交通博物館跡地再開発の現状(2013年4月14日取材)

0系先頭部分があった場所

東京・神田にあった交通博物館が閉館してまもなく7年が経ちます。交通博物館の跡地では現在再開発で建設されたオフィスビル(JR神田万世橋ビル)がおおむね完成し、脇を通る中央線の高架橋も商業施設への改修が大詰めを迎えています。4月中旬にこの施設について調査しましたので現在の様子をお伝えします。

▼関連記事
交通博物館の跡地再開発(2010年3月28日取材)(2010年6月7日作成)
交通博物館跡地再開発の現状(2012年6月15日取材)(2012年6月19日作成)

交通博物館の移転と跡地の再開発

交通博物館 閉館直前に特別公開された旧万世橋駅遺構。
左:交通博物館。2006年5月4日撮影
右:閉館直前に特別公開された旧万世橋駅遺構。2006年2月25日撮影

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 交通博物館は1936(昭和11)年に、当時中央線御茶ノ水~神田間に存在した万世橋駅に併設する形で「鉄道博物館」として開設されました。博物館の建物は1923(大正12)年の関東大震災で一部を焼失した万世橋駅の駅舎を取り壊し、その基礎を流用して建設されています。関東大震災以後、周辺では鉄道網の整備が急速に進んでおり、万世橋駅の利用者数は減少を続けたことから戦時中の1943(昭和18)年に廃止され、以後は博物館単独の施設として運営が続けられました。 戦後は運営主体が日本交通公社(現在のJTB)、交通文化振興財団※へ順次移管され国鉄分割民営化後もそのままの形で運営が続けられました。
 この間、交通博物館は鉄道のみならず自動車、航空機など日本の交通の総合博物館として大きな役割を果たしてきました。しかし、建設から半世紀以上を経た建物は老朽化が激しく、東京都心に位置することから拡張も困難であったことから、JR東日本発足20周年記念事業としてさいたま市大宮に移転することが決定され、2006年5月に惜しまれながらその歴史に幕を下ろしました。

▼脚注
※交通文化振興財団は交通博物館の閉館まで交通博物館の館内に事務所を置き、青梅鉄道公園(東京都青梅市)の運営も受託していた。現在は本部事務所を大阪市の交通科学博物館内に移転し、京都市にある梅小路蒸気機関車館とともに運営を行っている。


鉄道博物館館内と展示車両。 2012年に展示物に追加された新幹線0系先頭車。
左:鉄道博物館館内と展示車両。2008年2月18日撮影
右:2012年に展示物に追加された新幹線0系先頭車。2012年8月26日撮影

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 交通博物館に代わり2008(平成20)年10月にオープンしたさいたま市の新博物館は、名称が「鉄道博物館」とされ、鉄道専門の博物館として運営されています。移転後は敷地面積が数倍に拡張され、展示車両も明治から昭和にかけて全国で活躍した約40両が揃えられ、鉄道の仕組みや歴史を体系的に知ることができる学習施設としても機能しています。展示物の構成は将来の入れ替えや拡張も考慮に入れられており、早くも2009(平成21)年10月にはJR西日本から譲り受けた新幹線0系先頭車が展示物として追加されました。

▼参考
「旧万世橋駅のうつりかわり - 交通博物館 解説シートNo.102-2」
など交通博物館閉館直前に配布されていた資料各種
鉄道博物館(公式Web)

▼関連記事
交通博物館 その1(2006年2月27日作成)
交通博物館 その2(2006年2月27日作成)
交通博物館にEF55 1(2006年3月26日作成)
交通博物館Part???(2006年5月4日作成)
閉館後の交通博物館(2006年6月17日作成)
交通博物館の跡(2007年7月5日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その1(2008年3月11日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その2 (2008年3月12日作成)
鉄道博物館2012(2012年9月14日作成)

閉館直後にエントランス(入場券売り場付近)に掲げられていたメッセージ。 建物の半分が取り壊されたところ。
左:閉館直後にエントランス(入場券売り場付近)に掲げられていたメッセージ。2006年6月10日撮影
右:建物の半分が取り壊されたところ。2010年3月28日撮影

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 閉館後の交通博物館は交通文化振興財団の事務所が置かれていたことから、展示物の搬出のため一部建物が取り壊された以外はしばらくそのままとなっていました。その後、2009(平成21)年に交通文化振興財団が大阪へ移転すると、いよいよ建物の取り壊しが開始されました。
 そして2010(平成22)年3月に土地を所有するJR東日本から跡地の再開発計画が発表されました。それによると、新たに建設されるのは地上20階、地下2階建のオフィスビルで、テナントは貸しオフィス、ビジネス・カルチャースクールなどにより構成され、断熱性向上による空調効率改善、屋上緑化、自転車通勤促進に向けシャワー室を完備するなど環境にも配慮した施設となる計画とされました。

交通博物館跡地に建設されるビルの概要(2010年発表時)
ビル名称神田万世橋ビル(仮称)
住所東京都千代田区神田須田町1丁目25番
敷地面積3,272.38平方メートル
構造鉄骨造
階数・高さ地上20階・地下2階(高さ99.5m)
建築面積1,693.33平方メートル
延床面積28,499.22平方メートル
用途貸事務所・店舗・ビジネススクール・カルチャースクール
設計者株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所
運営会社株式会社ジェイアール東日本ビルディング
着工時期2010年6月上旬
竣工時期2012年12月末(予定)
 
 さらに完成を間近に控えた昨年7月には、新たにビルに近接する中央線の高架橋の利用計画が発表されました。それによると、中央線の高架下は神田川に面した側にデッキを設置し、商業施設を展開するほか、高架橋上の中央線上下線間にある旧万世橋駅ホームにも展望デッキやカフェなどを設置し、観光施設として大々的に活用していくことになっています。全ての施設がオープンするのは2013(平成25)年夏の予定です。



完成したJR神田万世橋ビルと高架橋改修の現状(2013年4月14日取材)

完成したJR神田万世橋ビル
完成したJR神田万世橋ビル
同じ場所の2012年6月15日の様子

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 2010年6月から建設が進められていたJR神田万世橋ビルは当初の予定通り今年初めに完成を迎えました。万世橋交差点から見ると、以前からある住友不動産神田ビルの左側に重なる形で新しいビルが建設されたことが確認できます。新しいビルは最近主流のガラス張り(カーテンウォール)の外観ですが、両端はレンガをイメージした茶色のタイルとなっており、手前にある中央線の高架橋との調和も意識したデザインとなっています。

神田川沿いの高架橋はネットで覆われていた
神田川沿いの高架橋はネットで覆われていた(2012年9月16日の同じ場所の様子

 神田川に面した中央線の高架橋は2006年の交通博物館閉館時に看板が外された以外現在に至るまで特に大きな変化はありませんでした。川に面した高架橋は今年夏までに商業施設と川に張り出す形でテラスが設置されることになっており、昨年末からは高架橋全体をネットで覆い、内部を改造する工事が開始されています。4月調査時も引き続きネットは掛けられたままとなっており、内部の様子は見えませんでした。

万世橋側の高架橋端に開けられた階段と思われる穴 2013年1月2日に撮影した開口部の設置作業中の様子
左:万世橋側の高架橋端に開けられた階段と思われる穴
右:2013年1月2日に撮影した開口部の設置作業中の様子

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 万世橋側に面した高架橋の端は今年初めにレンガの壁面に穴を開ける作業が行われており、4月調査時はその部分に分厚いコンクリートの枠が出来上がっているのを確認しました。コンクリートの枠の内部は奥に向かって斜めに下っており、階段が設置されている模様です。この穴は高架橋内部の商業施設や前記したテラスに出入りするために設置されたものと思われます。(万世橋側のテラスは万世橋の欄干があるため橋に直接つなげることができず、高架橋に穴を開けて内部を経由させたものと思われる。)

中央通りの反対側からJR神田万世橋ビルを見る
中央通りの反対側からJR神田万世橋ビルを見る。
2013年1月2日撮影

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JR神田万世橋ビル1階玄関付近 玄関前にあるビルの名称や入居施設が書かれた看板
左:JR神田万世橋ビル1階玄関付近。(2012年9月16日の同じ場所の様子
右:玄関前にあるビルの名称や入居施設が書かれた看板

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 交通博物館時代に新幹線0系や蒸気機関車D51形の先頭部分が展示されていた入館口の跡地は、新しいビルの玄関に変わりました。この文章の上の左側の写真と下の写真は全く同じ場所で撮影したものですが、この7年の間に大きく風景が変化しており、同じ場所であることは言われなければ気付かない状態となっています。
 玄関前にはビル名と入居テナントの名称が書かれた看板があり、1階に入居するコンビニ「サンクス」、2階に入居する保育所「学研ココファン・ナーサリー」、オフィス部分に入居する「メタウォーター」などのロゴが見られます。

左上の写真と同じ場所の2006年5月4日の様子。もはや同じ場所であるとは信じ難いほど変化してしまった。左上の写真と同じ場所の2006年5月4日の様子。もはや同じ場所であるとは信じ難いほど変化してしまった。

JR神田万世橋ビルの1階は公開空地(一般開放)となっている。
ビルと高架橋とは直接はつながっていない。四角い部分は旧万世橋駅階段。 建物西側。高架橋内側は全てコンクリートにより耐震補強がなされている。
上:JR神田万世橋ビルの1階は公開空地(一般開放)となっている。
下左:ビルと高架橋とは直接はつながっていない。四角い部分は旧万世橋駅階段。
下右:建物西側。高架橋内側は全てコンクリートにより耐震補強がなされている。

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 新しいビルの1階はほとんどが公開空地(公園と同じ扱いで一般人が自由に通行できる空間)になっています。ビルは交通博物館時代とは異なり、中央線の高架橋と接している部分は無く完全に独立しています。高架橋は耐震補強のため全て内側にコンクリートが巻かれており、現在は商業施設として整備が進められます。また、ビルと高架橋の間にはレンガ造りの高架橋の雰囲気に合わせた公園が整備される予定で、公園内には地下にある旧万世橋駅舎の基礎の一部が展示されることになっています。

中央線下り列車から整備中の旧万世橋駅ホームを見る。
中央線下り列車から整備中の旧万世橋駅ホームを見る。

 新しいビルの脇の高架橋は2か所四角い開口部がありますが、これは1943年に廃止となった旧万世橋駅のホームへ通じていた階段の跡です。交通博物館時代はどちらもコンクリートの蓋を設置した状態で封印されており、交通博物館の閉館直前には見学ツアーが開催こともありました。今回、再開発に合わせて中央線の上下線の間に残る旧ホーム上に展望デッキやカフェを設置することになり、2か所ある階段がその出入口として再度利用されることになりました。旧ホーム上は4月時点で大量の資材が置かれており、夏までにガラス張りの展望デッキが整備される予定となっています。

南側の広場に設置されたピクチャースクリーン
広場の地面には歴史年表が刻み込まれている ビルの壁面近くにある歴史解説パネル
上:南側の広場に設置されたピクチャースクリーン
下左:広場の地面には歴史年表が刻み込まれている
下右:ビルの壁面近くにある歴史解説パネル

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 交通博物館時代に蒸気機関車などが展示されていた南側は広場になっており、万世橋駅や交通博物館に関する歴史を解説する展示物が設置されました。ビルに近い側には万世橋駅や交通博物館の写真が嵌め込まれた大型パネルや歴史に関する解説文、広場の地面には歴史年表や淡路町駅・小川町駅などの方角を示す道標(みちしるべ)が刻み込まれたタイル埋め込まれています。

工部省マーク入りのマンホールも排水溝を迂回させて残されている。
工部省マーク入りのマンホールも排水溝を迂回させて残されている。

 交通博物館の建物西側の道路上には一体いつ設置されたかわからないほど古い工部省マーク入りのマンホールがありました。今回、同じ場所を歩いたところ、何とこのマンホールがほぼそのままの状態で残されていることを確認しました。ビルの建設に合わせて、マンホールと重複する形で排水溝が設置されましたが、マンホールの部分だけはわざわざ排水溝が迂回しており、その価値の高さから意図的に残したと思えなくもない作りとなっています。


交通博物館の跡地の再開発は大詰めを迎えており、今年夏には中央線高架橋内の商業施設もオープンする予定となっています。今回工事中で見られなかった高架橋内部などの様子はオープン後に改めて調査する予定です。

▼参考
神田万世橋ビル(仮称)の建設について - JR東日本(PDF/596KB)
中央線神田~御茶ノ水間の赤レンガ高架橋に新たな名所が誕生します!~旧万世橋駅遺構を整備活用し、まちの魅力向上をめざします~ - JR東日本(PDF/723KB)

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交通博物館跡地再開発の現状(2012年6月15日取材)(2012年6月19日作成)
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