置づけられています。秋葉原駅まで短縮されたのは開業時点で東京駅延伸時に採算が取れるラインとされた1日あたり27万人という利用者数を確保できるか不透明だったためですが、現状では上記したとおりその数字を十分に満足しており、コスト面での問題は少なくなっています。また、このつくばエクスプレス線の東京駅延伸は2005(平成17)年に制定された新線建設に対する新しい資金補助制度である「都市鉄道等利便増進事業」(詳しくは当ブログで以前お伝えした「相鉄・JR直通線」の記事を参照。)の対象になるとされており、鉄道会社が短期間に多額のインフラ投資をする必要が無いことから、実現へのハードルはさらに下っていると考えられます。このため、沿線自治体ではこれまで毎年にわたり国や首都圏新都市鉄道(株)に対し、東京駅延伸の要請を行っています。

皇居側から東京駅を見る。つくばエクスプレスの東京駅は手前の内堀通りと東京駅の間に建設することが想定されている。
皇居側から東京駅を見る。つくばエクスプレスの東京駅は手前の内堀通りと東京駅の間に建設することが想定されている。2007年11月25日撮影

 2007年に発表されたつくばエクスプレス東京駅延伸に関する検討結果では東京駅の位置を丸の内仲通り(丸ビル・新丸ビルの背後)地下、東京~秋葉原間は大深度地下を利用する全長約2kmのルートと仮定し、いくつかの試算を行っています。それによると東京駅まで延伸することに加え、東京駅で他社線との乗り換えに対する利便性向上策(動く歩道の整備による所要時間短縮など)をセットで行った場合、延伸なしの場合と同等以上の採算性を確保できることがわかりました。検討結果には2010年度時点での利用者数が27万人を5%下回った場合、採算性が大幅に悪化することも合わせて記されていますが、これについては前述のとおり問題ないと考えられます。
 来る2013(平成25)年度には東京~上野間に東北縦貫線が開業します。常磐線の乗り入れは上野駅の配線構造上少数に留まると予想されていますが、やはり直通による利便性向上のインパクトは大きく、つくばエクスプレス線ではそれに打ち勝つだけの競争力を確保する必要があるといえます。リーマンショック後の長引く世界同時不況により、大規模なインフラ投資は抑制気味ですが、ぜひとも将来を見据えた交通体系の構築も期待したいところです。

▼参考
TSUKUBA EXPRESS|つくばエクスプレス (公式Web)
つくばエクスプレス - 茨城県 企画部 つくば・ひたちなか整備局 新線・つくば調整課
つくばエクスプレスの利用状況について - 流山市公式ホームページ
つくばエクスプレス沿線整備事業の概要 - 流山市公式ホームページ
つくばエクスプレス東京駅延伸へ - 流山市公式ホームページ
千葉県内の鉄道整備計画(つくばエクスプレス)/千葉県
鉄道:都市鉄道の整備 - 国土交通省
発進 つくばエクスプレス - 企画・連載 : 千葉 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

▼関連記事
鉄道旅行③ つくばエクスプレス(2006年2月27日作成)
つくばエクスプレス・・・発展は続く(2007年7月6日作成)
【速報】第3回つくばエクスプレスまつり(2007年11月3日作成)

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