東急東横線・東京メトロ副都心線直通工事(2013年1月2日取材・地上部分)

ついに現在線の工事桁を持ち上げるための鉄枠が出現した代官山駅渋谷方。

来る2013年3月16日、東急東横線は東京メトロ副都心線と直通運転を開始します。東横線では現在直通運転開始に向けた準備が急ピッチで進められています。当ブログでは2009年頃よりこれらの準備作業についてレポートしていますが、今月からは月1回ペースに頻度を増やして直通前後の模様をレポートをしてまいりたいと思います。手始めに今回は東横線渋谷~代官山間で行われている地下化工事の模様についてお届けいたします。

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東急東横線・東京メトロ副都心線直通工事(2012年9月16日取材)(2012年10月8日作成)

■東急東横線渋谷~代官山間の地下化工事の概要
東横線渋谷~代官山間の地下化前後の断面図
東横線渋谷~代官山間の地下化前後の断面図。なお、トンネル形状ごとの長さは一部不正確。
平面図は→こちら(別ウィンドウ)

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 現在の渋谷駅は東急東横線が地上2階、東京メトロ副都心線が地下5階にホームがあります。東横線と副都心線の直通にあたっては東横線渋谷~代官山間(約1.5km)を地下化し、双方の線路を接続します。これにより、現在の東横線渋谷駅は廃止となり、後述する再開発のためのスペースに活用されます。東横線と副都心線の直通は副都心線の着工後に決まったため、2008(平成20)年の同時開業とはならず、今年3月までずれ込むこととなりました。
 地下化後の新線は一部未完成となっていた副都心線渋谷駅の終端部分を延長する形で始まります。起点から約220mは地上から掘り下げる開削工法で建設された箱型トンネルで進み、国道246号南側の明治通りに至ります。そこから先は地中を機械で掘り進むシールドトンネルとなり、民有地や渋谷川の下をS字に横切った後現在の東横線の高架橋直下に入ってJR山手線との交差地点に進みます。シールドトンネルの全長は約500mで、民有地の占有や埋設されている下水管などの移設を最小限にするため、上下線が一体となった四角形断面の特殊なトンネルとなっており、シールドマシン前面に高速回転する円錐形の切削機構を備えた「アポロカッター工法」と呼ばれる方法で建設されました。JR山手線との交差地点から代官山駅手前までの約510mは再度箱型トンネルに戻り、引き続き現在線の直下を進みます。そして代官山駅手間にある渋谷1号踏切の直後で地上に顔を出します。代官山駅構内は地下線と接続するため、地下化切替時に現在よりも低い位置に線路・ホームが付け替えられます。地下化切替は現在線が載っている仮設桁を上昇・降下・取り外しすることにより、運休を伴わず一晩で工事を完了させる予定です。(詳細後述)
 なお、この工事は次々回お伝えする予定の東横線10両編成対応化工事とともに特定都市鉄道整備事業の対象となっており、2005(平成17)年度から半期ごとに運賃収入の2%を事業費として積み立てています。2012(平成24)年度上期までの累積積立額は189億600万円となっており、社団法人日本民営鉄道協会に積み立てを行ったうえで今後工事費の支払いに充当されます。

■地下線切り替え準備が本格化

 東横線~副都心線の直通開始を2カ月後に控え、地下化工事中の区間では地下線切替に向けた準備が大詰めを迎えています。以下、各地点の現在の状況を解説していきます。(写真は特に記載がない限り2013(平成25)年1月2日撮影です。)

●副都心線渋谷駅延長部分(開削区間)
渋谷ヒカリエ2階から東口駅前広場を見る。奥に見えるかまぼこ型の屋根が現在の東横線渋谷駅。
渋谷ヒカリエ2階から東口駅前広場を見る。奥に見えるかまぼこ型の屋根が現在の東横線渋谷駅。

 東横線の新トンネルは2008年開業時点では未完成だった副都心線渋谷駅の終端側から始まります。このトンネル起点は渋谷駅東口駅前広場の直下にあり、東口駅前の地上は副都心線着工以来路面が覆工板となり、工事用の作業帯が設けられています。次回お伝えする通り東横線地下化後は現在のホーム跡地を含め駅全体の再開発が予定されており、向こう10年以上はこのような工事中の状態が続くことになります。

明治通りと国道246号の交差点。東横線は手前に向かう明治通りの下を通る。 交差点南側の歩道橋に出現した地下へ続く謎の階段。踏み板は鉄製の仮設構造。
左:明治通りと国道246号の交差点。東横線は手前に向かう明治通りの下を通る。
右:交差点南側の歩道橋に出現した地下へ続く謎の階段。踏み板は鉄製の簡易構造。

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 トンネルの工事範囲は国道246号の交差点を越えて南側の明治通り上まで続いています。国道246号の交差点の南側の歩道橋下には4月調査時には無かった地下へ続く階段が新設されています。この階段は上部に屋根を取り付けるためと思われる枠はあるものの、階段の踏み板はビルの非常階段などで見られる既製品だったり、階段の両側は掘削した壁がむき出しになっているなど非常に簡素な造りとなっています。現時点では東横線地下化後の地上出入口の増設などに関する情報は無いため、この階段が新しい地上出入口として使われるのか、それとも工事用として期間限定で設置したものなのかは不明です。

●明治通り~JR山手線交差部分(シールド区間)



シールドトンネルの発進立坑があった渋谷駅南側の明治通り。地上は作業帯が残るものの、目立った工事は行われていない。
シールドトンネルの発進立坑があった渋谷駅南側の明治通り。地上は作業帯が残るものの、目立った工事は行われていない。(同じ場所の2009年3月21日の様子

 国道246号南側から先はシールドトンネルとなります。シールドトンネルの発進立坑は明治通り直下に設けられ、2009(平成21)年春から翌年初めにかけて掘進が行われました。工事最盛期には明治通りの中央に防音ハウスが設けられていましたが、現在は地下の軌道敷設や電気設備の工事も完了済みとなっており、少量の資材が残るのみとなっています。

現在線の高架は2009年頃から特に大きな変化はない。 現在線の高架は2009年頃から特に大きな変化はない。
現在線の高架は2009年頃から特に大きな変化はない。2枚とも2012年4月21日撮影
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 シールドトンネルは発進後すぐに民有地と渋谷川の下を斜めに横切り、現在線の高架下に入った後高架橋に沿ってJR山手線の交差部分まで進みます。この高架橋は1927(昭和2)年の東横線渋谷~丸子多摩川(現・多摩川)間開業時に建設された大変古いもので、トンネルの掘進に先立ち鉄製の支柱や地盤改良による補強が実施されています。現在線は並木橋を過ぎると半径160mの急カーブで渋谷清掃工場の周囲をほぼ直角に回り込んでいますが、地下線はこれをトレースしているため地下化後もこのカーブは残ります。また、地下線は渋谷川通過後代官山駅まで25~35パーミルの急な上り勾配が連続する厳しい線形となります。
 地下のトンネル建設は2010(平成22)年までに完了しており、現在地上では目立った作業は行われていません。しかし、高架橋上は3月16日の地下線切替まで電車が走行しているため、高架橋は沈下などの計測が続けらえれています。

●JR山手線交差部分~渋谷1号踏切(開削区間)
JR山手線の交差部分は工事桁からバラスト軌道への復旧が進行中。
JR山手線の交差部分は工事桁からバラスト軌道への復旧が進行中。(同じ場所の2011年1月9日の様子

 JR山手線交差部分から先は地面から掘り下げる開削工法でトンネルが建設されています。JR山手線は2010年初め頃より掘削のため4本ある線路が全て工事桁による仮設構造に変更されていましたが、地下のトンネル建設が完了したため元のバラスト軌道への復旧が開始されています。今回調査時は写真右側の山手貨物線(埼京線・湘南新宿ライン)の2線の復旧が完了していました。なお、この交差地点の工事はJR東日本に委託して実施されています。

渋谷1号踏切から渋谷駅方面を見る。 同じ踏切から代官山駅方面を見る。
左:渋谷1号踏切から渋谷駅方面を見る。
右:同じ踏切から代官山駅方面を見る。

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 JR山手線と交差後は線路の高さはほぼそのままに地面が高くなり、地上を走る形になります。この付近の線路は2008年頃より地下の掘削のため工事桁による仮設構造に変更されています。地下のトンネル内は軌道敷設まで完了しており、渋谷1号踏切からはネット越しにわずかながら敷設済のレールやまだら模様に光を反射するまくらぎが確認できます。なお、渋谷1号踏切は地下化と同時に廃止される予定です。

ネットの向こうにはわずかながら地下の軌道を確認できた。
ネットの向こうにはわずかながら地下の軌道を確認できた。 ※クリックで拡大


●渋谷1号踏切~代官山駅(掘割・地上区間)
代官山駅の地下線切り替え計画
代官山駅の地下線切り替え計画
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 渋谷1号踏切を過ぎると直後に地下の線路は天井が無くなり、掘割構造となって徐々に地上へ上昇していきます。現在の代官山駅ホームは渋谷駅へ向かって10パーミルの上り勾配となっていますが、地下化切替後はトンネルに入るためホームの途中から渋谷駅へ向かって10パーミルの下り勾配に変更されます。
 この地下線接続区間の全長は約273mで、3月15日終電から16日初電までの間に現在の線路が載っている桁を取り外し、運休をせずに地下線への切替を実施する予定となっています。しかし、代官山駅付近は線路脇ギリギリまで家屋や歩道橋が建っておりクレーンが使用できる範囲が著しく限られているため、終電~初電のわずかな時間で桁を全て搬出するのはほとんど不可能です。そこで、直接搬出することが不可能な場所については現在線の桁を電車が走行する範囲にかからない位置に上昇させた状態で固定し後日撤去する方法や、現在線の桁を降下させてそのまま地下線の一部に流用する方法がとられる予定です。また、代官山駅ホーム横浜方の渋谷トンネル内については軌道の降下量が小さいため、切替時にバラスト(砂利)を減らすことにより軌道高さを調整する予定です。

東急目黒線不動前駅付近の地下化切替地点。奥のトンネル坑口付近に工事桁が残っている。 京王線調布~西調布間の地下化切替地点。旧軌道桁を上昇させ、鉄枠に固定した。
左:東急目黒線不動前駅付近の地下化切替地点。奥のトンネル坑口付近に工事桁が残っている。2007年9月15日撮影
右:京王線調布~西調布間の地下化切替地点。旧軌道桁を上昇させ、鉄枠に固定した。2012年8月19日撮影

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 この直接地下切替は東急グループが開発したもので、「STRUM(Shifting Track Right Under Method)」と呼ばれています。この工法は東急電鉄では2004(平成16)年にみなとみらい線直通に伴い地下化された東横線東白楽~反町間や2006(平成18)年に地下化された目黒線不動前~武蔵小山間・西小山~洗足間で実績があるほか、直近では昨年8月に地下化された京王線調布駅付近でも利用されています。

▼関連記事
京王線調布駅地下化完成(その2:布田駅・国領駅・駅間・その他)(2012年8月28日作成)

代官山駅ホーム上空にかかる歩道橋から駅構内を見下ろす。軌道はすべて仮設構造。 代官山駅ホームから渋谷方面を見る。現在線を吊り上げる門型鉄枠が設置された。
左:代官山駅ホーム上空にかかる歩道橋から駅構内を見下ろす。軌道はすべて仮設構造。
右:代官山駅ホームから渋谷方面を見る。現在線を吊り上げる門型鉄枠が設置された。(同じ場所の2012年9月16日の様子

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代官山駅の線路・ホームは2009年ころより全て仮設構造に変更されており、現在はその下に新しい線路とホームが建設済みとなっています。また、今回ホームの渋谷型の端に線路を覆う形で門型の鉄枠が新設されました。先に説明したとおり、3月15日終電後に現在使用している線路を上昇させて固定するために設置されたものです。いよいよ地下線への切替が間近に迫っていることを実感させる光景です。


ここまでは東横線地下化工事の地上の様子を見てまいりました。次回は地下にある副都心線渋谷駅側の準備の様子と東横線地下化後に計画されている渋谷駅の再開発計画についてお伝えいたします。

▼参考
東京メトロ副都心線との相互直通運転に伴う東横線渋谷~横浜間改良工事 - 東急電鉄
特定都市鉄道整備事業実施状況(2012/11/9)|ニュースリース|東急電鉄
東急東横線と東京メトロ副都心線 相互直通運転の開始日が2013年3月16日に決定!(2012/7/24)|ニュースリース|東急電鉄
鹿島:KAJIMAダイジェスト:ザ・サイト:(13号相直)東横線渋谷~代官山間地下化工事(土木工事第1工区)
April 2012:特集「都市と鉄道の昨日,今日,そして明日」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
円形・矩形・馬蹄形など多様な断面を掘れるシールド掘進機が完成 - 川崎重工PR誌「Kawasaki News」(PDF/819KB)
津守,永持,関,山崎 - 東急東横線渋谷駅~代官山駅間地下化工事の概要 - 地下空間シンポジウム論文・報告集第14巻 - 土木学会2009年1月(リンク先:CiNii)
原,長倉,鈴木,小野 - 東京急行電鉄東横線渋谷~横浜間改良工事 - 日本鉄道施設協会誌2012年10月号(リンク先CiNii)

▼関連記事
地下鉄副都心線建設状況4・・・東急東横線へ(2007年6月10日作成)
渋谷駅 - 地下鉄副都心線全線全駅レポート(13)(2008年6月25日作成)
東急東横線代官山~渋谷間地下化工事(2009年3月21日取材)(2009年11月12日作成)
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東急東横線・東京メトロ副都心線直通工事(2012年9月16日取材)(2012年10月8日作成)

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