首都圏鉄道各社でホームドア設置が進行中(その2-1:山手線)

山手線E231系500番台

現在、首都圏の鉄道各社ではホームからの転落事故防止のためホームドアの設置が進められています。今年5月に東京メトロ有楽町線、都営地下鉄大江戸線、東急大井町線大井町駅、京王線新宿駅のホームドア設置の状況についてお伝えし、大きな反響をいただきました。その後、5月の記事でお伝えできなかったJR山手線小田急線新宿駅のホームドア設置状況について取材をいたしましたので、今回はこれらの路線の状況についてお伝えいたします。1記事目の今回は山手線のホームドアの概要と車両・地上双方に整備されたTASC、E231計6ドア車の置き換えについてお伝えします。
※なお、鉄道各社のホームドア整備については今後も記事数の増加が見込まれるため、新規にサブカテゴリを設けました。

▼関連記事
首都圏鉄道各社でホームドア設置が進行中(2012年5月4日作成)

■JR山手線のホームドアの概要
恵比寿駅で先行使用を開始しているホームドア 恵比寿駅は2010年6月26日、目黒駅は8月28日より使用を開始した。
左:恵比寿駅で先行使用を開始しているホームドア
右:恵比寿駅は2010年6月26日、目黒駅は8月28日より使用を開始した。2枚とも2010年6月26日撮影

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 JR東日本では2008(平成20)年に発表した長期経営計画「グループ経営ビジョン2010-挑む-」の中に、ホーム上の安全対策の一環として山手線の全駅にホームドア(可動式ホーム柵)を設置することを盛り込みました。山手線のホームドアは東京メトロや民鉄各線ですでに導入されているホームドアを基本としていますが、山手線は日本でも有数の高密度運転を行っていることから、

●耐環境性の向上やシステムの2重化などを行う。
●稼動状況を常時モニタリングし、故障時にすぐ対処できるよう構成する。


といった信頼性向上のための改良がなされています。また、利用者数が極めて多いことから、

●地震発生などで緊急停車した際やホームドア故障時に、脱出が容易なようホームドアの一部を取り外し可能な構造にする。
●高機能のセンサー(3次元赤外線センサー)を導入し、ドアに荷物やかさなどが挟まっても検知できるようにする。
●ホームドアの一部を透にし、足元を見やすくする。

といった利用者視点での安全対策がなされています。全駅の導入に当たっては上記の対策の妥当性やさらなる課題の洗い出しが必要であることから、ホームドア本体の設置が比較的容易な恵比寿駅目黒駅で2010(平成22)年夏より先行して使用が開始されました。

恵比寿駅で試験運用中のホームドア。
恵比寿駅で試験運用中のホームドア。2010年6月26日撮影

 山手線のホームドアはJR東日本のグループ企業である東日本トランスポーテックが開発を担当しています。ドア本体はE233系に対応するため幅が広くなっている先頭車の一部ドアを除いて大型の長方形の窓が付いており、カーブ上の駅でもホームと電車との隙間を事前に確認することが可能です。ドアの開閉のタイミングは開扉が「ホームドア→車両のドア」、閉扉が「車両のドア→ホームドア」の順となっています。また、ホームドア本体は車体側とホーム側の電位差による感電防止のため白色の絶縁塗装が施されている他、戸袋への手の引きこまれ防止のため戸尻全周を覆うようにゴムの突起が設置されています。これらの仕様はCGを用いたイメージ図やモックアップを製作したうえで決定されました。

■TASC整備・6ドア車の置き換え
駅構内の線路上に設置されたTASC用地上子。D-ATCの地上子と形状は同じだが、ラベルに「TA」があるため見分けることが可能。 地上子は停止位置までの間に数個設置されており、停止位置に近づくほどその間隔は短くなっている。
左:駅構内の線路上に設置されたTASC用地上子。D-ATCの地上子と形状は同じだが、ラベルに「TA」があるため見分けることが可能。2012年5月19日、品川駅で撮影
右:地上子は停止位置までの間に数個設置されており、停止位置に近づくほどその間隔は短くなっている。2010年3月20日、恵比寿駅で撮影

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 ホームドアの設置に当たっては車両の停止位置とホームドアの位置を正確に一致させる必要があります。このため、駅停車時の操作を自動的に行う、定位置停止装置(Train Automatic Stop Control system:TASC)が導入されます。TASCは停止位置手前に設置された地上子から停止位置までの距離情報を取得してブレーキパターンを発生し、車輪の回転数から算出した残距離に合わせてパターンに追随するようブレーキを調整しながら減速するものです。車両側が認識している停止位置までの残距離は車輪の空転・滑走により誤差が生じるため、停止位置までの間に数個地上子を設けてその誤差を修正します。
 なお、現在の山手線のTASCは後述するホームドア未設置駅を含め、停止位置手前160m付近に1個目の地上子を置いてブレーキパターンを発生させており、駅進入当初の減速は運転士の操作により行っています。これは熟練した運転士の操作を優先し、TASCはあくまで停止位置精度向上のための補助装置として位置づけることで、余計な徐行運転を防止するためと思われます。(実際の運転操作はホーム進入時にB5~B7程度でブレーキをかけ、TASCパターン発生後はB1まで緩めてTASCに停止を任せるという形が多い。)

1号車(クハE230-500形)床下にあるホームドア連動用地上子と車上子 運転台に追加されたホームドア・TASC動作表示灯。E231系500番台は製造当初からこの表示灯の追加を考慮してスペースが確保されていた。



左:1号車(クハE230-500形)床下にあるホームドア連動用地上子(P0地上子)と車上子
右:運転台に追加されたホームドア・TASC動作表示灯。E231系500番台は製造当初からこの表示灯の追加を考慮してスペースが確保されていた。2枚とも2010年3月20日撮影

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 一方、車両側は床下にホームドアと連携させるための車上子が、両運転台にはホームドアの動作状態を表示する表示灯がそれぞれ追加されています。山手線のホームドアには「分離モード」「連携モード」の2種類の運転モードがあります。「分離モード」は地上側の条件に関係なく車両のドアの開閉を可能にするもので、ホームドア未設置駅ではこのモードを使用します。「連携モード」は上の写真にある車上子・P0地上子を通じて車両のドアとホームドアを連動させるもので、停止位置がずれたりホームとは反対のドアスイッチを扱った場合はドアが開かず、閉扉時は車両・ホーム双方のドアが閉まらないと発車できません。車両側のデフォルトの設定は「分離モード」となっており、ホームドア設置駅では入口側に「連携切替地上子」、出口側に「分離切替地上子」を置くことでその駅のみ連携モードで運転するように自動で切替を行います。さらにホームドア故障時は運転台のスイッチにより一時的に分離モードに切り替えることも可能としています。
 また、これとは別にTASCに対応したブレーキの多段階化も行われています。E231系の常用ブレーキは通常7段階となっていますが、これでは停止位置直前の微妙なブレーキ力の調整ができず、ホームドアに対応できるだけの精度が確保できません。このため、TASC動作時は各段階をさらに4分割した28段階とし、開業当初よりホームドアを導入している東京メトロ南北線などと同等のプラスマイナス35cmの停止位置精度を確保しました。
 なお、ホームドア連動用地上子(P0地上子)と車上子は1号車側(クハE230形)にしか設置されておらず、反対側の先頭車からの指令はTIMS(車両情報管理装置)経由で転送するシステムとなっています。また、停止位置までの距離情報の取得は両先頭車に既設のD-ATC車上子により行っており、新たな機器類の設置は行われていません。

7・10.号車に組み込まれていた6ドア車サハE230-500形。2011年8月で全車廃車となった。 6ドア車に代わり10号車に組み込まれたサハE231-4600形。窓配置が独特。
左:7・10号車に組み込まれていた6ドア車サハE230-500形。2011年8月で全車廃車となった。2008年6月8日、東京駅で撮影
右:6ドア車に代わり10号車に組み込まれたサハE231-4600形。窓配置が独特。2010年6月26日、東京駅で撮影

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 山手線は混雑が激しいことから、これまで7号車と10号車に6ドア車両(サハE230形500番台)を連結していました。しかし、山手線は京浜東北線と並走する田町~田端間で事故や工事などの際両線で線路を共用することがあり、ホームドアの設置位置は京浜東北線のE233系1000番台と同等にしておく必要があります。また、ドア間隔の都合上、1両6ドア分のホームドアを設置することは極めて困難であるため、山手線全駅へのホームドア設置に先立ち、6ドア車を4ドア車に差し替えることとになりました。
 新しく組み込まれる車両は7号車がサハE231形600番台、10号車がサハE231形4600番台で、後者は車両内外ともE233系ベースの構造となっており、京浜東北線E233系の先頭車に合わせて11号車側の車端部のドアが69cm車体中央側にオフセットされています。この結果、車端部はサイズが異なる小窓が並ぶ独特な窓配置となっています。
 4ドア車への差し替えは2010年2月より編成番号の大きい順に開始されました。編成番号が大きい順に実施されたのは抜き取りられた6ドア車の部品を新造される4ドア車に流用する際、機器類の検査周期を極力一致させるためです。また、E231系はブレーキ制御をTIMSにより行っており、電源がない6ドア車・4ドア車単体では走行できません。このため、中央・総武緩行線(三鷹車両センター)からE231系0番台1編成を借り入れ、これを伴走車として利用しました。6ドア車の廃車・解体場所は長野車両センター(長野県)、4ドア車の製造場所は新津車両製作所(新潟県)であることから、作業の効率化のため「東京→長野→新潟→東京」という周回ルートで回送を実施しました。
 4ドア車への差し替えは当初予定通り2011(平成23)年8月に52編成全てで完了し、ホームドアが未設置となっていた恵比寿駅・目黒駅の7・10号車の停車位置にもホームドアが設置されました。

■今後の整備予定
■小田急:新宿駅急行ホームに設置
■今後の鉄道各社のホームドア整備

その2-2の記事へ続く→




▼参考
山手線への可動式ホーム柵の導入について - JR東日本(PDF)(2008年6月3日発表)
山手線恵比寿駅、目黒駅のホームドア使用開始日について - JR東日本(PDF)(2010年3月4日発表)
山手線ホームドア 2013年度までの完成予定駅について - JR東日本(PDF)(2011年7月5日発表)
ホームドア実導入に向けた研究開発 - JR East Technical Review No.33(PDF)
ホームドア3次元安全センサーの開発 - JR East Technical Review No.33(PDF)
山手線E231系500番台 ホームドア導入に伴う車両改造概要 - R&M2010年9月号
山手線6扉車に代わる新造車のこと - 交友社「鉄道ファン」2010年2月号
可動式ホーム柵の設置に伴う6扉車置き換え用 山手線E231系中間車 - 交友社「鉄道ファン」2010年5月号
山手線用6扉車取換え計画 - 交友社「鉄道ファン」2010年11月号

▼関連記事
山手線ホームドア導入と課題(2008年7月18日作成)
山手線ホームドア設置工事とE231系改造の現況(2010年4月5日作成)
山手線恵比寿駅ホームドア使用開始(2010年6月26日取材)(2010年9月19日作成)
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