京王線調布駅地下化工事(2012年4月7日取材)

京王線調布駅

京王線調布駅では現在線路の地下化工事が進められています。前回の取材から1年以上が経過し、進展がありましたので今月再度調査を行いました。今回は建設が始まった国領駅・布田駅の新駅舎や、相模原線調布~京王多摩川間に新設中の渡り線などを中心に事業全体の概要と現況を眺めてまいります。

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■現在の京王線調布駅とその問題点



 京王線調布駅は京王線と京王相模原線の分岐駅で、新宿駅から15.5kmの地点にあります。両路線とも東京都心と多摩地区を結ぶ重要幹線となっており、1日あたりの列車本数は上下それぞれ300~400本、ラッシュ時は最短で1分間隔で列車が発着する文字通り超過密ダイヤとなっています。また、調布駅の周辺も東京のベッドタウンとして発展しており、調布駅単体の1日あたりの乗降者数は約115,000人と、明大前駅の井の頭線の乗り換え利用を除く京王線の途中駅では最多の利用者数を誇っています。

ホームの京王八王子寄りから京王線・相模原線の分岐部分を見る。 調布駅の配線図と京王線・相模原線の平面交差のイメージ
左:ホームの京王八王子寄りから京王線・相模原線の分岐部分を見る。右へ進むのが京王線、左へ曲がっていくのが相模原線。2008年3月1日撮影
右:調布駅の配線図と京王線・相模原線の平面交差のイメージ

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 調布駅は全ての線路が地上にあるため、駅の西側にある京王線・相模原線の分岐部分は平面交差となっています。この平面交差は、本数が多い京王線が優先となっており、相模原線の上り列車が駅の手前で停車することが常態化しています。京王線・相模原線は2010年から2011年にかけて信号システムが相次いでATC化されましたが、調布駅の構内配線に起因するこの問題は改善のしようがなく、現況以上の増発は困難となっています。今回は地下化前最後の取材になると思われるため、この平面交差の様子を動画で撮影しました。

調布駅京王線と相模原線の平面交差(図による解説付き) - YouTube

前半は京王線の下り列車(準特急京王八王子行き・京王7000系)が調布駅の2番線に到着し、乗降を終えて発車していきます。ここで映ってはいませんが、この時点で背後の相模原線上り線には相模原線から京王線経由で都営地下鉄新宿線に直通する上り列車(急行大島行き・都営10-300形)が到着しており、平面交差の手前で待機しています。京王八王子行きが平面交差を通過し終えると、直後に大島行きが発車し、平面交差を通過して調布駅3番線に入線します。なお、調布駅は京王線は4線ある線路全てを利用できますが、相模原線は1・3番線にしか入線できない配線となっています。
 また、動画をご覧いただければわかるとおり調布駅の周辺には数箇所の踏切があり、列車本数が多いため昼間でもわずかな時間しか開かない「開かずの踏切」と化しています。このため、昼夜を問わず交通渋滞が深刻化しているほか、駅の南北で発展の度合いに差が出るなど踏切による街の分断も大きな問題となっています。

■調布駅付近連続立体交差事業の概要

 これらの問題の解決のため、現在国領・布田・調布の3駅を含む京王線柴崎~西調布間(野川付近~鶴川街道付近)2.8kmと相模原線調布~京王多摩川間(調布駅~品川通り付近)0.9kmを地下化する工事が進められています。地下化後の調布駅は上下線各1面2線ある島式ホームが2層に重なる構造となり、上下線ともに平面交差をすることなく京王線と相模原線の分岐・合流が可能となります。また、線路が地下化されることにより18箇所の踏切の廃止と8箇所の都市計画道路の立体交差化が実現し、交通渋滞や街の分断の解消が可能となります。

国領~調布間の地下化のイメージ 調布~西調布・京王多摩川間の地下化のイメージ
左:国領~調布間の地下化のイメージ
右:調布~西調布・京王多摩川間の地下化のイメージ

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 地下のトンネルは両端にある地上とのアプローチ区間と駅部分が地上から掘り下げる開削工法、駅間トンネルが地下を掘り進んでいくシールド工法をメインに用いて建設されています。駅間トンネルを建設するシールドマシンは調布駅を挟んだ東西でそれぞれ1機ずつとし、調布駅の端でUターンさせることでコスト削減と工期の短縮を図っています。また、布田駅は線路部分のトンネルをシールド工法で建設した後、地上から上下線間の部分を掘り下げてシールドトンネルと連結し、ホームを形成する方法が取られています。シールドトンネルの掘削順序は以下のとおりです。

●国領~調布間
1、国領駅→調布駅(京王線上り:左図のトンネル
2、調布駅→国領駅(京王線下り:左図のトンネル

●調布~西調布(鶴川街道)・京王多摩川(品川通り)
1、鶴川街道開削部→調布駅(京王線上り:右図のトンネル
2、調布駅→品川通り開削部(相模原線上り:右図のトンネル
3、品川通り開削部→調布駅(相模原線下り:右図のトンネル
4、調布駅→鶴川街道開削部(京王線下り:右図のトンネル

 この地下化工事は国の連続立体交差事業の対象となっており、道路整備の一環としてガソリン税・自動車重量税を財源にした国庫補助の下、東京都が主体となり事業が進められています。総工費は約1,150億円で、東京都が425億円、調布市が75億円、京王電鉄が650億円を負担します。

■2012年4月7日の状況

 調布駅地下化工事は2004(平成16)年9月に着工し、現在に至るまで順調に工事が進んでいます。去る2012年2月28日には事業主体である東京都から「2012年8月に地下線への切り替えを行う」ことが発表されました。地下化される線路は全て現在線の直下に新設されており、開削工法となる地上とのアプローチ部分と駅部分は鉄骨で組んだ土台で線路を支えながらその直下を掘削するという方法がとられています。以下、各区間の状況について見てまいります。




●新宿方地下入口

左:地下入口の切替前後のイメージ
右:下り列車から見た国領駅手前の地下入口

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新宿方の地下入口は柴崎~国領間にある野川橋梁の先にあります。地下入口は上下線が一体となったU字型のよう壁(掘割)で、国領駅へ向けて徐々に掘割が深くなり、国領駅の直前で完全に地下に入ります。現在、この部分の線路は全て鉄骨と木材で組まれた仮設構造となっており、その下では軌道敷設が完了しています。8月の地下線切替時は現在線が載っている仮設の桁を取り外し、地下に敷設済みの線路と接続するものと思われます。

●国領駅

左:国領駅の地下化前後のイメージ
右:国領駅調布方の端にある踏切からホームを見る。

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地下化工事着工前の国領駅は対向式ホーム2面2線の構造で、駅舎は地下にありました。このままでは地下のトンネルの建設ができないため、2007年に線路上に建設した仮設の橋上駅舎への切替が行われ、翌2008年には上下線の線路の位置を移動させ、ホームが島式化されました。地下化後の国領駅は現在の仮設ホームと同様の島式ホーム1面2線の構成となる予定です。地下のトンネルの建設は既に完了しており、現在は仮設橋上駅舎に隣接して地下化後に使用する新駅舎の建設が開始されています。完成後の新駅舎は木材を多用し、壁面緑化にも対応した外壁となる予定です。

国領駅南側の駅前広場から駅舎を見る。仮駅舎の手前に地下化完成後使用する新駅舎の建設が開始された。
国領駅南側の駅前広場から駅舎を見る。仮駅舎の手前に地下化完成後使用する新駅舎の建設が開始された。

国領駅を出ると地下のトンネルはシールドトンネルとなるため、布田駅まで地上での工事はありません。シールドトンネルの掘削期間中は国領駅の調布方に作業基地(防音ハウス)が設けられていましたが、工事が完了したことから現在は撤去されています。なお、シールド掘進に先立ち2008年に行われた調査で、国領~布田間の線路に隣接した民有地の地下に戦時中投下された不発弾が見つかり、周辺を立ち入り禁止にしたうえで撤去作業が行われました。

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京王線不発弾処理による部分運休(2008年5月18日)

●布田駅
布田駅の地下化後のイメージ 布田駅のホーム上から建設中の新駅舎を見る。
左:布田駅の地下化後のイメージ
右:布田駅のホーム上から建設中の新駅舎を見る。

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 地下化工事着工前の布田駅は国領駅と同じく対向式ホーム1面2線・地下駅舎という構造でした。着工後は駅舎が橋上化された以外はそのままの配置で仮受け・地下の掘削が行われています。地下化後の布田駅は国領駅と同じく島式ホーム1面2線となりますが、トンネルの構造は国領駅とは異なり線路部分がシールドトンネル、ホーム部分が地上から掘り下げる開削トンネルとなります。国領駅と同様地下の掘削はすでに完了しており、現在は橋上の架設駅舎に隣接して地下化後に使用する新駅舎の建設が行われています。新駅舎は1階部分が国領駅と同様壁面緑化に対応した外壁、2階部分には最近の建築物では一般的なパネルを用いた外壁となる予定です。
 なお、京王電鉄のホームページで公開されている地下のホームの写真を見るとできあがったホームの端には白い角柱が並んでいるのが確認できます。この部分はシールドトンネルと開削トンネルの継ぎ目で、角柱は上層階の重量を支えるために必要なものですが、同様の構造である地下鉄駅(たとえば東京メトロ有楽町線の永田町駅など)とは異なり、柱自体の太さが細い代わりにかなり狭い間隔で立ち並んでいます。また、柱自体の位置もホーム端から内側に寄った位置ではなく、ホーム端ギリギリになっており、ホーム端は人が通行できるようなスペースは設けられないように見えます。ここから予想できるのは布田駅に東京メトロ南北線のようなフルハイトタイプホームドアが設置されるのではないかということです。昨年、国土交通省が国内の各鉄道事業者に対してホームドアの設置予定があるかについて調査したところ、京王電鉄は京王線新宿駅(これについては別記事で解説予定)と地下化される国領・布田・調布の3駅で設置を検討中と回答しています。また、那須ストラクチャー工業株式会社のページに掲載されている2010年度の施工例一覧の中に「京王線布田駅ホームドア」の文字を見つけることができました。京王電鉄から正式発表がないためあくまで予想でしかありませんが、地下化後の布田駅にはホームドアが設置される可能性があります。

▼参考
報道発表資料:「平成23年度以降のホームドアの整備計画」の公表について - 国土交通省
施工例一覧 | 那須ストラクチャー工業

●調布駅
地下化後の調布駅のイメージ ホーム上から調布駅構内を見る。仮設橋上駅舎に覆われているため昼でも暗い。
左:地下化後の調布駅のイメージ
右:ホーム上から調布駅構内を見る。仮設橋上駅舎に覆われているため昼でも暗い。

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地下化工事着工前の調布駅は島式ホーム2面4線の構造で、駅舎は地下にありました。着工後は駅上空に人工地盤を造り、そこに仮設の駅舎を設けながら地下のトンネル建設を行っています。地下化後の調布駅は地上には駅舎は置かず、地下1階に駅施設をすべて収容し、地下2階が下り線ホーム(京王線京王八王子方面・相模原線橋本方面)、地下3階が上り線ホーム(新宿方面)となる予定です。ホームは上下線とも島式ホーム1面2線で、八王子・橋本方は両渡り分岐器となり、上下各2線ずつある線路は京王線・相模原線どちらも入線可能となる模様です。ここもやはり地下のトンネル建設や軌道敷設は完了しており、現在はホームの内装工事などが行われています。

調布駅新宿方の踏切から駅構内を見る。 調布駅京王八王子方の踏切から駅構内を見る。
左:調布駅新宿方の踏切から駅構内を見る。
右:調布駅京王八王子方の踏切から駅構内を見る。

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調布駅地下のトンネルは開削工法で建設が行われていますが、駅前後にある分岐器(ポイント)は整備性を考慮して鉄骨や木材による仮受けではなくバラスト軌道のまま残されています。

●京王八王子(京王線)・橋本(相模原線)方地下出口
調布駅端の踏切から京王八王子方面を見る。奥に見える茶色い枠が設置されているあたりが地下出口。手前にある陸橋は鶴川街道。 相模原線下り列車から相模原線の地下出口を見る。こちらも線路を囲むように枠が設置されている。
左:調布駅端の踏切から京王八王子方面を見る。奥に見える茶色い枠が設置されているあたりが地下出口。手前にある陸橋は鶴川街道。
右:相模原線下り列車から相模原線の地下出口を見る。こちらも線路を囲むように枠が設置されている。

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 調布駅の先は京王線が鶴川街道との交差部付近、相模原線が品川通りとの交差部付近でそれぞれ地上に出ます。相模原線と交差する品川通りは着工前は線路下をアンダーパスで交差していましたが、この部分はちょうどシールドトンネルの立坑の設置位置となっており、地下化工事着工前に仮設の陸橋を設置してアンダーパスを廃止しています。京王線・相模原線双方の地下出口も新宿方の地下入口と同様掘削は完了しており、現在は軌道敷設が行われています。また今回現地を調査したところ、京王線・相模原線双方の地下で入口付近には鋼材で組んだ門型の枠が多数設置されているのを確認しました。この枠の設置目的については現在のところ不明です。(東急の地下化工事のように地下線切替時に現在線の桁を真上に引き上げるためのもの?)

■相模原線折り返し用分岐器?

調布駅新宿方の本線上で折り返す相模原線の区間列車。 調布駅折り返し列車の走行経路
左:調布駅新宿方の本線上で折り返す相模原線の区間列車。2009年7月11日撮影
右:調布駅折り返し列車の走行経路

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 現在の京王相模原線の上りは日中は3本に1本、夕方・夜間は1本のペースで調布止まりの列車が設定されています。この調布止まりの列車は調布駅到着後、新宿方に設置されている片渡り線を使い、本線上で橋本方面への折り返しを行っています。地下化後の調布駅は上下線が2層に分かれるため、このような渡り線は設置できず、調布折り返しは不可能となってしまいます。
 地下化後にこの折り返し列車の扱いがどうなるのかについてはこれまで読者の方からも質問をいただいていましたが、公式には何も発表がなく、廃止して新宿方面に延長運転するのか、もしくは高架化後の京急蒲田駅の空港線のように駅手前に渡り線を設置して折り返すのではないかというあいまいな予測を立てていました。そして、今回取材の直前に改めて読者の方より「相模原線の京王多摩川駅手前で渡り線の工事が行われている!」とのご報告をいただき、調査を行いました。(情報をお寄せいただいた読者の方には深く御礼を申し上げます。

下り列車から京王多摩川駅手前に新設中の渡り線を見る。 この渡り線を使用した折り返しのイメージ
左:下り列車から京王多摩川駅手前に新設中の渡り線を見る。
右:この渡り線を使用した折り返しのイメージ

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 渡り線が新設されているのは地下出口を過ぎ、相模原線が京王多摩川駅に向かって曲がり始める直前の地点(調布起点1kmポスト付近)です。渡り線は上り線から下り線に向けて片方向のみに走行できるもので、クロッシング部分はノーズ可動式という豪華仕様です。この渡り線設置により、地下化後はこの渡り線から先で下り線を逆走して調布駅に入り、ホーム上で橋本方面に折り返すという運転が可能となります。地下化後のダイヤはまだ発表されていないため、実際にこの渡り線が使用されるかどうかは分かりませんが、少なくとも相模原線の調布折り返しが完全に廃止されるということは無いものと思われます。

京王線つつじヶ丘→調布前面展望(ATC化後・地上時代) - YouTube

京王相模原線調布→京王多摩川前面展望(ATC化後・地上時代) - YouTube

最後にこれまで見てきた地下化工事の区間の前面展望動画をご覧いただきながら今回の記事を締めくくりたいと思います。次回の取材は8月の地下化以後になると思われます。地下化されて一新された京王線調布駅の様子をできるだけ早くお伝えしたいと考えております。

▼参考
調布駅付近連続立体交差事業|京王グループ
中心市街地街づくり事業 - 調布市ホームページ
京王線地下化工事 - 調布市民放送局
→工事中のトンネル内の様子がご覧になれます。

▼関連記事
京王電鉄調布駅地下化 (2008年3月18日)
京王線調布駅付近地下化工事(2009年7月11日取材)(2009年12月4日作成)
京王線調布駅地下化工事(2011年1月15日取材)と複々線化の概要(2011年8月8日作成)

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