東急東横線・東京メトロ副都心線直通工事(2012~2013年取材)&再開発の現状

廃止まで残り2ヶ月を切った地上の東横線渋谷駅改札口。

東横線・副都心線の直通開始に向けた準備の模様のレポートの続きです。今回は前回全部お伝えできなかった副都心線渋谷駅の完成した施設の状況の続きと、これらを踏まえたうえで予想した直通開始後の線路の運用形態について、そして東横線地下化後に渋谷駅全体で予定されている大規模大開発の計画と現在の進捗状況について解説します。

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■東横線直通準備が進行中(つづき)

副都心線渋谷駅の構造と完成した施設(1)~(4)はこちら

(5)列車無線アンテナ
内側2線のレール間には東京メトロ誘導無線用ケーブルが新設された。 天井には東急空間波無線用LCXが新設された。
左:内側2線のレール間には東京メトロ誘導無線用ケーブルが新設された。
右:天井には東急空間波無線用LCXが新設された。2枚とも2012年12月8日撮影

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 内側2線のレール間には副都心線で使用している列車無線(誘導無線)用の黄色いケーブルが新設されました。駅構内ではこのケーブルと車両床下にあるアンテナを利用して通信を行います。ATO地上子に近接する部分では断線防止のためケーブルがグレーのカバーで覆われています。
 また、直通開始後に乗り入れる東横線の列車は空間波無線を使用していますが、トンネル内では電波が伝わりにくいため、線路側の天井の各所には電波を輻射する漏洩同軸ケーブル(Leaky Coaxial Cable=LCX)が新設されました。LCXは現在整備が進められている東京メトロ・都営地下鉄各線のトンネル内の携帯電話サービスでも利用されています。

(6)横浜方延長部分
3番線横浜方。側壁の色が違う部分から先が副都心線開業後に建設された部分。 新4・5番線横浜方。前回の記事冒頭の行き止まりだった状態と同位置から撮影。
6(現4)番線横浜方。横浜方には進出できないため列車種別表示器は無い。 スペースのみ準備されていた階段・エスカレータも完成した。
左上:3番線横浜方。側壁の色が違う部分から先が副都心線開業後に建設された部分。
右上:新4・5番線横浜方。前回の記事冒頭の行き止まりだった状態と同位置から撮影。
左下:6(現4)番線横浜方。横浜方には進出できないため列車種別表示器は無い。
右下:スペースのみ準備されていた階段・エスカレータも完成した。4枚とも2012年11月24日撮影

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 副都心線開業時は未完成だった横浜方2両分のホームは今回軌道、信号、内装など全てが完成し、使用準備が整いました。横浜方へ進出可能な3~5番線のホーム先端には、出発時に使用する列車種別表示器が設置されています。また、この延長部分のホーム上には、これまで階段・エスカレータの設置スペースのみが確保されていましたが、今回これも全て完成しガラス越しに内部の様子を見ることができるようになっています。なお、この延長部分のホームは避難用通路として使用開始済みとなっています。

■折り返しは内側2線のみ可能?

 長くなりましたが、以上の設備を図にまとめると以下の通りとなります。

副都心線渋谷駅の2012年末時点での設備配置
副都心線渋谷駅の2012年末時点での設備配置
※クリックで拡大(PNG形式/2000*1000px/96.0KB

 横浜方2両分のホームは完成済みであるものの、現時点では池袋方の仮設ホームの使用を継続中であるため、柵や車止めが置かれ使用不可となっています。また、東横線側の出発時に使用する信号設備についても誤扱い防止のため全て黒いビニールで隠蔽されています。
 ここで注目したいのが外側2線の信号機器の配置で、3番線は横浜方からの進入、6(現4)番線は横浜方への進出が考慮されていないことがわかります。副都心線・東横線の直通に関して東急電鉄から発表されているPRページやプレスリリースの画像では、横浜方は外側2線を分岐した直後にシーサスクロッシング(両渡り分岐器)が設置されていることから、外側2線は逆方向の線路に進出入できないことは確実です。また、当ブログでおなじみの専門雑誌「日本鉄道施設協会誌」の2011年9月号の記事によると、東横線直通開始後は現在副都心線の折り返しで使用している池袋方のシーサスクロッシングを撤去することになっています。
 これらを勘案すると、副都心線・東横線渋谷駅の最終的な配線は以下のようになることが予想されます。






東横線・副都心線渋谷駅の最終的な設備配置の予想
東横線・副都心線渋谷駅の最終的な設備配置の予想
※クリックで拡大(PNG形式/2000*1000px/86.0KB

 最終的な配線は駅中心を軸に南北対称になります。折り返し用のシーサスクロッシングは池袋方、横浜方とも内側2線のみに設置されることから、当駅折り返しは内側2線のみで可能となります。昨年7月に東急電鉄から発表された東横線・副都心線直通開始後の運転計画では、着席需要に応えるため毎時4本渋谷始発の列車が設定されることになっており、この列車は内側2線を使用して折り返すものと思われます。一方、外側2線は両方向とも上下線の種別に沿った順方向でしか走行できないため、実質的に東横線・副都心線の直通列車専用となります。このことから、直通開始後は外側2線が本線(両社直通の優等列車)、内側2線が副本線(各駅停車・折り返し列車)に近い形で運用されることが予想されます。線路・方向ごとの進出入の可否を表にまとめると以下のようになります。

東横線・副都心線渋谷駅の線路ごとの進出入の可否一覧

副都心線開業時東横線直通開始後
池袋方面池袋方面横浜方面
出発到着出発到着出発到着
3番線××
(新)4番線未使用未使用
5番線未使用未使用
(現4)6番線××
○:可能 ×:不可能

 なお、これとは別に池袋方については向かって左側3線に入換運転用の信号機が設置されているのを確認しており、駅から離れた本線上で折り返すことにより、上記の法則にとらわれない運転も可能となっている模様です。これは大規模災害等によりやむを得ず長期間両社の直通を休止する場合に備えたものと考えられます。(内側2線のみでは折り返しの容量が不足するため。)
 横浜方についても同様の機能が用意されている可能性もありますが、今回は延長部分のホームが未供用だったため、信号設備の有無が詳細に確認できませんでした。現時点で入手可能な資料では信号設備まで詳細に載っているものは流石になく、入換運転モード以外にも不明な点も多々あるため引き続き調査を続ける予定です。また、次回(2月)に新しい記事を公開する頃には直通時の正式なダイヤも発表されているはずですので、それについても反映した上でお伝えしたいと考えています。

■渋谷駅再開発の計画と現状



 現在の渋谷駅は明治時代に開通した山手線を筆頭に、戦前~高度成長期を中心に多数の鉄道路線が接続し、都内有数の交通の要衝となっています。また、駅を覆う形で東急百貨店東横店が建設され、商業の中心地ともなっています。しかし、増築を繰り返してきた歴史から、駅構内は非常に複雑でわかりにくい構造となっており、バリアフリー化も困難となっています。また、東急百貨店東横店は建設から約80年が経過し、老朽化や耐震強度の不足が懸念されています。このため、渋谷区や渋谷駅に乗り入れる鉄道事業者では2000年代前半から渋谷駅の再整備について検討を開始しました。
 一方、国土交通省でもこの動きを後押しする形で、2005(平成17)年に都市再生緊急整備地域※1、2011(平成23)年にアジアヘッドクォーター特区※2・特定都市再生緊急整備地域に渋谷駅周辺地域を相次いで指定しました。これを受け、国土交通省・東京都・渋谷区・鉄道事業者各社・周辺事業者などが共同で「渋谷駅中心地区まちづくり調整会議」を組織し、渋谷駅や周辺地区の再開発の方針について引き続き検討を行い、昨年10月に具体的な計画がまとまりました。要点をまとめると以下のようになります。

<鉄道・駅施設の機能向上>
●東横線ホーム跡地を利用し、山手線・湘南新宿ラインホームを並列・島式化
●銀座線ホームを東口駅前広場上空に移転し、島式化
●国道246号南側にも駅舎を拡大

<自動車・道路交通の再配置>
●バスターミナルの再配置
●西口タクシー乗り場を地下化
●周辺道路の拡幅
●公共駐車場・駐輪場の整備(副都心線・東横線トンネル上部空間も利用)

<歩行者の回遊性向上>
●谷地形を解消するため歩行者用デッキを新設し周辺ビルとも連結
●JR線をまたぐ東西自由通路を国道246号南北に新設

<災害に強い街づくり>
●建築物の耐震性向上
●水害対策のため渋谷川(暗渠)を移設し地下に雨水貯留施設を新設
●帰宅困難者の一時収容所・食糧備蓄倉庫等の新設

<環境・景観>
●ヒートアイランド対策のため緑の増加
●下水道熱・バイオマス発電など新エネルギーの導入促進
●渋谷川の水辺を生かした賑わい空間の創出

計画ではあわせて現在の東急百貨店東横店を全て取り壊し、高さ250m級のツインタワーに建て替えることも発表されています。これが実現すると渋谷駅の風景は現在とはまったく違うものに変化することが予想されます。

▼脚注
※1 都市再生緊急整備地域:将来大きな発展が見込める再開発事業の計画等が存在かつ事業を緊急・重点的に進めていく必要があると判断される地域について政令により指定するもの。
※2 アジアヘッドクォーター特区:経済のグローバル化促進を目的に外資系企業に対し入国審査の簡略化、法人税軽減、事業資金の公的補助などを行う制度。品川駅・田町車両センターの再開発区域も指定されている。

銀座線の高架下で始まった新駅舎の基礎工事銀座線の高架下で始まった新駅舎の基礎工事。
2013年1月2日撮影

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 渋谷駅東口駅前には昨年4月に渋谷ヒカリエがオープンし、渋谷駅本体とヒカリエを結ぶ連絡橋が新設されました。これに伴い、銀座線脇にあった古い連絡橋は解体されましたが、その跡地では早くも銀座線渋谷駅の移設に向けた準備が開始されています。現在は銀座線高架下で新駅の橋脚基礎を構築する工事が進められており、1月2日時点では楕円形に並んだ突起が出来上がっているのを確認できました。

解体中の旧14番出入口。 閉鎖された副都心線渋谷駅コンコースの旧14番出入口
渋谷ヒカリエ連絡通路直下に新設された新14番出入口 新14番出入口の内部。期間限定のため非常に質素なつくり。
左上:解体中の旧14番出入口。
右上:閉鎖された副都心線渋谷駅コンコースの旧14番出入口
左下:渋谷ヒカリエ連絡通路直下に新設された新14番出入口
右下:新14番出入口の内部。期間限定のため非常に質素なつくり。4枚とも2013年1月2日撮影

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 渋谷駅本体側の銀座線高架下には副都心線渋谷駅に通じる14番出入口がありましたが、昨年11月16日を以ってこの出入口は閉鎖され南に50mほど進んだ渋谷ヒカリエ連絡橋下に移転しました。これは前記した銀座線の駅の移設や東急百貨店東横店東館地下を流れる渋谷川の移設の開始に伴うものです。新しい14番出入口は副都心線渋谷駅南側の渋谷ヒカリエ1改札口(新正面改札口)の目の前に通じていますが、5年程度しか使用しない仮のものであるため、通路は狭く内装も粗雑な仕上げとなっています。また、その狭さゆえにエスカレータも上りのみ設置となっています。

■東横線地上駅跡はGWまでイベントスペースに
地下化後2ヶ月間イベントスペース「SHIBUYA ekiato(エキアト)」として利用されることが決まった現在の東横線渋谷駅。
地下化後2ヶ月間イベントスペース「SHIBUYA ekiato(エキアト)」として利用されることが決まった現在の東横線渋谷駅。2012年9月16日撮影

 現在の東横線渋谷駅は3月16日の地下化後、5月のゴールデンウィークまで線路部分を埋めた上でイベントスペース「SHIBUYA ekiato(エキアト)」として利用されることが発表されました。6月以降は取り壊され再開発の用地に転用される予定となっており、直下にある東急百貨店東横店はそれに先立つ3月末を以って閉店する予定となっています。今年夏から2020年代後半まで10年以上にわたり続く渋谷駅の大規模再開発がいよいよスタートします。

▼参考
東京メトロ副都心線との相互直通運転に伴う東横線渋谷~横浜間改良工事 - 東急電鉄
東急東横線と東京メトロ副都心線 相互直通運転の開始日が2013年3月16日に決定!(2012/7/24)|ニュースリース|東急電鉄
東横線渋谷駅舎跡地が大規模イベントスペース「SHIBUYA ekiato(エキアト)」として期間限定オープン!!(2013/1/17)|ニュースリース|東急電鉄
長倉,山崎 - 東京急行電鉄東横線渋谷駅~代官山駅間地下化工事 - 日本鉄道施設協会誌2011年9月号(リンク先CiNii)
原,長倉,鈴木,小野 - 東京急行電鉄東横線渋谷~横浜間改良工事 - 日本鉄道施設協会誌2012年10月号(リンク先CiNii)
渋谷区/渋谷駅中心地区基盤整備方針
渋谷駅東口、新14番出入り口が供用開始-再開発工事で移設 - シブヤ経済新聞

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