八潮車両基地入出庫線(概説) - りんかい線東臨トンネル(31)

東京臨海高速鉄道りんかい線東臨トンネル ~時代に翻弄されたもうひとつの京葉線~
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■八潮トンネル  0km145m~2km500m(L=2355m)
▼参考
臨海副都心線工事誌 - 日本鉄道建設公団東京支社2003年9月 41・293~301・570~599ページ
京葉線大型シールド工事の現況 - 建設の機械化1975年12月号3~9ページ


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 前回まででりんかい線の本線部分の構造物に関する解説が終わったので、今回は皆様お待ちかねの八潮車両基地(東臨運輸区)へ向かう入出庫線について見ていくこととしたい。
 りんかい線の車両基地である八潮車両基地は本線からは離れた大井埠頭の東京貨物ターミナル駅付近にあることは、皆様ご存知のことだろう。この車両基地へ向かう入出庫線は東京テレポート~天王洲アイル間(新木場起点6km820m地点)、品川埠頭直下で本線と分岐している。分岐点のトンネルは昭和50年代に京葉線用台場トンネルとして建設された複線シールドトンネルの一部を取り壊し、開削トンネルに造り変える形で建設されている。分岐点のトンネルについては本線部分の記事(15・16)で詳しく解説しているのでそちらの記事を参照されたい。

15、品川埠頭分岐点(1)京葉線シールドトンネル
16、品川埠頭分岐点(2)開削トンネルへの改築


 分岐点から先の入出庫線は京葉線用として建設されていたトンネルを国鉄清算事業団から購入・流用して建設されており、「八潮トンネル」という名称が与えられている。京葉線用のトンネルは分岐点から品川運河までがシールド工法、品川運河との交差部分がケーソン工法、品川運河から東京貨物ターミナル駅構内までが開削工法で建設されている。ここから先は各区間ごとのトンネルの特徴について解説する。
 なお、工事誌ではトンネルのキロ程が京葉線時代のもの(塩浜操車場(現・川崎貨物駅)起点)、新木場起点のもの、分岐点起点のものの3種類が混在して書かれているが、本稿では全て分岐点起点に統一して記述することとする。八潮トンネルの全長は2355mで、キロ程は新木場起点で表すと6km965m~9km320m、分岐点起点で表すと0km145m~2km500mとなる。

■複線シールドトンネル(L=667m)

八潮トンネル(複線シールド)の位置。
八潮トンネル(複線シールド)の位置。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和49年)より抜粋

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 分岐点から品川運河までの667mは複線シールドトンネルとなっている。分岐点の記事でも解説した通り、シールドマシンは品川運河内にあるケーソン(若潮立坑)から発進し、新幹線回送線・大汐線(現在は休止中)と東京電力品川火力発電所の間を通り抜けた後、半径300~500mのカーブで大汐線から離れ、品川埠頭にある倉庫群の間を通り抜けて岸壁直下のケーソンに到達させている。シールドトンネルの外径は10.7m、セグメントは厚さ60cmの中子型セグメントで、埋め立て地で地下水位が高いため漏水対策として厚さ30cmの二次覆工が施されている。分岐点付近の工事に関しては当該記事で解説しているので、ここでは発進側の大汐線高架橋・東京電力品川火力発電所と発電所放水路トンネルの防護対策について解説する。

大汐線・東電品川火力発電所重油タンクの防護 東電品川火力発電所放水路の防護
左:大汐線・東電品川火力発電所重油タンクの防護
右:東電品川火力発電所放水路の防護

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 シールドトンネルは発進後、約300mに渡り大汐線高架橋と東京電力品川火力発電所に挟まれた地下20m付近を通過する。大汐線高架橋の基礎杭とトンネルの間隔は1mほどしかなく、反対側の発電所側には燃料の重油を貯蔵するタンクがあったため、沈下を最小限に抑える必要があった。このため、大汐線側には地中連続壁を構築し、連続壁の上端から地下24m付近にある支持地盤(洪積層)に向かって斜めにアースアンカー(PCストランド)を打ち込み、高架橋がトンネル側に倒れ込むのを防止した。また、発電所側には直径40cmのPIP杭※1を連続して打ち込み、発電所の施設をトンネルの掘進に伴う地盤沈下から隔離した。実際の掘進ではトンネルの真上で5cm程度の沈下が発生したが、防護を行った高架橋側では沈下はほぼゼロ、発電所側でも1cm程度の沈下にとどまるなど対策の効果が十分に発揮された。
 一方、発電所出口付近では発電所内でタービンを回した蒸気を水に戻すために使用した冷却水を京浜運河に排出する放水路のトンネルの下を交差する。放水路トンネルは幅6.4m、高さ3.0mのボックストンネルで、シールドトンネルとの離隔は3.9mであった。この放水路トンネルの防護については、杭を打って下支えする方法や添え梁を設ける方法など複数の案が考え出されたが、放水路トンネルの構造体に直接手を加えるには発電を休止して排水を止める必要があり、それを避けるためトンネル外側に遮水壁を形成し、その内部に薬液注入を行って地盤を強化する方法がとられた。薬液注入は交差するシールドトンネルの上半分に相当する深さまで行われており、シールド掘進に伴う地盤の流動を抑えている。

▼脚注
PIP杭:ネジ状の掘削機で地面を掘削し、土砂を排出した後モルタルを流し込んで杭を形成する方法。必要に応じてH鋼などを埋め込む場合もある。

■品川運河ケーソントンネル(L=193m)



八潮トンネル(品川運河ケーソン)の位置。
八潮トンネル(品川運河ケーソン)の位置。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和54年)より抜粋


 シールドトンネルを抜けると入出庫線は品川運河と交差する。この品川運河の河床下と大井埠頭側(写真では左側)の陸地部分を合わせた193mの区間は、陸上で作ったトンネルの下部を掘削して埋め込むケーソン(潜函)工法を用いて建設された。ケーソンは全部で6基に分割されており、品川埠頭側の6号ケーソンは前述のとおりシールドトンネルの発進立坑になっている。ケーソンは大井埠頭側に向かって幅・高さともに大きくなり、3号ケーソンの途中から大井埠頭側は上下線間に中柱が付く構造となっている。これは大井埠頭側は新木場方面行きの線路(京葉線下り)がすぐに地上に出るため、線路をできるだけ浅くしておく必要があるためである。
 運河内のケーソンの埋め込みは運河を鋼矢板(シートパイル)で仕切ったうえで土を盛り、そこにケーソンを載せて掘削・降下させる締切築島ケーソン工法が使用されている。ケーソンの埋め込みに当たっては運河内に常時一定幅の航路を確保する必要があるため、以下のように2基ずつ、3回に分けて工事が行われた。

1回目:3号・6号(航路は4号ケーソン上)
2回目:2号・5号(航路は4号ケーソン上)
3回目:1号・4号(航路は3号・5号ケーソン上)


また、トンネルのすぐ隣には大汐線・新幹線回送線の若潮橋梁があるため、橋脚の沈下・傾斜防止対策として運河両岸の橋台と運河内にある橋脚にそれぞれ2本ずつ、大井埠頭側の高架橋に9本アースアンカーを取り付けた。1974(昭和49)年の航空写真を見ると、運河内に桟橋が2基組まれ、何らかの作業が行われている様子が確認できるが、これはケーソンの埋め込みに先立って橋脚にアースアンカーを取り付けているものと思われる。

品川運河付近の1974(昭和49年)の様子。橋脚の防護らしき作業が行われている。
品川運河付近の1974(昭和49年)の様子。橋脚の防護らしき作業が行われている。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和49年)より抜粋


■開削トンネル(L=1480m)

八潮トンネル(旧京葉線上り線)と今は使われていない京葉線下り線の位置。中央を斜めに横切る黒い帯は現在首都高速湾岸線が通っている掘割。当時はまだ埋め立て後まもないため、海水が排出しきれず残っていたようだ。
八潮トンネル(旧京葉線上り線)と今は使われていない京葉線下り線の位置。中央を斜めに横切る黒い帯は現在首都高速湾岸線が通っている掘割。当時はまだ埋め立て後まもないため、海水が排出しきれず残っていたようだ。
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和49年)より抜粋

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 品川運河を過ぎると入出庫線は開削工法で建設された箱形のトンネルとなり、東京貨物ターミナル駅の構内に入る。本レポートの一番最初の記事で触れたとおり、東京貨物ターミナル駅構内は上下線で坑口の位置がずれており、新木場方面行き(京葉線下り)が24パーミルの急勾配で先に地上に出る。一方、鶴見方面行き(上り線)は大汐線の下り線に寄り添いながら1km以上も地下を進み、東京貨物ターミナル駅のほぼ中央付近から10パーミルの緩勾配で地上に出るという構造になっている。つまり、京葉線上り線からは東京貨物ターミナル駅には直接出入りできない配線とする予定だったようである。この開削トンネルは品川運河側の始点から既に上下線で高低差が付いており、50mほど進んだところで上下線が完全に別個のトンネルとなり、両者が分かれていくというルートとなっている。
 なお、トンネルは建築限界ギリギリの寸法で建設されているため、トンネル内の側壁には150m間隔で窪みが設けられており、トンネル内で作業中に列車が来た場合に退避することが可能となっている。また、下り線が地上に出る直前にトンネルの下を東京電力大井火力発電所の放水路が交差する。放水路は直径約4.4mのシールドトンネル2本により構成されており、離隔が小さい上り線側は掘削の際薬液注入により防護している。

開削トンネル掘削中のトラブル発生個所
開削トンネル掘削中のトラブル発生個所
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和49年)より抜粋


 この開削トンネルは台場トンネルの中でも最初期に着工した部分であり、1974(昭和49)年の航空写真で既にトンネル坑口付近のU字形よう壁が完成しているのが確認できる。だが、実際の工事は埋め立て完了から時間が経っていない超軟弱地盤ということもあり、様々なトラブルが発生している。特にトラブルが多かったのが品川運河から新木場方面行き(京葉線下り線)が地上に出る付近までである。

(1)転圧中に土留め壁が崩壊・陥没(0km985m付近)
転圧盛土による土留壁崩壊
転圧盛土による土留壁崩壊

品川運河側の上下線のトンネルが分離する地点はトンネル完成後の沈下を少なくするため、トンネルの掘削範囲のすぐ脇に土を盛り、予め地盤を沈下させておく(転圧)という作業を行っていた。だが、工期短縮を意識するあまり、転圧が十分完了していないにもかかわらず盛土の脇を掘削し始めてしまったため、盛土の重量に耐えきれず土留壁(山留)が歪み出した。直ちに変形した土留壁付近の盛土の撤去を開始したが、間に合わず土留壁が崩壊し、地面が大きく陥没してしまった。事故の原因は転圧とトンネルの掘削を同時並行で行おうとした無理な作業計画や、土留壁の設計荷重に地下水圧が入っていなかったというお粗末なミスであり、転圧用の盛土はすべて撤去して掘削を再開させた。

(2)仮設支保工撤去中にトンネル側壁が破壊(1km085m付近)
側壁破壊のメカニズム。土留壁にかかった土圧が切り梁を通じて反対側の側壁まで伝わり、側壁を突き破った。 事故後の対策。両側の土留め壁と側壁の間に高強度モルタルを入れ、側壁全体で土圧を受け止める。
左:側壁破壊のメカニズム。土留壁にかかった土圧が切り梁を通じて反対側の側壁まで伝わり、側壁を突き破った。
右:事故後の対策。両側の土留め壁と側壁の間に高強度モルタルを入れ、側壁全体で土圧を受け止める。

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上下線のトンネルが完全に分離した直後の地点でトンネルの建設が完了し、掘削用に坑内に渡してあった切り梁(横梁)を上下線で片方ずつ切断・撤去していたところ、切り梁の貫通部の側壁が押し抜きせん断力(パンチングシアー)により破壊された。原因は軟弱地盤であったことに加え、上下線間の埋め戻しが不完全であったため、切り梁を通じて伝わってきた土留壁からの圧力が、上下線間にある柱で抑えきれずに反対側のトンネル側壁まで到達し、側壁の貫通部一点にを集中して側壁を突き破ったものと判断された。事故後は両側の土留壁と側壁の間に高強度のモルタルを注入し、土留壁の圧力を切り梁ではなくトンネル側壁全体で受け止める形に変更した。さらに、上下線間の埋め戻しをいったん中止して仮設の支保工を設け、切り梁の撤去順序も変更することで切り梁からの圧力が側壁に伝わらないようにした。

(3)トンネル完成後の沈下(1km290m~1km490m付近)
東電大井火力発電所放水路の北側200mの区間は地下に目黒川の古い流路跡が埋没しており、支持地盤である東京礫層が大きく窪み、代わりに粘土層が厚く分布している。この地質構造のため、完成直後にしてトンネルの沈下が発生してしまった。トンネルが完成した1971(昭和46)年12月から4年間の累積沈下量は下り線で最大80cm、上り線で60cmにも達しており、そのままではトンネルが使用不可能になる事態が予想された。今後発生する沈下の主たる原因は埋め立て後の圧密沈下が終了していないことと、トンネル側壁と地盤の間に作用するネガティブフリクション※2であると予測された。この対策としてトンネル側壁に沿ってPIP杭を打ち込み、沈下する地盤とトンネルを隔離することとした。

▼脚注
ネガティブフリクション(負の摩擦力):地盤が沈下する際、そこに埋め込まれている基礎杭やトンネルが地盤との摩擦により沈下する地盤に引き込まれる現象。

(つづく)
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