八丁堀駅~東京駅(概説) - 京葉線新東京トンネル(16)


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■西八丁堀トンネル:0km956m04~1km050m18(L=94.14m)
▼参考
京葉線工事誌 623~643ページ
京葉都心線西八丁堀トンネル超近接シールド工事 建設の機械化1989年3月号 39~44ページ

工期:1987(昭和62)年11月~1989(平成元)年5月

●概説

西八丁堀トンネルの位置
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆


八丁堀駅端の西八丁堀立坑から100mほどの間は引き続き上下線が独立したシールドトンネル「西八丁堀トンネル」となる。線形は上下線とも直線で、東京駅方面へ向かって7パーミルの下り勾配となっている。このトンネルも八丁堀駅構内と同様実質的には新川トンネルを延長しただけであり、シールドマシンも同トンネルのものをそのまま使用している。


超近接シールドのイメージと変形防止対策 京葉線工事誌634ページ図3-6-161を元に作成


この西八丁堀トンネルは本記事で後述する京橋トンネルの構造との関係で東京駅方面へ向かうほどトンネル間隔が狭くなっており、終端の西八丁堀第2立坑直前ではトンネル外面同士の間隔が40cm(シールドマシン外面同士の間隔は25cm)と極めて接近している。この西八丁堀トンネルでは上り線トンネルに後追いする形で下り線トンネルを掘削するが、特にこの超近接区間において下り線トンネル掘削時の上り線トンネル左右方向の圧力の低下が著しく、上下方向の圧力によりトンネルが横長に押し潰されることが懸念された。このようなケースでは従来、旧国鉄の建設局が1983(昭和58)年に制定した「シールドトンネルの設計施工指針」に基づき、上下方向の圧力を最大5割増しとして設計することで対処していた。しかし、この西八丁堀トンネルのトンネル間隔では同指針で想定されている0.5~1.0D(Dはトンネル直径)のおよそ10分の1であり、同指針の適用範囲外であったことからやむを得ず独自の設計を行うこととなった。その結果、

1、トンネル掘削に先立ち地上(鍛冶橋通り上)からトンネル間に当たる部分に地盤改良(薬液注入)を行い、地盤を硬化させ側圧の消滅によるトンネル変形や地盤の崩壊を防止する。
2、後追いとなる下り線トンネル掘削中は上り線トンネル内に十文字に鉄骨を仮設し、各方向の力をバランスさせることでトンネル変形を防止する。

という2つの対策が取られた。完成後のトンネルは他工区と同様二次覆工を行っているが、西八丁堀第2立坑寄りの19mについては線路が上下線中心へ向かって極端に寄った配置となっており、二次覆工を行うと建築限界を侵してしまう。そのため、この区間についてはダクタイルセグメントを使用して強度を確保したうえで、二次覆工を省略している。

■西八丁堀第2立坑:0km935m54~0km956m04(L=20.50m)
▼参考
京葉線工事誌 501~519・640~643ページ

工期:1987(昭和62)年10月~1991(平成3)年3月

●概説
西八丁堀第2立坑は前述の西八丁堀トンネルと後述する京橋トンネルのシールド到達用立坑である。この西八丁堀第2立坑は地上の鍛冶橋通りの幅員の関係上幅が15.7mしかない。このため、後述する京橋トンネル(幅12m)についてはシールドが立坑の穴に嵌る形になるが、反対の西八丁堀トンネル(直径8.1m×2=16.2m)は立坑からはみ出すこととなった。この状態でシールドを立坑に到達させ、カッターディスクを撤去してしまうとトンネルの一部が地中に飛び出すこととなり、トンネル内に土砂や地下水が流入してしまう。そこで、この部分の施工時は地盤を凍結させたうえでカッターディスクと掘削用の機器を撤去し、シールドマシンのスキンプレート(円筒状の外殻)と立坑に埋め込んだ止水鉄板を溶接することで立坑とシールドトンネルを一体化させることとした。※脚注また、この区間については線路の外側に鉄筋コンクリート製の壁を設置し、上下方向の力に対する強度を確保した。(文章では分かりづらいと思うので詳細な解説図を以下に示す。)


西八丁堀第2立坑のシールド到達と止水鉄板の概念図(右は接合状態の概略図)
京葉線工事誌 501ページ図3-6-35および642ページ図3-6-167を元に作成


▼脚注
脚注:このように立坑到達後にシールドマシン内部の機器類を撤去し、トンネルの一部として利用することはごく一般的に行われている。ただし、通常はマシン内面にセグメントやコンクリートを巻き立ててしまうため、供用後のトンネル内からは判別できない。



京葉線工事誌ではここから先の区間についての内容が極端に少なく、事実上「概略」しか載っていないと言っても良い分量となっている。というのもこの先の区間はいずれも国鉄・JR東日本へ施工が委託されているのである。そのため、もともと鉄建公団が保有している資料が少ないか、施工を行った国鉄・JRの内部資料化してしまっていて工事誌に掲載されなかったものと考えられる。情報量の少なさを補うため、ここでは建設当時に発行された建設・土木関係の雑誌記事を併用しながら解説することとしたい。

■京橋トンネル:0km316m54~0km935m54(L=619.00m)
▼参考
京葉線工事誌 835~841ページ
京葉都心線東京地下駅の施工 建設の機械化1989年1月号 22~29ページ
京葉線におけるMFシールドの施工実績 建設機械1991年2月号 22~30ページ
MFシールド技術資料(PDF) - シールド工法技術協会
MFシールドトンネル - 鉄道技術アラカルト(55)(PDF) - 鉄道総研RRR2008年12月号

工期:1988(昭和63)年1月~1989(平成元)年4月

●概説

京橋トンネルの位置図
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆

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西八丁堀第2立坑から東京地下駅の南端にある立坑までが京橋トンネルである。線形は地上の鍛冶橋通りをほぼそのままトレースする形となっており、西八丁堀第2立坑側には半径400mの曲線が、東京駅側には半径1200mの曲線がそれぞれ入り、営団地下鉄銀座線京橋駅付近まで引き続き7パーミルの下り勾配となっている。この京橋トンネルは上下線が1つのシールドトンネルの中に納まる形となっているが、その断面はこれまでのシールドトンネルの常識であった単なる円形ではなく、2つの円形を微妙に重ね合わせたひょうたんのような形となっており、中央には中柱があるなどどちらかというと開削トンネルに近い形状となっている。


MFシールドと従来の正円形のシールドを比較した図(左)と京橋トンネルのシールドマシンのイメージ(右)

従来、シールドトンネルは回転式のカッターディスクで掘削を行うことや力学的な安定性からほとんどが単純な円形断面となっていた。しかし、この正円形断面のシールドで複線幅のトンネルを建設した場合、トンネルの上下に大きな不要空間が発生してしまい、掘削量の増大や下部の埋め戻しに使用するコンクリート(インバートコンクリート)の使用量増加によるコストアップという欠点が生じていた。そこで、この京橋トンネルでは単線のトンネルを横に並べたような扁平なシールドマシンを使用することで、掘削量を必要最小限に抑え、その欠点を解消したのである。
この多円形断面シールド、通称「MFシールド(Multi circular Face Shield)」は京葉線京橋トンネルが世界初の実用例であり、施工に際しては技術開発など慎重な検討が行われた。まず、掘削に直接関わる部分については、安定性を重視して既にある技術の延長で開発できることを目標とした。その結果、京葉線の他の工区で多用された泥水加圧式シールドを基本とし、カッターフェイスは前後に1.3mずらして配置(曲線区間に合わせて右側を「前」にした)、チャンバーについては異常が起きた際の対処がしやすいことから左右で独立させた構造とした。また、模型を用いた試験の結果、カッターフェイスがずれていることから掘削時にヨーモーメント(回転力)が発生し、シールドマシン自体が常に右に曲がろうとする性質があることが判明した。これは施工精度を確保するうえで致命的であるため、シールドマシンを移動させるジャッキの発生力をきめ細かく制御することで抑え込むこととした。一方、セグメントについても他の工区で使用された鉄筋コンクリート製のフラットセグメントを基本としたが、トンネル中央に中柱が入るためこの部分はY字型の断面をもつ特殊なセグメントを使用している。中柱はセグメント1リングにつき1本設置しており、幅25cm、奥行き40cmの鋼製となっている。セグメントはシールドマシン後方に設置したエレクター(組立用ロボット)により中柱を含め全自動で組み立てることとした
実際のシールド掘進は東京駅側に設置された発進立坑(0km297m73~0km316m54(L=18.81m)・名称無し)より開始された。この立坑は幅員が狭い鍛冶橋通り上に設置されており、坑外設備のスペースが無かったため道路下を10mの深さまで掘削し、その設置スペースをねん出している。シールド掘進の方は終端側(西八丁堀第2立坑付近)で東京礫層による泥水パイプの詰まりなど軽微なトラブルはあったものの全体的には極めて順調に進行し、前例の無い特殊な工法でありながら7か月という短期間で619mの区間の掘進を終えた。完成後のトンネル内には他の工区と同様二次覆工を行っており、中柱についても同様にコンクリートで覆われている


3連型シールドマシンで建設された都営大江戸線飯田橋駅。開放的な高い天井のホームが特徴的。2006年7月16日撮影

この京葉線京橋トンネルにおけるMFシールドの成功は、シールド工法に携わる技術者を大いに刺激することとなり、以後は建設業界では新たなシールドトンネル建設技術の開発競争が繰り広げられることとなる。その結果、都営大江戸線飯田橋駅や東京メトロ半蔵門線清澄白河駅で採用された3連型シールドや現在工事中の東急東横線代官山~渋谷間の地下化工事で採用された「アポロカッター工法」といった様々なシールド工法が開発、実用化されるに至った。また、道路トンネルに目を向けてみれば昨年工事が開始された首都高速中央環状品川線では、大橋ジャンクションのランプ部分においてシールドトンネル同士を地中で分岐、合流させる工法が採用されるなど、従来の常識を打ち破る斬新な工法が次々と開発されている。
これらの先駆けとなった京橋トンネルの持つ意義は非常に大きく、シールド工法の業界に一種の革命をもたらした存在といっても過言ではない。構造物が輻輳する都市部では今後大深度地下を利用したインフラ整備が進むものと見られている。次は一体どのようなシールド工法が出現するのだろうか?

▼参考
トピックス:熊谷組 ~シールドマシーンの紹介~
円形・矩形・馬蹄形など多様な断面を掘れるシールド掘進機が完成 - 川崎重工PR誌「Kawasaki News」(PDF)
中央環状品川線について|東京SMOOTH:中央環状線 C2インフォメーションセンター

(つづく)
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