中央線高架化工事(2013年1月5日取材)

12月16日より使用を開始した国立駅3番線

2010年11月に中央線三鷹~立川間の全線高架化が完成しました。高架化は完了しましたが、事業区間内の各駅では地上の線路の跡地の整理や駅舎の仕上げなどが引き続き行われています。1月初めに武蔵小金井駅と国立駅の状況について再度調査を行いましたので現在の状況をお伝えします。

▼関連記事
中央線高架化工事(2012年8月19日取材)(2012年8月30日作成)

■中央線連続立体交差事業の概要とこれまで



 中央線連続立体交差事業は、JR中央線三鷹~国分寺間(6.2km)、西国分寺~立川間(2.8km)、武蔵境駅で接する西武多摩川線(0.8km)を高架化するものです。中央線は平日朝ラッシュ時に日本一過密な最短1分50秒間隔で運行されており、「開かずの踏切」による交通渋滞や街の分断が深刻な問題となっていました。

武蔵小金井駅の旧駅舎。 関東の駅百選にも選ばれていた国立駅旧駅舎。
左:武蔵小金井駅の旧駅舎。2007年9月5日撮影
右:関東の駅百選にも選ばれていた国立駅旧駅舎。2006年10月8日撮影

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 高架化事業に向けた調査は1980(昭和55)年に開始され、20年近くが経った2000年頃より本格的に工事が開始されました。高架橋の建設は元からある線路の脇に敷設した仮の線路(仮線)を使い行われましたが、2003(平成15)年の第1回切替時には、事前に作成されていた工事計画資料が間違っているなどのミスにより、工事が予定時間内に終わらず交通手段が無くなるなど大混乱となりました。また、仮線切替により踏切の横断距離が長くなったことから渡りきれなくなる人が続出し、マスコミによる攻撃の格好の餌食になる場面も見られました。
 当初はこのように波乱の幕開けとなった高架化工事ですが、2010(平成22)年11月に全区間の高架化が完了しました。高架化に合わせて区間内の各駅では構内配線・ホームの形式・数量の変更なども行われており、多種別・電車主体の運行とマッチングするよう改良が実施されています。各駅の詳しい改良内容は以下の通りです。

高架化前の配線図
高架化完成後の配線図
中央線三鷹~立川間の高架化前の配線図(上)と高架化完成後の配線図(下)
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●武蔵境駅
上下線間にあった西武多摩川線の車両引渡し用の中線を隣の東小金井駅に移設し、対向式ホーム2面2線のみとする。

●東小金井駅
武蔵境駅から移設した中線を加えた対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線とし、中線で乗降と通過待避の両方を可能にした。

●武蔵小金井駅
対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線から島式ホーム2面4線とし、上下線とも通過待避を可能にした。駅の西方にある留置線(旧武蔵小金井電車区)の通路線は4線全てに接続する。

●国立駅
対向式ホーム1面1線+島式ホーム1面2線の構成は変わらないが、待避線と上り本線の位置を入れ替え、中央の線路は上下兼用の中線とした。中線は駅東方にある武蔵野線新小平駅方面へ向かう短絡線(国立支線)にも接続する。駅西方で接続していた鉄道総合技術研究所へ向かう引込線は廃止されたため設置されない。

 2010(平成22)年の高架完了後は地上の線路の撤去、駅舎の仕上げ工事、地上の仮線跡地での側道(遊歩道)の整備が進められています。また、高架化に合わせて各駅前では大規模な区画整理や再開発も行われています。
 高架化事業と側道整備は道路整備の一環として東京都が主体となり事業が進められています。総事業費は約1710億円で、国(自動車重量税・ガソリン税を財源にした国庫補助)・東京都・沿線6市が約1430億円、JR東日本が約280億円を負担しています。

<中央線連続立体交差事業の歴史>
1980年 事業に向けた調査を開始
1994年5月 都市計画決定
1995年11月 事業認可取得
1999年3月 着工
2007年7月 三鷹~国分寺間下り線を高架化
2009年1月 西国分寺~立川間下り線を高架化
2009年12月 三鷹~国分寺間上り線を高架化
2010年11月 西国分寺~立川間上り線を高架化(全区間の高架化完了)
2012年5月 武蔵小金井駅2面4線化完成
2012年12月 国立駅2面3線化完成

■現在の状況(2013年1月5日取材)

●武蔵小金井駅
武蔵小金井駅の配線図
武蔵小金井駅の配線図

 武蔵小金井駅は西側に留置線(旧・武蔵小金井電車区)があることから、上下線ともに副本線を持つ島式ホーム2面4線で計画されていました。2009(平成21)年の高架化完成時はこのうち4番線(上り本線)が未完成だったため、暫定的に3番線(上り待避線)を本線として使用していました。4番線は昨年5月20日より使用が開始され、以後は入出庫線と3・4番線を接続する工事が続いていました。

1・2番線高尾方。古い渡り線の残骸は撤去完了。 3・4番線高尾方。入出庫線と3・4番線のシーサスの接続は完了した。
左:1・2番線高尾方。古い渡り線の残骸は撤去完了。(2012年8月19日の同じ場所の様子
右:3・4番線高尾方。入出庫線と3・4番線のシーサスの接続は完了した。(2012年8月19日の同じ場所の様子

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 昨年8月調査時に工事中だった高尾方の留置線の入出庫線と3・4番線の接続部分の軌道は今回全て設置が完了しました。入出庫線は単線で、地上から高架橋に上りきったところで1・2番線方向と3・4番線方向それぞれに向かって分岐していますが、この分岐部分のポイントは以前3番線が上り本線として使用されていた当時に設置されたものを流用しています。分岐後の線路は急カーブとなっているため、脱線防止ガードも設置されています。3・4番線のホーム端にはこの入出庫線に出入りするための入換信号機が設置済みですが、現在はまだ使用されておらず×印が打ち付けられています。(3月16日ダイヤ改正後に使用を開始するものと思われる。)

3番線の高尾方はまくらぎが幅広タイプに交換された。



3番線の高尾方はまくらぎが幅広タイプに交換された。(同じ場所の2012年8月19日の様子

 3番線の立川方は本線として暫定使用している間は現在と若干位置が異なっており、将来の移動に備えて定尺レール・バラスト軌道となっていました。4番線使用開始直後に3番線は本来の位置に軌道が移設され、レールの継ぎ目もすべて溶接されロングレール化されました。そして今回調査時はこの移設区間のまくらぎが通常の細いものから、都区内の省力化軌道(TC型省力化軌道)区間で採用されている幅広タイプに交換されているのを確認しました。都区内の省力化軌道は幅広まくらぎに加え、バラストをセメントで固めることにより軌道の沈下を防止しており、武蔵小金井駅でも同様の方法で改良が実施されたものと思われます。

小金井街道の踏切跡は路面が平らに整形された。 北口駅前広場に放置されていた歩道橋。
左:小金井街道の踏切跡は路面が平らに整形された。(2007年9月5日の同じ場所の様子
右:北口駅前広場に放置されていた歩道橋。3月までに撤去される予定。

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 東京方の高架下を通る小金井街道は高架化完了後も踏切があった名残で路面が大きく盛り上がった状態となっていました。このままでは桁下の高さが十分確保できず大型車両の通行に支障となるため、昨年11月に前後の道路に合わせて路面を掘り下げる工事が実施されました。これにより、踏切の痕跡は北側の高さ制限標の脇にある注意書きのみとなりましたが、これもそう遠くない時期に撤去されることが予想されます。
 また、北口駅前ロータリーには高架化工事中に設置された歩道橋2基が残存しています。このうち1基は高架化工事中に設置されていた仮設橋上駅舎の出入口として使用されていたもので、桁が途切れた状態で放置されていました。これは撤去費用を自治体側(東京都・小金井市)が負担するか、鉄道事業者側(JR東日本)が負担するかで揉めていたためといわれています。最終的には東京都が撤去費用を負担することで決着したようで、現在撤去工事に関する入札が行われており、使用中の1基とともに3月までに完全に撤去される予定となっています。
 なお、武蔵小金井駅では高架化に合わせて南口で大規模な再開発が行われており、ほとんどの施設が完成済みとなっています。この状況を受けて当初計画に無かった北口でも再開発を求める声が高まり、昨年4月には地権者や不動産会社による協議会が設立されるに至りました。駅前にある商業ビルではこれに関連した動きかどうかは不明ですが、一部のテナントの退去が始まっており今後も変化が続くことが予想されます。

▼参考
武蔵小金井駅北口周辺地区まちづくり協議会が地区まちづくり協議会に認定されました:小金井市公式WEB
武蔵小金井駅の小金井街道高さを低くする工事状況 [ 武蔵小金井の住人 ]
市報こがねいPDF版(平成25年1月1日号) - 小金井市公式WEB(PDF/497KB)
→北口歩道橋撤去について

●国立駅
3番線に到着する上り列車。中央には使用停止となった2番線の場内信号機が見える。
3番線に到着する上り列車。中央には使用停止となった2番線の場内信号機が見える。 3番線から東京方面に出発する上り列車。3番線は国立支線には進出不可能。
上:左が昨年12月16日より使用が開始された3番線。(同じ場所の2012年8月19日の様子
下左:3番線に到着する上り列車。中央には使用停止となった2番線の場内信号機が見える。
下右:3番線から東京方面に出発する上り列車。3番線は国立支線には進出不可能。

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 国立駅は東側から武蔵野線新小平駅方面へ通じる連絡線(国立支線)が分岐していることから、この線路を使う列車の待避ができるよう東小金井駅と同じく下り線が片面ホーム1面1線、上り線が島式ホーム1面2線とし、中線は上下兼用の待避線として使用する計画でした。2010(平成22)年の高架化完了時は3番線(上り本線)が未完成となっており、2番線(中線)を暫定的に上り本線として使用していました。2番線を上り本線として使用するにあたっては、3番線の完成までさほど時間はかからないと判断されたため、高尾方の線路は完成形で敷設されており、上り列車は必ずポイントの分岐側(制限速度60km/h)を通過する配線となっていました。3番線は昨年12月16日より使用が開始され、上記の徐行運転は解消されました。

国立駅付近の配線の変遷
2番線の東京方は直進して国立支線につながる。 2番線は本線から待避線への降格にともない場内信号機の数が大幅に削減された。
上:国立駅付近の配線の変遷
下左:2番線の東京方は直進して国立支線につながる。
下右:2番線は本線から待避線への降格にともない場内信号機の数が大幅に削減された。

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 3番線の使用開始にあわせて、東側の国立支線の分岐部分は大幅に配線が変化しています。2010年11月の上り線高架化完成時は2番線から直進し、国立支線へ向かう線路を分岐しつつS字にカーブして西国分寺駅(東京方面)へ向かっていました。昨年12月の3番線使用開始時にこのS字カーブ部分は撤去され、3番線に直線的につながるよう線路が付け替えられました。この際、2番線の直進側は国立支線に直接接続された一方、3番線から国立支線に入るポイントは設置されなかったため、国立駅出発後に上り本線から国立支線に入ることは不可能となりました。

中央線から武蔵野線に直通する列車は2番線を通過する。 中央線から武蔵野線に直通する列車は2番線を通過する。
中央線から武蔵野線に直通する列車は2番線を通過する。
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 上り本線から国立支線に入れない配線となったことから、中央線立川方面から武蔵野線に直通する列車(貨物列車・快速「むさしの」など)は12月16日以降も引き続き中線である2番線を走行しています。(逆方向(武蔵野線から中央線に入る列車)は従来通り下り本線である1番線を走行する。)このように2番線は上り本線として使用されていたころに比べ列車本数が大きく減少したことから、場内信号機の数も大幅に削減されています。

駅構内各所に掲出された改札口移設のお知らせ
駅構内各所に掲出された改札口移設のお知らせ
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 高架橋本体の完成に伴い、国立駅では去る1月13日(日)より改札口が高架下の1箇所に統合され、従来から使用されてきた南口・北口の駅舎は閉鎖されました。今回は新改札口使用開始の直前だったため、使用開始の準備が行われている状況のみとなります。

高架下の改札内コンコースの全景 北口へ向かう通路の途中にある新改札口予定地。黒い部分が自動改札機の設置予定箇所。
駅中央の高架下を横切る南北自由通路 新改札口の出入口は南北自由通路に面して設置される
左上:高架下の改札内コンコースの全景
右上:北口へ向かう通路の途中にある新改札口予定地。黒い部分が自動改札機の設置予定箇所。
左下:駅中央の高架下を横切る南北自由通路
右下:新改札口の出入口は南北自由通路に面して設置される

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 高架下の改札内通路は天井のパネルや照明器具の取り付けがおおむね完了し、内装関係の工事がほぼ完成しました。新改札口は北口駅舎へ向かう仮設通路の途中に設けられており、今回調査時は移転まで約1週間となっていたことから、有人改札のブースの設置や自動改札機取り付けのための穴の設置などがほぼ完了していました。右上の写真で床に見える黒いゴムシートの部分が自動改札機の取り付け予定箇所です。
 新改札口は東京方の高架下に設置された南北自由通路に接続します。この自由通路は2011年に新設されたもので、それ以前は線路の南北を横断できる自由通路が無かったため、改札内を無料通行できる通行証が暫定的に利用されていました。

国立駅南口。三角屋根の駅舎はもう復活しないのだろうか? 国立駅北口。平屋の質素な駅舎も見納め。
左:国立駅南口。三角屋根の駅舎はもう復活しないのだろうか?
右:国立駅北口。平屋の質素な駅舎も見納め。

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 新改札口の使用開始に伴い、南口・北口それぞれにある駅舎は廃止となりました。このうち南口の駅舎は高架化工事着工時に設置された仮設のもので、それ以前は隣の空き地に建っていた三角屋根の木造駅舎が使用されていました。国立駅の三角屋根駅舎は1926(大正15)年の中央線開業時に建設されたもので、東京都内では山手線の原宿駅に次いで2番目に古く、関東の駅百選にも選出されていました。この三角屋根駅舎を巡っては、高架化着工までの間国立市やJR東日本との間で保存の可能性が模索されてきましたが、予算などの問題からすべて頓挫してしまいました。止むなく、2006(平成18)年に将来の復元を考慮した形で解体されることになり、元の場所での復元を前提に国立市が部材を保管しています。
 三角屋根駅舎の復元については、国立市が定期的に保存されておる部材の一般公開を行うなど、市民へのPRを続けていますが、現在に至るまで具体的な動きはほとんど見られません。高架化された駅は駅舎を復元した場合の接続はほとんど考慮されておらず、駅前広場の交通状況(周辺道路への通過点にもなっている)も勘案すると元の位置への復元は容易ではありません。2000年代初頭に訴訟まで発展したマンション規制条例に代表されるように、景観保全には極めて関心の高い国立市ですが、駅舎の復元は費用の手当て・市民の意識改革など各方面からの絶大な支援が無ければ実現は困難と言えそうです。

▼脚注
※次回の一般公開は2013年2月17日(日)の予定

▼参考
国立駅周辺まちづくり|国立市公式ホームページ
中央線 連続立体交差事業で運休を伴う切換工事を実施|東京都

■3月16日ダイヤ改正よりスピードアップ&特快増発

 昨年12月に使用を開始した国立駅3番線と、まもなく使用を開始する武蔵小金井駅の入出庫線の完成をもって、中央線高架化工事は全て完成します。これにより、工事に伴う徐行運転や走行経路の制限などもすべて解消される予定です。また、中央線では主力である通勤列車の車両が2010年に全て新型車両E233系に置き換えられました。このE233系は旧来の201系と比べ加減速・最高速度などの走行性能が格段に向上しており、将来のスピードアップにも十分耐える設計となっています。
 このように中央線では列車のスピードアップに向けた準備が整ったことから、来る2013年3月16日のダイヤ改正より最高速度が現行の95km/hから100km/hにアップされることが決定しました。これにより、新宿~八王子間の所要時間は現行と比べ3分短縮の33分(最速)となる予定です。また、このダイヤ改正に合わせて快速の一部を特別快速(中央特快・青梅特快)に変更し、速達性を向上する予定です。
 14年にわたり続けられてきたサービス向上の取り組みの成果が、いよいよこの春から最大限に発揮されます。

▼参考
2013年3月ダイヤ改正について - JR東日本八王子支社(PDF/401KB)
JR中央本線(三鷹~立川間)他連続立体交差事業の概要 - 小金井市公式WEB

▼関連記事
See you again・・・国立駅三角屋根駅舎(2006年10月8日)
中央線連続立体交差(1)事業の概要(2007年9月11日)
中央線連続立体交差(2)武蔵小金井駅 (2007年9月11日)
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中央線連続立体交差(4)国立駅 (2007年11月2日)
中央線連続立体交差(5・終)武蔵境駅 (2007年11月5日)
中央線連続立体交差化事業(2009年7月11日取材)(2009年11月16日作成)
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