カテゴリ:鉄道:建設・工事
常磐線利根川橋梁架け替え工事(2012年7月28日取材)
公開日:2012年09月16日18:30

常磐快速線利根川橋梁は一部が架橋から90年が経過し、老朽化が進んでいるため、現在架け替え工事が進められています。前回の調査から1年余りが経過し、新橋梁の桁架設がほぼ完了したため、7月に再度調査をしてまいりました。今回は上野方の取り付け部分も含め、全体の状況をお伝えいたします。
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常磐線利根川橋梁架け替え工事(2011年9月18日取材)(2011年12月5日作成)
■常磐線利根川橋梁架け替え工事の概要
現在の常磐快速線利根川橋梁(全長964m)は1958(昭和33)~1963(昭和38)年に利根川の治水事業に伴い架け替えられた4代目のもので、架橋から半世紀以上の年月が経過しています。このうち、上り線の橋梁の中央を構成するトラス橋は、1920(大正9)年に架設された物を補強・流用したもので、製作されてから実に90年以上もの年月が経過しています。このため、橋桁には老朽化に伴う疲労亀裂などの損傷が多数発生しており、補修が繰り返されています。
また、高水敷(河川敷)に架かるガーター橋の橋脚は、原地盤に直接基礎を置く形となっているため完成以来沈下が続いており、これまで数度桁のかさ上げが行われているほか、大規模地震時に液状化による橋梁全体の倒壊も危惧されています。(2011年3月の東日本大震災では幸い大きな被害は無かった。)このように、常磐快速線の利根川橋梁は継続使用が困難な状態となっていることから、JR東日本は全面的な架け替えを行うことを決定し、2009(平成21)年11月より工事が開始されました。

新橋梁の位置
新橋梁は隣接する緩行線の橋梁と現在の橋梁の間に架設されます。新橋梁の橋桁は緩行線と同じ上下線が一体となった複線トラス橋で、騒音防止と強風対策のため閉床式(有道床)桁となる計画です。橋脚は河川全体の阻害率を5%未満にすることが条件とされたため、緩行線より3径間少ない9径間のスパン割とし、設置位置は緩行線の橋脚と流路方向に対して同一線上に配置されています。
なお、新橋梁の予定地は明治時代の橋梁があった場所で地中にはその基礎の一部が残存していますが、河川内で作業ができるのは渇水期となる11~5月の7ヶ月間しかありません。このため、新橋梁の橋脚基礎は旧橋脚基礎を取り囲むように杭や矢板を配置し、残存物の取り壊し量が極力少なくなるよう配慮されています。
。新橋梁と既存の線路を接続する両側のアプローチ部分は上野側が盛土+コンクリート製高架橋を新設、取手側が既存の盛土を改良することになっており、特急列車でも速度制限がかからないよう130km/hで走行可能な線形となる計画です。
工事のスケジュールは2009(平成21)年から延べ10年間で予定されており、具体的には以下のようになっています。
2009年4月~:準備工事(完了)
2009年11月~2010年5月(第1渇水期):橋脚施工(完了)
2010年5月~:上野方アプローチ部分の建設開始(2012年11月まで)(進行中)
2010年11月~2011年5月(第2渇水期):橋脚施工+高水敷の橋梁架設(橋脚完成部分)(完了)
2011年11月~2012年5月(第3渇水期):高水敷の橋梁架設(完了)
2012年2月~:軌道敷設・電気設備施工(完成した部分から)(進行中)
2012年5月~2013年3月(出水期):・低水敷の橋梁架設(トラベラークレーン使用)(進行中)
2013年秋:上り線切替
2014年秋:下り線切替
切替~2019年:旧橋梁撤去
■2012年7月28日の状況

取手駅側から見た常磐線利根川橋梁の全景(3枚合成)
※クリックで拡大(1200*488px/114KB)
昨年訪問時は上野方の高水敷(河川敷)でトラス桁の架設がほぼ完了した状態となっていました。その後は取手方高水敷、低水敷(流路部分)の順に桁の架設が続けられており、今回訪問時は低水敷部分のごく一部を除き桁の架設が完了していました。トラス桁の高さは通過する電車の高さの2倍以上あり、離れた場所から見てもかなり目立ち、迫力があります。



上段:取手側高水敷の2010年9月5日(左)、2011年9月18日(右)の状況 ※クリックで拡大
下段:今回訪問時(2012年7月28日)の取手側の高水敷の状況
取手方の高水敷から見た新橋梁建設工事の変遷です。1回目の訪問時(2010年9月5日)は対岸(上野方)の高水敷で橋脚の建設が進められている段階で、こちら側からは新橋梁の構造物はほとんど確認できません。2回目の訪問時(2011年9月18日)は手前の高水敷でも橋脚が建設され、対岸では前年完成した橋脚の上にトラス桁が架設され、新橋梁が徐々に姿を現し始めます。そして今回訪問時は手前の橋脚とその間の流路上部のトラス桁架設がほぼ完了し、橋梁全長に渡り桁が繋がりました。
なお、この3枚の写真だけ見ると対岸から順にトラス桁が架設されたように見えてしまいますが、実際は「対岸→手前→川の中央」の順に架設が行われています。


左:新橋梁中央の拡大。画面中央上に見える骨組みが1箇所だけ繋がっていない。
右:橋梁中央に近づいたところ。ボルト周囲はまだ塗装が下塗りの状態。
※クリックで拡大
橋梁中央部分はまだ仮設が完了して間もないため桁のボルト締め付け(本締め)などの作業が続いています。このため、骨組みの結合点は塗装全くされていない、もしくは下塗りのみの状態という箇所も複数見られました。また、取手側の高水敷の桁との接点は上部の骨組みの一部がまだ取り付けられていない状態でした。トラスの上部には工事に必要な資材を出し入れするため、巨大なクレーンが設置されています。


左:取手駅に接する最後の1径間は上下線間が広がっている。(わかりづらいが、写真の左端と右端を見比べると右の方が桁の幅が広い。)
右:取手側の橋台。この日は桁の床面の防水工事が行われていたようで、溶剤の臭いが辺り一面に充満していた。
※クリックで拡大
常磐快速線の取手駅は島式ホーム2面4線となっています。現在の橋梁では橋梁内にカーブができるのを避けるため、駅への取り付け曲線を強引に陸地部分に押し込んだ格好となっており、特にカーブがきつい上り線は75km/hという低速での走行を余儀なくされています。
新橋梁ではこれを解消するため、取り付け曲線を橋梁上にも延長しており、取手駅に近接する最後の1径間は、取手駅構内に向かって徐々に上下線間が広がる特殊な形状の桁となっています。新橋梁の真下は工事開始以後、河川敷の駐車場の入口になっている一箇所を除いて立ち入り禁止になっており、この様子はよく見えませんが、先日更新されたGoogleマップの航空写真を見ると上下線の間隔が広がっていることが明瞭に確認できます。(→Googleマップの航空写真)

上野方の橋梁上では軌道敷設が開始されている。
新橋梁のうち、桁の架設から1年以上が経過している上野方の一部では床面の仕上げが完了し、軌道敷設が開始されています。敷設中の軌道は最近主流のコンクリートの台座上にゴムを敷いてPCまくらぎ・レールを置く「弾性まくらぎ直結軌道(D形軌道)」となっている模様です。鋼鉄製の橋梁は温度変化による伸縮があるため、以前は無道床・定尺レール(25mごとに継ぎ目があるレール)が主流となっていましたが、伸縮継目の改良など様々な技術の進展により、最近では通常の高架橋と同じ軌道構造が採用されることが多くなっています。これにより従来と比べて騒音低減が図れるほか、下から吹き上げる風を遮断できるため、強風による列車遅延・運休の減少が期待されます。(防風柵を組み合わせればさらに効果的。)

下り列車の前面展望(動画から切り出し)。上野方は新橋梁に取りつくコンクリート高架橋の建設が進んでいる。 ※切り出し前の動画はこちら
橋梁両側の取り付け部分の工事も本格化しています。上野方(天王台方)は既存の盛土の拡幅と鉄筋コンクリート製の高架橋を新規に建設して新橋梁に接続します。この部分の工事は昨年訪問時点でに既に開始されており、現在は高架橋の床面に相当する部分の型枠・鉄筋設置とコンクリート打設が行われています。新しい取り付け高架橋は現在と比べ曲線が緩やかになるため、速度制限はかからない見込みです。(現在線はS字にカーブしているため100~120km/hの速度制限がある。)


左:取手駅のホーム端から上野方面を見る。画面中央に新橋梁の姿が確認できる。
右:取手駅と橋梁の間で交差する県道11号線に架かる架道橋。写真は以前保守用側線に使われていたもの。
※クリックで拡大
取手駅と新橋梁の間でも既設の盛土を本線としての使用に耐えるよう補強する工事が開始されています。この途中では県道11号線(取手東線)と交差しています。県道との交差部分には現在使用中の快速線上下線、緩行線上下線の架道橋に加え、快速線と緩行線の間に単線幅の架道橋が架かっています。単線幅の架道橋は以前保守用側線として使用されていましたが、現在側線の軌道は撤去されており、盛土補強や新橋梁の工事のための通路となっています。この可動橋がある場所は新橋梁切替後の上り線の予定地となっていますが、新橋梁の向きとこの架道橋飲向きは若干ずれており、そのまま新上り線の桁として流用することは困難であると考えられます。ただ、橋梁の銘板に記載された竣工年は1984(昭和54)年と比較的新しく、設計荷重もKS-16で一般的な電車や電気機関車の通過には問題ないことから、桁だけが流用される可能性も無いとは言い切れません。このあたりは今後の進展を注視したいと思います。
常磐線利根川橋梁を渡るE531系 - YouTube 音量注意!
常磐線では今年3月17日のダイヤ改正より新型特急車両E657系(冒頭写真参照)が運行を開始しました。10月までに常磐線の特急列車は全列車がこのE657系に統一されることになっており、従来からある651系・E653系はJR東日本管内の他の地区に転用される予定となっています。このうち、E653系については当初いわき以北に新設する特急列車に転用する予定となっていましたが、東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故により運転再開のめどが立たないことから、当初計画を変更し新潟地区の485系の置き換えに使用することが先日マスコミ報道により明らかになりました。
常磐線利根川橋梁の新橋梁切替は今から約1年後の2013(平成25)年秋の予定となっています。E657系と現在の旧橋梁との組み合わせはその間のみ見られる「限定品」となりそうです。
▼参考
吉川・滝澤・水野・土屋 - 常磐線利根川橋梁改良(計画) - 日本鉄道施設協会誌2010年7月号50~52ページ
常磐快速線利根川橋りょう改良その1工事を受注 - 東鉄工業株式会社トピックス(PDF)
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