東北縦貫線建設工事(2013年4月14日取材)

ヨドバシAkibaの前で進む東北縦貫線の軌道敷設

JR東日本では、現在東海道線東京駅と宇都宮・高崎線上野駅をつなぐ「東北縦貫線」の建設を進めています。当サイトではこの新線建設について概ね3カ月ごとに調査をしています。前回(1月)の調査から3カ月が経過したため、4月中旬に再度調査を行いました。今回も神田駅付近から御徒町駅付近を中心に現在の状況をお伝えします。

▼関連記事
東北縦貫線建設工事(2013年1月2日取材)(2013年2月5日作成)

東北縦貫線の概要

東北縦貫線の位置
東北縦貫線の位置

 東北縦貫線は東海道線の東京駅と宇都宮・高崎・常磐線の上野駅を接続する新線で、2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会(現・通政策審議会)第18号答申で2015(平成27)年までに整備するべき路線として位置づけられています。この区間には現在山手線・京浜東北線が走っていますが、その混雑率は着工前の2006年の数字で218%と国内トップを誇っていました。その後、湘南新宿ラインの新設やつくばエクスプレス線開通などの影響により、2009(平成21)年には最混雑路線の座を総武緩行線(錦糸町→両国)に譲ったものの、現在も混雑率は依然として200%を超えており、対策が急務となっています。東北縦貫線が完成すると、東京止まりとなっている東海道線と、上野止まりとなっている宇都宮線・高崎線・常磐線の列車を直通運転することが可能となり、山手線・京浜東北線への乗り換えが不要になるため混雑率は180%以下へ大幅に緩和される見込みです。

神田駅脇の東北新幹線の橋脚は将来の回送線復活に対応した構造だった。 東北縦貫線開業に向けて信号機が設置された東京駅東海道線ホーム上野方。
左:神田駅脇の東北新幹線の橋脚は将来の回送線復活に対応した構造だった。2006年5月4日撮影
右:東北縦貫線開業に向けて信号機が設置された東京駅東海道線ホーム上野方。2013年1月2日撮影

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 東北縦貫線の建設工事は大きく分けて「重層高架部分」と「線路改良部分」の2種類に分類できます。
 「重層高架部分」は神田駅付近が該当するもので、東北新幹線の高架橋の上に縦貫線用の高架橋を継ぎ足し、二重高架に増築します。東北新幹線の開業前、東京~上野間には「回送線」と呼ばれる線路が存在していましたが、用地節約のため回送線を取り壊したうえで新幹線が建設されました。この際、新幹線の高架橋は将来の回送線復活を想定して継ぎ足し可能か構造で建設されており、今回の縦貫線はその構造を活用して建設されていることから、「40年ぶりの回送線の復活」とみなすこともできます。しかし、重層化に関しては沿線で反対運動が展開されたことから、桁の一部を在来線側に寄せるなどの配慮がなされており、耐震性向上のため橋脚に補強を施したり、桁を軽量化するなどの工夫も行われています。
 「線路改良部分」は東京駅付近と秋葉原~上野間が該当するものです。この区間は「回送線」時代の線路の一部が残されており、前者は東京駅止まりの東海道線の引上げ線、後者は上野駅止まりの宇都宮・高崎・常磐線の留置線として使用されていました。縦貫線はこの線路の一部を本線用に改修したうえで流用します。
 この東北縦貫線は当初2009(平成21)年度の完成が予定されていましたが、前記した神田駅付近での反対運動により着工が遅れたことに加え、2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災の影響により5年遅れの2014年度に延期されています。総工費は約400億円で、全額をJR東日本が自己負担します。

重層高架の建設が完了、軌道敷設開始(2013年4月14日取材)

 今回は神田駅付近、秋葉原駅付近、御徒町駅付近の3か所について4月14日(日)に調査しました。

●神田駅付近(重層高架)
神田駅ホーム端から上野方面を見る。架設機は遥か遠くに移動している。 高架橋外側は防音壁を支える格子状の枠を取り付け中。
左:神田駅ホーム端から上野方面を見る。架設機は遥か遠くに移動している。
(同じ場所の2012年3月3日/2012年6月15日/2012年9月15日/2013年1月2日の様子)
右:高架橋外側は防音壁を支える格子状の枠を取り付け中。

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 神田駅付近は東北新幹線の高架橋の上に縦貫線用の高架橋を増築します。この付近は線路脇ギリギリまで建物が密集しているため線路の外側からの作業はできず、深夜の列車が走行しない時間帯に新幹線の線路上から橋脚を継ぎ足し、出来上がった橋脚の上を専用に開発された架設機が自ら走行しながら桁を建設する方法が採られています。橋脚は合計16基で、これをさらに約260個の部品に分割したうえで、2009(平成21)年末から約2年間かけて東京駅側から順番に継ぎ足しが行われました。なお、東北新幹線の橋脚は縦貫線の高架橋を継ぎ足すと阪神・淡路大震災後に改訂された耐震基準を満たさなくなるものがあったため、該当する橋脚については内部に鉄筋コンクリートを詰める補強が行われています。
 桁の架設作業は橋脚の設置から数カ月後追いする形で2010年夏頃より始まり、2年半が経過した今年初めには神田駅を通過して残り2スパンを残すところまで到達しました。左の写真は神田駅のホーム端から上野方面を見たところで、1年前(2012年3月3日)と比べ、緑色の架設機が遥か遠くに進んでいることがわかります。
 桁の架設が完了した神田駅付近では高架橋外側に防音壁を取り付けるための格子状の枠を設置する作業が進められていました。JR東日本のホームページなどに掲載されている完成予想図によると、今後はこの枠の中に透明なアクリル板が嵌め込まれる模様です。

靖国通りと交差する桁の架設作業
桁の据え付けまで1週間を切っていたため、架設機後方には完成した桁が準備されていた。 架設機の真下は足場が組まれていた。
上:靖国通りと交差する桁の架設作業(同じ場所の2013年1月2日の様子
下左:桁の据え付けまで1週間を切っていたため、架設機後方には完成した桁が準備されていた。
下右:架設機の真下は足場が組まれていた。

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 2010年夏から約2年半続けられてきた重層高架の桁架設は靖国通り(都道302号新宿両国線)と交差する桁の据え付けを以って最終回を迎えました。靖国通りと交差する桁は長さ40m、重さ510トンのプレキャストコンクリート製で、今回調査した4月14日は据え付けまで1週間を切っていたことから、完成した桁が架設機後方に準備済みとなっていました。この桁はこの後架設機内に取り込まれたのち、4月19日(金)深夜に靖国通りを通行止めにして予定通り据え付けが行われました。据え付けの模様は以下のページに詳しく掲載されていますのでご覧ください。

▼参考
建設通信新聞の公式記事ブログ: 【現場最前線】世界初 新幹線直上 高架橋で重層化 神田の東北縦貫線工事
秋葉原asterisk(*)α : 【19桁目】東北縦貫線の工事の様子(04/19~04/20)
東北縦貫線観察記 第7閉塞 ~靖国通りを封鎖せよ~|関東土木保安協会

淡路町交差点付近にかかる歩道橋から東北縦貫線の桁架設工事を見る。
淡路町交差点付近にかかる歩道橋から東北縦貫線の桁架設工事を見る。
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 淡路町交差点近くの靖国通りにかかる歩道橋からも東北縦貫線の建設中の様子が見えるようになりました。上の写真で最上部に見える緑色の桁が架設機本体(PC桁吊り下げ用の桁)、その下に見える白い桁が架設機走行用のガーター(架設機に先行し、架設機が前進する際のガイドレールになる)です。東北縦貫線の電車は下側の白いガーターとほぼ同じ位置を走行します。



●秋葉原駅付近(重層高架~留置線アプローチ・留置線転用部分)
秋葉原駅ホーム脇の佐久間架道橋は桁の改造が終わり、軌道敷設準備中。 神田付近の重層高架に向かって急勾配で上る高架橋
左:秋葉原駅ホーム脇の佐久間架道橋は桁の改造が終わり、軌道敷設準備中。(同じ場所の2011年3月6日/2012年9月15日の様子)
右:神田付近の重層高架に向かって急勾配で上る高架橋(同じ場所の2011年3月6日の様子

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 重層高架の終端から秋葉原駅入口にかけての区間は回送線時代の古い高架橋が残っていたため、それらをすべて取り壊し、3階から2階に降りる勾配付きの高架橋に改築します。高架橋は山手・京浜東北線と東北新幹線に挟まれた狭い場所に収める必要があるため、一部が京浜東北線の線路上に張り出して建設されています。また、秋葉原駅ホーム脇にある佐久間架道橋は撤去せず、東京方に向かって斜めに持ち上げたうえで東北縦貫線の桁に流用されます。
 高架橋の改築は今年初めまでにおおむね完成済みとなっており、現在は高架橋の床に軌道を固定する突起を設置する作業や両端に防音壁や転落防止柵を取り付ける作業が進められています。

秋葉原駅ホーム中央付近から先は軌道敷設が始まった。 重層高架への上り勾配の開始地点付近もレールが搬入されている。
左:秋葉原駅ホーム中央付近から先は軌道敷設が始まった。
右:重層高架への上り勾配の開始地点付近もレールが搬入されている。

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 秋葉原駅ホーム中央付近から先は回送線時代の名残で宇都宮・高崎・常磐線の留置線があったため、この一部を東北縦貫線に転用します。秋葉原駅ホーム脇の留置線は前記した高架橋の改築工事のため2010年春に撤去されましたが、今回その跡地で東北縦貫線用の新しい軌道の敷設作業が開始されているのを確認しました。

秋葉原駅ホーム端から上野方面を見る。留置線の跡で東北縦貫線の軌道敷設が行われている。
秋葉原駅ホーム端から上野方面を見る。留置線の跡で東北縦貫線の軌道敷設が行われている。

新設中の軌道は最近主流の弾性まくらぎ直結軌道(D型直結軌道)で、4月14日の調査時点では秋葉原駅ホーム中央から御徒町駅手前の着工済み区間までのほぼ全体で軌道の敷設が完了しています。軌道敷設の開始に合わせて架線柱の建て替えも進んでおり、山手・京浜東北線の架線はコンパウンドカテナリからインテグレート架線への更新が合わせて行われています。

●御徒町駅付近(留置線転用部分)
御徒町駅付近は留置線3本のうち2本の改修が完了しており、残り1本の改修が進められている。 御徒町駅付近は留置線3本のうち2本の改修が完了しており、残り1本の改修が進められている。
御徒町駅付近は留置線3本のうち2本の改修が完了しており、残り1本の改修が進められている。(同じ場所の2010年2月6日の様子
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 御徒町駅付近は秋葉原駅付近にある留置線の出入りのため回送線時代の線路が3本残されており、そのうち2本を東北縦貫線の本線に転用します。転用にあたっては列車本数が増加するため、軌道を本線用の高規格なものに改修することに加え、騒音防止のため高さ4mの防音壁が新設されます。防音壁は高さが高く、強風時に作用する力を考慮すると高架橋の端だけでは支えきれないため、L字型になった防音壁の支柱の一端を線路下に埋め込む形となっています。この構造のため、高架橋外側の線路2本は内部が空洞になったコンクリートの箱を土台とし、その上にフローティングラダー軌道などを置く構造になっています。
 高架橋外側の線路2本の改修と防音壁の設置は今年初めまでに完成済みとなっており、現在は残る1本の軌道敷設が進められています。敷設中の線路は完成済みの2本とは異なり、線路下に防音壁の支柱は入らないため、秋葉原駅付近と同じD型直結軌道となっています。

次回は1月と同様にこの東北縦貫線建設に合わせて行われている品川駅の再開発事業についてお伝えします。

▼参考
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れについて(東海道線との相互直通運転) - JR東日本(2002年3月27日発表)
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について - JR東日本(PDF)(2008年3月26日発表)
August 2010:特集「新幹線直上に架けるJR東北縦貫線」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
東北縦貫線プロジェクトの概要と架設計画 - 橋と基礎2009年8月号77~79ページ
東北縦貫線プロジェクト[計画概要・施工報告] - 土木施工2012年8月号115~126ページ

▼関連記事
東北縦貫線工事(2009~2010年取材まとめ)(2010年3月15日作成)
東北縦貫線建設工事(2010年8月14日取材)(2010年10月23日作成)
東北縦貫線建設と品川駅構内の工事(2011年1~4月取材まとめ)(2011年6月9日作成)
東北縦貫線建設工事(2011年10・11月取材まとめ)(2012年1月7日作成)
東北縦貫線工事&品川駅構内の工事(2012年3月3日取材)(2012年03月21日作成)
東北縦貫線建設&品川駅構内の工事(2012年6月15日取材)(2012年6月21日作成)
東北縦貫線建設工事(2012年9月15・16日取材)(2012年10月1日作成)
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