カテゴリ:鉄道:建設・工事
浦和駅高架化工事(2013年4月29日取材)
公開日:2013年07月07日17:00

2005年に開始された浦和駅高架化工事の一環として同駅で建設が進められていた東北貨物線(湘南新宿ライン)のホームが完成し、2013年3月16日ダイヤ改正より湘南新宿ラインの全列車が停車するようになりました。4月末にこの新しいホームや浦和駅構内の工事の状況について再調査してまいりましたのでお伝えします。
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浦和駅高架化工事(2012年8月26日取材)(2012年9月6日作成)
浦和駅高架化工事の概要
浦和駅は埼玉県さいたま市南部に位置し、京浜東北線、宇都宮・高崎線(東北本線)、湘南新宿ラインの3路線が停車します。また、駅周辺には埼玉県庁やさいたま市役所があるなど、大宮駅周辺と並び埼玉県の行政・経済の中心地となっています。
浦和駅付近の東北本線が現在の3複線になったのは、1968(昭和43)年10月1日に行われた国鉄の全国一斉白紙ダイヤ改正(通称「ヨンサントオ」)の時です。この3複線化では当時の浦和市の強い要請を受け、東北旅客線(列車線)にホームが増設されることになりました。しかし、当時すでに浦和駅では西口駅前広場新設の都市計画があり、東北旅客線のホームを設置したことにより用地が不足したことから、駅の西側にあった貨物駅を撤去してその用地を捻出しました。また、同様の理由から西口の駅舎を設置するスペースが無くなってしまったため、その場所を通る東北貨物線のみを高架化し、高架下に駅舎を収容することとなりました。
こうして完成した浦和駅ですが、駅構内に東西を行き来できる自由通路が無かったことから、県庁などがある駅西側に商業施設が集中するなど発展の度合いに差が見られるようになりました。このため、さいたま市合併前のの浦和市時代より浦和駅の高架化と東西自由通路の設置、駅前の大規模再開発や南側を通る都市計画道路田島大牧線(県道さいたま草加線)の4車線化などが検討されてきました。しかし、この区間は3複線化された時点で踏切が全廃されており、踏切の解消による交通渋滞の緩和を主たる目的としている国の補助制度である連続立体交差事業の対象になりませんでした。このため、高架化に必要な費用を地方自治体(県・市)と鉄道事業者(JR東日本)のみで負担しなければならず、その高額な負担がネックとなりこれまで事業に着手することができませんでした。
その後、1996(平成8)年になり都市計画道路田島大牧線の拡幅が国の限度額立体交差事業※の対象となることが決定しました。これにより、ようや高架化着手の目処が立ち、1999(平成11)年11月に埼玉県を事業主体となり(さいたま市の政令指定都市化に伴い、2003(平成15)年4月に事業主体をさいたま市に委譲)、2005(平成17)年3月に着工しました。
この事業では京浜東北線・東北旅客線の高架化と都市計画道路田島大牧線の拡幅に加え、さいたま市の要請により東北貨物線のホーム増設が追加されました。このホーム増設により浦和駅に湘南新宿ラインの列車が停車可能となり、乗り換えなしで新宿・横浜方面への利便性が大幅に向上することになります。
▼脚注
※限度額立体交差事業:一般に鉄道と道路の単独立体交差化は道路を地下化もしくは陸橋化して行うが、費用・地形などの要因により鉄道の高架化の方が相応しいことがある。このような事業で道路を立体交差化するときの費用を限度とし、国庫補助を受けることができるのが「限度額立体交差事業」の制度である。(今回のように道路に付属する駅まで高架化する場合は補助額が大幅に不足するため、その不足分は地方自治体などが補填する。)

浦和駅高架化工事の手順
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浦和駅の高架化工事の区間は駅を中心とした1320mとなっています。工事は東側(京浜東北線南行側)で新たに用地を買収し、1線ずつ高架化することを基本としていますが、上野方は東北旅客線の上下線間に保守機材用の側線があったことから、これを工事用地として使用することにより用地買収を不要としています。
なお、高架化着工前の東北旅客線は機関車けん引の列車の設計けん引重量が1350トンのままとなっていましたが、長編成の客車列車や貨物列車が消滅して久しいことから、事業に先立ち設計けん引重量を1150トンに減らす手続きを行いました。これにより東北旅客線の高架橋の取り付け勾配は貨物専用線の10パーミルではなく、電車専用線である京浜東北線と同じ最大19.5パーミルで建設され、工事区間短縮によるコスト削減を可能にしています。
完成した湘南新宿ライン5・6番線ホームと高架下通路(2013年4月29日取材)

宇都宮・高崎線3・4番線ホームから湘南新宿ライン5・6番線ホームを見る。(同じ場所の2012年8月26日の様子)
浦和駅の高架化工事は2005年の着工以降順調に進捗し、2011(平成23)年3月の東北旅客線下り線の切替を以って全ての線路の高架化が完了しました。高架化完了後は東北貨物線(湘南新宿ライン)のホーム建設が急ピッチで進められました。
東北貨物線(湘南新宿ライン)のホームは、地上を走っていた東北本旅客線下り線の跡地に単線分の高架橋を建設し、そこに東北貨物線上り線を移設して空いたスペースに設置されました。高架橋本体の工事は2012年春までにほぼ完了し、5月~9月にかけて湘南新宿ラインの一部列車を区間運休(大宮・新宿折り返し)及び東北旅客線に迂回させて上で線路の切替工事が実施されました。その後は旧上り線の跡地にホームを建設する工事が急ピッチで進められ、今年3月16日(土)のダイヤ改正より湘南新宿ラインの全列車と東武線直通特急(日光・きぬがわ)が停車するようになりました。

湘南新宿ライン5・6番線ホーム。施設のデザインは先に完成した2つのホームとほぼ同様。
完成した湘南新宿ラインのホームは既存の京浜東北線(1・2番線)、東北旅客線(3・4番線)の続番で「5・6番線」となっています。施設のデザインはすでに完成している2つのホームとほぼ同等ですが、駅の東側より西側の方が地盤が高くなっており、高架橋もそれにわせて貨物線のみ高くなっているたため、ホームも他の2つのホームと比べて一段高くなっています。また、元々駅の設置を前提にした構造ではない場所にホームを設置したため、ホーム中央を頂点に両端に向かって8パーミル前後の下り勾配※となっています。
▼脚注
※駅ホーム部分の線路の勾配は停車中の車両が勝手に走り出すことによる事故などを防止するため、省令の解釈基準により通常は5パーミル以下、構造上やむを得ない場合のみ10パーミル以下と定められている


湘南新宿ラインのホーム両端。左が新宿方、右が大宮方。
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前記した通り、湘南新宿ラインのホームは東北貨物線の旧上り線の跡地に建設されました。ホームの先にはバラストが敷かれた空間が数十メートル続いており、以前そこに線路があったことがわかるようになっています。また、軌道は下り線がバラスト軌道なのに対し、移設された上り線はD型直結軌道やTC型省力化軌道となっており、後から手を加えたことが一目でわかる構造になっています。
なお、東北本線では浦和駅の高架化と並行して赤羽~大宮間で架線や支持金具の一斉更新(インテグレート架線化)が進められています。浦和駅の湘南新宿ラインホームの前後の区間では、下り線の新しい架線柱が旧上り線跡地に設置されています。(このため、長編成の列車の写真などを撮影するには不向きの場所となっている。)



上:完成した高架下の改札内コンコース(3枚合成)
下:湘南新宿ラインホームの階段(左)とエスカレータ(右)。高架橋の構造の制限により幅が狭い。
※クリックで拡大(最大1200*480px/79KB)
湘南新宿ラインのホームが完成したことにより、高架下にある改札内コンコースも全て供用が開始されました。改札内コンコースは1~6番線の高架下のほぼ全幅を使用しており、大変広々した作りとなっています。高架化前は各ホームと線路の両側にある駅舎が狭く薄暗い地下通路(→高架化前の地下通路の写真)で連絡していた頃が信じ難い状況となっています。
今回使用を開始した湘南新宿ラインのホームへあがる階段・エスカレータは先に高架化された2つのホームのものとほぼ同等のデザインですが、階段の開口部を元々あった東北貨物線の高架橋の床の一部を切り取って設置したため、強度を維持する観点からサイズに制限が課せられており、全体的に若干幅が狭くなっています。このため、エスカレータは利用者が集中することが無い上りが1人幅、降車客が集中する下りが2人幅となっています。

湘南新宿ライン用発車案内板
湘南新宿ラインの停車開始により、高架下のコンコースの各所には同線用の発車案内板が多数設置されました。発車案内板は既に高架化済みの他のホームと同じ高彩度タイプの3色LEDで、列車本数が宇都宮・高崎線ほどは多くないことから両方向とも2段表示となっています。(宇都宮・高崎線用は3段表示で上野方面は上野駅の到着番線を表示する機能もある。)

計画幅員で供用が開始された東西自由通路
湘南新宿ラインのホーム使用開始と同日より、高架下の改札口前を通る東西自由通路も計画上の幅である25m一杯の使用が開始されました。これに先立ち、改札口正面にあったびゅうプラザが改札口脇(外側から見て左側)に移転しています。昨年夏の暫定完成時は幅が半分しかなく混雑していたこの自由通路ですが、全体が完成した現在は逆に広すぎると感じられるほど十分な幅を有しています。これにより、駅の東西で人の行き来が活発化し、均衡の取れた街の発展が期待されます。


左:西口へ向かう階段脇にある謎の空間
右:西口駅舎は昨年夏の訪問時点で更地化されており特に変化はない(同じ場所の2008年2月18日の様子)
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西口へ向かう通路は駅の東西で土地の高さが異なるため階段やエスカレータが設置されていることを昨年の記事でもお伝えしました。今回東口へ向かう通路は25m幅に拡張されましたが、この階段部分は最大幅までは拡張されず、壁で仕切られた袋小路のような空間が残されています。壁は薄い板でできた簡素な構造で、その奥には作りかけの階段の骨組みのようなものが見えます。この謎の空間の正体は不明ですが、引き続き西口では旧駅舎跡地の整備が進められており、その進捗に合わせて階段を拡幅するための準備ではないかと推測されます。

自由通路の幅一杯に間口が拡張された東口(同じ場所の2012年8月26日の様子)
一方、東口は高架化工事期間中に設置されていた仮設駅舎の撤去が完了し、東西自由通路の幅目一杯まで入口が拡張されました。駅前広場のアスファルト舗装はまだ継ぎ接ぎだらけであるため、今後順次空いたスペースを利用して拡張・整備が行われるものと思われます。
2005年以来8年の歳月をかけて進められてきた浦和駅の高架化・東北貨物線のホーム新設事業ですが、今回を以って一区切りとなります。この3月から浦和駅では湘南新宿ラインの停車するようになりましたが、続く2014(平成26)年度には東京~上野間で建設中の東北縦貫線が完成し、宇都宮・高崎線が上野駅を越えて東海道線と直通運転を開始する予定となっています。浦和駅周辺では引き続き道路の拡張や再開発などが計画されており、交通の利便性の向上に合わせて今後も駅周辺はさいたま市の中心地として大きく発展していくことが期待されます。
浦和駅周辺高架化事業・東北貨物線乗降場新設事業
工期:2005(平成17)年3月~2013(平成25)年3月
距離:1320m(東京起点23km400m~24km720m)
総事業費:約453億円
▼参考
小林,有光 - 停車場改良あれこれ-鉄道が街が生まれ変わる-(25)東北本線浦和駅 - 日本鉄道施設協会誌2011年1月号4~8ページ
JR浦和駅 高架化完了、通路広がる : 住宅・不動産ニュース : ホームガイド : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
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