東京メトロ有楽町線豊洲駅改良工事(2012年4月21日取材)

2011年6月に新設された豊洲駅1c出入口

東京メトロ有楽町線豊洲駅では現在混雑緩和のための改良工事が行われています。前回の取材から2年が経過し、階段の移設や地上出入口の新設など進展が見られましたので、このたび再調査を行いました。今回は地下の駅構内の様子を中心に改良工事の現況をお伝えします。

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■豊洲駅混雑の現状と改良工事の概要



 豊洲駅は1988(昭和63)年6月8日の有楽町線新富町~新木場間開業に伴い新設されました。豊洲駅のトンネルは地下3層構造で、地下1階が改札口、地下2階が改札内コンコース、地下3階がホームとなっています。地下3階のホームは将来の地下鉄8号線(豊洲~住吉間)の分岐に備えて島式ホーム2面4線の構造となっており、現在は外側の2線のみを使用しています。
 開業当時の豊洲駅の利用者はほとんどが駅周辺に広がる石川島播磨重工業(IHI)東京造船所の通勤者で占められており、その数も1日あたり5万人と現在と比べかなり少なくなっていました。このため、地下2階のコンコースから地下1階の改札口へ向かう階段も1か所しかないなど、コンパクトな駅設備となっていました。

豊洲駅の利用者数の推移と今後の予測(改良工事着工前時点の数字)
豊洲駅の利用者数の推移と今後の予測(改良工事着工前時点の数字)

 しかし、有楽町線開業後にIHIの造船所が閉鎖されると、跡地に高層マンションやオフィスビルが次々と建設され、状況は一変します。さらに、2006(平成18)年には新交通ゆりかもめの有明~豊洲間が延伸開業したため、当駅の1日の利用者数は前年比45%増の8万4千人を記録し、年間を通じて激しい混雑が発生するようになりました。特にネックとなったのが1か所しかない地下1階・地下2階を連絡する階段で、朝ラッシュ時には階段を先頭に降車客が「渋滞」し、次の列車の到着までに捌けきらずにホーム上まで人が溢れ返るなど非常に危険な状態となっています。
 駅周辺の再開発は現在も続いており、このまま利用者数の増加が続くと2016(平成28)年には1日の利用者数は開業当時の4倍近い19万3千人に達すると予想されています(参考までに2010年度の1日平均利用者数は138,876人であった)。現在の狭小な駅設備ではこのような大量の利用者を到底捌き切れないことから、東京メトロでは豊洲駅の大規模な改良工事を実施することとしました。

豊洲駅の断面図と改良個所
豊洲駅の断面図と改良個所 ※クリックで拡大

 豊洲駅の改良工事は単純に階段を増設するだけではなく、改札口や地上出入口の増設、それに伴うトンネル躯体の増築など非常に多岐にわたっています。具体的には以下のような内容になっています。

●改札口の増設
現在ある新木場寄りの改札口に加えて駅中央と池袋寄りにも改札口を増設する。

●トンネル増築
池袋寄りの地下1階にトンネルを増築する。この増築部分は新改札口の設置スペースとなる。

●階段・エスカレータ・エレベータの増設・移設
改良工事で新設する駅中央と池袋寄りの改札口と地下3階のホームはエスカレータを新設し、直接接続する。また、既存の階段・エスカレータ・エレベータも移設を行い、混雑を平準化する。

●地上出入口の新設・改良
既存の出入口の一部は拡幅したうえでエスカレータを新設する。また、周辺の再開発事業者より地上出入口増設の要望があったことから、池袋寄りに増築されるトンネルを利用して地上出入口を新設する。

階段・エスカレータ・エレベータの新設・移設にあたっては地下2階コンコースを滞留スペースとしてそこで乗り継ぐ案とホーム・改札口を直接結ぶ案の2つが検討され、コンピュータによるシミュレーションが行われました。その結果後者の方が地上までの到達時間短縮の効果が高いと判断されたため、そちらの案が採用されました。これによりホームから改札口までの所要時間は現状の半分以下になると予測されています。
 また、現在の豊洲駅は地下2階のコンコースと地下1階を結ぶルートが新木場寄りの階段1か所しかないため、列車の進出入時にこの部分で10m/s近い強風が発生しています。改良工事完了後は地下3階の軌道階と地下1階を結ぶルートが3か所に増えるため、風速が5m/s程度に緩和されるという副次的な効果も予想されています。

■2012年4月21日の状況

 豊洲駅の改良工事は2009(平成21)年秋から開始され、まず手始めとして軌道が敷設されていなかった内側2線の上に渡り板を設置し、2つにわかれていたホームの一体化が図られました。(副都心線渋谷駅と同形態。)これは改良工事期間中はホーム上に多数の囲いが設けられるため、ホーム幅員の減少を補う目的で設仮設されたものです。
 なお、改良工事終了後は渡り板を撤去し、軌道を敷設して留置線として使用する予定となっており(ただし、後述する通り一部変更の可能性あり)、遅延発生時はこの留置線に待機させておいた列車を臨時に出庫させることで遅延の回復を図ることとなっています。この留置線新設と現在工事が進められている小竹向原~千川間の有楽町線・副都心線の立体交差化により、有楽町線の運行の安定化が期待されます。

移設された新木場寄りの階段 ほぼ同じ位置の2010年3月31日の様子。画面中央のエレベータを撤去して階段を新設した。
左:移設された新木場寄りの階段
右:ほぼ同じ位置の2010年3月31日の様子。画面中央のエレベータを撤去して階段を新設した。

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 ホームの新木場寄りは階段と軌道が未敷設だった中2線に張り出す形で設置されていたエレベータの位置を入れ替え、ホーム端側が階段、中央側がエレベータに再配置します。今回取材時は1番線(新木場方面)・2番線(池袋方面)ともに移設後の階段の使用を開始しており、エレベータについても2番線側のみ使用を開始していました。移設後の階段は壁面が純白の小さな正方形のタイル張りとなっており、従来よりも明るい印象を受けます。エレベータはシースルータイプで、サイズ自体も従来より大型化されています。このエレベータは元々あった階段の開口部を利用したことや、今後新設される内側2線の軌道に重ならないよう、従来とは異なりホーム幅方向の中央に設置されています。(なお、本記事作成時点では東京メトロホームページで公開されている豊洲駅の構内図にエレベータの移設が反映されていない。)
 左写真は2番線新木場寄りに新設された階段で、右写真はほぼ同じ場所の前回取材時(2010年3月31日)の様子です。左写真の右端と右写真の中央やや右に見える駅構内の案内板は同じもので、その脇にあったエレベータシャフトが無くなり、階段を新設したことが分かります。

新木場寄りの階段跡に新設されたエレベータ。周囲の柱や梁を見るとここに階段があったことが分かる。 ホーム中央のエスカレータ設置予定位置の柱。鋼管柱の両側にコンクリート壁を設置し、鋼管柱を撤去する。
左:ホーム中央寄りに新設されたエレベータ。周囲の柱や梁を見ると以前ここに階段があったことが分かる。
右:ホーム中央のエスカレータ設置予定位置の柱。鋼管柱の両側にコンクリート壁を設置し、鋼管柱を撤去する。

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 ホーム中央は地下1階の中央に新設される改札口へ直通するエスカレータが新設されます。この部分は上層階の床を支える柱・梁を撤去し、穴を開けてエスカレータを通す必要があります。この場合はまず既設の鋼管柱の両側(かつ新設するエスカレータに重ならない位置)にコンクリートの壁を新設し、上層階の荷重を壁に受替えた後鋼管柱とその上の床・梁を撤去するという手順が採られています。一層のこと、トンネルを丸ごと造り変えてしまえばこのような無駄手間がかからず済むはずですが、それを実行しようとするとコスト・工期とも非現実的な数字となってしまうこと、そして何より駅として営業を続けながら工事を行う必要があるため、このような複雑な方法をとらざるを得ません。

わずかに池袋寄りに移設されたホーム中央の階段。壁はまだコンクリートの地肌がむき出しだ。 池袋寄りの階段は元の位置のまま据え置かれる。
左:わずかに池袋寄りに移設されたホーム中央の階段。壁はまだコンクリートの地肌がむき出しだ。
右:池袋寄りの階段は元の位置のまま据え置かれる。

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 ホーム中央にある階段は昇降設備の等間隔化や地下2階の滞留スペース確保のため、柱1スパン分だけ池袋寄りに移設されます。今回はすでに階段の移設自体は完了していましたが、階段内部の内装はまだこれからで、壁はコンクリートの地肌がむき出しとなっていました。この階段のさらに池袋寄りにあったエスカレータは、すぐ脇に地下1階の池袋寄りの新改札口に直通するエスカレータが新設されるため、廃止される予定となっており、今回は既に使用が停止され囲いの中で撤去作業が行われていました。その先、池袋寄りの端にある階段は今回の工事の対象外となっており、見た目も特に変化はありませんでした。

地下2階は今回大部分が囲いで覆われており工事の様子はほとんど確認できなかった
地下2階は今回大部分が囲いで覆われており工事の様子はほとんど確認できなかった
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 地下2階のコンコースは今回ほとんどが工事用の囲いに覆われており、どのような作業が行われているかはよくわかりませんでした。唯一確認できたのは上階の改札口へ上がる階段の前にある、ホームへ降りる階段が柱1スパン分移設されていたことです。上の写真で黄色い矢印は前回取材時(2010年3月31日)・今回取材時(2012年4月21日)とも同じ柱を指示しており、位置は不変です。一方、オレンジ色の矢印は階段の位置を示しているもので、前回取材時は黄色い矢印を付けた柱と同じ並びにあったのに対し、今回取材時は柱1本分だけ奥にずらされていることが確認できます。(わかりにくい場合は床の濃い色のラインに注目。)

地下1階の改札口。 同じ場所の2010年3月31日の様子。奥にあった精算機とエレベータが無くなっていることが分かる。
左:地下1階の改札口。
右:同じ場所の2010年3月31日の様子。奥にあった精算機とエレベータが無くなっていることが分かる。

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 地下1階の改札口は位置自体は変わっていませんが、改札口を入ってすぐのところにあったエレベータは移設されたため撤去されており、その跡には自動改札機が増設されています。また、前回取材から今回取材までの間に自動改札機の配置はかなり変わっており、一部は階段を上がって左にUターンした地点に設置されています。これは駅の池袋寄りにある地上出入口へ向けて少しでもスムーズに利用者が流れるようにとの配慮と思われ、改良工事完了までの一時的なものとはいえ混雑緩和に苦心している様子がうかがえました。

1・2番出入口へ向かい改札外コンコース。左の囲いのある場所に新しい改札口ができる。 池袋寄りの端に増築された地下1階。中央の通路を直進すると1c出入口。通路左の囲いの中にももう一つ改札口ができる。
左:1・2番出入口へ向かい改札外コンコース。左の囲いのある場所に新しい改札口ができる。
右:池袋寄りの端に増築された地下1階。中央の通路を直進すると1c出入口。通路左の囲いの中にももう一つ改札口ができる。

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 改札口を出て1・2番出入口方向へ向かうと左側は延々と工事用の囲いが続きます。この囲いの中に新しい改札口ができる予定です。さらに先に進むと、地下1階が増築されたもう1つの改札口予定地があります。この増築部分はそのまま延長して豊洲駅の北側にある豊洲フロントビル(江東豊洲郵便局・マルハニチロ本社)に直結しており、2011年6月にはビルに併設した新しい地上出入口「1c」の利用が開始されています。

囲いに掲げられていた新改札口の完成予想図 完成予想図の拡大。なぜか線路番号は「1・3・4」になっている。
左:囲いに掲げられていた新改札口の完成予想図
右:完成予想図の拡大。なぜか線路番号は「1・3・4」になっている。

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増築部分の改札口予定地を覆う囲いには新改札口の完成予想図が掲出されています。この図をよく見ると改札内の案内板にある線路番号が「1・3・4」となっているのが確認できます。前記した通り当初の計画では4線ある線路敷の内側2線は改良工事完了後留置線として使用することになっていました。しかし、今回「3番線」という表現が登場したことから、そのうち1線は乗降可能な構造となる可能性も出てきたことになります。この件については完成予想図を描くうえで単に創作されただけなのか、それともメトロ社内において検討中で公になっていない内容を反映させたのかは不明ですので、今後も公式発表を注視してまいりたいと思います。

豊洲駅地上の晴海通り。右奥に見える水色の高架橋は新交通ゆりかもめ。 豊洲フロントビル前に新設された1c出入口。
左:豊洲駅地上の晴海通り。右奥に見える水色の高架橋は新交通ゆりかもめ。
右:豊洲フロントビル前に新設された1c出入口。

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 地上の晴海通りは前回と同じく中央分離帯に作業スペースが仮設されている以外は特に変化はありませんでした。最大の難関であった地下1階のトンネル増築は既に完了しており、今後は道路を占用しての大規模な作業はほとんど行われないものと思われます。

この豊洲駅改良工事は当初2011年度中(2012年3月まで)の完成が予定されていました。しかし、昨年発生した東日本大震災による工事の停滞や、混雑した駅の中で作業時間が限定されることなどから全体的に進行が遅れており、完成時期が2013(平成25)年9月へ1年半延期されました。改良工事が完成し、混雑が緩和された豊洲駅が見られるのはもう少し先のことになりそうです。

▼参考
「東京メトロ有楽町線豊洲駅における駅改良計画について」地下空間シンポジウム論文・報告書第14巻67~74ページ - 土木学会
「現場から 副都心線開業後の取り組みについて」 - Subway(日本地下鉄協会報) - 43~46ページ

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