東京駅赤レンガ駅舎復原工事(2012年6月15日取材)
公開日:2012年06月16日01:38

今年3月に外装を覆っていた足場が取り外され、復原後の姿が明らかとなった東京駅ノ丸の内赤レンガ駅舎ですが、その後さらに南北両側にあるドーム内についても足場が取り外され、完成した天井の一部を見ることができるようになりました。今回はこの赤レンガ駅舎内外の様子や免震装置組み込みに伴う改修についてお伝えします。
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■東京駅赤レンガ駅舎復原工事の概要



東京駅赤レンガ駅舎北口の変化。左が復原工事着工前(2007年5月26日)、中央が着工後(2010年8月14日)、右が足場取り外し中(2012年4月21日)。
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1914(大正3)年に完成した東京駅丸の内口の赤レンガ駅舎は、太平洋戦争中の空襲により3階部分を焼失し、南北両側のドームは八角形の暫定的な形に復旧された状態で現在に至っていました。2007(平成19)年からはこの焼失した3階部分を復原する工事が開始されており、今年10月の完成を目指して現在最後の仕上げ作業が続けられています。この復原工事は外観のみならず、南北両側にあるドーム内部についても創建当時の写真などを参考にして可能な限り復原することになっています。また、この赤レンガ駅舎は国の重要文化財にも指定されており、今後半永久的にその姿を保存・継承していくため、復原工事と並行して基礎部分に地震の揺れをカットする免震装置の組み込みも行われています。この免震装置の組み込みに合わせて2層構造の地下階も増設されており、駐車場、駅施設などに利用される予定となっています。(詳細は今年4月作成の記事、及び昨年12月作成の記事をご覧ください。)
■外装はほぼ完成


左:足場が完全にハスざれた北口ドーム部分。手前にあった旧東京駅前交番は取り壊し作業が始まった。
右:南口ドーム外側は庇の設置が始まった。駅舎側の付け根は装飾が美しい。
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赤レンガ駅舎の外周は前回北口ドーム脇にわずかに残っていた足場がすべて撤去され、外壁の全てを見ることができるようになりました。先に足場の取り外しが完了した南口側では改札口(ドーム内)に向かう入口付近の庇(ひさし)の設置が始まっています。復原前の庇は鉄骨とトタンを組み合わせた簡素なものでしたが、今回設置が進められているものは化粧板を用いた本格的な「屋根」となっており、駅舎壁面側の付け根には金属の板が複雑に組み合わさった美しい装飾が施されています。
なお、北口ドーム前にあった警視庁丸の内警察署・東京駅前交番は今回南口ドーム入口脇に新たに完成した建物に移転しており、以前使用していた建物は早くも解体作業が開始されていました。また、地下の掘削に伴い覆工板に置き換えられていた駅舎周囲の地面もアスファルトやタイル舗装への復旧が開始されており、10月の完成に向けて着々と準備が進められています。


左:使用停止中の丸の内中央口入口から工事中の車寄せ付近を見る。
右:参考までに着工前の丸の内中央口と車寄せ。2006年5月26日撮影
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赤レンガ駅舎の中央にある丸の内中央口は今年3月訪問時にも断続的に使用停止となっていましたが、6月は13日(水)~30日(土)の18日間の長期にわたり全面的に使用停止となっています。使用停止中の丸の内中央口は作業用の入口となっており、復原工事中の車寄せ付近を見ることができました。車寄せ付近は工事に伴い一時的に撤去されていた植木が元の場所に戻されており、完成が近いことを感じさせました。車寄せ部分の駅舎は着工以前から3階部分が残存しており、大きな形状の変化はありませんが、その左右を見ると以前は存在しなかった3階部分の躯体が出現していることが分かります。

中央線ホームから見た駅舎中央の裏側。屋根は曇りガラスとなっている。
3階部分が復原されたことにより駅舎全体の背が高くなったことから、駅舎裏側にある中央線ホームから屋根全体を明瞭に見ることができるようになりました。南北のドーム部分以外は黒いスレート葺きの屋根で特徴はありませんが、一段高くなっている中央部分は屋根全体が格子状の曇りガラスとなっており、かなりの存在感があります。この曇りガラスの下は東京ステーションホテルのアトリウム(宿泊者専用の朝食ラウンジとして使用)となる模様です。
■免震化を保証する「隙間」
この赤レンガ駅舎は復原工事に合わせて免震化が行われているのは前記した通りです。免震装置はアイソレーター(ゴムを重ねた緩衝装置)352台、オイルダンパー(油が入った減衰装置)158台により構成されていますが、これらの装置は全て地下にあるため、直接見ることはできません。しかし、今回駅舎の外装がほぼ完成したことで、免震化されたことで生じた「特徴」を随所に見ることができるようになりました。
(1)出入口のエキスパンションジョイント(伸縮継目)

北口ドーム入口のエキスパンションジョイント
1つ目の特徴は駅舎入口の床面全てに銀色の金属板が挟まっていることです。これは「エキスパンションジョイント」(伸縮継目)といい、独立した2つの建物同士をつなぐ部分でよく見られるものです。その名の通りこのジョイントは伸び縮みをして双方の間の変位wを吸収する働きを持っています。
(2)隣接建物との間隔


左:南口ドームと中央線ホームが近接する部分。高架橋床面付近の壁面がくびれている。
右:北口ドームと中央線ホームが近接する部分。ホーム側の鉄骨に接近する部分が窪んでいる。(こちらはまだタイルが貼られていない。)(元の写真)
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北口・南口のドーム部分は幅が広いため、駅舎裏にある中央線ホームの高架橋と近接します。この近接部分は双方とも今回の復原工事にあたり、高架橋の風防が取り外されており、ホーム上から壁面を直接見ることができるようになっています。南口側は既に壁面のタイル貼りまで完成していますが、高架橋の床面に近接する部分をよく見ると壁が垂直ではなく高架橋を避けるように大きくくびれているのが分かります。一方北口側はまだタイル貼りが終わっておらず、コンクリートの地肌が露出しています。こちら側は南口よりも高架橋と駅舎の間隔がさらに狭くなっており、くびれの度合いも南口側より大きくなっています。また、よく見ると撤去されていない高架橋側の風防の鉄骨に合わせて壁が斜めに窪んでいることが分かります。(右写真の丸で囲んだ部分。)


免震化された建物の地震時の動き。左のようにクリアランスを確保していないと衝突して建物が壊れる。
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これらはいずれも免震化された駅舎が地震で動いた際のクリアランスを確保するために設けられた対策です。左の図のようにもし免震化された駅舎とそうでない他の構造物が完全に結合されていた場合、地震の際免震化された駅舎とそうでない構造物が衝突してし破壊してしまいます。このため、駅舎と周囲の構造物の間に意図的に「隙間」を作り、地震時の衝突を防止しているわけです。特に、中央線ホームと北口ドームの間は極めて接近しているため、復原以前の形状(垂直な壁)のままにしてしまうと、大規模地震の際駅舎がホームの建築限界に侵入してしまい、停車中の列車と接触する恐れも出てきます。このため、壁を大きく後退させ、十分な隙間を確保しています。中央線ホームは赤レンガ駅舎の復原・免震化の計画が持ち上がる前(1995年)に完成したこともあり、駅舎の免震化に際して様々な苦労があったことが伺えます。
■北口・南口ドーム内も足場が撤去
北口ドーム内の状況。天井を覆っていた足場が外され、装飾の一部が見えるようになった。
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北口・南口のドーム内は2007年の復原工事開始以降天井全体が足場で覆われた状態となっていましたが、今回この部分の復元作業も終了したことから、足場のほとんどが撤去され、天井の一部が見える状態となりました。今回見えるようになったのは2階に相当する部分までで、そこから上のドーム本体は引き続き白い幕に覆われた状態となっています。
また、改札口やきっぷ売り場などの工事も進んでおり、北口は去る6月3日(日)に完成済み、南口は本日6月17日(土)に完成・使用開始となる予定です。



上段:北口ドーム天井の全景(3枚合成)
下段左:柱の頂部にある装飾。
下段右:復原工事着工前のドーム。2007年5月26日撮影
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復原工事着工前のドームはジュラルミン製の板を半球状に貼っただけの質素なものでした。今回の復原工事ではこの天井板を撤去し、創建当時の天井を再現しており、4階部分には十二支のうち子、卯、午、酉を除く8つの干支のレリーフが、天井には全長2.4mの鷲の彫刻がそれぞれ飾られることになっています。今年5月時点ですでにドーム部分の装飾の取り付けは完了しており、今年10月の完成時に披露される予定です。
今回は赤レンガ駅舎のみを取り上げましたが、東京駅周辺では今秋の完成に向けて八重洲口の大丸東京店増床の工事が大詰めを迎えている他、去る5月31日には丸の内口駅前にあるJPタワー(東京中央郵便局)が竣工を迎え、一部の施設が開業を迎えました。これらについても引き続き取材を続けておりますので、ある程度まとまり次第追って報告したいと思います。
▼参考
東京駅が街になる Tokyo Station City
鹿島:東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事の着工について - JR東日本(PDF・2007年5月8日発表)
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事及び八重洲口開発第2期工事について - JR東日本(PDF・2011年9月6日発表)
東京ステーションホテル|TOKYO STATION HOTEL
東京駅丸の内駅舎が完成間近! ドーム内部・ギャラリー・ホテル客室を公開 | ライフ | マイナビニュース
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