中央線高架化工事(2012年8月19日取材)

5月に使用を開始した武蔵小金井駅4番線に停車中の中央線快速東京行き

2010年11月、中央線三鷹~立川間の上下線完全高架化が完了しました。高架化完了後も区間内にある各駅では未完成だった駅舎や一部の線路の仕上げの工事が続いています。8月19日の京王線地下化工事と合わせてこれらの工事も取材をしてまいりました。今回は駅舎工事が完了した武蔵境駅、4番線の使用が開始された武蔵小金井駅、3番線の工事が続く国立駅の3箇所について現在の状況をお伝えいたします。

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中央線連続立体交差事業(2012年1月28日取材)(2012年2月8日作成)

■中央線連続立体交差事業の概要とこれまで



 中央線連続立体交差事業は、JR中央線三鷹~国分寺間(6.2km)、西国分寺~立川間(2.8km)、武蔵境駅で接する西武多摩川線(0.8km)を高架化するものです。中央線は平日朝ラッシュ時に日本一過密な最短1分50秒間隔で運行されており、「開かずの踏切」による交通渋滞や街の分断が深刻な問題となっていました。高架化事業に向けた調査は1980(昭和55)年に開始され、30年の時を経た2010(平成22)年11月に全区間の上下線高架化が完了し、18箇所の踏切が解消されました。

高架化前の配線図
高架化完成後の配線図
中央線三鷹~立川間の高架化前の配線図(上)と高架化完成後の配線図(下)
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 高架化に合わせて区間内の各駅では構内配線・ホームの形式・数量の変更なども行われており、多種別・電車主体の運行とマッチングするよう改良が実施されています。各駅の詳しい改良内容は以下の通りです。

●武蔵境駅
上下線間にあった西武多摩川線の車両引渡し用の中線を隣の東小金井駅に移設し、対向式ホーム2面2線のみとする。

●東小金井駅
武蔵境駅から移設した中線を加えた対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線とし、中線で乗降と通過待避の両方を可能にした。

●武蔵小金井駅
対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線から島式ホーム2面4線とし、上下線とも通過待避を可能にした。駅の西方にある留置線(旧武蔵小金井電車区)の通路線は4線全てに接続する。

●国立駅
対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線の構成は変わらないが、待避線と上り本線の位置を入れ替え、中央の線路は上下兼用の中線とした。中線は駅東方にある武蔵野線新小平駅方面へ向かう短絡線(国立支線)にも接続する。駅西方で接続していた鉄道総合技術研究所へ向かう引込線は廃止されたため設置されない。


武蔵小金井駅旧駅舎と建設中の高架橋 武蔵小金井駅東側にあった小金井街道踏切。オレンジ色の201系も高架化とともに消えた。 関東の駅百選にも選ばれていた国立駅旧駅舎。高架化に伴い解体された。
左:武蔵小金井駅旧駅舎と建設中の高架橋。2007年9月5日撮影
中:武蔵小金井駅東側にあった小金井街道踏切。オレンジ色の201系も高架化とともに消えた。2007年9月5日撮影
右:関東の駅百選にも選ばれていた国立駅旧駅舎。高架化に伴い解体された。2006年10月8日撮影

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工事は元からあった線路の北側に仮線を設け、元の線路の跡地に高架橋を建設する方法が取られましたが、第1回目の切替時には信号配線の設計図が間違っていたことから、予定時間を過ぎても工事が終わらず大混乱となりました。また、この仮線への切替途上では踏切の長さが長くなることがあたことから、渡りきれない人が続出し、マスコミ報道を賑わすこともありました。

再開発が完了した武蔵小金井駅南口
再開発が完了した武蔵小金井駅南口。旧駅舎は画面右端付近にあった。
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 2010(平成22)年の高架完了後は地上の線路の撤去、駅舎の仕上げ工事、地上の仮線跡地での側道(遊歩道)の整備が進められています。また、高架化に合わせて各駅前では大規模な区画整理や再開発も行われており、一例として武蔵小金井駅南口では2009(平成21)年3月に「アクウェル武蔵小金井」(武蔵小金井駅南口第1地区再開発事業)の名称で街開きが行われました。
 高架化事業と側道整備は道路整備の一環として東京都が主体となり事業が進められています。総事業費は約1710億円で、国(自動車重量税・ガソリン税を財源にした国庫補助)・東京都・沿線6市が約1430億円、JR東日本が約280億円を負担しています。

<中央線連続立体交差事業の歴史>
1980年 事業に向けた調査を開始
1994年5月 都市計画決定
1995年11月 事業認可取得
1999年3月 着工
2007年7月 三鷹~国分寺間下り線を高架化
2009年1月 西国分寺~立川間下り線を高架化
2009年12月 三鷹~国分寺間上り線を高架化
2010年11月 西国分寺~立川間上り線を高架化(全区間の高架化完了)

 なお、当初の計画では三鷹~立川間の複々線化も盛り込まれていましたが、環境面・コスト面などの諸問題から高架化のみの実現にとどまっています。複々線化については高架橋直下に地下線を新設して行う計画も存在しますが、確定事項で無いうえ、今後の人口減少による利用者の減少、線増部分の整備は原則としてJR東日本の全額自己負担で行う必要があることから、実際に整備される可能性は極めて低いと考えられます。

■現在の状況(2012年8月19日取材)

●武蔵境駅
武蔵境駅のホーム。奥の上り線側は仮設駅舎への通路がなくなり、壁面の仕上げが大詰めを迎えている。



武蔵境駅のホーム。奥の上り線側は仮設駅舎への通路がなくなり、壁面の仕上げが大詰めを迎えている。

 武蔵境駅は2009年12月の上り線高架化後も地上の旧軌道の撤去作業が続いていたため、長らく北口の仮設橋上駅舎を使い続けていました。また、上り線ホームの壁面はこの仮設駅舎に直接つながる通路が設置されており、壁面が未完成のままとなっていました。

武蔵境駅南口。緑化された巨大なゲートが特徴的。 武蔵境駅北口。左に見える鉄骨群は解体途中の仮設橋上駅舎。今後は南口と同じゲートや噴水などができる予定。
高架下に完成した南北自由通路。 高架下の改札内コンコース。正面は西武多摩川線乗換専用改札口。
上段左:武蔵境駅南口。緑化された巨大なゲートが特徴的。
上段右:武蔵境駅北口。左に見える鉄骨群は解体途中の仮設橋上駅舎。今後は南口と同じゲートや噴水などができる予定。
下段左:高架下に完成した南北自由通路。
下段右:高架下の改札内コンコース。正面は西武多摩川線乗換専用改札口。

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 2012年3月26日に高架下を横断して駅の南北を結ぶ自由通路が完成し、南北両側に分かれていた改札口はこの自由通路に面する形に統合されました。これに合わせて南口駅前ロータリーに面して設置されていた西武多摩川線の改札口も自由通路側に移設されています。改札口の統合に伴い、橋上駅舎は使用停止となり今回訪問時は既にそのほとんどが解体されていました。橋上駅舎の解体いと並行して未完成だった上り線ホームの壁面の仕上げも行われており、現在はほとんど完成しホーム側の防護壁を取り払うだけという段階まで進行しています。なお、解体された橋上駅舎の跡地は駅前ロータリーの拡張用地に充てられる予定となっており、今後は南口と同様の緑化されたゲートや噴水を備えた広場が整備されることになっています。

●武蔵小金井駅
2012年5月20日より使用を開始した武蔵小金井駅4番線(上り本線)。
2012年5月20日より使用を開始した武蔵小金井駅4番線(上り本線)。

 武蔵小金井駅は最終的に島式ホーム2面4線の構造となりますが、これまで地上の旧軌道の撤去が続いていたため、4番線(上り本線)が完成しておらず、暫定的に3番線(上り副本線)を上り本線として使用していました。4番線の高架橋・軌道は今年1月の訪問時におおむね完成していることを確認しており、その4カ月後の5月20日(日)より使用が開始されました。この際、仮上り本線として使用していた3番線は後述する国立駅とは異なり、高速で通過できるよう駅前後を含め完全に本線に準じた設備となっていたことから、線路切替は列車を大幅に運休して行われたことは記憶に新しいところです。

武蔵小金井駅の構内配線の変遷
武蔵小金井駅の構内配線の変遷

5月19~20日の切替工事は駅前後の上り本線を3番線側から4番線側に付け替えたほか、東京寄りはポイント1箇所を直進側から分岐側に入れ替え、高尾寄りは2番線とつながるポイント2箇所を撤去しました。また、3番線の高尾方は直線に近い線形となっていたことから、ホーム先端の一部を削り、4番線とシーサスクロッシング(両渡り)で接続するよう変更されました。切替直後はポイントの調整のため3番線が一時使用停止とされましたが、4週間後の6月17日(日)より使用を再開しています。

左:2・3番線東京寄りの状況。3番線の出発信号機の表記は「上本出」から「上中出」に変わった。
右:3番線(上り副本線)と4番線(上り本線)の接続部分。中央の分岐器の向きが右側から直進に変わっている。(同じ場所の2012年1月28日の様子


 東京寄りは2・3番線の間にシーサスクロッシングがあります。4番線使用開始前の3番線は東京方はそのまま直進していましたが、5月の切替時にポイントを入れ替え、現在は左側にカーブして4番線と合流するようになっています。分岐部分の制限速度は全て60km/h(16番分岐器)となっており、加速性能の良い電車列車に特化された構造となっています。4番線が上り本線となったことから、3番線の出発信号機の表記は「上本出」(上り本線出発)から「上中出」(上り中線出発)に変更されています。

1・2番線のホーム端から高尾方面を見る。手前にあった上り線との接続用ポイントは撤去された。 3・4番線ホーム端から高尾方面を見る。手前のシーサスは入出庫線との接続部分が未完成。
左:1・2番線のホーム端から高尾方面を見る。手前にあった上り線との接続用ポイントは撤去された。(2009年7月11日の同じ場所の様子
右:3・4番線ホーム端から高尾方面を見る。手前のシーサスは入出庫線との接続部分が未完成。(2012年1月28日の同じ場所の様子

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 高尾寄りは地上に留置線(旧武蔵小金井電車区)があることから、上下線間に単線の入出庫線があります。4番線の使用開始前は2番線を上下兼用の中線としており、高尾寄りは3番線から2番線に進入できるポイント(片渡り線)が設けられていました。5月の切替ではこの部分の配線が大幅に変更されており、3・4番線側もシーサスが設置され、3・4番線と入出庫線が直接接続されることになりました。これにより、当駅止まりの上り列車は3・4番線から直接入出庫線に出入りできるようになるため、2番線と接続する片渡り線は撤去されました。ただし、現時点では旧軌道の一部の撤去が終わっていないため、3・4番線のシーサスと入出庫線が接続されておらず、3・4番線から直接入出庫線に出入りすることは不可能となっています。

3番線ホームの高尾寄りはホーム先端を削り、4番線に向かってカーブするよう軌道が移設された。 3番線は軌道の移設完了に伴い、レールの継目が溶接されロングレール化された。
左:3番線の高尾寄りはホーム先端を削り、4番線に向かってカーブするよう軌道が移設された。
右:3番線は軌道の移設完了に伴い、レールの継目が溶接されロングレール化された。

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3番線の高尾寄りは従来2番線に近づくような形でカーブしていましたが、5月の切替時に軌道が移設され反対の4番線に近づくような線形となりました。3番線ホームの高尾寄りは2009年の使用開始当初よりこれを見越してホームの舗装などが仮のものとなっており、切替時にホーム先端の一部が削り取られ、現在は舗装も完成形となっています。また、3番線のレールは移設が完了したことから、継目が全て溶接されロングレール化されました。

●国立駅
国立駅のホーム。上り線側は防護柵が簡易的なものに交換された。
国立駅の現在の配線図と完成後の配線図
上段:国立駅のホーム。上り線側は防護柵が簡易的なものに交換された。
下段:国立駅の現在の配線図と完成後の配線図


 国立駅は下り線が対向式ホーム1面、上り線が島式ホーム1面2線となり、中央の2番線は上下兼用の中線となる予定です。また、当駅の東京寄りでは上下線の間から武蔵野線新小平方面へ向かう連絡線(国立支線)が分岐しており、中線はこの線路に直接進出できる配線となる予定です。国立駅も地上の旧軌道の撤去が完了していなかったため、3番線(上り本線)が完成しておらず、2番線(上下兼用中線)を暫定的に本線として使用しています。こちらは3番線の完成までにそれほど時間がかからないと判断されたためか、高尾寄りの線路は完成形で敷設されており、上り列車は当駅の停車・通過に関係なく必ずポイントの分岐側(制限速度60km/h)を通過する配線となっています。

2・3番線ホームと通過中の快速「むさしの」。 工事中の3番線。信号設備の設置も既に完了している。
左:2・3番線ホームと通過中の快速「むさしの」。
右:工事中の3番線。信号設備の設置も既に完了している。

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 3番線の高架橋は今年1月の訪問時にはほとんど完成しており、今回訪問時は軌道敷設やホームの構築がほぼすべて完了し、架線・信号設備の取り付けが進められていました。なお、現在の上り線は前記した通りポイント通過による徐行があるため、少しでも列車間隔を詰められるよう場内信号機が狭い間隔で4つ連続して設置されています。(駅手前(第一場内)、ポイント付近(第二場内)、ホーム直前(第三場内)、ホーム中央(第四場内))3番線は直線に近い線形で高速で通過できることから、ホーム直前の信号機は設置されない模様です。

1番線ホームから東京方面を見る。信号機の設置が進む。 2・3番線ホームから東京方面を見る。3番線の軌道敷設は消音バラスト散布を除き完了している。 2・3番線ホームから高尾方面を見る。
左:1番線ホームから東京方面を見る。信号機の設置が進む。(信号機の拡大
中:2・3番線ホームから東京方面を見る。3番線の軌道敷設は消音バラスト散布を除き完了している。
右:2・3番線ホームから高尾方面を見る。

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 3番線の工事の進展に伴い、2番線側も中線への転用に向けた準備が開始されており、新しい信号機やATS地上子などが設置されています。このうち、2番線東京寄りの出発信号機は現在ある中央線上り用(4灯式)と武蔵野線(国立支線)用(3灯式)に加え、×印が打ちつけられた新しい3灯式信号機が追加されています。これは中央線上り用の新しい信号機であると思われます(列車本数が少ないため、3灯式が採用されたものと思われる)。一方、その脇にある3番線の出発信号機は4灯式1個のみの設置となっており、3番線から武蔵野線には進入できない配線となる模様です。このため、立川方面から武蔵野線に直通する列車(快速「むさしの」や貨物列車など)は、3番線の完成後も引き続き2番線を通過して武蔵野線に向かうものと思われます。

ホーム下の改札内コンコースは再び北口へ向かう通路の形状が変更された。
ホーム下の改札内コンコースは再び北口へ向かう通路の形状が変更された。

3番線の高架橋完成に伴い、ホーム直下の改札内コンコースは北口へ向かう通路の形状が再度変更されました。今後は他の3駅と同様に駅の南北に分かれている改札口が高架下に移設されるものと思われます。


中央線の高架化事業は最初の調査から6年が経過し、いよいよ完成が見えてきました。工事中の国立駅3番線も今年度中には使用が開始できるものと思われ、完成後はより余裕のあるダイヤ構成が可能になるものと思われます。引き続き全区間の工事が完成を迎えるまで調査を続けてまいります。

▼参考
JR中央線(三鷹駅~立川駅間)の高架化による効果|東京都
JR中央本線(三鷹~立川間)他連続立体交差事業の概要 - 小金井市
鉄道連続立体交差 |武蔵野市
JR中央本線(三鷹駅から立川駅間)ほか連続立体交差事業|国分寺市
国立駅周辺まちづくり|国立市公式ホームページ

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