東急東横線・東京メトロ副都心線直通工事(2012~2013年取材・地下部分)

内側ホームの使用開始に向けた準備が完了した副都心線渋谷駅

東横線・副都心線の直通に向けた準備、2回目の今回は東横線直通に向けた準備がほぼ完了した副都心線渋谷駅の様子を詳しくお伝えします。

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■副都心線渋谷駅の構造
渋谷ヒカリエ1改札口(新正面改札口)のエスカレータ乗り口は繭のような独特な形をしている。 地下5階ホーム。開業当初は内側2線は使用せず、一部箇所に仮設の渡り板を置いていた。
池袋方の仮設渡り板からは入線する列車を真正面から見ることができた。 開業当初は横浜方のトンネルが未完成となっており、壁となって線路が途切れていた。
左上:渋谷ヒカリエ1改札口(新正面改札口)のエスカレータ乗り口は繭のような独特な形をしている。2011年1月9日撮影
右上:地下5階ホーム。開業当初は内側2線は使用せず、一部箇所に仮設の渡り板を置いていた。2008年6月14日撮影
左下:池袋方の仮設渡り板からは入線する列車を真正面から見ることができた。2008年7月6日撮影
右下:開業当初は横浜方のトンネルが未完成となっており、壁となって線路が途切れていた。2011年1月9日撮影

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 東京メトロ副都心線は2008(平成20)年6月14日に開業しました。終点の渋谷駅は建築家安藤忠雄氏による「地宙船」をイメージした独創的なデザインを取り入れ、将来の東急東横線との直通運転に備え、当初予定を変更して島式ホーム2面4線で建設されています。駅の建設工事は地上の銀座線の高架橋から北側が東京メトロ、南側が東急電鉄の担当となっており、上階を交差する半蔵門線・田園都市線の駅と合わせ開業当初より東急電鉄が一括して管理を行っています。(半蔵門線・田園都市線渋谷駅は副都心線開業直前まで東京メトロが管理していた。)
 2面4線で建設された副都心線渋谷駅ですが、東急東横線直通開始までは優等列車の追い抜きなどはなく、利用者数も少ないことから、4本ある線路のうち外側2線のみ使用とされました。この時使用しなかった内側2線の線路上には、仮設の床面を設置して1面の大きな島式ホームとし、ホームに降りてから乗車する列車を選択できる構造とされました。また、横浜方2両分の地下駅は2008年の開業時には未完成だったため、地下5階のホームについては現在に至るまで池袋方のトンネル内に仮設のホームを設置して10両分の長さを確保しています。

開業当初の副都心線渋谷駅の配線・設備配置図
開業当初の副都心線渋谷駅の配線・設備配置図
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■東横線直通準備が進行中

 2011年夏以降は横浜方の未完成部分の建設がほぼ完了したことから、副都心線渋谷駅として開業済みの部分との間を仕切っていたコンクリート壁が取り壊され、東横線受け入れに向けた準備が開始されました。2012年に入ると工事は本格化し、7月1日をもって2つのホームをつないでいた仮設の渡り板がすべて閉鎖され、直接両ホームを行き来することができなくなりました。

架線やホームドアの取り付けが完了した内側2線。
架線やホームドアの取り付けが完了した内側2線。2012年11月24日撮影
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 渡り板の閉鎖後は内側2線の使用開始に向けた準備が急ピッチで進められており、昨年末の調査時にはホーム全長にわたり架線、信号設備、ホームドアなどの取り付けがほぼ完了した状態でした。今回は新たに完成した施設や機器が非常に多いため、項目を分けて解説してまいります。
 なお、線路の番号はコンコースに準備されている案内板に5・6という数字が見られる(→参考画像:5・6番線がシールで目隠しされたコンコースの案内板)ことから、内側2線が「(新)4番線」「5番線」となり、現在の4番線は「6番線」に改番されることがわかっています。本記事でも今後はこの表現を使います。

(1)剛体架線



内側2線の天井に設置された剛体架線。吹き抜け部分は当初からI型の支持材が設置済みだった。
内側2線の天井に設置された剛体架線。吹き抜け部分は当初からI型の支持材が設置済みだった。

 内側2線の天井には電車に電力を供給する剛体架線が設置されました。副都心線渋谷駅には2箇所換気用の吹き抜けがありますが、吹き抜け部分には建設当初から架線を支えるためのI(アイ)型の鋼材が設置されており、剛体架線は碍子(がいし)を挟んでこの鋼材に固定されています。9月調査時は剛体架線の本体(アルミ材)のみが設置された状態でしたが、今回はその下のパンタグラフが接触する部分(トロリー線)も設置が完了しました。

(2)ホームドア本体と関連機器
内側2線のホーム端にはホームドアが設置され、電源も投入済みとなっている。
内側2線のホーム端にはホームドアが設置され、電源も投入済みとなっている。

 内側2線のホーム先端は未使用時に設置されていた鉄製の枠が全て撤去され、外側2線と同じホームドアが設置されました。すでに電源も投入済みとなっています。設置されたホームドアは外側2線のものと同様、車両ごとに多少異なるドア位置に対応できるよう開口幅が大きくとられています。ホームドア設置にあわせてホーム床面には点字ブロックの設置も済んでいますが、列車が発着しないためシートで覆われています。

ホーム端の天井に設置されたホームドア動作表示器 有楽町線の各駅に設置されている同等品。
左:ホーム端の天井に設置されたホームドア動作表示器
右:有楽町線の各駅に設置されている同等品。2012年4月21日、銀座一丁目駅で撮影

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 横浜方・池袋方のホーム端にはすでにホームドアが稼動している外側2線も含め天井にホームドア動作表示器と思われる箱が設置されました。これは、東横線では車掌が乗務するため、ドアを開閉する際ホームドアの動作状態を把握できるようにしておく必要があるためです。有楽町線や東急大井町線大井町駅に設置されている同一品の場合、ランプは3つのランプが内蔵されており、ドアが開閉可能な範囲に列車が停車すると下段のDが点灯し、開扉中は上段の●が消灯するという表示になっています。
 副都心線渋谷駅ではこの表示器が3番線池袋方(東横線出発用)、新4・5番線両端(東横線到着・出発用)、6(現4)番線横浜方(東横線到着用)の6箇所に設置されています。また、東横線直通開始後は10両編成の停止位置が横浜方に2両分移動するため、横浜方は8両編成の停止位置と10両編成の停止位置の2箇所に設置されています。

(3)ATO/TASC地上子
内側2線の池袋方に設置されたATO地上子。両方向から進入可能。 6(現4)番線のATO地上子。奥の小型の地上子は現在使用中のもの。その奥には東横線直通後に使用する停車目標が設置済み。
左:内側2線の池袋方に設置されたATO地上子。両方向から進入可能。
右:6(現4)番線のATO地上子。奥の小型の地上子は現在使用中のもの。その奥には東横線直通後に使用する停車目標が設置済み。

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 ホームドアを導入している副都心線は列車の停止位置をセンチメートル単位で正確に合わせる必要があるため、自動列車運転装置(Automatic Train Operation system=ATO)により自動操縦が実施されています。ATOには操縦のほかに駅停車中に駅側と連携してホームドア開閉や発車メロディ鳴動などの動作も行っており、内側2線の池袋方のホーム端の線路上にはこの通信を行うための大型の地上子が設置されました。ATOは駅手前から数個の地上子を使用して停止位置までの残距離を補正することにより停止位置の精度を高めており、停止位置直前にも位置補正用の地上子が設置されています。内側2線ではこの補正地上子が池袋方・横浜方両側に設置されており、どちらからも進入可能となっています。
 また、外側2線は開業時より同じ場所に池袋方から進入するための地上子が設置されていますが、6(現4)番線については横浜方から進入可能にするため位置補正地上子(現段階では誤動作を防止するため台座のみ)が追加されています。なお、現在は8両と10両の最後部の停止位置がずれているため、地上子はそれぞれの停止位置に設置されていますが、前記した通り東横線直通開始後は両編成の最後部が同じ位置となるため、地上子は1箇所に統合される予定です。一方、3番線は地上子の追加や移設は一切行われていません。これは後述する通り横浜方からは進入できない配線であるためと考えられます。
 なお、東横線は手動操縦であるため、直通開始後は渋谷駅停車時のみ定位置停止装置(Train Automatic Stop Control=TASC)を使用するものと思われます。(小竹向原駅・和光市駅と同じ取扱い方法)

(4)ATC関連機器
6(現4)番線池袋方に設置された出発用の信号機。 新4番線中央に新設された軌道回路境界。東京メトロ仕様の第6場内とORP開始の標識が併設されている。
左:6(現4)番線池袋方に設置された出発用の信号機。
右:新4番線中央に新設された軌道回路境界。東京メトロ仕様の第6場内とORP開始の標識が併設されている。

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 東横線直通開始後は中間駅となり運行本数も格段に増えることから、信号設備もそれに対応するため改修が行われています。
 具体的には4線ともホーム中央付近のレールに軌道回路の絶縁継目が挿入され、閉塞が分割されています。閉塞を分割することにより列車間隔を詰めることができるため、朝ラッシュ時に予定されている3分間隔の高密度運転にも対応可能となります。(設計上は2分間隔まで短縮可能。)4線とも継目の脇には閉塞境界であることを示す標識が新設されており、3番線・新4番線は東京メトロ仕様で「6場」(第6場内)、5番線・6(現4)番線は東急仕様で「5場」(第5場内)となっています。このことから、3・4番線が東横線横浜方面、5・6番線が副都心線池袋方面の発着に主に使用されるものと考えられます。
 また、6(現4)番線の池袋方は東横線直通開始後に先頭車の停止位置が階段付近まで後退するため、新しいATCの出発標識が設置されています。

5番線の同位置には東急仕様の第5場内標識が設置された。ここから池袋方のホーム端まではレールにORP添線が敷設されている。 東急線内のORP開始標識。副都心線渋谷駅ではこのタイプの標識は見られない。
左:5番線の同位置には東急仕様の第5場内標識が設置された。ここから池袋方のホーム端まではレールにORP添線が敷設されている。
右:東急線内のORP開始標識。副都心線渋谷駅ではこのタイプの標識は見られない。2011年6月19日、元住吉駅で撮影

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 副都心線渋谷駅は東京メトロ・東急電鉄の会社境界であることや、優等列車が追い抜きを行うため、全列車が必ず停車することになります。このため、4線とも出発側にはATO/TASCに加え、自動列車制御装置(Automatic Train Control=ATC)で停止位置の行き過ぎを防止する過走防護パターン(Over Run Protector=ORP)が設置されています。ORPのブレーキパターンによる制御は両方向ともホーム中央付近から始まるため、その開始地点にはレール間に「P」と書かれた標識が設置されています。また、東急のORPはレールに沿って敷設した添線(ケーブル)により車両側に信号を送信するため、東横線から進入可能な新4~6番線のレールにはこのためのケーブルも設置されており、停止位置直後にはORPの終端であることを示す「A点」と書かれた標識(赤文字)が設置されています。
 なお、東急線内で設置されているORP関連の標識は通常黒地に黄色で文字が書かれていますが、副都心線渋谷駅では現時点ではこのタイプの標識は設置されていません。

ホーム中央付近に新設された出発反応標識
ホーム中央付近に新設された出発反応標識

 3~6番線のホーム中央と3~5番線の池袋方には出発反応標識(レピーター)が設置されました。出発反応標識は出発信号機の開通時に点灯するランプで、ATC区間では運転士以外信号の現示を直接知る術が無いため、必ず設置されます。ホーム中央のものは駅員用、池袋方のものは東横線横浜方面への出発時に車掌が使用するものです。なお、外側2線についてはホーム中央で副都心線用のものが稼働中ですが、ホームが横浜方に2両分移動するため若干横浜方に移設される模様です。

 副都心線渋谷駅で新たに完成した設備はまだありますが、内容が多すぎるためここで記事を分割します。次回は副都心線渋谷駅の設備の続きとそれを踏まえた直通後のホーム運用形態の予想、そして東横線地下化に伴い予定されている渋谷駅の大規模再開発の計画と現状についてお伝えします。

(5)以降の内容と渋谷駅再開発の計画と現状はこちら

▼参考
東京メトロ副都心線との相互直通運転に伴う東横線渋谷~横浜間改良工事 - 東急電鉄
東急東横線と東京メトロ副都心線 相互直通運転の開始日が2013年3月16日に決定!(2012/7/24)|ニュースリース|東急電鉄
鹿島:KAJIMAダイジェスト:ザ・サイト:(13号相直)東横線渋谷~代官山間地下化工事(土木工事第1工区)
April 2012:特集「都市と鉄道の昨日,今日,そして明日」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
長倉,山崎 - 東京急行電鉄東横線渋谷駅~代官山駅間地下化工事 - 日本鉄道施設協会誌2011年9月号(リンク先CiNii)
原,長倉,鈴木,小野 - 東京急行電鉄東横線渋谷~横浜間改良工事 - 日本鉄道施設協会誌2012年10月号(リンク先CiNii)

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