浦和駅高架化工事(2012年8月26日取材)

浦和駅の脇を通過する湘南新宿ラインE231系

東北本線の浦和駅では現在高架化工事が行われています。線路の高架化は2011年3月の東北旅客線下り線の切替を以って終了していますが、その後も東北貨物線(湘南新宿ライン)のホーム建設が続いています。去る8月26日にこの東北貨物線のホーム建設と供用が開始された高架下の東西自由通路を中心に取材を行いましたので、現在の状況をお伝えします。

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事業の概要と2011年3月6日の線路切替 - 浦和駅高架化工事(1)(2011年12月26日作成)
2011年10月29日の状況 - 浦和駅高架化工事(2)(2011年12月28日作成)

■浦和駅高架化工事の概要



 埼玉県さいたま市にある浦和駅は京浜東北線、東北本線(宇都宮・高崎線)が停車し、近隣に埼玉県庁やさいたま市役所があるなど埼玉県の行政上の中心地となっています。浦和駅付近は現在京浜東北線、東北旅客線、 東北貨物線の3複線が通る形態となっていますが、この形になったのは1968(昭和43)年10月1日に行われた国鉄の全国一斉白紙ダイヤ改正(通称「ヨンサントオ」)の時です。この3複線化では当時の浦和市の強い要請を受け、東北旅客線(列車線)にホームが増設されることになりましたが、当時の浦和駅では既に西口駅前広場新設の都市計画があり、用地が不足したため、駅の西側にあった貨物駅を撤去し、東北旅客線用のホームの建設用地を捻出しました。また、貨物駅跡地をホームに充てた結果、西口の易者の設置しペースがなくなってしまったため、東北貨物線のみを高架化し、その下に駅舎を収容することになりました。
 こうして完成した浦和駅ですが、駅構内には東西を行き来できる自由通路が無かったことから、県庁などがある駅西側に商業施設が集中するなど発展の度合いに差が見られるようになりました。このため、さいたま市に合併される前の浦和市時代より浦和駅の高架化と東西自由通路の設置、さらに駅前の大規模再開発や南側を通る都市計画道路田島大牧線(県道さいたま草加線)の4車線化などが検討されてきました。しかし、この区間は踏切が存在しないことから、国の連続立体交差事業の対象とならないため、地方自治体(県・市)と鉄道事業者(JR東日本)のみで事業費を負担しなければならないことがネックとなり、これまで事業に着手することができませんでした。
 その後、1996(平成8)年になり都市計画道路田島大牧線の拡幅が国の「限度額立体交差事業」の対象となることが決定しました。これにより、ようやく駅全体の高架化の目処が立ち、1999(平成11)年11月に埼玉県を事業主体として都市計画決定がなされました。(その後、さいたま市の政令指定都市化に伴い、2003(平成15)年4月に事業主体をさいたま市に委譲。)
 この事業では京浜東北線・東北旅客線の高架化と都市計画道路田島大牧線の拡幅に加え、さいたま市の要請により東北貨物線のホーム増設が追加されています。このホーム増設により浦和駅に湘南新宿ラインの列車が停車可能となり、乗り換えなしで新宿・横浜方面への利便性が大幅に向上することになります。

▼脚注
※限度額立体交差事業:一般に鉄道と道路の立体交差化は道路側を地下化もしくは陸橋化して行うこととなっているが、費用・地形などの要因により鉄道側の高架化の方が相応しいことがある。このような事業において道路側を立体交差化するときの費用を限度として国庫補助を受けることができるのがこの「限度額立体交差事業」の制度である。(今回のように道路に付属する駅まで高架化する場合は補助額が不足するため、その分は地方自治体などが補填することとなる。)

浦和駅高架化工事の手順(GIFアニメーション)
浦和駅高架化工事の手順
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 浦和駅の高架化工事の工事延長は東京起点23km400m~24km720m(駅中心は24km210m)の1320mとなっています。高架化工事は東側(京浜東北線南行側)で新たに用地を買収し、1線ずつ高架化することを基本としていますが、上野方は東北旅客線の上下線間に保守機材用の側線があったことから、これを工事用地として使用することにより用地買収を不要としています。なお、高架化着工前の東北旅客線は機関車けん引の列車の設計けん引重量が1350トンのままとなっていましたが、長編成の客車列車や貨物列車が消滅して久しいことから、事業に先立ち設計けん引重量を1150トンに減らす手続きを行いました。これにより東北旅客線の高架橋の取り付け勾配は貨物線の10パーミルではなく、電車専用線である京浜東北線と同じ19.0~19.5パーミルで建設され、工事延長の削減によるコスト低減を図っています。

地上時代の浦和駅。 東北旅客線上り線の高架化が完了した段階。左の空間は地上の線路跡で、下り線の高架橋が建設された。
左:地上時代の浦和駅。2枚とも2008年2月18日撮影
右:東北旅客線上り線の高架化が完了した段階。左の空間は地上の線路跡で、下り線の高架橋が建設された。2010年2月6日撮影

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 実際の高架化工事は用地買収が遅れたため2005(平成17)年に着工し、以後順調に工事は進み、2011(平成23)年3月6日の東北旅客線下り線の高架切り替えをもって全ての線路の高架化が完了しました。現在は東北貨物線のホーム建設が進められています。

■東北貨物線上り線の線路切替完了
軌道の移設が完了し、ホーム台座の建設が進む東北貨物線
軌道の移設が完了し、ホーム台座の建設が進む東北貨物線
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 東北貨物線(湘南新宿ライン)のホームは地上を走っていた東北旅客線下り線(4番線)の跡地に単線分の高架橋を建設し、そこに東北貨物線上り線(将来5番線)を移設し、開いた空間に建設されます。東北貨物線上り線の高架橋建設は今年春頃におおむね完了し、去る7月1日(日)・8日(日)の2回に分けて、湘南新宿ラインの列車を一部運休(大宮・新宿折返し)したうえで、線路の切替工事が実施されました。また、この他にも関連工事があるため、作業時間の確保を目的として5月5日(土)~9月30日(日)までの毎週土日の深夜帯の一部列車が東北旅客線経由で運行されています。
 線路切り替え後はホーム本体の建設が急ピッチで進められています。8月26日の訪問時はホーム全長に渡りコンクリートの台座が設置され、ホーム床面の一部となる骨組みも部分的に設置が開始されていました。

東北旅客線ホームから上野方面を見る。カーブしながら地上に降りる。 東北旅客線ホームから大宮方面を見る。貨物船は直前に近い線形で、旅客線・京浜東北線がS字に緩くカーブ市ながら地上に降りる。



左:東北旅客線ホームから上野方面を見る。カーブしながら地上に降りる。
右:東北旅客線ホームから大宮方面を見る。貨物線は直前に近い線形で、旅客線・京浜東北線がS字に緩くカーブ市ながら地上に降りる。

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 東北貨物線上り線の移設が行われたのはホームが設置される部分のみで、駅の前後の高架橋は特に手は加えられていません。このため、上野方・大宮方ともにホームの先は地上の旧旅客線下り線の線路跡の分だけ貨物線と旅客線の高架橋の間に隙間が生じています。

東北貨物線の高架橋を下から見たところ。左のコンクリートの柱が今回新設された貨物線上り線の高架橋。
東北貨物線の高架橋を下から見たところ。左のコンクリートの柱が今回新設された貨物線上り線の高架橋。

 今回は時間に余裕があったため、駅の外からも高架橋の様子を調査しました。今回新設された東北貨物線上り線の高架橋は、既設の高架橋とは異なり全てJRの用地内に収まることから、全長にわたり鉄筋コンクリート製となっており、単線分の幅であることから柱も1列となっています。上り線の移設に伴い、既設の高架橋の半分は列車の走行用としては使われなくなりましたが、この部分はそのまま残した上でホームを設置するための土台として活用されています。また、駅中央付近は高架下の改札口へ下りる階段やエスカレータを設置するスペースを確保するため、高架橋の一部を切り取るなどの加工がなされるものと思われます。

■東西自由通路が暫定供用開始
東西自由通路の供用開始に伴いレイアウトが変更された改札口付近
東西自由通路の供用開始に伴いレイアウトが変更された改札口付近
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 高架化着工前の浦和駅は駅の東西2箇所に改札口があり、双方の改札口が2本の地下通路(改札内)で接続されていました。2011年3月に地上を走る線路の高架化が完了したことから、改札口を高架下の1箇所に統合する工事が進められ、2011年8月28日に完了しました。この改札口の統合後、従来の改札内通路のうち1本を仮設の東西自由通路として使用していたことは昨年12月作成の記事で既報のとおりです。
 その後はさらに仮設の自由通路に平行して本設の東西自由通路(幅25m)を建設する工事が進められており、去る8月5日(日)には暫定的に完成時の約半分の幅(12m)で供用を開始しました。駅の東西では土地に高低差があることから、自由通路の途中には階段・エスカレータ(上下1機ずつ)・エレベータ(11人乗り1機)が設置されています。

改札口の前から西口方向を見る。通路の途中には階段・エスカレータが設置されている。左の工事柵は仮設自由通路<br>の跡。
改札口の前から西口方向を見る。通路の途中には階段・エスカレータが設置されている。左の工事柵は仮設自由通路の跡。

 閉鎖された仮設の自由通路は今回供用開始となった本設の自由通路の南側(上野方)を通っており、南側の壁面には仮設の自由通路につながっていた跡が残っています。今後は仮設の自由通路を取り壊し、本設の自由通路を本来の幅である25mまで拡張する工事が進められることになります。

浦和駅東口。中央に見えるプレハブ状の構造物は閉鎖された旧東口改札口。
浦和駅東口。中央に見えるプレハブ状の構造物は閉鎖された旧東口改札口。
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浦和駅西口。旧駅舎の取り壊しが完了して間もないため、仮設構造となっている。 駅前ロータリーから浦和駅西口を見る。前回残っていた駅舎は完全に取り壊され、姿を消した。
左:浦和駅西口。旧駅舎の取り壊しが完了して間もないため、仮設構造となっている。
右:駅前ロータリーから浦和駅西口を見る。前回残っていた駅舎は完全に取り壊され、姿を消した。(同じ場所の2008年2月18日の様子

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 暫定供用を開始した本設の東西自由通路は高架下の改札口の前を経由して駅の東西を直線的に貫通しています。このため、従来からある東口・西口の駅舎は不要となりました。特に、西口駅舎は建設から40年以上が経過し、老朽化が進んでいたことから、自由通路の供用開始を待たずに取り壊しが開始され、今回訪問時は完全に更地化されました。一方、東口は高架化着工時に仮設化された駅舎で、現在もそのまま残されていますが、今後の駅前広場の整備の支障となるためそう遠くない時期の撤去が予想されます。

駅の南側で交差する都市計画道路田島大牧線。地上の旧軌道の橋桁は撤去済み。
駅の南側で交差する都市計画道路田島大牧線。地上の旧軌道の橋桁は撤去済み。(同じ場所の2008年2月18日の様子

今回浦和駅全体を高架化する理由の一つとなった、駅南側で交差する都市計画道路田島大牧線の交差部分は地上を走っていた旧軌道の橋桁の撤去が完了し、まもなく4車線への拡幅が実施される予定となっています。なお、田島大牧線は東は県道1号線(第二産業道路)、西は荒川付近まで計画されていますが、現在のところ4車線化に必要な用地買収が完了しているのは浦和駅周辺の1km程度となっており、その真価が発揮されるのはまだ当分先となる模様です。

 当ブログでも4年以上にわたり調査を続けている浦和駅高架化工事ですが、工事は最終段階を迎えており、来春のダイヤ改正ではいよいよ湘南新宿ラインの停車を開始することが予想されます。さいたま市の行政の中心地としてふさわしい形に変貌を遂げた浦和駅がまもなく見られることとなります。

▼参考
さいたま市 - 暮らしのガイド>まちづくり・交通>まちづくり(区画整理・再開発等)>浦和区内
さいたま都市計画に関する都市計画の変更及び縦覧について - 埼玉県ホームページ

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