カテゴリ:鉄道:建設・工事
南武線稲城長沼駅高架化工事(2013年7月7日取材)
公開日:2013年10月31日09:15

南武線稲城長沼駅では現在高架化工事が進められてます。来る12月22日に上り線の高架化が実施されることが発表されました。7月にこの工事の状況について再取材を行いましたので現地の様子をお伝えいたします。
※なお、今回の記事より全ての画像がクリックで拡大・別ウィンドウで表示します。(スマホでのアクセス対策)
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南武線稲城長沼駅高架化工事(2013年1月5日取材)
南武線連続立体交差事業の概要
南武線連続立体交差事業は南武線稲田堤~府中本町間(4.3km)を高架化するものです。この区間では鶴川街道(都道19号町田調布線)、府中街道(都道9号川崎府中線)という2本の幹線道路が交差しており、双方の踏切を原因として激しい交通渋滞が発生していました。連続立体交差化にあたっては高架化と地下化の2種類の案が検討されましたが、南多摩駅のすぐ北で多摩川と交差していること、矢野口~稲城長沼間で交差する稲城大橋の連絡道が部分的に地下化されていること、南武線は貨物列車が走行するため急勾配が造れないことなどの各種制限を勘案し高架化を行う方針で決定されました。

4車線化された鶴川街道と南武線のアーチ橋。2011年1月15日撮影
工事は矢野口駅~稲城長沼駅東側(第1期区間)と稲城長沼駅東側~府中本町駅(第2期区間)の2つに分割して行われており、第1期区間は2005(平成17)年10月までに完成しました。これにより8箇所の踏切が廃止されたほか、直後に実施された鶴川街道の多摩川原橋の4車線化とバイパス新道(都道多摩3・1・6号線)への付け替えにより、懸案だった交通渋滞が解消されました。
続く第2期区間の工事は第1期区間完成直後の2006(平成18)年3月から開始され、2011(平成23)年12月に下り線の高架化が完了しました。上り線についてもその後順調に工事が進んでいることから、来る2013年12月23日に高架線への切替工事が実施されることが発表されました。これが完成すると、新たに稲城長沼~府中本町間にある7箇所の踏切が廃止されます。上り線の高架化後は稲城長沼駅の2面4線化などの工事が進められることになっており、最終的な完成は2015(平成27)年春が予定されています。
<南武線連続立体交差事業の歴史>
1989年4月 建設省(現・国土交通省)の事業採択
1992年1月 都市計画決定
1993年3月 事業認可
1997年1月 第1期区間(稲田堤~稲城長沼間)着工
2005年10月 第1期区間完成
2006年3月 第2期区間(稲城長沼~府中本町間)着工
2007年3月 稲城長沼駅仮駅舎使用開始
2008年6月 第2期区間上り線(川崎方面)を仮線に切り替え
2009年10月 第2期区間下り線(立川方面)を仮線に切り替え
2011年12月 第2期区間下り線高架化完成
2013年12月 第2期区間上り線高架化完成予定(詳細は後述)
2015年春 稲城長沼駅2面4線化完成予定
この事業は道路整備の一環として東京都が事業主体となり進められています。第1期区間・第2期区間をあわせた総事業費は約598億円で、その負担の内訳は国が45%(当初は道路特定財源による国庫補助)、東京都が31%、稲城市が13%、JR東日本が11%となっています。
2013年7月7日の状況
●稲城長沼駅


左:地上上りホームから建設中の上り線高架橋を見る(同じ場所の2012年1月28日の様子)
右:上下線ホームの連絡跨線橋から建設中の高架上りホームを見る
※クリックで拡大
着工前の稲城長沼駅は上り線が片面ホーム1面、下り線・中線が島式ホーム1面2線となっており、立川方には留置線が2本(そのうち1本は6両編成を直列に2編成留置可能)がありました。高架化工事着工後は線路を北側の仮線に移動させ、元の線路があった場所に高架橋を建設する工事が進められています。高架化後の稲城長沼駅は留置線が廃止される代わりに、上下線とも島式ホームの2面4線となり、全ての線路で停車・乗降が可能となります。
今回訪問時は上り線のホームと上り本線(新1番線)の線路敷設部分の高架橋の大半が完成していました。上り本線の敷設部分には、現在使用中の地上上りホームと、下り高架ホームをつなぐ仮設跨線橋があるため、その部分のみ高架橋が未完成となっています。この未完成部分は12月の上り線高架化後、地上の上り線が撤去されてから構築されます。

建設中の稲城長沼駅高架上りホーム
1月訪問時に高架橋の床面が完成していた上り線ホームは、今回ホーム床や屋根などがおおむね完成し、電気設備などの仕上げ作業が行われていました。ホームの構造は既に使用中の下り線ホームとほぼ同一で、階段・エスカレータの数量などにも変更はありません。前記した、仮設跨線橋と重複するホームの川崎寄りの数十メートルはホームの半面(2番線側)のみが構築されています。


左:高架ホームの川崎方。上り本線(1番線)も軌道の一部が敷設済となっている。
(同じ場所の2012年1月28日の様子)
右:高架ホームの立川方。こちら側は下り副本線(3番線)のみ折り返し可能→さらにズームした写真
(同じ場所の2012年1月28日の様子)
※クリックで拡大
ホームの先は川崎方・立川方とも4線分の敷地幅が確保できたため、12月の上り線高架化時点では使用しない上り本線の軌道も敷設済みとなっています。上り本線の完成までにはそれほど時間はかからない(工期は1年弱の予定である)ため、上り本線(1番線)と上り副本線(2番線)の合流部分は、中央線国立駅の工事の際と同様に完成時の形態(2番線が分岐側)で敷設されています。12月の上り線高架化時点では上り副本線(2番線)を上り本線として使用するため、この分岐部分を通過する際は速度制限(45km/h)がかかることになります。
なお、上り副本線(2番線)と下り副本線(3番線)を結ぶ渡り線は、川崎方は両渡りで双方の線路で折り返しが可能であるのに対し、立川方は上り線→下り線の片渡りとなっており、3番線のみで折り返しが可能な配線となっています。
南武線では2011年ダイヤ改正より32年ぶりに快速運転が復活しましたが、現状では追い抜きができる駅が少ないため、追い抜きは行わず、通過運転をする区間も登戸駅が北限となっています。稲城長沼駅の2面4線化が完成すると、当駅での追い抜きが可能となるため、快速運転をする区間が拡大されることも考えられます。

稲城長沼駅の高架化前・下り線高架化時・上り線高架化時・完成時の配線図
※クリックで拡大(GIF Animation/800*250px/49.0KB)
●南多摩駅

南多摩駅地上上りホームから建設中の高架橋を見る(同じ場所の2012年1月28日/2012年8月19日/2013年1月5日の様子)
着工前の南多摩駅は対向式ホーム2面2線で、高架化着工後は北側の仮線にそのままの形態で移動しています。高架化後の南多摩駅は上下線が一体の島式ホーム1面2線となります。今回訪問時は上り線側の高架橋の建設と軌道敷設が完成しており、駅舎・架線・信号設備などの仕上げが行われていました。



上:一部完成した高架下のコンコース。右奥の緑色のバリケードがある部分が8/4から改札口になった。
左下:地上上り線に面して設置されているシャッターは、将来高架下の駅舎入口になる。
右下:上り線側は地上からホーム階までガラス張りになっている。
※クリックで拡大(最大1200*430px/77.1KB)
南多摩駅の工事は稲城長沼駅と異なり上り本線の高架橋建設を以って完成となるため、高架橋の側壁(風防)や高架下の駅舎も同時並行で工事が進められています。今回訪問時点で高架下の駅舎は内装を含めほとんどが完成済みとなっており、約1カ月後の8月4日(日)より駅施設が高架下に全て移転し、高架化前からあった南口駅舎(→写真)は廃止されました。
今回完成した上り線側の高架橋側壁は、完成済みの下り線側とは異なり住宅と近接していないことから、駅中央が地上から線路階まで全面ガラス張りとなっており、開放的な雰囲気となっています。また、立川方のホーム端の下には下り線側と同様大きなシャッターが設けられており、上り線高架化後はこの部分が線路北側から駅に入るルートになるものと思われます。


高架橋上では上り線の軌道敷設や架線張りが進んでいる。
※クリックで拡大
高架橋の上では軌道敷設が完了しており、架線張りや信号ケーブルなどの敷設工事が進められていました。地上の上り線ホームは、高架の下り線ホームと仮設の跨線橋で接続されています。上り線の軌道敷設や電気設備の工事はこの跨線橋に通じる通路の床下でも行われているため、作業がしやすいよう交差する部分の床面が取り外し可能な簡単な構造に変更されています。このため、わずかながら段差が発生しており、通路にはそれに関する注意書きが掲出されています。

地上ホームと高架ホームをつなぐ通路は高架の上り線の軌道敷設のため床の一部がかさ上げされた。


左:高架ホームの川崎方(同じ場所の2012年1月28日/2012年8月19日/2013年1月5日の様子)
右:高架ホームの立川方(同じ場所の2012年1月28日/2012年8月19日/2013年1月5日の様子)
※クリックで拡大
駅前後の部分も軌道敷設が完了しており、1月訪問時点では据え付け作業中だった立川方のコンクリートアーチ橋も完成済みとなっています。
12月23日に上り線を高架化
このように、稲城長沼駅付近では上り線の高架橋建設も順調に進んでいることから、来る12月22日(日)夕方から翌23日(月・祝)早朝にかけて、上り線の高架線への切替工事が実施されることが発表されました。このため、12月22日は18:30頃から矢野口~府中本町間で全列車が運休し、バスによる代行輸送が実施されます。詳しい運転計画は以下の通りです。
<南武線の運転変更>
川崎~登戸間:ほぼ通常通りの運転
登戸~矢野口間:下り線を使用した単線運転(35~45分間隔)
矢野口~府中本町間:運休・バス代行輸送
(代行バスは矢野口~分倍河原間で運行。所要時間約45分)
府中本町~立川間::25~35分間隔の運転
<振替輸送>
東急電鉄:東横線渋谷~菊名・田園都市線渋谷~長津田
小田急電鉄:小田原線新宿~町田・多摩線新百合ヶ丘~小田急多摩センター
京王電鉄:京王線・相模原線・井の頭線の全線・高尾線北野~高尾
多摩都市モノレール:立川北~多摩センター
※振替輸送にはICカードのチャージ部分は利用不可
切替工事後の12月23日(月・祝)は初電から全線で通常通りの運行となる予定です。また、悪天候などによりやむを得ず工事が実施できない場合は、2014年1月25日(土)~26日(日)に延期されることになっています。
1992(平成4)年に着手した南武線稲城長沼駅付近の高架化工事は、11年の時を経ていよいよ全線高架化という大きな節目を迎えることになります。南武線に関しては川崎・横浜市内を通る尻手~武蔵小杉間についても高架化着手に向けた検討が現在大詰めを迎えており、近い将来大きな変化が訪れることが予想されます。
郊外のフィーダー輸送機関としてこれまでいささかぞんざいな扱いを受けてきた南武線ですが、ここ数年快速運転の開始や新型車両(E233系電車)導入が発表されるなど、急速にテコ入れがなされるようになりました。引き続き、南武線の変化に目が離せません。
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南武線稲城長沼駅高架化工事(2011年1月15日取材)(2011年8月2日作成)
南武線稲城長沼駅高架化工事(2012年1月28日取材)(2012年2月3日作成)
南武線稲城長沼駅高架化工事(2012年8月19日取材)(2012年8月31日作成)
南武線稲城長沼駅高架化工事(2013年1月5日取材)(2013年1月27日作成)
▼参考
進めています JR南武線連続立体交差事業 稲城市ホームページ
JR南武線を12月に全線高架化|東京都
南武線高架化工事に伴う列車の運休等について - JR東日本八王子支社(PDF/400KB)
JR南武線連続立体交差事業の概要 - 川崎市(PDF/587KB)
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