小田急線地下化完成(その1:概要・代々木上原駅~東北沢駅)

小田急線東北沢駅地下ホーム

小田急線では現在踏切解消のための地下化と輸送力を増大させるための複々線化工事が行われています。去る2013年3月23日(土)に代々木上原~梅ヶ丘間が地下線に切り替えられました。3月末に地下化後の各駅について調査をしてまいりましたので、今回はその様子について3回に分けてお伝えいたします。1回目の今回は事業全体の概要と代々木上原駅~東北沢駅についてです。

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小田急線地下化工事(2013年1月27日取材)(2013年3月8日作成)

小田急線代々木上原~梅ヶ丘間地下化・複々線化の概要

千歳船橋駅付近の複々線区間。 地下化された成城学園前駅。
左:千歳船橋駅付近の複々線区間。2008年3月16日撮影
右:地下化された成城学園前駅。2008年10月19日撮影

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 小田急線の連続立体交差化事業は小田急線向ケ丘遊園~代々木上原間(約11km)を高架化・地下化し、区間内にある39の踏切を解消するものです。この事業により「開かずの踏切」解消による交通渋滞や地域分断が解消され、沿線の街の発展に寄与することとなります。また、高架化工事と並行して輸送力強化のため線路の複々線化も並行して行われています。この複々線化は、1962(昭和37)年に当時の運輸省内に設置されていた都市交通審議会の第6号答申で示された東京8号線(のちの都市高速鉄道第9号線、現在の東京メトロ千代田線)の建設計画が原型となっているものです。
 事業区間のうち梅ヶ丘~登戸間は騒音公害の悪化を懸念した住民により起こされた訴訟などの影響により、当初計画より大幅に工事が遅延しましたが、2004(平成16)年までに高架化・複々線化ともに完成済みとなっています。また、登戸~向ヶ丘遊園間は複々線化に必要な川崎市の土地区画整理事業が遅れているため、取得済みの用地を利用する形で上り線のみ複線化することになり、2009(平成21)年に完成しています。

小田急線代々木上原~梅ヶ丘間の地下化前後の断面図
小田急線代々木上原~梅ヶ丘間の地下化前後の断面図

 残る代々木上原~梅ヶ丘間2.4㎞についてはこれまでの苦い経験を鑑み、全区間を地下化により立体交差化することになりました。地下化にあたっては新たな用地取得を最小限にするため、下北沢~世田谷代田間については緩行線が地下2階、急行線が地下3階の2層構造とし、地下3階の急行線は地上を切り開かずに済むシールド工法主体で工事を行うことにより事業の早期完成と環境対策を両立しています。地下化区間は急行線を先に開通させた後、地上の設備を撤去して緩行線のトンネル建設を行う計画となっており、このうち急行線が去る2013年3月23日(土)に使用を開始し、地上の線路は廃止されました。これにより区間内の9箇所の踏切が解消され、代々木上原~和泉多摩川間の踏切39箇所の全廃が実現しました。
 今後は引き続き2018(平成30)年の完成を目標に地下化区間の複々線化が進められることになっています。完成した暁には速度が異なる列車の走行経路の分離が可能になるため、走行速度の向上と本数の増大が可能となり、朝ラッシュ時の混雑率は着工前の208%(一部区間が完成した現在は188%)から160%へと大幅に改善される見込みです。

地下化された各区間の状況(2013年3月31日取材)

 代々木上原~梅ヶ丘間は3月23日初電より地下線へ切り替えられました。これに伴い、区間内にある東北沢・下北沢・世田谷代田の3駅のホームも地下に移転し、駅構内の構造が大幅に変化しています。地下化から約1週間後の3月31日(日)に区間全体を調査しましたので、以下各地点の状況を見てまいります。

●代々木上原駅~東北沢駅
代々木上原駅西側の工事着工前・工事中・完成後の配線図
代々木上原駅西側の工事着工前・工事中・完成後の配線図
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 代々木上原~東北沢間は地下化工事着工前から緩行線が外側、急行線が内側の複々線となっており、代々木上原駅側は複々線のさらに内側に東京メトロ千代田線の折り返し線が2本入る配線となっていました。地下化工事に伴い、2005(平成17)年秋から複々線の使用は停止され、内外の線路を振り分けるポイントも一旦廃止されました。
 以後、工事の進捗度合いに合わせて線路が数回移動しましたが、2011(平成23)年初めには元の位置に戻り、東北沢駅寄りの緩行線の跡地で地下のトンネルに向かう下り勾配の掘割の建設が始まりました。2012(平成24)年夏以降は内外の線路を振り分けるポイントを復活させる工事も始まりましたが、この際新設されたポイントは従来とは異なり、片開き分岐器ではなく両渡り分岐器(シーサスクロッシング)となりました。これは代々木上原~東北沢の駅間距離が700mしかなく、片開き分岐器のみではトンネル入口の勾配にポイントがかかってしまうため、分岐区間を短縮する目的で採用されました。

代々木上原駅小田原方。地上の線路につながる内側線はポイントの直後に車止めのまくらぎが置かれている。
代々木上原駅小田原方。地上の線路につながる内側線はポイントの直後に車止めのまくらぎが置かれている。

 地下化・複々線化完成後の代々木上原~東北沢間は内外の線路の組み合わせが着工前と逆になり、外側線が急行線、内側線が緩行線になります。今回の地下化では緩行線は未完成であるため、内外の線路を振り分けるポイントは急行線に向かう方向のみを使用しています。地上の線路の廃止に伴い使用を停止した緩行線は、ポイントのすぐ先に車止めを兼ねてまくらぎが置かれており、4年後に予定されている東北沢以西の緩行線完成による使用再開を待っています。

代々木上原→東北沢の前面展望。画面右端に見えるのが千代田線折り返し線の終端。 地下線入口は35パーミルの急勾配。トンネルの奥に東北沢駅のホームが見える。
左:代々木上原→東北沢の前面展望。画面右端に見えるのが千代田線折り返し線の終端。
右:地下線入口は35パーミルの急勾配。トンネルの奥に東北沢駅のホームが見える。

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急行線は千代田線の折り返し線の終端付近から地下に向かって下りはじめます。このトンネル入口の勾配は35パーミルで、地上の線路が若干上り勾配になっていたことから、急勾配が余計に誇張されて見えます。廃止となった地上の線路は地下線の勾配の開始点付近に「これより先進入禁止」と書かれたバリケードが設置され、封鎖されています。緩行線は地上の線路が載っている仮設桁を撤去し、その跡地に建設されます。



●東北沢駅
東北沢駅の地下化前後の断面図
東北沢駅の地下化前後の断面図

 地下化工事着工前の東北沢駅は外側が緩行線、内側が急行線(通過線)の複々線となっており、その外側に対向式ホーム2面が付く構造となっていました。地下化工事着工後は急行線の使用を停止し、その跡地に仮設の島式ホームを設置して営業を続けてきました。地下化後の東北沢駅は駅舎が地上、線路が地下1階で、緩行線と急行線の位置が逆となり、内側2線の間に島式ホームが設置されます。

2013年3月23日地下化時の東北沢駅の断面図
2013年3月23日地下化時の東北沢駅の断面図

 3月23日の地下化時は外側の急行線のみが完成するため、内側の緩行線の線路上に仮設ホームを設置し、巨大な島式ホームとして使用を開始しています。地上は旧線路のホームや軌道が残っているため、線路の北側に仮設の駅舎を設置し、旧ホームの一部を撤去して地面と同じ高さで地下のホームへ降りる階段へのルートを確保しています。

東北沢駅仮設駅舎
使用停止となった地上の島式ホーム 踏切が無くなった都道420号鮫洲大山線。今後拡幅が予定されている。
上:東北沢駅仮設駅舎
下左:使用停止となった地上の島式ホーム
下右:踏切が無くなった都道420号鮫洲大山線。今後拡幅が予定されている。

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 東北沢駅は地上時代の橋上駅舎をすべて使用停止にし、地上ホーム北側に建設した仮設駅舎に改札口を置いています。地上ホームを横断して仮設駅舎に通じる通路などは設置されていないため、旧南口・臨時口側から駅を利用する場合、地上ホーム両端の踏切を使って大きく迂回する必要があり、若干不便な構造となっています。
 地下化に伴い使用を停止した地上ホームは今回切替から1週間しか経っていなかったこともあり、踏切の線路側にバリケードが設置された以外は一切手つかずの状態でした。今後は一部未完成となっている緩行線のトンネルや地上の駅舎の建設や速やかに開始する必要があるため、そう遠くないうちに完全に撤去されるものと思われます。なお、駅東側で交差する都道420号鮫洲大山線は小田急線の地下化に合わせて、停車帯や歩道を追加する拡幅事業(補助26号線)が進められています。東北沢駅付近では拡幅に必要な用地買収がかなり進んでおり、まもなく道路本体の工事に着手するものと思われます。

東北沢駅改札内通路。左上に見えるのが地上時代に使用していた橋上駅舎の階段。
東北沢駅改札内通路。左上に見えるのが地上時代に使用していた橋上駅舎の階段。

 地上から地下ホームに降りる階段は事前に地上ホームの下に準備されており、3月22日の終電後に地上ホームの一部を取り外し、上り線の線路を横断する形で駅舎と接続されました。地下ホームへ降りる階段は1箇所、エスカレータは上下1機ずつ、エレベータはホーム中央に1機設置されています。通路内には旧橋上駅舎へ登る階段なども残されていますが、前記した理由からこれらの残存物は早期に撤去されるものと思われます。

東北沢駅地下1階ホーム。
東北沢駅地下1階ホーム。

 東北沢駅の地下ホームのうち、緩行線完成後も残されるホーム中央付近はトンネル本体・内装ともにおおむね本来の形で完成しています。最近の流行なのかは不明ですが、内装は京王線調布駅などでもおなじみのグレーのタイル床とベージュのパネル天井という組み合わせです。また天井中央はグリーンの半円形断面になっており、両脇に間接照明が設置されています。階段・エスカレータの近傍には発車案内板が準備されていますが、現時点では使用されておらずカバーが被せられています。

今回の地下化では急行線のみを使用するため、緩行線の線路上に仮設の床を設置している。 仮設の床が切れている部分からは敷設済の緩行線の軌道が見える。
左:今回の地下化では急行線のみを使用するため、緩行線の線路上に仮設の床を設置している。
右:仮設の床が切れている部分からは敷設済の緩行線の軌道が見える。

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 今回の地下化では外側の急行線のみを使用しているため、緩行線の予定地上に仮設ホームを設置し、駅の機能を維持しています。仮設ホームは工事用の鉄パイプや木材で組んだ非常に簡素な構造となっており、乗降に使用する一番外側以外は途切れ途切れで設置されています。床面が途切れている部分からは緩行線用の軌道が敷設済みであることを確認できます。

東北沢駅ホーム小田原寄り。右に見える緩行線ホーム予定地は空調機械室になっている。 下り線ホーム先端の停車目標と勾配標。
左:東北沢駅ホーム小田原寄り。右に見える緩行線ホーム予定地は空調機械室になっている。
右:下り線ホーム先端の停車目標と勾配標。

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 急行線は東北沢駅の小田原寄りのホーム途中から下北沢駅に向かって下り始めます。この構造は下北沢駅付近の地形と地下化後の駅の構造と関係しています。
 下北沢駅付近が窪地状の地形になっているため、地上時代の線路でも25パーミルの下り急勾配となっていました。地下化後はこの地形に加え、700mしか離れていない東北沢駅~下北沢駅の駅間の中で緩行線と急行線を2層に分離させる必要がありますが、緩行線と急行線が同じ地点から下り始めてしまうと下層の急行線の勾配が省令で定められた上限である35パーミルを超えてしまいます。このため、やむを得ず急行線のみ東北沢駅の途中から下り始めています。(これでも下り勾配区間を駅の外に収めることができず、東北沢駅構内も全長に渡り下北沢駅に向かって10パーミルの下り勾配となっている。)
 今回の地下化で設置された仮設ホームはこの下り勾配の開始点をギリギリ避けた位置に設置されており、完成済みの緩行線ホーム小田原寄りの3両分程度は使用されていません。地上の駅舎が未完成であるため、この未完成部分には仮設の空調機械室が設置されており、仮設ホーム上部にエアコンの風を吹き出すダクトが設置されています。

新宿寄りは中央にホームが無く、仮設ホームのみが設置されている。 ホームのすぐ先はトンネル出口となっており、剛体架線とシンプルカテナリ架線の移行区間が見える。
左:新宿寄りは中央にホームが無く、仮設ホームのみが設置されている。
右:ホームのすぐ先はトンネル出口となっており、剛体架線とシンプルカテナリ架線の移行区間が見える。

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 小田原寄りのホームが使用できない分は新宿寄りに仮設ホームを延ばして8両分のホーム有効長を確保しています。この部分は上下線間の中央部分にホームが無く、緩行線ホーム真上の仮設ホームのみが設置されています。天井は内装材や空調のダクトなどは一切設置されておらず、将来の緩行線使用開始時に架線を取り付けるためのボルトが設置されています。
 新宿寄りのホームのすぐ先はトンネルの出口となっており、地上の光が差し込みます。代々木上原~梅ヶ丘間のトンネル区間は全て剛体架線となっており、ホーム先端からは地上区間のカテナリ式架線と地下区間の剛体架線の移行部分を見ることができます。剛体架線であるため、地下線内の最高速度は90km/hに制限されており、トンネル両端には速度制限標が設置されています。


次回は下北沢駅付近の様子を解説してまいります。下北沢駅は地上が狭隘であるため、その制約ゆえの特徴的な構造が随所に見られることから、それらの部分についても詳細にクローズアップしてまいりたいと思います。


▼参考
複々線化事業|鉄道事業|事業案内|会社案内|企業・IR・採用情報|小田急電鉄
シモチカ ナビ(2020年5月31日サイト閉鎖)
2013年3月23日初電から東北沢、下北沢、世田谷代田3駅を地下化します - 小田急電鉄ニュースリリース(PDF)
『小田急小田原線(代々木上原~梅ヶ丘駅間)複々線化事業』の事業期間に関するお知らせ-複々線化は2017年度、事業完了は2018年度を目指します - 小田急電鉄ニュースリリース(PDF)

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