鉄道博物館2012

鉄道博物館の転車台。訪問時は丁度C57 135の汽笛吹鳴の実演が行われていた。

埼玉県の鉄道博物館が開館してまもなく5年が経ちます。この間、展示物の追加や変更などが行われています。今回は2009年に新たに公開された新幹線0系電車と、2010年に追加された運転士体験教室についてお伝えいたします。

▼関連記事
鉄道博物館(2月18日訪問)その1(2008年3月11日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その2(2008年3月12日作成)

■鉄道博物館の概要



 「鉄道博物館」はJR東日本発足20周年記念事業の1つとして2007(平成19)年10月14日(鉄道の日)に埼玉県さいたま市大宮区大成町に開館しました。鉄道博物館ができる以前は東京都千代田区に「交通博物館」があり、展示品の一部はそこから継承されていることから、事実上交通博物館が移転・拡張してできたものとみなすこともできます。鉄道博物館の敷地は以前大宮工場(現・大宮総合車両センター)の一部として使われていた場所で、その広い敷地を利用して日本の鉄道創世記から昭和期まで活躍していた鉄道車両約50両が一堂に会する、国内最大級の鉄道資料館として機能しています。また、建物の規模も格段に大きくなったことから、鉄道の歴史やシステムについて体系的に学ぶことができる展示や体験コーナーなども多く設けられており、公共交通機関に関する学習施設としても重要なポジションを担っています。さらに、大宮者総合車両センターと隣接している立地を生かした「生きた鉄道車両」の展示も行われており、一例として2011(平成23)年春に動態復元された蒸気機関車C61形20号機の試運転が博物館脇の線路で実施されたことが挙げられます。

<鉄道博物館館内展示(一部)>
弁慶号機関車と開拓使号客車 蒸気機関車C51形5号機 直流電気機関車ED17形1号機
交直流急行電車455系クモハ455-1(左)と直流特急電車181系クハ181-45(右) 直流電気機関車EF61形EF65-11 新幹線200系222-35
原理・しくみの展示(動力伝達・エネルギー供給関連) ラボラトリー(体験学習型)展示 ミニ列車・ノースウイング(てっぱく図書室・鉄博ホール)
(ヒストリーゾーン)
上段左:弁慶号機関車と開拓使号客車
上段中:蒸気機関車C51形5号機
上段下:直流電気機関車ED17形1号機
中段左:交直流急行電車455系クモハ455-1(左)と直流特急電車181系クハ181-45(右)
中段中:直流電気機関車EF61形EF65-11
中段右:新幹線200系222-35
(ラーニングゾーン)
下段左:原理・しくみの展示(動力伝達・エネルギー供給関連)
下段中:ラボラトリー(体験学習型)展示
ng>(パークゾーン)
下段右:ミニ列車・ノースウイング(てっぱく図書室・鉄博ホール)
※全て2008年2月18日撮影
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開館後はこれらに加え、以下で取り上げる「新幹線0系」「運転士体験教室」が新たに展示・体験のメニューに加わりました。8月26日に埼玉へ行く機会があったため、これらの展示を見てまいりました。

■新幹線0系(21-2)
新幹線0系展示室入口
新幹線0系展示室入口

 鉄道博物館での新幹線0系の展示は2009(平成21)年10月21日より開始されました。0系の展示室は2007年に完成した博物館本体の建物とは独立した別棟となっており、ヒストリーゾーン1階の南端から出入りします。出入口の自動ドアには東海道新幹線開業前の1964(昭和39)年6月30日に大阪運転所(鳥飼車両基地)で撮影された0系が描かれています。この写真は展示室内で配布されている資料にも掲載されています。

展示室内部と展示されている新幹線0系先頭車(21形2号車)
展示室内部と展示されている新幹線0系先頭車(21形2号車)
※クリックで拡大(1000*750px/103KB)

 展示されているのは新幹線0系車両の先頭車21形の第2号車(以下、「21-2」)です。21-2は1964(昭和39)年10月の東海道新幹線東京~新大阪間の開業時に製造された360両のうちの1両で、製造したのは埼玉県川口市に存在した日本車輛製造東京支店蕨工場(現在は廃止です。この車両は開業から14年後の1978(昭和53)年に廃車となり、以後はJR西日本社員研修センター(国鉄時代は国鉄関西鉄道学園)で教材として使用されていました。
 その後、JR東日本がこの21-2を譲り受け、鉄道博物館で展示することが決定し、2008(平成20)年に大宮総合車両センターに陸送されました。大宮総合車両センター到着後は約半年をかけ、外装・内装の徹底的な整備が実施されました。21-2は廃車になった時期が比較的早かったことから、0系の中でも特に原型の状態を保っており、修復に際しては1964年の開業当時の姿をできる限り忠実に再現することが目標とされました。修復の際のポイントは以下の3つとなっています。

▼脚注
※跡地には現在川口芝園団地が建つ。





(1)外板は当時と同じ技法で塗装
 車体に関しては屋内で保存されていたことから、大きな腐食などはありませんでしたが、塗膜が傷んでいたことから一旦それらを全剥離したうえで、下地のパテを塗り直し、開業当時と同じ塗装技法(アクリル樹脂エナメル自然乾燥)を3回繰り返し、アイボリー(クリーム色10号)とブルー(青色20号)のツートンカラーを再現しました。

(2)「光り前頭」を復元
 「光り前頭」とはその名の通り車体の前頭部分(一般には「鼻先」と呼ばれている部分)が光る機能のことです。開業前の試作車の段階では、「地上の作業員に列車の接近が分かるように」との意味でこの光り前頭が搭載されていましたが、開業後は危険防止のため運行中の線路内作業は禁止されたためその意義を失ってしまいました。このため、量産車では光源を独立した蛍光灯から、左右のヘッドライトから漏れる光に変更し、空いた中心部分の空間には非常用の連結器が搭載されました。また、試作車の光り前頭は光の透過性をよくするためメタアクリル樹脂のカバーを使用していましたが、走行中に鳥などがぶつかって破損することが多く、開業翌年以降の量産車ではカバーの材質が強度の高いFRP(ガラス繊維強化プラスチック)に変更され、内部の光はほとんど透過しなくなってしまいました。このため、開業から1年ほどで光り前頭の機能は使用されなくなってしまいました。
 鉄道博物館での展示に当たってはこの光り前頭も開業当時の状態に復元することになりました。幸いなことに、鉄道博物館では交通博物館時代に存在した0系先頭部のモックアップ(解体済み)で使用していた光り前頭カバーが保管されており、それを取り付けることにより開業当時の光り前頭が無事再現することが可能となりました。

(3)車内の清掃・修復
 車内はJR西日本での保存中に猫の住処になっていたことがあり、汚損・破損が進んでいました。このため、座席についてはモケット・中綿をすべて除去し、再現された新品と全て交換しました。また、開業当時の新幹線は車内の喫煙が可能であったことから、壁面にはタバコのヤニが付着し、変色していたことからこれらについても洗浄が行われました。

こうして修復が完了した21-2は2009年9月に新築された展示室に搬入され、翌月一般公開されました。展示室内には開業当時の発車標や東京駅の0kmポストなども再現されています。

展示されている0系の車内。開業当時の転換クロスシートが並ぶ。 車内中央の非常脱出口は初期製造車両の証。
左:展示されている0系の車内。開業当時の転換クロスシートが並ぶ。
右:車内中央の非常脱出口は初期製造車両の証。

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 車内も自由に出入りできるようになっています。21-2は廃車された時期が早かったことから、座席は全て開業当時の転換クロスシートとなっています。東京都青梅市の青梅鉄道公園にある0系(22-75)もほぼ同仕様ですが、こちらの方が手入れが行き届いている分状態は格段に良好です。破損防止のためテーブルは全て固定された状態となっており、来館者が引き出して使用することはできません。(なお、車内での飲食は展示室の外にあるランチトレイン以外では禁止されています。)
 壁側に面した窓の外には開業初期に撮影された東海道新幹線沿線の風景写真や走行動画が展示されています。また、車内中央の壁面には初期製造車の特徴である非常脱出口が残されています。

運転台も開業当時のままの仕様(非公開) 後位側デッキにあるトイレと冷水器(ともに使用不可) デッキの配電盤は透明なアクリル板となっており、内部が見えるようになっている。
左:運転台も開業当時のままの仕様(非公開)
中:後位側デッキにあるトイレと冷水器(ともに使用不可)
右:デッキの配電盤は透明なアクリル板となっており、内部が見えるようになっている。

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 運転台やデッキにあるトイレなどは入ることはできませんが、トイレについては扉を開放した状態で透明なアクリル板を設置しており、内部が見えるようになっています。また、デッキの乗降口脇にある配電盤もフタの一部が透明なアクリル板となっており、内部を見ることができます。

軸箱を囲む板ばねが特徴的なIS式台車 長手方向を向いている機器は内部が見える用ミラーが設置されている。
左:軸箱を囲む板ばねが特徴的なIS式台車
右:長手方向を向いている機器は内部が見えるようミラーが設置されている。

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 車両の脇にあるホームは切り欠き構造となっており、車体中央部分は床下機器を間近で観察できるよう低くなっています。21形の床下には主抵抗器や主制御器など駆動関係の機械が搭載されており、フタを開けた状態で内部を見ることができるようになっています。また、車体長手方向(レール方向)に点検フタがある機器については見やすいよう蛍光灯とミラーが設置されています。

展示室内の壁面は新幹線の歴史を解説したパネルとなっている。
展示室内の壁面は新幹線の歴史を解説したパネルとなっている。

展示室内の壁面は全て新幹線の歴史を解説したパネルとなっています。このパネルでは東海道新幹線だけではなく、その前段階となる戦前の「弾丸列車」計画についても詳細に触れられており、一般にはあまり知られていない日本の高速鉄道実現までの軌跡を見ることができます。

▼参考
鉄道博物館における0系新幹線車両の公開について - JR東日本(PDF)
0系新幹線車両の展示公開日決定について - 鉄道博物館(PDF)
※以下2点は展示室内配布資料
鉄博(鉄道博物館報)2012年3月号
鉄道博物館0系新幹線ガイド「新幹線の誕生『“夢の超特急”0系新幹線』」

■運転士体験教室
「運転士体験教室」のシミュレータ
「運転士体験教室」のシミュレータ
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 「運転士体験教室」は2階コレクションゾーンの一部を改装して2010(平成22)年4月24日より開始された新しい体験型の展示です。ここでは実際の電車の運転台と全く同じ機材を使用したシミュレータを用い、解説員の手ほどきを受けながら運転操作の方法を学んでいくという内容となっています。体験は事前予約制(展示室前の予約表に氏名を記入する)で、利用料金は1回500円、難易度は以下のの3段階が設定されています。

初級:基本的な運転操作(発進・停止)
中級:信号・速度制限
上級:定時運転

※定員は各回25人
※所要時間は各回約40分
※小学校5年生以上の利用制限あり(これ以下でも実際は保護者付き添いで利用可能だが、解説の一部に専門用語が出てくるため推奨はされない。)
※開講スケジュールは日によって異なるため鉄道博物館のホームページを参照。

なお、利用料金の支払い時に白い手袋が渡され、受講後は記念に持ち帰ることができます。

コンソール左側にあるマスコン・レバーサ。マスコンキーは使用しないため塞がれている。 計器モニター。ハンドル操作やシミュレータの走行にあわせて数値がリアルタイムで変化する。 TIMSモニターは運転情報の表示や途中解説員から出される設問へ解答する際使用する。
左:コンソール左側にあるマスコン・レバーサ。マスコンキーは使用しないため塞がれている。
中:計器モニター。ハンドル操作やシミュレータの走行にあわせて数値がリアルタイムで変化する。
右:TIMSモニターは運転情報の表示や途中解説員から出される設問へ解答する際使用する。

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 シミュレータは東海道線・宇都宮線・高崎線で運行されているE233系3000番台を元に作られたもので、ハンドル・ボタン・メーターなどあらゆる機器が忠実に再現されています。(参考:E233系3000番台の運転台写真)シミュレータの制作はパソコン用ソフト「Train Simulator」や全国各地の博物館の鉄道運転シミュレータで実績のある「音楽館」が担当しています。
 マスコンハンドルは実車と同じ左手のワンハンドル式で、ブレーキは常用8段、非常1段、力行5段となっており、マスコンキーは使用しないため穴が塞がれています。右手グリップ内には勾配起動スイッチ、左右のハンドル間には定速スイッチ、ATS確認スイッチなどがあります。正面のパネルも実車と同じ液晶2画面構成で、左側は速度、ブレーキ圧力などを表示する計器モニター、右は運転情報(次駅到着時刻など)を表示するTIMSモニターとなっており、右のモニターは受講中解説員から出題される設問の解答などにも使用します。このほか、コンソールの左下にはシミュレータの音量調節用つまみ、右下には解説員と連絡を取るためのインターホン(実車ではこの部分に列車無線の受話器が設置されている)が設置されています。
 今回は夕方に別の用事があったことや、初めての受講ということで14時から開講される「初級」のプログラムを受講しました。内容は大雑把に分類すると

(1)運転台の機器の説明(マスコンの操作方法)
(2)加速・減速操作の体験
(3)プロの運転士の運転と自分が運転した操作(ランカーブ)の比較
(4)もう一度加速・減速を体験し、プロの運転と比較
(5)以上で学んだことを踏まえ、受講者の独力で加速~停止まで操作の体験(天候変化あり)


という5ステップとなっています。シミュレータの映像は高崎線の大宮~籠原間で収録されており、(2)と(4)の操作は上尾→北上尾、(5)は鴻巣→北鴻巣となっていました。シミュレータでは停止位置までの残距離が0.1m単位で表示されていることに加え、筆者は以前BVE Trainsimという鉄道運転のシミュレータの路線データを制作していた経験があり、ブレーキの開始地点については概ね把握していました。このため、(2)と(4)の操作は停止位置プラスマイナス1m前後に収めることができましたが、(5)では途中で豪雨になったため、6.5mのオーバーランという結果に終わりました。(実際この距離をオーバーランした場合は停止位置修正の対象となる。)
 プログラムの最後に解説がありますが、この後の楽しみ方としては「中級」「上級」のプログラムに進み理解を深める、もしくは1階にあるシミュレータを使って練習して上達するという2通りがあります。いずれの場合も私のような大人でも十分に楽しめる内容となっていますので、興味のある方はぜひ体験されることをお勧めします。

▼参考
運転士体験教室|鉄道博物館
新しい体験展示『運転士体験教室』を開設します - 鉄道博物館(PDF)
※PDF版に記載の開講時間は古いもので現在とは異なる。

■その他展示内容の変化
リニア・鉄道館に譲渡された国鉄バス1号車。 「てっぱく図書室」の新設に伴いエントランス脇に移設された167系のモックアップ。
左:リニア・鉄道館に譲渡された国鉄バス1号車。2008年2月18日撮影
右:「てっぱく図書室」の新設に伴いエントランス脇に移設された167系のモックアップ。


 この他の展示の変化としてはヒストリーゾーンの国鉄バスの展示が無くなったことと、ノースウイングの「てっぱく図書室」のオープンが挙げられます。前者は2011年3月に愛知県名古屋市にオープンしたJR東海の鉄道資料館であるリニア・鉄道館」に譲渡されたのに伴うものです。後者は以前はギャラリー・入館口として利用していた部分を改装して今年7月21日に新設されたものです。主に置かれているのは子ども向けの本で、館外への貸し出しは行っていません。このてっぱく図書室の新設に伴い、従来ノースウイングにあった167系のモックアップはエントランス脇に移設されています。

 開館から5年が経過し、ますますパワーアップした鉄道博物館。その内容は子どもからコアなファンまでだれもが満足できる充実したものとなっています。引き続き、今後のさらなる発展に期待したいと思います。

<鉄道博物館利用データ>
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日 毎週火曜日(夏休み・春休みなど例外あり)・年末年始
入館料 大人1000円・小中高生500円・幼児(3歳以上)200円
※入館の際はSuica・PASMO・ICOCA・Kitacaの電子チケット機能をチケットとして利用可能

▼参考
鉄道博物館

▼関連記事
●閉館前の交通博物館(東京都)について
交通博物館 その1(2006年2月27日作成)
交通博物館 その2(2006年2月27日作成)
交通博物館にEF55 1(2006年3月26日作成)
交通博物館Part???(2006年5月4日作成)
閉館後の交通博物館(2006年6月17日作成)
交通博物館の跡(2007年7月5日作成)

●閉館後の交通博物館跡地の再開発について
交通博物館の跡地再開発(2010年3月28日取材)(2010年6月7日作成)
交通博物館跡地再開発の現状(2012年6月15日取材)(2012年6月19日作成)

●鉄道博物館関係
鉄道博物館(2月18日訪問)その1(2008年3月11日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その2 (2008年3月12日作成)

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